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13話。神城、助けを求められる

文章修正の可能性あり

これはお披露目の式典を数日後に控えたある日、予行演習やローレンとの打ち合わせのために久方振りに登城した神城が、今の【勇者】一行の現状を確認しようとして、彼らが滞在している区画に向かっている最中の出来事である。


「お、お願いします! 助けてください! このままじゃ殺されちゃう!」


「は?」


神城がその区画の入口を潜ったかと思った矢先、突如として現れた茶髪の少女が彼の腰に(すが)りつきながら救助要請をしてきた。


「助けて? それに殺される? いや、突然そんなことを言われましても……と言うか、少し離れましょう? ね?」


当たり前の話だが、いきなりどこの誰ともわからない少女から助けを求められても、神城としてもどうしようもない。


と言うか、国内で一番強固な警備を敷いているであろう王城内で『助けてくれ』とはいったいなんなのか? と言うか、このままだと対リーマン用スキル『痴漢冤罪』が発動すると考えた神城は、なんとかして少女と距離を取ろうとする。


ここで無理やり引きはがそうとしないのは、その『痴漢冤罪』というスキルが、リーマンのほうから触れただけでも容赦なく発動することが可能であるということを知っているからだ。


一撃で (社会的に)殺される。まさに必殺。そんな美人局(つつもたせ)よりもタチが悪いスキルの発動を警戒した……ことまではわからなくても、自分から距離を取ろうとする神城の様子を見て、少女は自分が焦りすぎていたことを自覚したのか、目じりに溜った涙を拭いながら縋り付いていた腕を彼の腰から離す。


「す、すみません」


そう謝罪しながらも「絶対に逃がさない」と言わんばかりに自身の服を離そうとしない少女に(エレンみたいだなー)と思いながら、神城は少女の様子を窺う。


少女の身長は160くらいだろうか。髪の色は茶だが、その根元は黒くなってるし目の色も黒なので、おそらくは染めていたのだろうと思われる。服装はこの世界の文官が着るような白を基調とした法衣のような服で、余裕のある作りのためか体の凹凸は不明。


一言で言ってしまえばどこにでもいる女官のような感じであるが、現在神城が居る場所は、すでに【勇者】一行の関係者以外は立ち入り禁止の区域内なので、彼女が一般の女官という可能性は無いだろう。


そうなると考えられるのは二通りだ。


それは、神城に付けられたエレンのように【勇者】一行の誰かに付けられた侍女か、彼女自身が【勇者】一行のうちの一人かということだ。


あとの判断材料としては、彼女が初対面 (なはず)の自分に対して『助けて』と言ってきたことだろうか。


現状で【勇者】一行は王家に招かれた賓客なはず。それに対して無礼を働くような者は……一応身分を笠に着た大貴族とかなら有り得そうだが、ローレンを見る限りではわざわざ王城の中で王家の賓客に対して無理やりことに及ぶような阿呆な貴族が存在するとは考えづらかった。


なので神城は少女を『【勇者】一行の一人である少年から変態的なプレイを強要されて逃げてきた女官』と判断した。それなら髪を染めているのも「茶髪のギャルっぽい感じの子が良い」という青少年にありがちな歪んだ性嗜好から来るものだと思えば説明できるからだ。


そんな感じで少女の立場に当たりを付けた神城は次に「この状況をどうするか?」を考える。


と言うか、普通なら考えるまでもなく無視一択だ。


神城には彼女にどのような事情があるのかはわからない。しかし、大前提として彼女は王家に身請けされた身である。故に、その身をどう扱うかを決めるのは国王その人。


そして国王は彼女らを『【勇者】一行に対する捧げもの』として扱うことを決めている。そしてその決定に対して神城が異を唱えることは、ない。口出しするとしても、精々が彼女を割り当てられた少年に対し『表面上は大人しくしたほうが良い』とローレン経由で忠告するくらいだろう。


「あ~申しわ「あ、あの!」……せんが……なんでしょう?」


自分の中でそう結論付けた神城が少女にそのことを告げようとすると、自分に不利になることを言われると察したのか、少女は神城の言葉に己の言葉を被せてくる。


これは相手が貴族とか年長者とか関係なく、誰がどう見ても無礼な行為である。よって神城がここで少女を叱りつけてしまえば、話はここで終了だ。


しかし『ここで何も話を聞かずに放置した結果、彼女からの恨みを買ってしまい、後から有ること無いことを吹聴されて悪評を広められても困る』と考えた神城は(話を聞いてからローレンに投げ捨てよう。丁度貸しもあるしな)と、全てを自身の後ろ盾であり寄親であるローレンに投げ捨てることを決め、よく見たら少し見覚えのあるような気がする少女の話を聞くことにしたのであった。



―――


少女は激怒していた。

必ず、かの邪知暴虐の王を除かなければならぬと決意していた。

少女には政治がわからぬ。

少女は何処にでもいるJK(女子高生)であった。

カラオケに行き、友人と遊んで暮らしてきた。

けれども他人の視線には人一倍に敏感であった。

ある日、少女は学校の教室からどれだけ離れているかもわからない異世界にやってきた。

ここには父も、母も、彼氏もいない (彼氏は元からだが)

さらに自分を誘拐した国の王は『自分たちのために戦え』と命じてきたのだ。

初対面の人間にこんなことを命じる国王は明らかに狂っているだろう。


その狂った国の王に従う者たちもまた、狂っていると言っても良かった。


そして少女の主観から見れば、今や周囲にまともな人間はおらず、日々周囲と自分の間にある差異を見せられて「いつ自分も狂ってしまうのか?」と怯えつつ、既に狂ってしまった元の仲間たちに『自分は狂っていない』と言うことを知られないよう、表面を取り繕う日々。


……いっそ狂ってしまえれば楽になれたのかもしれない。

しかし、なんの因果か、少女は狂うことができなかった。


そして少女は狂っていないからこそ、自分が熔鉱炉へと直結しているベルトコンベアの上に乗っているということを理解してしまう。


(このままじゃ殺されちゃう)


今のところ、そう。彼らに従っている振りをしている限りは、教育係を気取って自分を監視する騎士や魔法使いに殺されることは無いだろう。しかし自分を殺すのは彼らだけではない。


今、少女が最も恐れるもの。

それは『戦争』だ。


元々この国が自分たちを召喚した目的が、魔族とやらの王である魔王という存在と自分たちを戦わせるためだということは初日に聞かされているので、そのことに疑いはない。


ここでなんで今更少女が戦争への参加を恐れるのか? と言えば、実は彼女は向こうにいた時からラノベやアニメを見ていないタイプの人間であるため、魔王というモノがどのような存在か知らなかったということに加え、身近に戦争を感じたことがない世代でもあるので、戦争という言葉の意味を正しく理解していなかったのだ。


しかし最近になってダンジョンなる場所で本気を出して戦ったときの【勇者】の圧倒的な力を見て『ありえない! でもこれなら……』と期待したところに、その圧倒的な力を持つと感じた【勇者】ですら騎士団長には勝てないということを知らされ、さらにその騎士団長ですらこの国の最強の存在ではなく、魔王には到底及ばないと聞かされたとき、ようやく少女は自分が置かれている状況が洒落にならないものだと理解してしまった。


そう。ここにきて少女は、精神的な支柱であった【勇者】も、ここでは頼りにならないことを理解したのだ。それどころか淡い恋心を抱いてすらいた【勇者】は、今や【聖女】とか言われているいけ好かない女や王女に付きまとわれてもてはやされ、魔王との戦いにも前向きになっている始末。


(弱いくせにっ!)


それらを知ってしまったせいで、これまでなんとか耐えていた少女の我慢は限界を迎えることになる。少女が胸に抱いていた淡い恋心は失意と共に裏返り、今や憎悪に近い感情になった。しかし、それを誰かに悟られては殺されてしまうかもしれないという懸念から、表面上は彼を慕っているように演技していた。


こうして、誰にもその心の内を明かせず、常時襲い来るストレスで身心共に追い詰められていた彼女は更に自分を追い詰めることとなる報せを耳にしてしまう。


その報せとは『近々【勇者】一行を歓迎する式典を開催する』というものであった。


(まずい! この式典に参加したら国中に顔が知られちゃう!)


そうなったら「戦争から逃げる」どころの話ではなくなってしまう。


戦場では何があるかわからないと耳にタコが出るくらいに聞かされている。当然死ぬ危険性も高いだろう。だからと言って死ぬのを恐れて戦場から逃げ出したとしても、戦場以外のところにいたら「アイツは何をしてるんだ?」という目で見られるだろうし、王国にも通報されてしまうかもしれない。


通報された後? もちろんこの王国のことだ。自分には何も言わせず、ただ『敵前逃亡』というレッテルを貼って処刑するに決まっている。


……これはあくまで少女の想像、と言うかやや妄想が入っているのだが、実際問題として敵も味方も命懸けの戦場に赴いたならば戦わねば死ぬことになるし、戦場から逃げ出したら殺されるのも決して間違いではない。


なんとかしてこの状況を打開しようとするも、少女にはどうして良いかもわからず、とりあえず無駄とは思いながらも自分達が隔離されている区域から逃げ出すため、出入り口付近の造りや警備が交代する時間などの情報を集めていたとき、とある偶然から、少女は一つの希望を目にすることになった。


「え? あれ?」


少女の目に映るのは一人の男性の姿。


その男性は身長が180くらいのやや細身。髪は金色で、王城に勤める文官が着ている服を着ている。一見すれば「なんの変哲もない」と言っても良い人物であった。


しかし、少女はその男性に違和感を覚えていた。


「まさか、でも……いや、本当に?」


そして違和感の正体に気付いた時、少女は思わず声を上げてしまう。


まぁ違和感も何も、その男性。髪は金髪だが、顔の造りがこの国の人たちとは違うのだ。具体的に言えば、明らかにその男性は髪を染めただけの日本人であった。


(自分たちとは違うコミュニティに居る日本人だ!)


そのことに気付いた少女は無我夢中でその男性にしがみつき、そして今まで溜め込んでいた不安を爆発させるかのように叫ぶ。


「お、お願いします! 助けてください! このままじゃ殺されちゃう!」


「は?」


……髪を染めた程度のことで素性を誤魔化せると思い込んでいた神城の変装をあっさりと見破り、文字通り体当たりで助けを求めた少女。その名はキョウコ。異世界に召喚された初日から、一人常識を説き続けてきた少女であった。



ここでまさかの少女が再登場である。

まぁ、普通に考えたら自分を誘拐した国の為に命を懸けて戦おうなんて思いませんよねってお話。



―――


ひ、左腕が痛い。

まさか封印された力(四十肩)が目覚めるのか?!


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