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15話。旅行の醍醐味は地元のお店巡り(異論は認める)

侯爵との話し合いが終わり、詳細はまだこれから詰める必要があるが、とりあえず他の召喚されてきた連中とは別口で動くことができるようになった俺は、侯爵からの晩飯の誘いを『インスピレーションが湧いたのですぐに屋敷に戻って研究したい!』と言って断り、トロスト姉妹が待つ我が家へと帰還することに成功していた。


つーか、あれ絶対噂の女性陣を俺に紹介して、直接化粧品に関してのやり取りをさせる気だったよな。



~~~


神城が予想したように、不老の薬には興味があっても化粧品に興味がないラインハルトは、化粧品の開発については母や姉に丸投げするつもりであり、その為の第一歩として家族に彼を紹介するという形で紹介しようとしたのだが、まんまと逃げられてしまっていた。


このことでラインハルトは『もしかしたら女性陣(主に姉)から折檻を受けるのか?』と内心で戦々恐々としていたのだが、今回はそのようなことは無かった。


これは何故かと言うと、なんだかんだ言ってもラインハルトが神城に秘薬の製造を約束させたことと、彼女らの中でも神城の脳裏に浮かんだインスピレーションの内容に興味があったからというのが大きい。


分かりやすく言えば『自分たちが引き留めたせいで神城の頭の中に浮かんだ構想が消えてしまったら困る』ということだ。


さらに彼女たちは、自分たちが下手に神城と顔を会わせてしまえば、即座に薬の製作を強要しかねないほどに入れ込んでいることも自覚していたのもある。


そのため彼女たちは『つい勢いで神城に突っかかってしまい、彼の気分を害してしまうこと』を恐れたのだ。


王国広しと言えども彼女らにここまで気を使わせることに成功した男は、王家の人間以外では初めてのことである。


そんな感じである意味記録を作った神城だったが、彼は彼で現在一つの壁にぶつかっていた。


その壁は、世界の常識という、非常に雄大で堅固な壁であった。


~~~



「では買い物は商人を呼びつけるか、使用人が店に赴いて行うのが普通なのか?」


なんつーか、これはこれで貴族あるあるなんだが、俺は準男爵だぞ? 木っ端貴族がそんなことしても滑稽なだけじゃないのか?


そう思っていたら、どうやらそれは俺の思い違いではないらしく、エレンが俺の言葉に補足をしてくれる。


「そうですね。ただお兄様や父上は、普通に店に行って買い物をしていましたから、一概にそれがルールだとは言い切れません」


「はい、ちょっと前までなら、お兄ちゃ……お兄様も仕事帰りに下級貴族用の酒場でお酒を飲んでくることもありましたから、お店に行くこと自体はおかしなことではないですよ!」


「ほぉ。まぁそうだよな。王都に住む法衣男爵が知り合いと酒を飲むためにわざわざ大仰な晩餐みたいな真似はできんか」


「はい。基本的に家に招く場合、ホスト役は見栄を張る必要もありますし、招かれた側もそれなりの格好や手土産が必要です。末端の貴族には余裕があるわけでもないので、その手間隙をかけたくないというのが素直な気持ちなのです」


「なるほどなー」


まさかこの国の貴族が居酒屋通いをしているとは思わなんだ。いや、居酒屋ではなくお姉ちゃんが居る店かも知れんが、とりあえず下級貴族用の店があるくらい外食文化は根付いているってことか。


うむうむ。エレンとヘレナから王都の下級貴族の暮らしぶりを聞いてみて正解だったな。


「つまり、俺もそういった店に行っても不自然ではないわけだな?」


情報収集の基本は酒場。古事記にもそう書いてある。


「……不自然に決まっているでしょう」


古事記の教えに従って、さらに世間の常識を知る意味も込めてこの世界の酒場に赴き、下級貴族の生態を調べようとしていた俺に、それまで黙って俺たちの話を聞いていたルイーザから冷たい視線と言葉が降りかかってきた。


「ルイーザ殿。駄目なのですか?」


「えぇ駄目です。そもそも現在ご主人様の存在は秘匿対象となっております。その理由はご自身もご存知ですよね?」


「ぐむむ……」


「ぐむむ。ではありませんよ。少なくとも【勇者】様方が研修を終え、王都から離れてからでないと公表はできないとのことですから、暫くは屋敷で秘薬の研究をしていただくか、侯爵家から派遣されてくる騎士と共にレベルアップに努めてくださいませ」


正にとりつく島もない論調で、ルイーザは俺が居酒屋に行くことを封じてしまう。


確かに今の俺の情報は一部の人間にしか知られないように厳重に管理されているし、その理由も当然理解しているので、強硬に反論できないのが痛いところだ。


ちなみに、俺の存在を秘匿する理由はいくつかあるが、最大の要因が『【勇者】様ご一行にバレないようにするため』だったりする。


ここで更に『なぜ彼ら相手に隠すのか?』ということを簡単に説明するなら、それは待遇に差があることを知られたら面倒になることが確定するからである。具体的に言えば、もしも彼らに俺の現状がばれたら、彼らは『なんで【勇者】を貴族にしないのに【薬師】を貴族にするんだ?』だの『俺も貴族にしろ!』だのと騒ぐ恐れがあるから。というのがその理由だ。


俺の事情の説明をするためには、異世界の貴族を召喚してしまったことを公表しなければならなくなるし『自分も貴族にしろ』と騒ぐ子供たちと『そもそも貴族ってのはそんなもんじゃねぇ!』という王家との軋轢が生まれてしまう危険性がある。そのため、俺の存在はひとまず秘匿するべきって話なんだよな。


さらに今は薬のこともあるから、勇者だけじゃなく他の貴族連中に対しても隠さなきゃならないわけだ。


それなら『準男爵という立場ではなく、一般人として市井を観察すれば良いんじゃね?』って話になるかも知れんが、それは無理だ。


貴族社会に於ける貴族と一般市民の間にある隔たりは非常に大きいものがあり、もしも俺が一般市民として市井の見学に赴いたことがバレたなら『侯爵の寄子となった準男爵が、一般市民の格好をして歩いていた』という醜聞となって、侯爵に迷惑がかかってしまうし、なにか俺が面倒に巻き込まれた場合、市井や俺個人の警備に関わった者が罰を受けてしまうことになる。


さらに市井の人間だって『侯爵の息が掛かった貴族が一般市民に擬態して街をうろついている』なんてなったら、周囲の人間に対して疑心暗鬼になってしまい、落ち着いて生活ができなくなってしまうだろう。


結局『貴族は貴族らしく・平民は平民らしく生きる』ってことがお互いのためなのだ。


この理屈で言うと、金も無いのに貴族としての見栄を張らなきゃいけないっていう下級貴族は、随分と生きづらい世の中なんだなぁと思える。まぁ、鉱山で働かされている奴隷などと比べれば数百倍マシだろうがな。


そんな王都に於ける貴族の生き方についてはともかくとして。問題は俺が自分で情報収集できないということだ。これはどげんかせんといかん。


「……では買い物はエレンとヘレナに任せるしかないということになりますか?」


「そうですね。現在のご主人様の立場を考えれば、侯爵家の御用商人を呼びつけるのはまだ早いですし、侯爵家のコネを使って後払いにすることもできません。故に彼女らに私からの紹介状と現金を持たせて御用商人が店を構える店舗へと赴かせ、必要な物を買わせるのがよろしいかと」


「……薬に関してはどうなりますか?」


俺の目利きが必要だと思うんだが?


「それに関しては尚更駄目かと思われます」


「なんでさ?!」


俺が見ないと駄目だろ?! 素で驚く俺に、ルイーザは聞き分けがない子供に物を教えるかのような目を向けて話しかけてくる。やめろ! その目は俺に効くっ! 


「その場合『新興の準男爵が、収入に見合わぬような高価な薬を買い漁っている』という噂が立ちます。これが何を意味するか、わかりますね?」


「……あぁ。そういうことですか」


そりゃ駄目だな。 どこぞの半裸忍者冗談はさておくとしても、確かに俺の立場を考えれば、服だの装飾品よりも薬を買うのは不自然過ぎる。


そしてその不自然な動きの大元に居るのがローレン侯爵家となれば、周囲がどう動くかわからんし、政敵を懐柔するにしても、皮膚用の回復薬を交渉材料に使えん以上それも不可能。


「ですので薬に関しては侯爵家が多少高価な物も含めて不自然ではない程度に買い、それをご主人様に提供する形になる予定となっております」


「……了解です」


無駄に争いを招く可能性を振りまくような真似は慎まねばならん、か。自分の目で商品に『成分分析』を掛ける計画はしばらく中止だな。


「エレン、ヘレナ。聞いたとおりだ。しばらく買い物はお前たちに任せる」


「お任せください」

「了解しました!」


「頼んだ。あぁそれとルイーザ殿、彼女らが外出する際の護衛はどうなるのでしょう?」


王都の治安が悪いとは思わんが、俺の立場上警戒を怠るわけにもいかんから手配はするべきだよな?


「必要ないかと」


「え? 大丈夫なのか」


中世ヨーロッパ()な世界で、さらに戦争中の国のくせに女二人で出歩かせて大丈夫なのか? この国ってそんなに治安が良いのか? 


内心で、ある意味失礼なことを考えている俺に、どこか生暖かい目をして俺を見るルイーザが言葉を掛ける。これはもしかして、自分の女に対して過保護に接する少年扱いされてないか?


「彼女らが赴くのは貴族御用達の店が並ぶ区域ですからね。余程のことがない限りは問題ありませんよ」


「……あぁ。それはそうか」


つまり貴族間の問題はあるかも知れんが、誰がどこで繋がっているかわからない王都の貴族社会で白昼堂々と他家の貴族に絡むような阿呆はいないってことだよな?


ならば良し。二人に任せよう。


自分の中の尊厳的なものにダメージを受けつつも、俺はルイーザが言った言葉をそう解釈して二人を送り出すことにした。






~~~



ルイーザの言葉を聞いて一応の納得をした神城は、二人に現金と紹介状を持たせたうえで貴族御用達の店に赴かせ買い物をさせるようになる。


それから数日後。ヘレナの動向を探っていた貴族の子弟が『エレンとヘレナが侍女の格好をして買い物をしている姿』を目撃してしまい、結果として面倒事を引き起こすことになるのだが……これは決して偶然の産物ではなく、起こるべくして起きた必然の出来事であったと言えよう。




一般的に領地を持たない新興の準男爵風情に呼ばれて御用伺いする商人は……居ます。特に新興の場合は、王からの歓心や寄親である上級貴族の影響力も強いですからねぇ。


貴族専用の飲み屋に関しては、作者は田舎の一般人なので正直わかりません。ただし、この作品の舞台は中世ヨーロッパ風な世界、ナーロッパですから問題ありませんね!ってお話


ちなみに、サブタイで地元の店がどうこう言いながら、作者は部屋に備え付けられた風呂と、大浴場にある温泉とホテルの施設だけで満足するタイプの人間でございます。


温泉が無い場合? 

そもそも温泉の無いところに旅行に行ってなにするんですのん?(ΦωΦ)?


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