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2話。お薬制作

文章修正の可能性有

掃除の邪魔だからと言われて部屋を追い出された俺は、一度一階の倉庫や厨房に行って色んなものを取ってきた後、スキルの実験室兼薬剤の研究室として確保した30畳ほどの中部屋へと移動した。


この部屋には薬関連のアイテムを置いたりしているので、基本的には俺以外立ち入り禁止である。


掃除に関しては、まぁあれだ。諦めてもらう。


何せ薬剤の調合は遊びではないのだ。トイレの洗剤でさえ混ぜれば毒ガスを発生させるし、回復薬から摘出できた『麻酔』の成分の塊である粉などは間違いなく毒物だからな。


今は『麻酔』と日本語で書かれた貼り紙をしているが、もしもルイーザがこれを持ち出して侯爵に見せたら、普通に毒を造っていると思われるかも知れん。


……一応ルイーザも、俺が【薬師】であり、この屋敷で薬を研究するということは知っているから下手なことはしないと思うが、素人には純粋に危険なんだよな。


いや、俺も素人なんだが、少なくとも危険なものとそうじゃないものの区別は付けているつもりだし、何より俺には『毒無効』があるからな。


どこまでの毒を無効化するかは知らないが、神様によって【薬剤師】として再構築された肉体が持つ『毒無効』なので、薬品の調合で発生するような毒は無効化できるんじゃないかと思っている。


つーか、そう思わないと話が前に進まん。


まさかチート中のチートスキルである『毒無効』の存在を吹聴して回るわけにもいかんし、異世界で一歩を踏み出そうと言うのに多少の危険に脅えて躊躇するのもアホ臭いしな。


しかしそうは言っても、わざわざ最初から致死性の毒を試す必要もないので、スキルの効果は少しずつ知っていこうと思う。


そんな感じの自分への戒めはともかくとして、まずは色んなものから『成分摘出』をして、新たな薬の原料を造っていこうとおもう。


そのために用意したのが、こちら。倉庫から持ってきたコップや容器に、厨房から持ってきた鶏っぽい鳥と豚っぽい生き物の足。更には柑橘系の果物等々である。


ん? 薬じゃないのかって?


甘い。


俺のスキルはあくまで『成分摘出』や『成分分析』や『成分調整』であって、このスキルの影響範囲は薬物に限らないのだ!


そりゃそうだろ? なにせ漢方薬だの生薬は自然の動植物由来の成分から造られる薬だぞ? 


だから、薬を造るには動植物から成分を取り出す必要がある。そのためのスキルが『成分摘出』なんだ。


つまり最初に俺がやったような、完成された薬品から成分を取り出すってのは本来の使い方じゃないってことだな。


そんなわけで今回俺は、ルイーザが屋敷に来たときに持ってきた食材から、使えそうなのを持ってきたわけだ。


あとはこの実験に成功すれば、俺はこの世界で【薬剤師】として生きていけるだろう。


失敗したら? 成功するために必要な要素を捜してからリトライするさ。


一度で全部成功するなんて有り得ないんだ。成功よりも失敗のほうが沢山の教訓が残るのは研究に限らず社会全般に言える常識だし、トライアル・アンド・エラー無くして成功は無いんだからな。


とは言っても一回で成功するに越したことはないわけで……


そう考えた俺は、頭を考察から実験に切り替えて、作業を行うことにした。



~~



「ではこれより『製剤オペ』を始める」


誰が居るわけでもないが、気分を出すために左右両方の腕を上げ、手のひらを自分に向けて手術のポーズを取りながら宣告してみる。


うむ。なんかやる気が出てきた気がする。


お約束を踏襲して満足した俺は、机の上の食材に手を伸ばす。


「……まずは鳥と豚の足から『コラーゲン成分を摘出』」


そう唱えてから手のひらに気合いを入れると、目の前の鳥と豚の足からプルプルしたのが出てきた。


多分この気合いが魔力なんだと思うが、その考察は後だ。


分離されたコラーゲンは、ベチャッと音を立てて机の上に用意していた容器の中に落ちていく。


丸ごと一羽の鳥と大きめの豚の足からは大体20グラム程度のコラーゲンが採れた。


これが元の世界と比べて多いのか少ないのかはわからんが、とりあえず良しとしよう。


「次は、柑橘系から『ビタミン成分の摘出』」


別の容器に入っている柑橘系の果物に手のひらを向けて気合いをいれれば、じんわりと粉が浮いてきてパラパラと容器の中に落ちていく。


「良し、これも成功か」


順調に成分を『摘出』できていることで「思ったよりも上手くいきそうだ」と満足感を覚えながら、次なる品へと手を伸ばす。


ちなみにこの成分に関してだが、食材を調べたところでビタミンだのコラーゲンといった成分を観測することはできなかったりする。


それはこの世界でコラーゲンが認識されていないからなのか、それともコラーゲンが『浸透成分』などに含まれているためなのか、はたまた栄養素は『成分』とは別なジャンルなのかは知らないが、とにかく『成分分析』で調べてもビタミンもたんぱく質も見ることはできない。


それでは何故それを取り出せるのかと言うと……憶測でしかないが、恐らく俺が『ある』ことを確信していて、実際に対象にその成分が含まれているからではないか? と考えている。


これに関しても研究が必要かも知れんが、そもそも俺はコラーゲンの正式名称とか知らんしな。


本物の【薬剤師】の方が聞いたら噴飯ものかも知れんが、今のところ俺は研究者を目指しているわけではないので、何か細かい理屈を聞かれたら「ナーロッパのチートスキルのお蔭です」と答えようと思っている。


そんな言い訳はともかくとして。


バニラエッセンスっぽい調味料から『匂い成分』の含まれた液体を摘出した俺は、これまで摘出したコラーゲンとビタミン、匂い成分を合わせたものに、以前回復薬から摘出した『浸透』と『代謝向上』さらに『品質保持』の成分を加えていく。


でもって油分と水分の繋ぎとしてアルコール分を加え、グッチャグッチャと混ぜていく。あれだ、水抜剤の原理だな。


俺としても初めての経験なので、この調合が正しいのかどうか自信は無い。しかしながら、混ぜている最中に漠然と『浸透成分が足りない』とか『代謝向上ももう少し必要かも?』という感覚を覚えるので、恐らくこれが『成分調整』や『製剤』の効果なのだろう。


とりあえずその感覚に従ってグチャグチャと混ぜていくと、物体Xから感じる抵抗が、少しずつ強くなってくるのを感じた。


さらに暫く混ぜ混ぜすると、俺の中の『製剤』スキルが「このくらいで良い」というサインを発してきた……気がする。


この辺はなんとも曖昧で微妙な感じではあるが、これに関しては慣熟訓練が必要だと思おう。


そんな感じで一段落着いた俺の目の前にある鍋の中には、俺が最初に想定したようなクリーム状の何かがデデーン! と鎮座していた。


いや、鍋の中にあるのは重量にして50グラム程度のモノなので、デデーン! は言い過ぎだな。すまんかった。


嘘と大袈裟と紛らわしい表現をしたことを反省しつつ、俺は鍋の中にある物体に『薬品鑑定』をかけると、そこには『回復薬(皮膚)・並』という表記が浮かび上がってきた。


うむ。しっかり『回復薬(皮膚)・並』と出るなら、間違いなくこれは俺が作ろうとした皮膚用回復薬だ。


こうして見事『製剤』に成功したことで、おれのテンションは有頂天になった。この多幸感はしばらくおさまることを知らないだろう。


しかし品質が『並』であることを考えれば、まだまだ上があるのは確定的に明らかであり、品質を上げるためには俺の知識や経験。材料に加えてそれぞれの比率の研究なども必要なのだろう。


しかし、最低限の物はできたぞ。


いやはや、あやふやな成分を適当に混ぜ合わせただけでもなんとかできるもんだな。これも『調剤』のおかげか? 色々とチートをくれた女神には感謝しないとな。


あんまり大っぴらに感謝すると向こうも困るだろうから、今は心の内だけにするとして。


新薬ができた以上は名前をつけねばなるまいよ。


「しかし、名前と言ってもなぁ」


今まで自分でお肌の薬なんか使ったことも無いから、良い名前が浮かんでこない。さすがにプロ○クティブとか、S○ーⅡとか、ドモホルン○ンクルは拙いよなぁ。


……ま、その辺は後で考えるとしよう。


とりあえずこれを売り物にするためには効果の確認が必要だ。しかしエレンはまだ若いのでこの薬の効果を実感できんだろうし、当然エレンの妹もそうだよな。


となると、必然的に試すのは……


「だ、旦那様? な、何をなさっているのですか?」


屋敷内で薬の実……治験に付き合ってくれそうな人物を呼ぼうとしたら向こうから来てくれた件について。


しかしなぁ。向こうの掃除が終わったから呼びに来たんだろうが、ここは立ち入り禁止だぞ。主人の命令に逆らうメイドさんには罰が必要だよなぁ?


そう思った俺は、部屋の入り口に立つメイドさんことルイーザへと目を向けるも、その考えが甘かったことを自覚した。


……ん? なんか頬をひくつかせてるけど、あれか? 大部屋を掃除したばかりなのに、よくも汚してくれたな! ってことか?


「こ、ここは研究室兼実験室だから汚すのは仕方ないんだぞ!」


それに今回はちゃんと容器も用意したし、床も絨毯も汚れては居ないぞ!

……ちょっと部屋がアルコール臭くて鳥の死骸や豚の足や果物や調味料や様々な容器が散乱してるだけなんだぞ!


「……」


―――一瞬前までは言うことを聞かなかったルイーザに対してお仕置きを考えた神城であったが、無表情で自身を見つめる彼女の顔色を見て、その考えを一転せざるを得なくなる。


神城の中では、居候の身という立場は極限まで自己主張を封殺されるものであったという。


サブタイ通りですね。


所々に出てくるブロント語は誤字や誤用ではなく仕様です。


困ったらナーロッパとチートスキルで押し通すスタイル。いや、チートものってこんな感じですよね?(暴論)


薬を作るならまずは化粧品がセオリーですよね。侯爵に言わなかったのは、男性の侯爵が化粧品に食い付かない可能性を考慮したからです。


さすがに『調剤!』と言って直ぐに薬は出来ないもよう。


ちなみに、神城君は自分のことを『屋敷を貸与された居候』と思っているのですが、ローレンはこの屋敷を『神城に進呈した』と思っている(書類上の所有者も神城にしている)ので、部屋を汚したことに対して神城君が弱気になるのは単なる被害妄想です。


しかし常識の擦り合わせが終わって居ないので、彼の態度にツッコミを入れる人がおりませんってお話。





――――





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