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13話。人間は誰もが誰かの孫である

文章修正の可能性有り

「ダウングレード?」


ルイーザが侯爵家から戻ってきたので、エレンやヘレナを紹介したら、軽い挨拶に留められたうえ、二人を締め出された挙げ句に、最優先事項ということで向こうからの要望を伝えられた件について。


いや、確かに最低限の挨拶はしたからシツレイではないかもしれないし、情報の重要性を考えれば知っている人間は少ないほうが良いのも事実だ。


さらに二人にしても、侯爵絡みの案件なんざ聞かないほうが良いから締め出すのもわからんではない。


しかしなんというか、余裕が無さすぎやしないか? いや、元々化粧品は嗜好品だし、魔王や他の国との戦争もあるなかで開発が遅れていた分野なのかもしれんけどなぁ。


~~~


神城が予想したように、確かにこの世界は化粧品の発展が遅い。それは戦争中ということもあるが、発想の問題でもあった。


なにせこの世界に於ける化粧とは、肌の上に化粧品を塗ってスッピンを誤魔化すような意味合いが強く、ピンポイントで地肌のケアをするような薬は存在しなかったのだ。


ちなみにこれまで召喚されてきた者たちの中にも化粧品を作ろうとした者はいたのだが、流石に戦争のために呼び出した異世界人に化粧品を作らせようとした国は無く、そういった者たちは監視を付けられたうえで、国が指定する薬を延々と作らされていたらしい。


また、たまたま化粧品を作ることに成功した者たちも、既得権益を侵されることを嫌ったギルドからの圧力を受けることを予想したり、貴族によって力ずくで奪われることを警戒したこともあり、せいぜいが自分用として使うくらいで、決して他人に回そうとはしなかった。


~~~


そんなこの世界の化粧品事情はともかくとして。


「えぇ。流石にあの秘薬を治験させて情報を拡散させるのは危険です。しかし維持するだけの薬ならばその限りではありません。またその治験者の中から比較的若い方々を秘薬のモニターとすることで、あの秘薬の治験も可能となります。これならば如何でしょうか?」


「如何でしょうかって……(コイツら、自分たちの肌を若返らせるために自分たち以外の全てを欺くつもりか?)」


考え方としては悪くない。いや、悪くないどころか、今とれる最良の手段と言っても良いかもしれない。


なにせこれから俺に作らせる予定の薬は『若返り』ではなく『維持をするため』の薬。


これとて相当な価値があるから、下手に隠して自分たちで独占すれば、貴族社会のご婦人方を敵に回すことになるのは確実だ。


しかし、だ。反対にその貴重な薬を自分たちで独占せず、むしろ気前良く、それこそ敵対派閥にまで配布するなら、侯爵家は貴族社会の全てのご婦人方を味方につけることができるだろう。


そのうえで、ちゃっかり自分たちはそれ以上の効果がある薬を独占するつもりときた。まったくもってたちが悪いと言うべきか強かと言うべきか。


……げに恐るべきは侯爵家の女性陣よな。


それにこの話の怖いところは他にもある。


それは『実質的に肌を若返らせる薬』という最上級の御馳走を目の前にしておきながら、敢えてランクを落とした薬を作らせようとする判断ができるということだ。


つまりこの世界の貴族は、砂漠で水に渇えていながらも、この『急がば回れ的な判断』ができるということでもある。


流石は政治闘争のプロフェッショナルである貴族だ。化粧品一つ取ってもこれだけの強かさを持ち合わせているとはな……この海の神城の目をもってしても見抜けなんだわ。


~~~


そんな強かさに加え、何がなんでも自分を働かせようとする侯爵家の女性陣に対し色んな意味で驚愕している神城だが、流石の神城もこの意見が『肌の若返りよりも維持をしたい』と考えた15歳の少女の一言から生まれた意見だとは露とも思っていなかった。


まぁ、たとえ事実を知ったところで神城に何か対策が取れるわけでもないのだが。


結局のところ、中身がオッサンの神城に、否、男という生き物である以上、10代女子の趣味嗜好を読むのは不可能ということなのだろう。


~~~


「話はわかりました。しかしよりにもよって『維持』ですか」


「……難しいのでしょうか?」


俺が考え込んだのを見たルイーザがどこか疑わしそうな目を向けてくる。


これはあれだろうか? 「若返らせるよりは簡単だろう?」とでも言いたいのだろうか? だがそれはルイーザが勘違いをしているからこそ生じた誤解だ。


「いえ、実際のところは『難しい』と言うよりは『現時点では不可能』と言ったほうが正しいですね」


誤解を受けたままにして『出し惜しみをしている』と報告をされても困るので、俺は素直に思ったことを口にする。


「不可能?」


それを聞いたルイーザが「わけがわからないよ」と言いそうな雰囲気を出しているので、更に説明を続けることにした。


「そうです。まずルイーザ殿は大前提から誤解されているようなので説明をさせていただきますが、以前私が作った薬は、厳密には『肌を若返らせる薬』ではなく、あくまで『肌に張りとツヤを与える薬』なのです」


「……そう言えばそのようなことを仰っておりましたね」


思い出したか?


「えぇ。具体的には肌に必要な栄養を直接浸透させた後に代謝を高めることで、対象となった肌に対して従来以上の張り・ツヤ・潤いを与えているものですからね。ですのであの薬の効果は、あくまで『擬似的な若返り』にすぎません」


「えっと、それは若返りとは違うのですか?」


結果だけ見ればそう思えるかもしれないがなぁ。


「まるで違いますよ。繰り返しになりますが、あれは必要な成分を直接患部に浸透させることで、傷んだ肌の回復や、次に生まれてくる肌に直接栄養や水分を染み渡らせて肌を活性化させているのであって、決して時間を巻き戻しているわけではないのです」


「あぁ。なるほど。それでは『維持』となると……」


「えぇ。求められる要素がまるで変わることになります。具体的には『代謝の減退』や『保存』に近い成分が必要になるでしょう」


「栄養などとはまるで違う。ということですね」


「そうです」


方向性がまるで違うんだよ。


ただし現代日本ならそのまま『保存料』ってのがあったから、あれと同じようなものが身近にあるなら、なんとかなるかも知れない可能性が無いわけでもない。


なにせ『日本人は保存料を摂取しすぎたせいで、外見的に歳を取りづらくなった』とか『生前保存料を多く含んだ食品を大量に食っているから死んでも腐るのが遅い』って都市伝説があるくらいだしな。他にも色々と……あぁいや、それは今はいいか。


とりあえず、今俺が知る成分で近いのは『品質保持』の成分なんだが、それを抽出して凝縮したところで『肌質の維持』にはならんと思う。むしろ「肌に無理をさせることになるんじゃね?」とすら思うんだが、どうなんだろうか。


うーむ。それを考えれば、まだ栄養を加えるだけの擬似的な若返りのほうが楽なような気がしないでもない。


ん? いや、まて。

あれ? 

これってまさか、できるのか? 


……あぁいやいや、まずは確認が先だ。


「あの、ルイーザ殿。いきなりだが、この世界の価値観を確認させていただきたいのだがよろしいだろうか?」


「え? まぁそれも私の仕事ですので別にかまいませんが……」


突然なんだ? 絶対に誤魔化されんぞ! って顔をしているが、場合によっては肌の若返りよりも厄介な薬ができるかも知れんからな。流石に価値観を確認しておかないと怖くて試作品すら作れんよ。


「ありがとうございます。ではお聞きします」


「はい」


「この世界では『擬似的に肌を若返らせる薬』と『擬似的に不老となる薬』では、どちらのほうが価値がありますか?」


いや、正確にはアンチエイジングだから『不老長寿』になるのか?


「………………」


ん? リアクションがない? あまりにも常識的な質問過ぎて、呆れて固まったか?


……そう考えた時期が俺にもありました。


「はぁ?! 今なんと?!」


驚きのあまり声を挙げるルイーザを見て、俺は『あれ? 俺、またなにかやっちゃいました?』と言おうとしたが、それを言ったら次の瞬間には首根っこを捕まえられてブンブンやられそうなイメージしか無かったので、なんとか堪えることに成功した。


しかし、やっぱりそうだったか。


侯爵家がルイーザを介していきなり『現状維持する薬を作れ』とか簡単に言ってくるもんだから、てっきりお偉いさんはそれなりにアンチエイジングをしているもんだと思ったが、違ったか。


うむうむ。なにも知らずに下手に薬を作る前に確認してよかったな。


目の前で噴火前の火山を彷彿させるかのようにワナワナと震えているルイーザを見て、俺は現実逃避気味にそう考えたのであった。



キチンと常識を確認してから行動に移そうとする男、神城君。

皮膚の回復薬? 試しで造ったのを半ば無理やりルイーザが使った感じなので、神城君が悪いわけじゃ無いですからねぇ。


時間を操るなら『逆行』よりも『停滞』の方が簡単なイメージは有りますが、そもそも時間を操っているわけではありませんってお話。


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