17話。防御は最大の攻撃
エレンとヘレナからの意見具申を受けて、暫く向こうの様子を見ることを決めた後。ルイーザからこの話を聞いた侯爵は早々に俺の下に2人の護衛騎士を送り込んできた。
「アンタの護衛となるように命じられたマルレーン・フォン・ブロムベルクだ」
そう名乗ってきたのは40代で身長が170くらいある恰幅の良い女性だ。イメージとしては肝っ玉母さんって感じだな。そしてもう1人は、
「ほら、アンタも挨拶しな!」
「は、はい! お初にお目にかかります! マルグリット・ブロムベルクです」
そう言って挨拶してきたのは、肝っ玉母さんであるマルレーンと比べて身長は少し高いが横幅は半分以下の。スラリとした見た目10代後半の美人さんだ。
両方とも髪の色も瞳の色も赤だし、その姓と態度から2人の間柄は、母娘か、最低でも親族であることが予想できる。
「これはどうも。神城大輔です」
重要人物に対する護衛騎士が二人と言うのは少ない気がしないでもないが、実際は彼女らに仕える従士も護衛に加わるので護衛の人員は実質的に5~6人になるらしい。ただ屋敷内には俺を除けば女性しか居ないので、女性である二人が屋敷内の警護を担当することになるようだ。
「……へぇ。ふぅん。ほぉ。なるほどねぇ」
「お、お母様ぁ……」
そんな護衛騎士の二人だが、娘らしき少女は護衛対象である俺を前に緊張しているようであったが、肝っ玉母さんのほうはそんな様子を見せることなく、堂々と俺を品定めしてくる。
そして娘であることが判明したマルグリットはそんな母親の態度にビクビクしているが……まぁあれだな。確かに護衛対象に対する態度ではないかも知れんが、ここまで明け透けだと怒る気にもならんよ。
「マルレーン殿?」
「ん? あぁ、すまんね。実はここに来る前から、ラインハルト坊ちゃんのお気に入りで、アンネお嬢様からも『しっかり護れ!』なんてお言葉を貰う人間がどんなヤツなのかって気になっててさ」
とは言っても、互いに名前を名乗った後で観察されるだけでは話が進まないので、そのくらいにしてくれないか? という意味合いを込めて相手の名を呼べば、向こうは頭を掻きながら謝罪? をしてきた。
つーかラインハルトってのが侯爵のことで、アンネってのが侯爵の姉だったよな? その二人と同年代で、さらに『フォン』って貴族に付ける前置詞まで名乗れるなら貴族なはずだ。
それを踏まえたうえで、侯爵家の二人をそんな風に呼ぶってことは侯爵家にとって股肱の臣なんじゃないのか? そんなのを新参者の護衛にしていいのか?
「ご主人様、少しよろしいでしょうか?」
「ん? あぁお願いします」
俺が彼女らの立場に疑問を覚えたのを感じ取ったのか、横に仕えていたルイーザがマルレーンの立場の説明をしてくれた。
「まず、マルレーン殿の生家であるブロムベルク家は代々ローレン侯爵家に仕える騎士の家で、マルレーン殿はそのブロムベルク家の人間としてアンネ様の護衛騎士を務めておりました」
「ほう」
「そしてアンネ様が他家に嫁いだ際にもアンネ様に付き従い、これまでずっとアンネ様の騎士として在り続けた忠義の士なのです」
「なるほど」
「その忠義により、マルレーン殿は分家を興すことを認められると同時に、騎士から準男爵へと昇爵致しました」
「それはそれは」
ある意味で一代貴族の典型だな。本家よりも分家の方が立場が上になってしまうが、それに関してはローレン侯爵家で調節するのだろうよ。だから問題はそこじゃない。
「お話を聞く限りでは、マルレーン殿は私と同じ準男爵なのですよね? それにもかかわらず新興の準男爵である私の護衛というのは、御立場的にどうなのです?」
変に不満を抱かれたりしても困るぞ。
「あぁ、それにつきましては……」
「ルイーザ様。そっから先はアタシが説明しますよ」
そう言いながら、マルレーンはルイーザが俺の疑問に答えようとしたところを止めた。
……どうでも良いことだが、肝っ玉母さんが敬語を使うと違和感あるよな。
そんな本当の意味でどうでも良いことを考えていた俺をどう見たか知らないが、俺を一瞥したマルレーンは一つ頷き、話を続ける。
「そもそもアタシは護衛しかできないからね。準男爵なんて地位を貰っても何が変わるわけじゃないのさ。で、今まではアンネお嬢様の護衛騎士の筆頭として働いてきたけど、いい加減世代交代を考えてたところだったんだよ。そこにお嬢様からアンタのことを聞かされてね」
あぁ。なるほど。
「ではマルレーン殿は後進の育成のために、時間が無い激務であるアンネ様の護衛ではなく、後進を育てる余裕がある任務になりそうな私の護衛の任を受けた、と?」
俺がそう言ってマルグリッドを見れば、マルレーンは我が意を得たりと言わんばかりに頷いた。
「そう取ってくれて構わないよ」
「お、お母様?!」
あまりに明け透けに言うもんだから、マルグリットが焦っているが、俺からすればマルレーンの態度に思うところはない。むしろここまではっきりと言ってもらえればいっそ清々しいとさえ思っているくらいだ。
しかしそうか。
いくら本人が若いつもりでも、40代にもなれば体にガタも来るからな。意地を張って護衛の側に居ついていても、いざと言う時に足手纏いになったら本末転倒。ならば経験を活かせる環境で後進を育てるって方向にシフトしたってことなんだろう。
こっちは経験豊富な護衛を得ることができるし、向こうは後進を鍛えつつ簡単な任務で経験を積ませることができる。こう考えれば立場の問題なんて些末な問題だって割り切っている。いや、違うな。
「今回の護衛の任。主はマルグリット殿で、マルレーン殿は補佐。そういうことですね?」
自分はあくまで教員って言うなら、準男爵である俺に同格の彼女がつくのも分かる。
「え?!」
俺がそう聞けば、マルレーンに詰め寄っていたマルグリットは「マジか?!」って顔をして俺に振り向き、そんなマルグリットを見たマルレーンは俺の問いには何も答えず、ただニヤリと口元を歪ませるだけに留める。
(やはりそうか)
そのマルレーンの表情を見て、俺は彼女の狙いを確信した。
本質はともかく、外向きはマルグリットがマルレーンの補佐役であり、そのマルレーンは俺と同格だから、いざ自分の補佐役であるマルグリットが何か失態を犯した場合でも、自身の命で責任を取ることが可能となる。
さらに今の俺は何者かに狙われる立場にあるんだもんな。より実戦に近い護衛の経験を積ませるという意味ではこれほど好都合な場所も無い。
それに、だ。後進を育て、家を継がせることこそ貴族の本領。彼女はそれを体現しているに過ぎん。ならば俺が取るべき行動は、彼女から学べることを学ぶことだろうよ。
「マルレーン殿。マルグリット殿。これからよろしくお願いします」
「ん? あぁ。こちらこそよろしく頼むよ」
「もう、お母様ってば! あ、こ、これからよろしくお願いします!」
「えぇ。それではルイーザ殿、彼女たちが過ごす部屋と設備の案内。それとエレンとヘレナとの顔合わせやシフトに関してお願いしてもよろしいですか?」
「かしこまりました。ではお2人とも、こちらへ」
「「よろしくお願いします!」」
(……やっぱりルイーザには敬語なのな)
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最後の最後でなんとも言えない気分で三人を見送ることになった神城であるが、今回の件で神城家に二人の騎士が常駐し、数人の従士と共に屋敷を守ることとなったのは間違いなく良いことなので、その気持ちを飲み込むことにした。
こうして着実に足場を固めつつある神城であるが、彼に仕える姉妹を狙い水面下で蠢動する悪意は消えたわけではない。
所詮は新興のなんちゃって貴族に過ぎない神城に対して、歴史と伝統を受け継ぐ本物の貴族である彼らがどのように仕掛けてくるのか。
未だ予断を許さない状況で、神城は自身の女官筆頭であるエレンと共に迫りくる脅威に備えるのであった。
新キャラ、肝っ玉母さん登場。
経験豊富な騎士です。
娘? まだ見習いですね。
神城君の細かい事情は知らされてませんし、化粧品にも興味は有りませんが、彼が男爵になることは知らされているので、護衛に就く分には文句が無い模様。
最後に頼れるのは寝室の寝具ですからね。しっかりと確認をしないとイけませんってお話。





