幕間。不遇職は伊達じゃない!②
文章修正の可能性有り。
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神城がトロスト姉妹と寝具の使い心地の確認や、紅茶の調合をしていたり、ブルーノが森の妖精たちと共に薔薇色の人生に片足どころか腰まで漬かっていたころのこと。
王城に残っていた【勇者】を筆頭にした異世界から召喚された若者たちは、王城におけるスキルについての基礎的な知識の学習を終えており、各々が王に仕える騎士たちと共に王都にあるダンジョンで実戦訓練という名の戦闘を行なっていた。
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「破っ!」
少年が気合いを入れて剣を振るう。しかしその踏み込みは甘く、腰にキレもなく、斬撃に体重も乗っていない。言ってしまえば、初めて武器を持った素人が腕の力だけで振っているのがありありとわかる剣筋であった。
普通ならばこのような斬撃では、どのような切れ味の剣であろうと鶏すら殺せないだろう。
いや、撲殺という意味では殺せるかも知れないが、少なくとも使い手である少年が思い描くように『斬る』ことはできない。
『グフォフォフォ』
少年の攻撃を『勢いだけの攻撃』と判断した豚頭の大柄な魔物【オーク】は、己の持つ武器で少年の攻撃を受け、カウンターで隙だらけの少年を叩き斬るつもりであった。
もしも少年が見た目通りの普通の少年であったなら、初めてダンジョンに入ったただの素人であったなら、少年はオークの斬撃で事切れていただろう。
しかし、少年は『普通の少年』などではない。
「珂ァ!」
『グ、グォォォ?!』
防御した武器ごと切断されたオークは、何がなんだかわからない! といった表情を見せ、ドサリと倒れ……ることなく、消滅する。
そして、そのオークが居た場所には、小さな石が1つポツンと残されていた。
死体が消え、石が残る。
この、むこうの世界の常識を真っ向から無視する現象は、少年に『自分は本当に異世界に来たのだ』ということをまざまざと見せつけてくる。
まぁ、切り替えの早い者たちからすれば『オークだのダンジョンを目の当たりにしてまだそんなことを言っているのか?』ということになるのだが、それはそれ。
とりあえず少年はオークが消えた後に残った魔石と呼ばれる石を拾うと、それを腰に着けている魔石を入れる用の革袋へと入れた。
「よもやこの短期間でオークを一蹴するまでになるとは……お見事です!」
そんな少年の一連の動きを見て、少年の監督役である騎士が賛辞を送る。
実際に騎士から見た少年は、技は拙いし基礎が一切身に付いてはいないので、技量という点では褒めるところはない。
それどころか、もっと基礎を学べ! と説教が必要なレベルと言っても良いだろう。
だが、しかし。戦いとは『勝つことが第一』という理念を持った戦士としてみれば、話は別である。
これまで武器を持ったこともない少年が、一月でオークを両断するほどの実力者になったと考えれば、それは騎士が称賛するに相応しい偉業と言えよう。
「……どうも」
しかし、褒められた当の本人は内心で自分の不甲斐なさに歯噛みしている状況であり、褒められたところで嫌味にしか思えなかった。
なにせ【勇者】たちは既に一人でオークどころか、さらに危険度が上の魔物を狩っているのだから。
ここで騎士が「【勇者】様たちは別格だから気にしなくても良い」と言っても、少年にとってなんの慰めにもならないことは明白である。
「……」
結局、己の目の前で他者と自分を比べて劣等感や焦燥感を覚えている【クレーン技師】の少年に対し、監督役の騎士も掛ける言葉を見つけることができず、彼らは無言のまま今日の訓練を終えたのであった。
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「で、彼の様子はどうだ? 遠慮の必要はない、貴様が思うところを正直に述べよ」
王が教育係の騎士に確認を取れば、騎士は姿勢を正して己の見解を述べる。
「はっ。個人レベルが10、職業レベルが5という低い数値でありながら、オークを力任せに一刀両断できる力があることから、彼の職業は間違いなく三次、いや四次職でしょう」
「おぉ、そうか!」
四次職と言えば、特殊職の【勇者】や【聖女】には劣るものの、【剣聖】や【賢者】と同等の位階である。
ゆえに最初から四次職を持つ以上、かの【クレーン技師】少年が稀少な存在であることは間違いないということが判明し、自分の判断が間違っていなかったことに王はひとまず安堵するも、すぐに『珍しいだけでは意味がない』と思い直す。
「力任せと言ったな? ではかの職は戦士系ではないということか?」
「はっ。反復練習の跡は見られますが、職業による補正が見られないことから、少なくとも単純な戦闘職ではないと思われます」
「……そうか。ままならんものよな」
監督役の率直な意見を聞いた王は【クレーン技師】という特殊な職業の扱いに頭を悩ませていた。
何故監督役の騎士がこうもあっさりと【クレーン技師】を『単純な戦闘職ではない』と言い切れるのかと言えば、その根拠は濱田少年の挙動にあった。
と言うのも、基本的に戦士などの職業を持つ場合、実戦に限らず鍛練中の素振りの最中のときなどにも『なんかこうしたほうが良い気がする』といった感じで、コツを掴むと言うか、自らの動作に違和感を覚えることがある。
それは神城が薬の調合の際に『このくらいで良いような気がする』と感じたものと同じようなものであり、それを突き詰めていくことで、徐々に動作に無駄が無くなっていくのだ。
これが職業による補正と表現されるものである。
翻って【クレーン技師】の濱田少年の動作にはそれが無かった。
足運びも、体捌きも、剣の振りも、全てが素人剣術丸出しであり、彼がオークを斬れたのも、ひとえに武器の性能と本人のステータスによるごり押しの結果でしかない。
そのため監督役の騎士は【クレーン技師】を戦闘職ではないと言い切ることができたのだが、それはそれで『ならばなんでごり押しできるステータスがあるのか?』という問題が出てくるわけで、
「つまり【クレーン技師】というのは戦士系でもないのにオークを力任せに一刀両断する職業ということか……」
「はっ。そうなります」
そう。王も監督役の騎士もこの事実に頭を悩ませていた。
彼らの常識からすれば、そんなことができる以上、罷り間違っても【クレーン技師】は魔法使い系や生産系の職業ではない。
しかし戦闘系でもないとするなら、いったいどんなジャンルに分類されるものなのかが不明となる。結果として詳細な情報が無いせいもあって、効率的なレベル上げができずにいたのだ。
さらに彼らを混乱させるのは、濱田少年の魔法適性であった。
「……確か、魔法適性もあったな」
「はっ。雷系の魔法に高い適性があったと記憶しております」
「だが雷系の魔法使いのように補正は無い、と」
「……はっ」
「……訳が分からぬわ」
「……」
物理的な力と雷系の魔法に適性がありながら、それぞれに一切の補正を受けない職業とはなんなのか。
この場に異世界から来た者たちが居たら『ガテン系じゃね?』とでも答えたのだろうが、王も監督役も戦奴隷を育成するための話し合いに、彼らを参加させるような迂闊な真似をするつもりは無いため、この場に彼らは居ない。
「まぁ良い。しばらくはこのままレベルを上げさせよ」
「……はっ」
結局この日も【クレーン技師】に対する効果的な意見は出ず『レベルを上げさせてから様子を見る』という消極的な結論を以て、王と監督役の騎士の会話は終わることになる。
【クレーン技師】こと濱田少年の不遇の時は、今しばらく続くのであった。
薔薇色の人生が続くと思った?
そんなものはねぇっ!
と、言うわけで幕間の主役こと濱田少年登場。
使えば使うほど熟練度的なのが上がるシステムのもよう。
さらに何故か濱田少年の職業レベルが上がっていますが、それについては後程説明予定でごわす。
作者はノンケですってお話。
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前回のアレを投稿してもまだ3500オーバーって……いや、読者様方、貴方たち正気ですか? (シツレイ)
やっぱり、スマホからでもポイント評価しやすくなったからですかねぇ。
それとも燃料投下とか言わないで、素直にポイント下さい! ってお願いしたからでしょうか?
うーむ。わからぬ。
ともかく、これからも閲覧やポイント評価をよろしくお願いします!
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