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10話。前略。妹の視点より②

本日二話目投稿です

文章修正の可能性有り

「ご主人様、ただいま戻りました」


「あぁ、お帰りなさい」


「はい!」


私を連れて準男爵様の待つお部屋に入り、帰還のご挨拶をしたお姉ちゃんは、準男爵様の声を聞いて感極まったのか私を放置して準男爵様に抱きつきました。


「おっと。うん。元気そうで何よりだ」


そして抱きつかれた準男爵様も、当たり前のようにご自分に抱きついてきたお姉ちゃんを受け止めて、頭を撫でながらお声をかけています。


髪や目の色は私たちと同じ黒。短く切り揃えられていて、清潔感がある。身長はお姉ちゃんより高いけど高すぎるってほどでもなく、横幅もガッチリとした感じではないね。


雰囲気も柔らかい感じだし、こうして見ると準男爵様は軍人さんと言うよりは、お兄ちゃんみたいな文官さんみたいな感じかな?


「はい。ご主人様もお変わり無いようで安心しました」


私が準男爵様のことを観察してる最中も、お姉ちゃんは準男爵様の腕の中に包まれて嬉しそうに目を細めていました。


うんうん。久し振りの再会だからねぇ~……って。


「えぇぇぇ?!」


『嬉しそうに目を細めていました』じゃないよね! 


なんでいきなり二人の空間を作ってるの? 紹介される前に放置された私はどうしたらいいの? いきなり目の前でお姉ちゃんの女の顔を見せられた私はどうしたらいいの?!


これまでの不安とか緊張感とかが一気に吹き飛んだんですけど!


いきなりのことでつい声を上げてしまった私に気付いた準男爵様は、お部屋の入り口付近で呆然としていた私に視線を向けると「あぁ、すまんな。妹さんはそこに座ってくれ」と言って近くの椅子に座るように促してきました。


「……(後で覚えてなさいよ)」

「……(いやいやいや、仕方ないでしょ?!)」


その時、私を見るお姉ちゃんの目は断じて妹に向けて良いものじゃなかったけど、私は悪くないよね?!


とりあえず私は、後でお姉ちゃんから何をされるのか内心でビクビクしなら準男爵様が指し示した椅子に座りました。


「はぁ~」


初対面の準男爵様よりお姉ちゃんが怖いってなんだろう? そう思うと思わず溜め息が出てしまいます。


そんな私を見て、準男爵様が苦笑いをされていました。

あ゛、やばい。今の私って凄く失礼なことしてるよね?


自分の失敗を自覚したことに加え、お姉ちゃんの視線から更なる圧力が生まれつつあることを感じた私は、一も二もなく準男爵様に謝ろうとしたんだけど、


「うん。妹さんの緊張が解れたようで何よりだ。エレンも妹さんのためとは言えご苦労様」


私が謝るより先に、準男爵様の方から声を掛けてくれました。その声色からは怒っているような感じはせず、普通に初対面の私を気遣ってくれてるようにしか思えません。


「え? あ、はい!」


でもって突然準男爵様から褒められたお姉ちゃんは、嬉しそうに微笑み、さっきまで私に向けていた視線も和らぎました。


うん。とりあえず準男爵のフォローのお陰で、後でお姉ちゃんから理不尽なお叱りを受けなくて済むようになったってことだよね?


それは助かるんだけど、準男爵様? 多分ですけど、お姉ちゃんは私の緊張を解すとか全然考えてませんでしたよ? 


いや、そんなことを言ったら後でお姉ちゃんに何をされるかわからないから言いませんけどね? 


「コホン。彼女の緊張も解れたところで、ご主人様にご紹介いたします」


「ん、頼む」


何事も無かったかのように話を進めるお姉ちゃんに「それはどうなの?」と思わなくも無かったけど、流石に今はそう言うツッコミをするところじゃないから、ぐっとこらえました。


「はい。彼女はこの度、ご主人様の下に出仕することになりました、私の妹のヘレナです。ヘレナ、ご挨拶を」


「はい!」


現在進行形でお姉ちゃんからの「余計なことは言うなよ」的な視線を受けている私は、その『余計なこと』を考えないようにして、椅子から立ち上がって準男爵様にご挨拶をします。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。只今ご紹介に与りました、トロスト男爵家の娘、ヘレナ・トロストと申します」


「ご丁寧にどうも。もう知っているとは思うが、私はこの度ローレン侯爵閣下より準男爵の爵位を賜った神城大輔と言う。私の国では姓が先に来るので、神城準男爵となる。諸事情からこちらの常識には疎いところがあるが、それについてはエレンから聞いてほしい。……とりあえずはこんなところか?」


「そうですね。後は待遇についての案内を頂けると助かります」


準男爵様から問い掛けられたお姉ちゃんが、そう言って話を進めようとしてくれました。


そうだよね。待遇は大事だよね! 


「あぁ、そうだな。まずは給金についてだが、エレンは年200万シェンでヘレナは20万シェン。住み込みで食費や家賃は取らん。衣類に関しては、仕事に使う分はこちらが負担で、私服は各自で買ってくれ。ここまではいいか?」


「「はい!」」


「あと給金の支払いは3ヶ月に1度。四分割して支払う形になる予定だ。初任給はルイーザが戻ってきてからになるが、エレンには50万シェン。ヘレナには5万シェン払うから、個人で必要な物があるならそれで買い揃えてくれ」


「「ありがとうございます!」」


やっぱりお給金は貰えるんだ! いやぁ場所によっては『学びに来た未熟者に払う金なんか無い』って言ってお給金を払わないところもあるらしいから、半信半疑だったけど、流石は侯爵様のお気に入りの準男爵様だよね!


「就労時間の割り振りや休日などに関しては、ルイーザ……あぁ、侯爵閣下が用意してくれた侍女長と話し合って決めてくれ」


「「はい!」」


ルイーザ様って言う人が私たちの教育係なのかー。どんな人なんだろ?


「後は、滞在する部屋だな。予定としては客間の一つを二人の部屋として使わせるつもりだが、問題は無いか?」


「「ございません」」


うんうん。普通に出仕した場合も、2人で1部屋とか、3人で1部屋とかは当たり前らしいし、お姉ちゃんとなら問題無いよね!


「食事に関しては、普段は食堂を使おうとは思っていない。俺の分は厨房か使用人控え室にある簡易のキッチンを使って作ってくれればいい。自分たちの分はルイーザの指示に従ってくれ」


「「はい!」」 


「え~あとは……風呂やトイレについてだな。多分ルイーザは、使用人控え室にあるシャワールームやトイレを使うように言うだろうが、流石にまったく使わないのも問題だろうから、1階の浴室を使ってもいいし二階のシャワールームを使ってもいい。トイレも同様だ」


「「はい!」」


使用人が貴族用の設備を使うのはどうかと思うけど、設備の維持のためなら仕方ないよね!


いや~出仕してきた貴族の娘を虐めるような貴族も居るみたいだけど、神城様は違うみたいで良かったよ~。


「ざっと言えばこんなところだろうか? そちらから何か質問はあるか?」


簡単な説明が終わったのか、準男爵様は私たちに聞きたいことがあるかどうかを聞いてきました。


「私は特にありません」


即答?! いや、お姉ちゃんは事前に説明を受けてただろうから、驚くことじゃないのかな?


「そうか、ではヘレナは?」


準男爵様は内心で驚いていた私にそう聞いてきました。


ん~質問かぁ。そもそも何を聞くべきかすらわかってないからなぁ。後でお姉ちゃんや、ルイーザ様って方に聞くべきこともあるだろうし、変な質問をして気分を害されてもなぁ。


「……あ!」


そんな風に考えていたけど、一つ、どうしても確認しなきゃならないことがあったのを思い出したよ!


……だけどこれって聞いてもいいことなのかなぁ?


「ん? 何かあるのか?」


「え~っとですね」


「私? どうしたの?」


「あ~う~」


ついチラチラとお姉ちゃんに視線を送っちゃったら、私の視線に気付いたお姉ちゃんが首を傾げて聞いてきます。


「よくわからんな。とりあえず何を疑問に思ったか教えてくれないか?」


「……怒りません?」


「ヘレナ?」


私の名を呼ぶお姉ちゃんの声からは『怒られるようなことを聞くのか?』って感じの圧力が掛かってくるけど、今は無視!


「まぁ、疑問に思ったことを聞かれたくらいでは怒らんと思うぞ? とは言っても、内容次第では答えられない質問もあるから、それは理解してほしい」


「あ、はい」


それはそうですよねー。


「なら、問題は無い。では君が何を疑問に思ったか聞かせてもらえるかな?」


子供に優しく問いかけるように尋ねてくる準男爵様に対して、一瞬「今更ながら失礼じゃない?」と思って聞くのを止めようかとも思ったけど、もうそんな雰囲気じゃなくなってしまったことを感じた私は、色づきと諦めて質問をすることにしました。


「あのですね」


「うん?」


「もしかして、私のお仕事の中に夜伽も含まれたり……します?」


「はぁ?!」


私からの質問を聞いて、大好きな準男爵様にケチを付けられたって感じたのか、お姉ちゃんが怒りの声を上げました。


でもでも、私にも言い分はあるんだよ!


「いや、だってさ! お給金の高さとか、お姉ちゃんの態度とかみたらさ、そう考えちゃうのも普通じゃない?!」


出仕先の貴族の中には普通に手を出す人も居るみたいだし、実際に私はそれ目的で狙われてたし!


だから、未熟な私たちにも相場以上のお給金を支払うのは『そういう意味』があるからじゃないのかって疑うのは当たり前だと思わない? 明らかにおかしいよね?!


お姉ちゃんの怒りに呑まれないように一気に言い切ると、お姉ちゃんはお姉ちゃんで心当たりがあるのか、声を詰まらせました。


そんなお姉ちゃんに代わって、準男爵様が苦笑いをしながら私に声をかけてきました。


「確かにエレンに関してはそういう意図が無いわけではないな」


「ご、ご主人様?!」


ある意味で男女の関係であることを告げてくる準男爵様に、私は「やっぱり」といった感情を覚えました。


(だけど、脂ギトギトな中年貴族とか、その子供たちに良いようにされるよりはマシだからなぁ)


少なくともお姉ちゃんはお仕事とか関係無しに準男爵様のことが好きみたいだし、今だって失礼な質問をした私に対して『図星を突かれたから』って言って怒ったりはせずに、正直に質問に答えてくれたから、誠実な人なのは確かみたいだし。


そう思った私は『そういうの』を込みで準男爵様のところでお世話になろうとしてたんだけど、準男爵様は私が思っていたような人とは少し違いました。


「ま、あくまでエレンはそうだってだけの話だ。君は違うぞ」


「え?」


この人は何を言ってるの?


「エレンの事情は後で本人から聞くといい。ただ誤解の無いように言っておくが、私は君を『保護』したつもりだ」


「保護。ですか?」


「そう。保護だ。こう言ってはなんだが、私が君を雇い入れたのは、一つはエレンのためであり、もう一つはエレンの家族から私の情報が漏れないようにするための処置なんだよ」


えっと、つまり、それは。


「つまりね、私が新興の準男爵となったご主人様にお仕えすることになったことで、ヘレナもご主人様のことを探ろうとする連中から目を付けられる可能性があったの」


予想もしていなかったことを言われて、思わず口をパクパクさせていた私を見かねたのか、お姉ちゃんが説明をしてくれました。


「あ~っと。それはもしかして、人質的な意味で?」


「そうね」


「本当なの?!」


「嘘なわけないでしょ」


お姉ちゃんは「違っててほしい」って思いながら絞り出した私の言葉に対してあっさりと頷くと、現状をわかりやすく話してくれます。


「そしてローレン軍務大臣閣下の庇護を受けているご主人様を探ろうとする相手ということは、少なくとも向こうは閣下と渡り合うだけの算段が付けられる相手ということになるわ」


「……それって、相当やばいよね?」


「えぇ。貴女の体を狙っていたような屑とは比べ物にならないくらい危険な相手よ」


そうか、だから『保護』なのか。


「どうやら現状を理解できたようで何より。近いうち、いや、もしかしたら既に君たちトロスト男爵家は侯爵閣下の派閥の一員と見なされているだろう」


「……はい」


頷くことしかできない私に、準男爵様はさらに言葉を重ねます。


「そしてトロスト男爵殿がその自覚を持つ前に、君を他の派閥に放出されては困る。そう考えて私は君を雇い入れることを決定した。給金で相場以上の金額を提示したのは、他家に買収されたりしないようにするためだ」


「な、なるほど。そうだったんですね」


体目当てとか、そういう次元じゃなかった。そう思うとさっきの私がどれだけ失礼なことをしたのかよくわかる。


……そりゃお姉ちゃんも怒るよねぇ。


「それと、君たちが望んで派閥に加入したわけでもないことは確かだからな。巻き込んでしまったことに対する謝罪の意味もある…………すまなかった」


そう言いながら準男爵様は私に頭を下げました。でもそれは違いますよ!


「頭をおあげください! 元々準男爵様との繋がりがなかったら、兄も私も潰されてました! ですから謝罪は不要です! むしろお礼を言わせてください!」


「ヘレナ……」


実際に、お姉ちゃんからのお誘いがなければ私はどうなっていたかわかんないし、お兄ちゃんだって潰されてたのは間違いないから、これは本心からの言葉です。


それに恨むなら全部の元凶である元兄嫁と、お兄ちゃんにあれを宛がったお父さんとお母さんでしょ?


私がそう言うと、お姉ちゃんも「そうね。間違ってもご主人様を恨むのは筋違いよ」って言って笑顔を向けてくれました。


「ま、その話は二人でしてくれ。それで、他に質問はあるかね?」


そんな私たちを見て準男爵様は一通りの話が終わったと判断したのか、さっきまでの苦笑いを止めて真剣な表情になって私に確認をしてきました。


「いえ、もう大丈夫です。お気遣いありがとうございます!」


そして勿論私には質問なんかありません。いや、本当は一つあるんだけど今はまだ聞かないことにしました。


姿勢を正しながら「質問は無い」と答えた私に、準男爵様は軽く微笑みながらこう仰いました。


「そうか。それではこれからよろしく頼むよ」


「は、はい! こちらこそよろしくお願いいたします!」





――こうして準男爵様とのご挨拶は終わり、私はお姉ちゃんと一緒に私たちが住むことになるお部屋へと入りました。


「ふわ~」


予想以上に広くて綺麗なお部屋だったことに驚いていると、後ろからお姉ちゃんが声を掛けてきます。


「どう? 私が言った通り、優しい人だったでしょう?」


「……そうだね。良い人なのは分かったよ」


なんか勝ち誇った顔をしてそう言ってきたことに、ちょっとだけカチンと来ましたけど、言ってることは間違ってないから反論もできません。


私の言葉を受けて「ふふーん」と言わんばかりに胸を張るお姉ちゃんを見て、私はさっきのお話を聞いたとき心の中で思った疑問を口に出そうとして……止めました。


だって、今そんなことを言ったら絶対お姉ちゃんに邪魔されるからね!


……これからの修業に思いを馳せながら、私は『どうやったら準男爵様とくっつくことができるのか』っていうことを真剣に考えるのでした。


色々と話し合いですね。


ちなみに妹さんは神城君に対して恋だの愛だのと言った感情は抱いておりません。


あくまで話を聞いた上で「あれ? これってもしかして修行が終わったらヤバイんじゃない?」と考えて、神城君の側に居るのが一番安全だと判断したんですね。


元々貴族の娘さんですから、恋愛結婚に憧れはあってもしっかり現実は見るもよう。


姉? 依存とか吊り橋とかで好感度Maxですが何か?ってお話



―――


これが、読者様から頂いた、燃料ポイントを、使った、二話目だぁぁぁぁ!



えっ? 昨日投稿しなかった分の罪滅ぼし? ハハッなんのことやら。


読者様からの燃料ポイント投下は間違いなく執筆活動の励みとなっておりますので、変わらぬご愛顧を宜しくお願い申し上げます!


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