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1話。プロローグ的な何か。

申し訳ございませんが、2章からは多くても1日1話の投稿の予定です。

妹の引き抜きや兄の説得のために実家に帰ったエレンには、家族との団欒や妹の引っ越しの準備のために三日ほど休みを与えた。


三日で話が終わらなければとりあえず一回戻ってくるように言ってあるから、何か特別な問題が無い限りは三日か四日はエレンとはお別れだ。


短いかな? とも思ったが、エレン曰く『引っ越しとは言っても修業のためですので、私物を持ち込むようなことはありませんし、そもそも私物もそんなにありませんから……』という、なんとも悲しい理由で、引っ越しの準備には時間は掛からないそうだ。


何より今はご近所とも疎遠で、あまり向こうに居たくないんだとか。


うん。あれだ。落ちぶれていた時(今もそうだが)に向けられた視線とかきついよな。


そういうのを想像したら、俺にも向こうに居たくないと言うエレンの気持ちもわかる。


何より向こうの兄とか母に対して抱え込んでる不満が出るのが怖いんじゃないか? と勝手に予想しているが、その辺は本人にしかわからんことだし、他人がとやかく言うことでもないので気にしないことにしている。


とりあえず俺はエレンが実家に帰る前に、この世界の調理器具の使い方や食料品の種類を確認しているから、三日くらいならなんとかなる……はずだ。


最悪適当な野菜や肉を煮込んで食えば良いし、何よりこの国には米があるからな! なんなら米と塩だけでも三日は暮らせる自信がある。


この米については、あれだ。俺たちより前に召喚された連中による農地改革の一環で、彼らが『米という作物がどれだけチートな作物なのか』ということを為政者に熱弁した結果なのだそうだ。


確かに米は麦と比べ作付面積に対する収穫効率が高いのは事実だ。しかし元々は高温多湿な環境を必要とするため、向こうのヨーロッパでは中々普及しなかったという経緯があるのだが……残念ながらここは根幹技術に魔法がある世界、ナーロッパである。


彼らは魔法を使った土木作業や何やらで水路を造ったり、田畑を開墾したりと色々とやったらしい。


あぁ、ちなみにこの世界には、土魔法というものがない。


いや、厳密に言えば『使える者が居ない』と言ったほうが正しいのかもしれない。


その理由としては、なんでもこの世界の大地は魔力を吸収する性質があるらしく、一度掘り起こしたものなら火魔法で固めて煉瓦にしたりもできるのだが、直接大地に干渉して大規模な土木作業を行なったりすることはできないんだとか。


まぁ、確かにそれができるなら、土魔法使いが戦いに参加すれば地形が頻繁に変わることになるし、たとえば小規模な地震を頻繁に起こして周囲に液状化現象を引き起こすだけでも王都を滅ぼせるからなぁ。


更に言えば、その用途は戦闘に限らない。大地に干渉できる魔法があれば、建設現場や鉱山、インフラ整備でやりたい放題ができるわけだ。


そんな土魔法の万能さを警戒してこの世界を創った神がバランスを調整したのか、それとも剣と魔法の世界に於いても土魔法が現実離れしすぎているのかは知らんが、とにかくこの世界には大地に干渉する魔法は無い。というのが一般的な常識である。


土魔法についてはともかくとして、常識なのは米があるということだ。


掃除や洗濯もわざわざ毎日やる必要は無いし、他人の視線が無いから、久しぶりにのんべんだらりと羽を伸ばせるぜ! 


……などと思っていた時期が俺にもありました。


「旦那様、お部屋の掃除をさせていただきますがよろしいでしょうか?」


擬似的な一人暮らしをしようとしていた俺の耳に、エレン以外の女性の声が聞こえてくる。


「ルイーザ殿。別に派遣されてすぐに無理をして働かなくとも良いのですよ? ただでさえ急な人事ですから、貴女にも色々あるでしょう?」


いや、ほんと。侯爵仕事早すぎ。

それにこの人はなぁ。もう少し気を抜いても良いと思うぞ?


「旦那様、私に敬称は不要です。それとお言葉ですが、お部屋の掃除は侍女としての通常業務の一環でございますので御気遣いなく」


「……そうですか」


うん。知ってた。あれだろ? 仕事をしないと落ち着かないんだろ? 基本的に侍女とか執事って、命懸けで主人に仕えることに喜びを見いだすように洗脳教育を施された社畜だもんな。


――内心で使用人を洗脳教育済みの社畜扱いする神城であるが、実際のところ貴族社会に於ける使用人の価値観は『命懸けで主人に仕えることができない人間は側近として使えない』というのが一般的な価値観なので、神城の意見も一概に間違っているわけではないというのが、なんとも悲しい話である。


そもそも『お部屋を掃除させていただいてもよろしいでしょうか?』って聞いてこなかった時点で、彼女が最初からこの部屋を掃除する気満々だったのはわかる。


さらに『元々この屋敷は侯爵の持ち物だから、綺麗に使え!』と言われたら逆らえないのもわかるぞ? 


わかるんだけど……なんだかなぁ。



~~



一応屋敷の主である神城の意見に対して、真っ向から論破してきたのは、神城からの要請を受けたローレンが即日『経験豊富な侍女』として派遣してきた侍女であり、その名をルイーザと言う。


年齢は今年で57歳。


見た感じは年相応の華奢と言っても良い感じの女性なのだが、背筋はピンっと伸ばしており、立ち居振る舞いにも一切の無駄がない。


また、きちんと纏められた白い髪と細めの眼鏡が非常にマッチしており、まさしく『出来る女』の見本のような女性であった。


それもそのはず。彼女の家は代々侯爵家に仕える家柄であり、彼女自身も侯爵が幼い頃から侯爵家に仕えていた侍女歴ウン十年の大ベテランなのだ。


そんな彼女は、王都に於ける侯爵家の侍女長の一人であり、侯爵家が預かってきた子女の教育を担当していた女性でもあるので、まさしく神城がローレンに求めた人材であると言えよう。


ただ、本来ならば侯爵家の侍女長が準男爵家に出仕するなど、左遷として考えてもあり得ないほどの事態である。


なので、なんの瑕疵もなく、永年侯爵家に忠勤を尽くしてきた彼女がこのような扱いを受けることに対して、ルイーザ本人よりも彼女と長年の付き合いがある侯爵の家族や女官たちが憤りを感じていたくらいであった。


しかしルイーザとしては、そろそろ後進に仕事を引き継がせる時期だと考えていたことや、準男爵が提示してきた給金に不満が無いこと。


さらには坊っちゃん(ローレン)から直接『彼は侯爵家だけではなく、王家にとっても重要な客人だ。だからこそお前に彼の監視と彼の周囲に居る者の教育を頼みたい』と言われていることなどからも、この待遇に対して特に不満はない。


むしろ、神城が異世界から召喚された【勇者】の一員であり、異世界の貴族であることを教えてもらったことで『そのような重要人物の対処を任されるほどに自分は信用されている』とさえ考えていた。


従って彼女はその仕事に手を抜く気は一切無かった。


そんなルイーザの熱意を感じたかどうかは知らないが、神城は『掃除の邪魔だから出ていけ』と言われた休日のお父さんよろしく、スゴスゴと自身の部屋である大部屋から立ち去り、スキルの実験室とした中部屋へと移動するのであった。



――これは、大部屋を掃除したあと、神城が移動した中部屋で彼が何をしているのか? と様子を窺ったルイーザが、部屋の内部の様子に思わず頬をヒクつかせ、仮の主である神城に対して本気の説教をしようとするおよそ一時間前の話である。



二章の一話目にして新キャラ、銀髪(白髪)のメイド長登場。


ルイーザさんの神城君に対する扱いがアレなのは、異世界の貴族との常識の差異を確認しているからです。


そもそもどこまでがセーフラインかわかりませんし、侯爵からも神城君の価値観の調査を命じられていますので、最初から攻めてみた感じですってお話。


と言うわけで、このナーロッパには土魔法使いはおりませぬ。岩を飛ばす? それは物理か風か火でしょ?


高い建造物に関しては、力自慢が石を抱えたりして運んでおります。


まぁ日本の城もクレーンとか使ってなかったらしいですし? 個の力が強ければいけるんじゃない? 


ナーロッパだし。



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