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3話。テンプレのジツ!①

サブタイがなぁ……

自分を包んでいた光が収まったとき、とある学校にいたはずの俺は見知らぬ建物の一室の中に居た。どうやら異世界転移とやらは無事成功したようだ。


その証拠に、俺たちの周囲では、光と共に現れた俺たちを見ていい歳をしてるであろう偉そうなおっさんたちが、揃いも揃って


「おぉ!召喚に成功したぞ!」

「これで我が国は救われる!」

「あれが勇者か……」


などと、口々に『召喚』だの『勇者』だのといったフレーズを口にしているではないか。


……あれがコスプレ&演技だとしたら痛すぎる。


ちなみに、さっきから()()()と言っているように、転移してきたのは俺だけではない。


じつは俺以外にも、とある学校の生徒さんが30人ほど転移してきているのだ。


そして彼らは明るい雰囲気でざわついている周囲のオッサンたちとは違い、様々な様相を見せていた。


「本当に?」

「転移? まじか!」

「何? なんなの?! ここはどこなの?!」

「え、こ、これからどうなるの?!」

「これは……来た!」


と、わけのわからないところに飛ばされたことに対する焦り。状況がわからないことから生じる不安。転移したことに対する高揚感等々本当に色々だ。


俺? 俺はホラ、一応説明受けたのでそれほど焦ってはいない。つーか学生の彼らと違って大人だし。今年で36だから余裕でダブルスコアだし。そんなんで彼ら生徒さんと一緒になって騒いでもなぁ。


まぁ彼らの場合は事前説明を受けてないだろうから、あの状態も仕方ないと言えば仕方ないんだけど。


向こうの集団には制服姿の生徒さんたちと、教師だろうか? 一人だけ制服を着ていない大人の女性がいるが、全員が全員混乱状態にあるようで、一向に静かになる様子もなくガヤガヤと仲間内で状況確認を行なっている。


そんな彼らの様子を見て、俺たちを召喚したであろう連中も徐々に冷静さを取り戻したようで、最初は歓喜の表情一色だったのが、今ではこちらの様子を観察するかのような目を向けていた。


自称神からの説明が確かならば、おそらくこちらの言葉は理解されている。よってあの観察するような眼差しは、生徒さんたちの中のリーダーを見定めているモノと推察できる。


何故わかるかって? 日頃の経験だな。営業職である俺はそういうのに詳しいんだ!


そして観察する側の人間は、同時に自分も観察されるということを自覚しなければならない。俺? 観察されてることを自覚したうえで、焦った振りをしてますが何か?


なにせ接待なんかだと、相手の行動に対して極々自然に驚くのは基本中の基本(偏見)。さらに俺くらいの接待師ともなれば、()()()()ではなく自己暗示をかけて()()()()()くらいのことは朝飯前よ。


つまり周囲にいる彼らから見て、今の俺は生徒さんより年上にもかかわらず、狼狽してリーダーシップを発揮できない情けない男に見えているはずだ。


女神に説明された話だと、向こうは王侯貴族。ならば下手に警戒されるよりは侮られるほうが良い。


まぁあんまり侮られると『価値なし』って判断されるから微妙なところでもある。結局何事も程々が良いのだ。


だが流石の俺も、その辺の匙加減はわからん。なにせ王侯貴族相手に営業なんかしたことないからな。


しかし普通に考えれば、今の俺たちはいきなり召喚されて右も左もわからない状態なんだ。そこで一人冷静になってたら別の意味で目を付けられる。


……例えばこの状況(異世界転移)を理解して、下を向いてほくそ笑んでる少年とか、その少年を見て落ち着きを取り戻した少女とか、数人で固まってヒソヒソと『チート』がどうとか言ってる少年たちだ。


彼らはすでに目を付けられたと思って良いだろう。何も情報がない中でお偉いさんに目を付けられて良いことなど何もないことを俺は知っている。


あくまで中間、できたら中間よりやや上くらいが丁度良いんだ。それを考えれば、そろそろ上位に位置する連中が動くはず……


「みんな! まずは落ち着こう!」

「そうね。どうやらこの状況を理解してる人がいるみたいだし」


(よし!)


学級委員長なのか何かはわからんが、混乱する同級生を率先して纏めた男女のペアに対し、俺は内心で喝采を上げる。


そして周囲の連中もこちらの集団のリーダーは誰かの特定を終えたようで、チラチラと目を合わせて頷いている。


この流れから導き出される答えは当然……。


「急なことでさぞ驚かれたことでしょう。恐縮ではございますが、私に状況の説明をさせていただけませんでしょうか?」


そう言って、一人の少女が名乗り上げてくる。その動きに対して、周囲の偉そうな連中も文句を言わないところを見ると、これはあらかじめ決められた配役なのだろう。


テンプレだと王女殿下か、教会のお偉いさんってとこか?


ま、わざわざ探偵風に答えを導き出さなくても、当たり前と言えば当たり前の話なんだよなぁ。


『召喚に成功しました』

『よし死んでこい』


って感じのケースならともかく、俺たちを見た第一声が『勇者様』だもんな。結局は戦場奴隷として使うことに違いは無いが、普通は洗脳して自分に歯向かわないようにするのが基本だろうよ。


問題は転移直後からニヤついてる連中が『誘拐犯の話なんか聞けるか! 俺は出ていくぞ!』と言って騒いだりしないかどうかだが、よほどの阿呆でもない限りは情報収集を優先するだろうから、ここは俺も静観一択だ。


なにせ俺たちは何も知らないんだ。言葉も、金も、食物も、常識も、本当に何も知らないんだ。だからこそ向こうが下手に出ているうちは、逆らうべきじゃない。


……それが普通だってのによぉ。


「説明? 何を言ってるの! そんなことより私を帰してよっ!」


一人の生徒が説明を申し出てきた少女に対して食ってかかってしまった。


「キョウコ、待って?!」


その少女に対して先ほど学生さんを纏めた女生徒が驚きの声を上げる。状況によっては不敬罪で殺される可能性もあるんだから、あの女生徒の焦りは正しい。


「なによこんな時まで優等生ヅラして! 元々あんたは……」


だがいつの世も正しいことがまかり通るわけではない。この状況では慌てるのが当たり前だし、原因を知っているであろう説明を申し出た少女に対して食ってかかるのも、理解出来ない事ではない。


だが向こうがそれを甘受するかどうかは別問題だ。


「「「「……」」」」


予想通り、周囲のオッサンたちは言い争う少女たちを観察している。


あれはこちらが一枚岩でないことと、リーダーと目論んだ少女の統率力の確認をしているな。さらに喚いている少女の人品評価ってところか。


「落ち着けキョウコ」


「セイヤ! でもっ!」


「気持ちはわかる。でもここで騒いでも何も解決しないんだ。だから今は説明を受けよう、な?」


そう言ってイケメンが頭を撫でれば、さっきまで激昂状態であった少女はみるみると大人しくなっていく。


「……うん」


ふむ、あっさり落ち着いたか。流石イケメンは強いな。あれが俗に言うナデポなのか?


などと阿呆なことを考えていたら、こちらの様子を窺っていた少女が申し訳なさそうにしながらイケメンに話しかけてきた。


「あの……」


「あぁ。すまない。こっちはもう大丈夫だから説明をお願いできるだろうか?」


「「「……」」」


見るからにお偉いさんの少女に対してタメ口だと?! 常識人のように見えていきなり色々踏み抜いたイケメンだったが、向こうとしてはこれ以上時間を取られるのは本意ではないらしく、イケメンの無礼を流すことにしたようだ。


だがこれで、こちらの集団の代表には常識がないことが露呈してしまった。これでは連中にうまく転がされて終わってしまう。


(元々学生さんに過大な期待はしていなかったが、やはり彼らと一緒に行動するのは危険だな)


それから『落ち着いて説明するために場を移す』と言って移動を始めた少女と、それに着いて行く少年少女達。彼らを見て、思っていたよりも状況が逼迫していることを認識した俺は、予定より早く動く必要があることを認識することになり、より集中して周囲を観察することにしたのであった。





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