1話。プロローグっぽいナニカ
実際はエピローグに近いかも?
文章修正の可能性あり
俺には詳しいことはわからんが、とある館で森の妖精たちが期待の新人と連日連夜、朝から晩まで運動会を繰り広げた日から数日経ったある日のこと、いつもどおり屋敷で調合作業を行っていた俺の耳に『王都に居を構える貴族の子弟が数人再起不能になったらしい』と言う噂が入ってきた。
俺には何があったかはよくわからんが、とりあえずその子弟がいた家の当主は、家を残すことができなくなった子供を放逐することにしたらしい。
そして放逐された貴族の子供は、何処ぞの教会に入れられるか、とある館に引き取られることになったらしい。
う~む。なんで俺にそんな噂を報告してくるのかはわからんが、まぁなんだ。
彼らは今まで貴族として生きてきて、これからもそうだろうと思っていたはずなのに、今後はこれまでとはまったく違う人生を歩まなければならなくなったわけだ。
どこで足を踏み外したかは知らんが、難儀なことだよな。
そしてなんの偶然かわからんが、ここ数日、これまでエレンとヘレナが買い物に出てたときに感じていた怪しい視線が無くなったそうだ。
いや、一応そういう視線がまったく無くなったわけではないらしいが、それでも粘っこさと言うか、そんな感じの視線が一気に無くなったと言うのだ。
俺としては、おそらくだが、以前に彼女らに対してそういった視線を向けていた視線の主は『ナニカ』があって『心変わり』をしたのではないか? と思っている。
いやはや、それもこれも若気の至りとでも言うのかね。エレンもヘレナも見目麗しいと言っても過言ではない容姿をしているから、そういう視線を向けられるのも仕方のないことかもしれんな。
そんなこんなで、今や以前ヘレナが言っていた『自分たちに怪しい視線を向けてくる変態』はいなくなった。そう言っても良いだろう。
これにて一件落着!
そう考えた俺は『そろそろ自身のレベルアップに乗り出したいなぁ』なんて思っているのだが……俺の目の前には現在、その大いなる目的を阻むかのように、一つの大きな問題が鎮座していた。
「なぁ、ルイーザ殿?」
その元凶を持ち込んだ、侯爵家からの刺客。もとい当家の侍女の教育係である侍女長へと声を掛ければ、
「はい、なんでしょうか?」
その侍女長は何かおかしなことがありましたか? と言わんばかりに首を傾げてくる。いや「なんでしょうか」ってアンタ。
「侯爵閣下からのノルマ。と言うか、皮膚用回復薬の要求数が多すぎやしませんかね?」
そう言って俺が指差した先には、机の上に載せられている書状の山、山、山。
この一つ一つが侯爵家で薬を試したお姉様方からの薬の使用感の感想と、経過報告書と、次の薬を望む! という嘆願書である。
感想は、まぁ良い。
レポートも俺が望んだものだから、見る必要があるのは分かる。
だが書状の中の7割を占める『増産嘆願書』ってなんだよ。
中にはローレン侯爵が直々に認めた書状もあるし、見たこともない封蝋がされている書状まである。(ルイーザに聞いたら、これが侯爵の姉が嫁いだ家の書状だとか)。
今の俺の立場では、使用人のお姉様方はともかく、侯爵や侯爵の姉からの要請を断ることなどできるはずもない。
そのため、最近の俺は黙々と薬を調合せざるを得ない状況であり、結果として一向にレベルアップをするための行動に移れていなかったのだ。
そして今「ようやくノルマを達成した!」と思って一度執務室に来てみれば、そこにあるのはルイーザが持ってきた追加の依頼があるときた。
(いや、ありえんだろ)
俺はその書類の山を指差しながら『なんでこうなった』と、内心で頭を抱えていた。
だってそうだろう? 元々この薬は、王家と侯爵家から与えられる俸給という名の不労所得だけで生活できるようになった俺が『折角女神から貰ったチートで【薬剤師】になれたんだし、有るものは使わないと勿体ないよな!』という、手持無沙汰の解消と、小遣い稼ぎを目的とした化粧品モドキなんだぞ?
当然大量生産する気も無ければ、商人に売る気もない。本当に作りたいときに作るって感じの限定生産をしようとしていたのに、なんで上から横からせっつかれて無心で調合せにゃならんのだ。
そんでもって、これの何がキツいのかと言えば、だ。同じのを延々と作るのにも飽きると言うのもあるが
、実のところ栄養素が抜かれた食材を使った料理を食わねばならんと言うのが俺的には一番キツかったりする。
そりゃ『俺が食材から栄養を抜き取っている』と言うことを知らなければ『味が多少薄くなったかな?』程度で済むかもしれないけどな? だけどそれを知ってる俺からすれば、食材を無駄にしないというだけの理由で、栄養が無いとわかっている食事をとらねばならんのだぞ?
かと言って食材に栄養を残せば薬の生産が滞るしなぁ。
……俺が飽食の時代に生まれた人間だってのもあるのだろうが、こうして人間の三大欲求の一つである『食事』に対する楽しみが潰されるのは、俺にとって単純にキツいことなのだ。それも目の前に普通の食材があるにもかかわらず我慢を強いられるのは、本当にキツい。
これをたとえるなら、犬神だろうか。
そう。あの、穴に埋められて自由を奪われたうえ、目の前に水を垂らされて死ぬまでお預けを食らっているかのような、あんな感じ。
肉体的にはあそこまで酷くはないが、精神的に受ける苦痛はあれに近いと言っても過言ではないと思う。
これはもう『趣味は趣味だから面白いんであって、仕事にしたら駄目だ!』って感じの夫婦のアレみたいなモンじゃないかな?
それに、このままでは社畜、いや、それよりももっとダメなナニカにされてしまいそうだっていうのもある。
そんなこんなで様々な危機感を抱いた俺は、ルイーザに対して「レベルアップの話はどうなった?」とか「品質の向上や新しい薬の開発をするためにも市場調査が必要だと思うんだが?」とか言ってなんとか自分の仕事を減らそうとするのだが、この件に関してはルイーザは非常に頑固なのだ。
それどころか、彼女は俺が何を言っても「いえ、これでも少ないくらいです。他の薬は不要ですので、これの生産量をもっと増やせませんか?」などと言ってきやがるのだ!
いや、不要ってアンタ。
はっきりと言ってくれるが、確かに俺が作ろうとしているのは『現状を維持する薬』つまりは『擬似的な不老の薬』だ。
しかしそれは、もう老齢と言っても良い年齢のルイーザの中では『擬似的な若返り』と比べて価値が低い代物だし、そもそもが現状ではできるかどうかわからない薬でもある。
それらを考慮した結果、彼女は『そんなものに使う労力があるなら、今でも効果があるとわかっている薬を作れ』と言いたいのだろう。
そんでもって、不老のほうの進捗を侯爵などに聞かれたら『不老の薬ですか? 苦戦しているようですね』とでも言うつもりだと推察できる。
……実際侯爵も『若返りの薬は程々で良いから、新薬に集中してくれ』とは言ってこないからな。だからこそ女性陣は『現状でも十分だ』と判断したわけだ。
まぁその気持ちもわからんでもないがな。
「ふぅ。ルイーザ殿。一つ聞いてもいいですか?」
しかし、だ。俺はこのまま、延々と同じ薬を作る機械にされるつもりはないぞ!
「なんでしょう?」
何を言われても減産交渉には応じませんよ? という視線を向けてくるルイーザに対し、俺は切り札を一つ切ることにした。
「若返るのは、肌だけでよろしいのですか?」
「……詳しく聞きましょう」
(フィーッシュ!)
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自分の言葉に興味津々のルイーザを見て、神城は己の勝利を確信した。しかしこの行為が自分をさらに追い込むことになることを、彼はまだ自覚していなかったという。
新たな薬を出すことで皮膚用回復薬の減産を勝ち取る予定の神城君。
そんなことをしたら新たな薬を作らされるので、結局のところ仕事は減るどころか増えるのですが、そこは小物の神城君。追い詰められて目先のことしか見えておりませんってお話。
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3章からは月・水・金の更新予定でございます。
と言うか、普通に歴史(三國志)にポイント抜かれてますね
くっ、それで良いのか異世界ハイファンタジー!(チラチラ)
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