22話。獲物を捕獲する為に罠を仕掛けるのは基本中の基本
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(ふむ。『浸透』と『麻酔』成分を固めて作った麻痺玉だが、随分と上手くいったな)
目の前で俺が仕掛けた罠に嵌まり、突然足が麻痺したせいで倒れ込んだ挙句、足元に設置された麻酔薬に直接手や顔が触れたせいで全身が麻痺して気を失った若者たちを見た俺は、今回作った薬がしっかりと効果を発揮したことに内心で胸を撫で下ろしていた。
(液体が衣類に浸透し足を麻痺させるのは問題なかったな。次は気化か? いや、それだと周囲にも被害が出るから、まずは液体とジェルにするべきだな。それと『浸透』はともかく『麻酔』の強さの調節も必要か)
麻酔はモノと場合によっては死に至ることもあるので、今回のように捕らえることを前提にするならそれに見合った適量を探す必要もあるよなぁ。
あぁ、ちなみに今回俺がイメージしたのは、モン○ンの痺れ罠のような、相手を麻痺させる効果がある罠だ。
と言っても、やったのは足元に液体状の薬の入った袋を設置し、それを踏んだら中身が飛び出るような形にしただけの簡易罠でしかない。
そのため相手が罠を踏まなかった場合や、踏んでも麻痺しない場合に備えて投げつける準備もしていたのだが……予想以上に効果が出たことに正直自分でもびっくりしている。
一応靴や衣類の上からでも『浸透』するように、かなりの成分を練りこんだのだが、こうして予想以上の結果が出たのは、さすがのチート能力と言ったところだろうか?
いや、容器や衣類に薬の効果が出ないのはある意味当然なんだが、ここまで対人に特化した効果が出るとなるとは思わなんだ。
もしかしたらこれが『投薬』の効果なのかもしれん。
いや、決め付けるにはまだ検証が足りないな。自分のスキルを理解するためにも、もっと被験者が欲しいところだ。
うーむ。どこかにちょうど良い連中がいないものか……
「ご主人様?」
「ん? あぁ、すまんな」
自分のスキルの検証の必要性を感じている中、未だに俺の腕に抱きついているヘレナが不安そうな声を掛けてきたので、とりあえずスキルに対する検証を中断して、目の前の若者たちを処理するための行動に移ることにした。
「ではマルレーン殿。コイツらを例の場所に運んでください」
俺が少し大きな声で離れたところから見張っていたマルレーンにそう告げると、マルレーンはマルグリットや従士たちと共に、なんとも言えない表情をしながら俺の前に現れる。
本来は護衛対象による囮など避けるべきことなのにもかかわらず、今回の釣りのために敢えて隙を晒したことに、護衛を担当する騎士として言いたいことがあるのかもしれないが、まぁ許せ。
「……本当にいいのかい?」
そう思っていたのだが、マルレーンから掛けられた言葉は、俺が想定していたものとは少し違ったものであった。
「と言うと?」
『いいのかい?』って何が?
つーかマルレーンの目には、加害者である貴族の子弟たちを気遣うような色が見えるが、まさかそんなことはないよな?
「いや、侯爵閣下のご指示通り殺してませんし、生かしたまま私たちに危害を加える気を無くすためには、こういった荒療治も必要ですよね?」
家族には圧力をかけるとして、本人たちにもしっかりと痛みを覚えさせて、逆恨みをする気力を無くさないと再発防止にならないじゃないか。
「まぁ、ねぇ」
「公式には数日行方不明になるだけですよ。それに、これから彼らが経験するのは元々彼らがヘレナにやろうとしたことでもあるのですよ?」
人を呪わば穴二つ。成功したならこいつらがヘレナを嬲っていたと言うなら、失敗したら……なぁ?
「そうですよ! こんな連中に遠慮は無用です!」
「ほら、このように被害者であるヘレナもそう言っております」
加害者の人権? 知るか。こいつらが貴族だと言うなら、こいつらに狙われたヘレナも俺も同じ貴族だぞ。遠慮をする理由なんか無いじゃないか。
「いや、うん。それもそうなんだけどさ」
う~む。どうにも納得してないようだな。 しかしマルグリットというヘレナと同年代の娘を持つ立場のマルレーンからすれば、こいつらみたいな性犯罪者なんか一番許せない存在だと思うんだが、そこんところはどうなんだ?
むぅ。 やはり当事者では無いというのがネックなのかもしれん。
彼女からすればヘレナは護衛対象ではないし、究極的には他人がどうなろうが関係ないもんな。それに命が軽い世界なら猶更か。いやぁ怖い怖い。
「……アンタ、何か勘違いしてないかい?」
「はて? 私は故郷との価値観の違いを知って深く感銘を受けているところですが?」
いやまじで。やっぱり価値観の違いは大きいよな。
「はぁ。もういいよ。んじゃ、コイツらを予定の場所に運ぶよ」
俺が中世ヨーロッパ風な世界の世知辛さに辟易していると、マルレーンは諦めたように一度溜息を吐き、マルグリットや従士と共に未だに麻酔で動きが取れていない男どもを縛って担いでいこうとする。
「えぇ、お願いします。あ、それとコレも持っていってください」
そんな彼女に俺はそう言って元々準備していた向こうへの手土産を手渡す。
手土産は大事。古事記にもそう書いてある。
「あぁ、これが例の?」
「そうです。きっと向こうにも喜んでもらえるかと。あ、ついでに『使用感に関する感想も頂けたらありがたい』と伝えてもらえますか?」
「……あいよ。そんじゃ行くよ」
「はい!」
「「「「はっ」」」」
そう言ってマルレーンは手土産と共に若者たちと共にこの場を去っていった。
……さて、これで一件落着だ。もしもこの後で連中が何か騒ぐようなら、連中があそこで過ごすことになるこれからの数日間を公開することになるが、それでも逆らうだけの意志があるかねぇ?
「それじゃご主人様! 予定通りあそこで休憩しましょうよ!」
俺が若者たちの今後に思いを馳せていると、ヘレナがそう言って俺を連れ込み宿に誘おうとする。っておいおい。
「本気だったのか?」
あそこがどんな建物なのか俺よりも理解しているだろうに。エレンはともかく15のヘレナが行くようなところじゃ……あれ? この世界だとどうなんだ?
「そりゃそーですよ! 私だって冗談で殿方を誘ったりなんかしませんよ!」
「そうか。いや、しかしな」
なんと言えば角が立たないかわからないので、ひとまずエレンに視線で助けを求めれば、エレンは一つ頷いてからこう言った。
「ご主人様さえよければヘレナのお相手をお願いしたいのですが……」
しかしエレンの口から出てきたのは、まさかのヘレナを擁護する言葉であった。
俺としては「そうじゃねーよ!」とか「さっきまでの喧嘩はなんだったんだ?!」と声を大にして言いたいところであったが、彼女らを見ればふざけているような雰囲気ではなかったので、ひとまず冷静になって姉妹に問いかけることにした。
「ヘレナはまだ15だろ?」
「はい! もう15です!」
「お、おぉ」
言外に「まだ早くないか?」という意味を込めて確認したら、笑顔で年齢を推してきた件について。
「あっと、エレン。いくつか聞きたいんだが、この国では15の女性は成人扱いされるのか?」
「そうですね」
「……そうか」
ノータイムで返された言葉に嘘を感じられなかった俺は、ひとまずこの国の常識として、女性は15で成人扱いされるという事実を受け入れた。
つーか平成の日本でも結婚は16からできたということを考えれば、中世風な世界だとそれほど理不尽な話ではない、か。
それに中世って言うなら日本だってそうだよな。かの有名な利家とか秀吉からすれば、15歳のヘレナをつかまえて『幼いから駄目』とか言ったら鼻で笑われるもんな。
この世界の価値観を知り、年齢を引き合いに出しても無意味と判断した俺は、次の疑問を口にする。
「年齢はわかった。しかし預かった娘さんに手を出すってどうなんだ? 兄貴が怒ったりしないのか?」
そう。次の懸念はこれだ。そもそもの話、ヘレナはそれが嫌だから俺のところに来たんだよな? それならこれって本末転倒なんじゃないか?
……いや、まて。もしかして出仕した場合って、そういうのも込みなのか? だからヘレナは嫌がっていたのか?
そんな俺の懸念はあっさりと肯定されることになる。
「それも問題ありませんね。と言いますか、元々独身の貴族の方の下に出仕する場合は、それも考慮に入っております。ですので、ご主人様がヘレナに手を出したところでお兄様も文句を言うようなことはありませんよ……責任さえとってもらえれば」
最後のボソっと言った言葉が怖いが、そうか、そうだったのか。
「あ、でもでも、もちろん無理やりするのは問題になりますよ! ……まぁ、ウチの場合は問題にしても潰される程度の家でしかなかったから、あいつらも調子に乗ったんですけどね」
ヘレナが黒い笑みを浮かべて自嘲しているが、そんな話をされてもこちらとしてはリアクションに困るだけだぞ。
「んんっ。とにかくですね。ご主人様はすでに男爵になられることは決まっておりますし、十分な甲斐性もございますので、私としてもヘレナをどこぞの男爵や準男爵に嫁がせるよりは、このままご主人様に囲ってもらったほうがヘレナにとっても良いのではないかと思っております」
俺がなんとも言えない顔をしているのを見たエレンは、空気を変えるためか咳払いをしてから俺にヘレナを推す理由を述べてくる。
「そうなんですよ! それにウチと付き合いがある貴族なんかもう碌なのが居ないんです! だからご主人様が私をもらってください!」
「……まじかー」
つまるところ、15の娘さんが本気で自分の将来を考えた結果、俺に囲われるのが一番幸せになれるって判断したってことか。
……随分と世知辛い話だ。
「あの……駄目、ですか?」
俺の反応が芳しくないと見たヘレナは、俺の腕をギュッと抱きながら涙目&上目遣いでそう言ってくる。
(あざとい! さすがヘレナ! あざとい!)
ヘレナの行動に思うところがないわけではないし、15歳の少女を囲うということに若干の抵抗があったものの、俺とて男である。それにここまでされて『何もしない』なんてことができるほど、枯れてもいない。
「よし、行くか」
そう言いながら泣きそうな顔をするヘレナの頭をわしゃわしゃしながら、連れ込み宿のほうへ歩けば、ヘレナは
「は、はい! よろしくお願いします!」
と満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてくる。
「よかったわねヘレナ」
「うん!」
「ではご主人様、行きましょうか」
黙って俺たちの様子を見ていたエレンもどこかホッとした様子をしつつ、当たり前のように連れ込み宿へと歩みを進める。
(え? エレンもついてくんの? いや、仲間はずれとかにする気は無いが……え? マジ?)
……こうして俺たちは、数時間かけて連れ込み宿の寝具の調子を確認することになったのであった。
生け捕りされた獲物はどうなるんでしょうねぇ。
剣士が剣を、魔法使いが魔法を使うように、薬剤師が薬を使うのは当たり前ですよね。
寝具の使い心地? ははっ。
若者たちの運命は如何に!ってお話
―――
評価方法が変わったんですね。
全話で評価できるようになり、さらに奇数ではなく偶数縛り。
でもって★の数でポイントですか……。
私としてはストーリーと文章で分けてもらった方がありがたいとも思わなくも無いのですが、スマホからでも評価しやすくなったし、読者様としてはこっちのほうが評価しやすいのかも知れませんね。
★一つで2ポイントらしいので、拙作を面白いと思って頂けたならポーンと評価してくださいますよう、何卒よろしくお願い致します。
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