5話。常識のすり合わせは大事
文章修正の可能性あり。
「それではご主人様。行って参ります」
エレンとクラスチェンジについての打ち合わせをした次の日の朝。
数日後の休日に教会に行って転職をする予定であったエレンに対し、休みの日に業務に関わることをさせるのに抵抗を覚えたことと、転職するまでの間の時間と経験値を無駄にするのもアレだと思った俺は急遽『教会に寄進をする』という用事を作り、俺の代理としてエレンを教会に向かわせることにした。
「あぁ。気をつけてな。マルグリットも一人で無理はしないように。何かあったらすぐに連絡をくれ」
教会と言っても、貴族街の中にある貴族御用達の教会だから特に何も無いとは思うが、まぁ一応な。その辺の通行人に金を渡すなり、教会の人間に金を渡すなりすれば言伝くらいはできるだろう?
「はっ!」
そんな過保護とも取れる俺の言葉にマルグリットは短く答える。ちなみに彼女はあれだ。普通にエレンの護衛だ。
これは『俺の護衛』という本来の任務とは違うのだが、なにせ護衛対象である俺が常日頃から屋敷の中部屋に篭って薬品関係の製造と研究をしている身だからなぁ。
このせいで、と言って良いかどうかわからんが、とにかくマルレーンからも「護衛対象であるアンタが部屋から出てこないもんだから、あの子が護衛としての経験が積めないじゃないか」と日々愚痴を言われているので、こうしてエレンやヘレナが外に出るときは彼女を護衛にするようにしているわけだ。
マルグリットとエレンとヘレナは同世代ということもあり、それなりに仲も良いので、普通に友達と外出するような感じになっているらしいが、重要なのは護衛対象であるエレンが無傷で帰還することだ。
公私のメリハリを付けることができていて、結果が出ているなら俺としても文句はない。
マルレーンにしたら細かい作法だの気配りに言いたいことがあるようだが、それに関しては俺は知らん。そっちに任せる。
護衛という本来の任務にあたることができる上、座学やマルレーンとの自主訓練から解放されて少し機嫌がよさそうなマルグリットの仕事模様はともかくとして、エレンが帰ってくる前に俺は俺でやるべきことがあるんだよなぁ。
と言ってもそれは薬の製造ではない。いや、それもあるが、今は別のことだ。
「で、マルレーン殿。少々伺いたいことがあるのですが」
自室に戻った俺は、机の上に置いてある多数の嘆願書を整理しながら、俺の護衛をしているマルレーンに話しかける。
と言うか、ルイーザやヘレナもそうだが、俺が書類を確認している間、ひたすらじっとしてるのってキツくないのかねぇ? いや、ルイーザとかはちゃんと休憩取ってるらしいし、マルレーンにはキツかったら椅子に座っても良いって言ってるんだぞ?
だけど本人から『護衛が椅子に座ってもねぇ。アンタが薬の研究をしてる時に休んでるから気にしなくて良いよ』と言われてるから、できるだけ気にしないようにしてるんだ。
……あんまりしつこく言って『アンタ、まさかアタシに歳だって言いたいのかい?』ってキレられても困るしな。
「あぁん? ……ルイーザ様がご不在の中、わざわざ娘とエレンの嬢ちゃんを外してまでアタシに何を聞きたいってんだい? 先に言っとくけど、娘が欲しいってんならアタシじゃなく本人に言いな!」
年齢という地雷については考えないようにしよう。そんなことを考えていたら、マルレーンはどこか不機嫌な口調で返事をしてきた。
あれだな急に俺から声をかけられたことで早合点をしたのか、彼女は少し嫌そうな顔をしながらも、俺がマルグリットを口説くことに対しては文句を言わないということを明言してきた。
うむ。嫌そうな顔なのはあれだな。俺の人間性がどうこうではなく、俺が『自分を使って娘を口説こうとした』と勘違いしたからか……っていやいや。確かにマルグリットが侯爵家 (と言うか侯爵の姉)から差し向けられたハニトラ要員なのは知ってるが、そう簡単に乗るわけないだろうが。
つーか、前提条件からして誤解だし。
「いやいや。確かにルイーザ殿もエレンもマルグリットも居ませんけど、ヘレナは居ますからね?」
「……(ペコリ)」
そう俺が水を向けると、ルイーザやエレンとは違って、完全に見習いのメイドとして出仕しているヘレナは、何も言わず、無言で俺とマルレーンに頭を下げる。
ただなぁ。その頭を下げる前に俺に向けた視線は『お姉ちゃんと私が居るのに? これは後でちゃんと聞かないと駄目だね!』と言った感じに見えなくもなかったのだが……はっきり言おう。それは誤解だぞ。
「あぁ。そう言えばその娘っ子もいたね。しかし、このタイミングでマルグリットのことじゃないなら、いったい何が聞きたいってんだい?」
貴族的に考えれば、侍女はともかくメイドはただの使用人でしかないからなぁ。それを考えればマルレーンが見習いのメイドであるヘレナを数に入れないのはわかるが、どうにもこの貴族的な価値観には違和感があるよな。
ま、それに関しては今後の課題として、まずは話を進めようか。
「そもそもがエレンやマルグリットに聞かれて困る話でもないのですが」
あくまでタイミングの問題だし。
「ふぅん?」
前置きは良いからさっさと話せってか?
「いやね? そろそろ私も奴隷とかを買うべきなのかな? と思いまして」
この世界にも奴隷制度があるのはわかっている。つーか俺たち自身が戦奴隷として召喚された身だからな。で、今後のことを考えれば本格的にレベルアップする前に奴隷は必要だろう?
そう思って聞いてみたんだが、どうも反応がおかしいな。
「「奴隷?」」
ん? マルレーンだけではなくヘレナも声を上げた?
この国の常識で考えて何かおかしなことを言ったのか?
しかし奴隷がいるんだから、それを買ってもいいよな? いったい何が問題なんだ?
わからん。この俺の目を以ってしても!
……海のリハ○ゴッコはともかくとして、まずは何に驚いたのか確認するのが先だよな。
「えぇ。奴隷です。もしかしてアレですか? この国では貴族が奴隷を買うのはおかしなことなのでしょうか?」
ルイーザにも反対されたが、あれは奴隷に薬を使わせるなんて有り得ないって感じだったよな。だから買うこと自体は問題無いと思ったんだが、そこんところどうなんだ?
「いや、貴族が奴隷を買うこと自体はおかしなことじゃないよ。むしろ奴隷を買うのは大半が貴族や商人さ」
「なるほど」
そうだよな。普通に考えて、奴隷を買う金があって、さらに買った奴隷を養えるだけの経済力があるのは貴族や商人だろ? あとは異世界名物冒険者の可能性もあるけど。あぁ期間限定の労働者って考えるなら大規模農家でも使いそうな感じはある、か。
残るはお決まり戦奴隷と、鉱山開発用の奴隷か? 性奴隷に関しては、普通は『それ』だけの用途じゃなくて『それも込み』って感じで買うイメージが有るんだが、実際どうなんだ?
いや、まぁどちらにせよ買わんけど。
とりあえず今は『なんで二人が驚いたのか』ってことの確認をしないとな。
「では、私が奴隷を買うことになにか問題があるのでしょうか?」
新興の貴族が人手を確保するために奴隷を買うなんて当たり前だと思うんだけどなぁ。
「いや、アンタの懐から出る金で何を買おうがアンタの勝手。と言いたいところだけどね」
「だけど?」
なにかあるのか?
「アンタ。奴隷を買ったとして、いったい何に使う気だい? 従業員なら足りているし、性的な用途で使うなら先に口説くべき相手がいるだろう? ……流石に怪しい薬の実験に使うつもりなら止めさせてもらうよ」
……は? 口説く相手ってのはアレか? マルグリットか? それって娘の扱いとしてはどうなんだ? いや、それはともかく『人体実験する気なら止める』って? こいつは俺をなんだと思ってるんですかねぇ?
「え? ご、ご主人様?」
ヘレナ。お前もか。
こいつはこいつで、なんか『嘘だと言ってよ!』みたいな表情してるし。
いや嘘も何も、根拠のない言いがかりだからな? 徹頭徹尾、マルレーンの誤解だからな?
つーか普段からそんなことしてるならまだしも、俺はそんなことした覚えはないぞ?
ルイーザといいコイツらといい、なんでそんな勘違いをするんだ?
いや、とりあえずはあれだ。変に誤解されて侯爵に訴えられても困るから、まずはこいつらの誤解はなんとかしないといかんよな。
「いやいや、女性に関してはエレンとヘレナで十分間に合ってますし、薬の実験って……貴女は俺をなんだと思ってるんですか。いくらなんでもそんなことはしませんよ」
こうして『奴隷の購入』という、中世ヨーロッパ風な異世界的に当たり障りの無いと思われた話題が、実は俺を追い詰めかねない地雷だったことを自覚した俺は、彼女らの誤解を解くため、自分の思惑の説明をすることにしたのであった。
日頃の行い……と言いたいところですが、特に何もしてないんですよねぇ。
やはり新薬開発のために研究室に篭るのはMADな印象を与えるのでしょうか?
え? 薔薇色の人生? 知らんなぁってお話。
――――
本文の下にある……大きな星が★になったり(ついたり)☆になったり(消えたり)している……あっはは。……あぁ、大きい!彗星かなぁ?いや、違う。違うな。彗星はもっとこう…バァーッて動くもんな!
ばぁーっと動かさなくても良いので★のままでお願いします!
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