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14話。圧迫しない圧迫面接はただの面接

サブタイが……浮かばんっ!

神城からのある意味ぶっ壊れた質問を受けたルイーザは即座に侯爵家に『自分では埒が明かないので、直接お話をしてほしい』と連絡を入れることになる。


その連絡を受けた侯爵家では、これを好機と見たフリーデリンデを筆頭とした女性陣が個人的に神城と繋ぎを付けようと画策したのだが、ラインハルトやルイーザから『以前話題に出たように、常識の差異によって相手を不快にさせては元も子も無い』という説得を受けたことで急な接触を諦めることになり、とりあえず今回は元々面識があるラインハルトだけが神城と顔を合わせることとなった。


そんな侯爵家会議があった翌日のこと。


神城は秘密裏に侯爵家から遣わされた馬車に乗り込み、裏口からこっそりと侯爵家を訪れた後で応接室に通され、そこで待っていたラインハルトとおよそ一週間ぶりに顔を合わせていた。


「わざわざ呼び立てたうえに、このような扱いをして済まぬな」


顔を合わせて軽く挨拶をして両者が席に着いた後、ラインハルトが最初にしたのは神城に対する謝罪であった。


それも、割と本気の謝罪である。


本来、侯爵家の当主であるラインハルトが準男爵に過ぎない神城に対して誠意を込めて頭を下げるというのは有り得ないと言ってもいい行為だ。


しかし今回に関しては色々と話が違う。


まず当主であるラインハルトが呼んだ正式な客人である神城は、裏口からこそこそと入ってくるのではなく正面から堂々と訪問をさせるべき立場の人物だ。


しかし、それをすれば出迎えた侯爵家の家人の全員が神城のことを知ってしまうことになり、そこからどのような情報が流れるかわからない。そのため、今回ラインハルトは神城に対して無礼であるということを承知の上で、こうして裏口からの訪問を強いてしまった。


これはある意味では神城を護る行為でもあるのだが、大本は『神城という存在を隠したい』という、侯爵家の都合でしかない。そのような事情に加えて神城は『国王公認の客人』でもあるので、寄親であるラインハルトに対しても「このことで面目を潰された!」と抗議する権利があると言ってもいい。


……このように肩書は準男爵でありながらある意味で侯爵と対等な関係という特殊な立場にある神城ではあるが、彼は己に対してラインハルトが頭を下げたからといって軽々にマウントを取ろうとすることはなかった。


「いえこちらこそ、本来ならば身を潜めつつこの(世界)の常識を学ぶべき時期にもかかわらず、こうして己の非常識のせいで閣下にご面倒をおかけしてしまいましたことを、心苦しく思っております。故に閣下からの謝罪は不要。それどころか私が謝罪すべきことであると考えております」


神城からすれば『自分は確かに国家公認の客人という立場ではあるが、その立場は先祖の功績とハッタリで得ただけの吹けば飛ぶようなもの』でしかないのだ。


それなのに調子に乗ってラインハルト相手にマウントを取ろうとして、侯爵家全体から睨まれては堪ったものでは無い。そういう思いがあるため、神城は『己の扱いに対して恨みも不満も無い』ということをしっかりと声に出して伝えておく必要が有る。


そんな神城の言葉を受けたラインハルトは、心の底から「ホントにな」と言いたいところであった。


しかし、だ。実はこの両者の会話は隣室に居る女性陣にも聞かれており、ラインハルトが下手なことを言えば後で隣で控える女性陣(特に姉)から『あぁ? 貴様は準男爵殿が作る秘薬が不要だったとでもいうのか?』と自分が責められることになることは明白であった。


「まぁ、それに関しては仕方が無いことでもあるからな。卿が深く気にすることは無い」


そのためラインハルトは己の心の声を抑えて、神城からの謝罪をさせず、お互い様という形で抑えることにした。というよりは、元々ラインハルトは神城に謝罪をさせる気は無かった。


何せ、もしもここで自分が下手なことを言ったせいで、神城が『ほとぼりが冷めるまで薬を作らない』なんてことを言い出してしまったら、色んな意味で大惨事となることが目に見えているのだ。なればこそ、ここは常識を知らないことを責めるのではなく、許す度量を見せる必要があったという事情がある。


「閣下のご厚情有り難く」


「うむ」


このラインハルトの事情を知ってか知らでか、神城はラインハルトの示した度量に対して敬意を示す意を込めて深々と頭を下げ、それをラインハルトが鷹揚に受け入れる。


――ここまでが社交辞令を含んだ予定調和である。


貴族間では、このような会話が自然にできるか否かで最低限の教養と空気を読む力があるかどうかが試されるものなのだ。


そして今回神城を試しているのは、神城の対面に座るラインハルトではない。隣の部屋でこの会談を確認している女性陣である。


その結果はと言えば……


「ほほう。これが噂の準男爵殿か。……確かに異国の貴族と言われればそう見えなくもない」

「そうですね。我が国とは違えど、確かな作法は心得ている様子ですね」

「しかし思ったよりもお若い。あれで熟練の薬師とは……」

「伯母様と同じ天職持ちってことかな?」

「だろうな。これは猶更囲い込む必要があるようだ」


と、基本的には好印象であった。


ちなみに神城は、自分がこのように品評されていることなどは知らないのだが、自分が常に試されている立場であることを忘れていないので、たとえモニターされていることを知ったとしても、それを当然のことと捉えて特に何かをしようとはしないだろう。


こうした人物評価に対するあれこれはともかくとして、本題は神城が作る秘薬についてである。


「んんっ。では挨拶はこれくらいにして、本題に入らせていただこうか」


さっきから隣の部屋から発せられる『さっさと本題に入れ』というプレッシャーをひしひしと感じているラインハルトは、一つ咳払いをしてから自身の前に座る神城に対して質問を投げ掛けた。


「ルイーザからの話では『肌を若返らせる化粧品よりも維持の薬を作るほうが難しい』ということと『維持の薬を作るなら『不老』の薬を作れるかもしれない』という話であったが……それは本当のことかね?」


さしものラインハルトも『不老』という言葉を放つ際には、思わず周囲を確認し声のトーンを落としてしまう。


しかしこれも当然のことである。


いつの世であっても、金もある。権力もある。武力もある。そんな人間が求めてやまないのが不老不死。もしくは不老長寿だ。


基本的に『肌の若返り』という、見た目の変化にとどまる化粧品には興味が無い男性陣であっても『不老』を実現させる秘薬に興味を抱かない者など居ないと断言できる。


ラインハルトとてそれは例外ではなく、もしも初日の顔合わせの時にこのことを知らされていたら、冗談抜きで娘を嫁にやることを考えたであろうことは想像に難くない。


このような事情もあり、口では優しく確認を取りながらも彼の目は「なんで最初にそれを言わなかった?」と雄弁に語っていた。


しかしラインハルトから責めるような視線を受けている神城としても、別に悪意があって隠していたわけではない。


「あくまで可能性ですからね」


「ほう?」


目で先を促すラインハルトに対して、神城は苦笑いをしながら説明をする。


「閣下もご存知の通り、私は()()()に来たばかりで、()()()にある素材で作った薬の効果を試したわけでもありません」


「……あぁ。そうだったな」


神城が何度も『この世界』ではなく『この国』と言っているのは、神城からラインハルトに対しての暗黙のメッセージを送っているためだ。


メッセージの内容としては『話していいならもっとぶっちゃけたことを言うが、許可が無い以上はどうしてもオブラートに包んだ言いようになるぞ?』というものである。


そのことは当然ラインハルトも理解しており、彼は現時点で(この場ではあまり突っ込まんほうが良いな)という思いを抱いていた。


それはともかくとして。神城の(女性陣)向けの説明は続く。


「今回はたまたまルイーザ殿が私が作った薬を見つけ、たまたまそれを使った結果、たまたま薬の効果が思ったよりも高かっただけの話です。『維持』と比べて比較的簡単な『擬似的な若返りの薬』ですら確証が無かったというのに、どうしてそれ以上の難易度である『擬似的な不老をもたらす薬』を売り込むことができましょう? それに閣下とて『擬似的な若返りの薬』の効果を見ていなければ『擬似的な不老』などと言われても一笑に付したのではありませんか?」


この神城の言い分を要約するならば「貴方は初対面の人間から『不老長寿の薬を作るからパトロンになってくれ』と言われて、なんの疑問も抱かずに頷くような真似をする人間じゃないでしょう?」と言うことだ。


「なるほど。確かにそれはそうだったやもしれんな」


「ご理解いただきありがとうございます」


話を聞けばラインハルトも隣室の女性陣も納得するしかない。


そもそもラインハルトが神城に求めたのは、異国の貴族として有事の際の外交の伝手になることであって、薬ではなかったから、あの場で不老長寿の薬を作ると言われても胡散臭さしか覚えなかっただろうし、隣で待機している女性陣はなおさらだ。


神城の立場を知らない彼女らは、妄想の中にある架空の薬ではなく、ルイーザという実例を伴った実物があったからこそ神城を囲いこもうとしてるのだ。


つまり神城の主張としては「情報を隠したわけではない。むしろあやふやなことを言って期待を持たせるのではなく、誠意を持ってあやふやなことを言わなかったのだ」という主張となる。


事実、中身が小物のおっさんである神城には、できるかどうかわからないモノを担保にする勇気(若さ)など無く、小さな家をもらってからできることをコツコツとやっていこうとしていたに過ぎない。


ただ、その『できること』が、女神のチートによって本人の認識以上のことができただけ。


言ってしまえば今回のこれは、神城としても予想外の事故。


たとえるなら、己と言う自動車の性能を理解できていなかった若葉マークの運転手が、軽い感じでアクセルを踏み込んだら自分の予想以上の速度が出てしまい、その結果事故が起こったようなものだ。


故に神城としては『事故が起こったのはしょうがない。あとはこの事故の終着点をどうするか?』ということが大事であり、特にその終着点が『とにかく薬を作れ』とならないようにするのが、今回の会談(戦い)の最大の戦略目的となる。


対してラインハルトの場合。彼は急に齎さられた情報の確認をしたかっただけであり『できるなら作ってほしい』という程度の考えでこの会談(話し合い)をすることにしていたので、どうしても受動的な立場になってしまう。


そもそも薬の情報を握るのは神城であり、この会談を『情報戦』という意味で見れば、ラインハルトは戦う前から負けている。さらに純粋に『己の意見を通す場』として見ても、明確な目的がある神城とそれがないラインハルトでは勝負にならない。


いかな名将であっても、正確な情報もなく、戦いの終着点も見えていない戦に勝つことなど不可能である。


……だからこんな神城の提案が通ってしまう。




「とりあえず、現状で『高品質な皮膚用回復薬』や『擬似的な不老の効果を齎す薬』を作るには、足りないものが多すぎます」


「と、言うと?」


「「「「……」」」」


神城から話を終わらせるために結論を述べようとする気配を察したラインハルトや女性陣は彼の言葉を聞き逃さないよう、意識を集中させる。


「まず私の知識やレベルを高める必要があります。あとは()()()の薬や薬の原料。他の方々が薬と見ていない物も調査する必要があるでしょうな」


言い換えれば『レベルアップさせろ』と『金と資源と行動の自由をよこせ』である。


「……ふむ」


「「「「……」」」」


この主張は『【薬師】が薬を作るために必要なもの』を言っただけであり、この世界の人間が聞いても納得できるものであったので、ラインハルトも女性陣も普通に神城の言い分に納得するしかない。


加えて言えば、神城の主張はある意味で厚かましい要望でもあるのだが、元々侯爵家の方針では神城にレベルアップや知識の向上。さらに薬の原料の調査・調達を行わせるつもりで人員を派遣する予定であったこともあって、この申し出は侯爵家にとって渡りに船と言っても良い提案であるという事情もある。


よってラインハルトは神城の要求を全て呑むことを認めることに異論は無かった。


「卿の言い分はわかった。では私はこれより卿が安心安全にレベルアップしつつ、同時に知識の収集ができる環境を整えるとしよう」


「ありがとうございます」


「いやなんの。卿の作る薬の可能性を考慮すれば、この程度のことは当然のこと。ただ、な」


「なんでしょうか?」


「うむ。これはできればで良いのだが……卿がレベルアップや知識を収集している間も、試供品でも良いので『擬似的に肌を若返らせる薬』を一定数作って納品してはくれぬか? 試す人員はこちらで用意するし、途中経過の報告などが必要なら、それもしっかりとさせよう」


((((よく言ったっ!))))


「一定量……ですか。現状ではそれほど多くは生産できませんが?」


「あぁ。一定量と言っても税のように定量が決まっているわけではない。卿が無理しない範囲で作ってくれればそれで良いのだ」


(むしろ中途半端に多く生産されても処理に困る。今は隣の部屋の4人が納得する量があれば良い。……それに無理をさせて不老の薬ができなくなっても困るしな)


そう考えたラインハルトはかなり神城に有利な判断を下し、それを聞いていた隣室の女性陣も(無いよりはマシか)と考えて、ラインハルトの意見に異議を唱えようとはしなかった。


「それならば。かしこまりました。現在判明している情報や、予想される適量も簡単な注意書きとして纏めて進呈させていただきます」


「おぉ!それは助かる!」


((((良しっ))))


ラインハルトが心の底から本当に助かる! という声と共に神城への評価を上げれば、隣の部屋で待機していた女性陣たちも歓喜の声を上げながら神城への評価を上げていた。



――こうして今回の会談は、両者がホクホクの笑顔を浮かべて握手をするという結果となって終わることとなる。


この会談で神城が差し出したのは、すでに製造方法が確立している『擬似的な皮膚回復薬』だけ。さらにその生産量も神城の胸三寸となったのに対して、侯爵家が差し出すのは秘薬の分の値段と研究に必要な物資。さらにレベルアップにつきそう人員と、神城が薬を研究するための時間。


どちらがより多くの得をしたのかは不明ではあるが、少なくとも両者が笑顔で握手を交わすことになったのは事実である。



……着実に侯爵家との繋がりの強化に成功し、今のところ順風満帆と言っても良い異世界生活を歩む神城。


しかし、そんな彼のことを『準男爵風情』と侮り、その足を掬おうとしている者たちの悪意が迫っていることを、彼はまだ知る由も無かった。



ラインハルト的には『情報出し渋ってんじゃねーぞ?』と言う脅しをかけましたが、神城くんは『ぼくじょうほうなんてかくしてないよぉ』と言って捌きました。


実際に作れるかどうかはまだ不明ですし、なによりマキャベリズムでは恩賞エサは小出しに与えるのが基本ですからねぇ。ルート営業の神城君にとっては常識ですってお話。



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