2話。プロローグのようなナニか②
「まずこれから貴方が行くのは中世ヨーロッパ風の世界よ!」
……なるほど、ラノベとかでよくある中世ヨーロッパ風な世界か。
この風ってのが重要なんだよな。
「えぇ!あくまで風よ! 向こうは貴方が知る中世ヨーロッパとは似ても似つかない世界。ぶっちゃけて言えばナーロッパね!」
ぶっちゃけすぎだ。だが言わんとすることはわからんでもない。
「話が早くて助かるわ。それでえっと、基本的には貴方が知ってるラノベとかの世界と思っていいわ。特徴としては剣と魔法の世界で、個人のレベルと職業のレベルに加えてスキルにもレベルってのがあって、身体能力なんかのステータスは数字には現れない系……とでも言えばわかる?」
なるほど。レベル制とスキル制か。でもってステータスは数字化しない、と。ま、普通に考えれば能力の数値化なんかできないってのもわかるし、向こうもわからないなら特に問題無いな。
「あとは、そうね。言葉に関してはアレよ。異世界言語的なのをインストールされるから、会話に困ることはないわね。それと風土病に関してはお互いに問題無いわ」
ほう。異世界言語とはまたなんともテンプレだな。しかしまぁご都合主義ではあるがわかりやすいから良しとしよう。
それにこっちが病気にかからないのは良いとして、向こうも問題ないんだな? 大航海時代に西洋人が世界中にコレラだのペストをはじめとした病原菌をばら撒いたせいで、色んな国が滅ぶことになったが、その心配はないと思って良いんだな?
「そうよ。とは言っても『一切病気に罹らない』ってわけじゃなくて、あくまで普通に暮らすうえではいきなり空気感染とかしないってだけの話だから、そのへんは自分で注意してね」
ほうほう。ま、風呂上がりに素っ裸で寝たら風邪ひくし、腐乱死体を放置してウイルス性のナニカが発生したら病気にもなるわな。んじゃ最初のこれは、俺たちが向こうに行くときに向こうの風土に合わせて最適化される感じか?
「そうそう、そんな感じ。いやー説明が簡単で助かるわぁ」
……本来なら説明とか受けないんだろうから、こうして説明をしてもらってるだけでも十分ありがたいんだが、こいつの態度がそのありがたみをなくしてるんだよなぁ。まぁいいや。
次は魔法に関して教えてくれ。
「魔法かぁ。一言で言うのは難しいのよねぇ。とりあえず魔法には色んな属性が有るの」
属性とな。それはどんな感じの?
「回復とか攻撃とか色々あるんだけど……」
だけど?
「う~んここで教えても良いけど、なんか向こうに行ったら最初に適合試験みたいなのをやるみたいだから、それを受けてから向こうで説明を受けたほうが良くない?」
あぁ。確かに最初から色々知ってたら不自然だもんな。
「そういうこと。お金とかに関しても同じことが言えるわね」
……確かに。初めて行った場所のお金に関する情報を持ってる奴なんか、不審どころじゃないか。って言うか、もしかして俺たちって召喚される系なのか?
適合試験とか、お金に関しては向こうで聞けって言うからには、説明役がいるんだよな? そうなるとなんらかの事故で転移するんじゃなくて、召喚されて向こうに行く感じだと思うんだが、そこんとこどうなんだ?
「そうよ。向こうのなんとかっていう国が召喚する感じみたい」
おぉう。これは……どっちだ?
「ん? どっちって?」
いや、国単位での召喚だろ? これは勇者を召喚して魔王とか倒させる系なのか、それとも異世界の人間の知識とかを求めてる系なのかってことだ。
「あぁ、そういうこと? 向こうの事情がわからないからなんとも言えないけど、普通なら魔王とかでしょうね。一言で言うなら『戦力募集!』って感じかしら? けどまぁ細かいことは向こうで説明するだろうから、向こうで聞いたほうが良いわよ」
ふむ。それも尤もな話だな。ちなみに集団転移した他の連中にもチート能力があったりするのか?
「えぇ。さっき言った言語や基礎能力の向上に加えて、ランダムな感じで職業が割り振られるわ。もちろんどんな職業であれスキルのレベルや基礎能力の成長度は現地の人間よりも高くなるから、基本的には食いっぱぐれることはないわよ」
なるほど。それなら生産系とかになっても大丈夫ってことか。
「そうなるわ。で、私からの謝罪はここがメインね」
む? メインとな?
「そうよ! 他の連中はランダムで職業が割り振られるけど、今回に限り! 貴方にだけ! 自分で職業を選べる特典を授けるのよ! さらに肉体的にもちょっと若返るし、成長率も高めに設定できるのよ!」
すげー怪しいキャッチフレーズなうえに微妙な特典……いや、高い基礎能力がさらに高まるんだから十分チートか。
「そうでしょうそうでしょう! 凄いでしょう!」
うん。勢いで流そうとしてるけど、このくらいにしないと他の神様に自分が介入したことがバレて、そのまま芋づる式に俺に介入した理由もバレるから、この程度で抑えたんだろ?
「……ハイ。ソノトオリデゴザイマス」
俺としても必要以上に目立つ気は無いからそれで良いけどさ、手抜きもほどほどにしてくださいよ? ホント頼んますよ?
「あ、あはははは」
こいつ。笑ってごまかそうとしてやがる。
だがまぁ、この女神にしてみたら俺が転生すればそれで終わる話だもんな。転生直後に下手なこと言って他の神に目をつけられないようにするために、必要最低限の恩は着せるけど、それ以上は手を貸さんってのが丸わかりだぞ。
「……おぉう。バレテーラ」
そりゃ無償の善意なんか信じねぇのが普通だし。今までの態度を考えれば……なぁ?
「全部知ったうえでこの態度って……擦れてると言うかなんと言うか」
別に困らんだろ? 俺もチート貰えて得するし、女神サマも色々誤魔化せて得することになるんだから。
「それもそうなんだけどねぇ」
なんかイマイチ納得してないみたいだけど、そういう感じでマウントを取りたいなら社会経験が無いような若い子にやってくれ。
「もうこんなことする気は無いわよ!」
あぁ元々はミスの補填だもんな。
「そうよ!っていうか、それに関してはもう良いからさっさと貴方の職業を選びましょ!」
お、隠さなくなった。
「ハイハイ! 蒸し返さなくて良いから、さっさと決めるっ! 時間は有限なのよ!」
ほほう。有限なのか。つまりここで時間を稼げばもっと良い条件が?
「焦らすの良くない!」
……そうか? いや、確かに俺としてもここで焦らして時間を潰すことで向こうの召喚とタイムラグが発生したり、第三者に横槍入れられて『公平にしろ!』とか言われても困るか。仕方ない。ではさっさと職業を決めるとしようじゃないか。
「そう、それで良いの!……ゴホン。ではこのリストの中から選んでちょうだい」
そう言って俺の目の前にタブレットみたいなのを浮かべてきたので、それをみれば、そこには【勇者】だの【賢者】だの【剣聖】だのといったレアっぽい職業がズラッと並んでいた。
しかし俺は職業を自由に選択できるという話を聞いていた時、心に決めていた職業があるのだ。それは【薬剤師】だ!
「え?【ヤクザ医師】? そんな怪しい職業あったの?!」
なんだその明らかにダメな職業は! そんなんただの無免許の医者だろうが! 俺がなりたいのは【薬剤師】だ【薬剤師】!
「いや、そんな連呼されてもねぇ」
……確かにめっちゃ連呼してるけど、それも仕方がないだろう? 実は、何を隠そう俺の仕事は医薬品のルート営業であり、今日も学校に医薬品の納品をしてた時にこの転生事故に巻き込まれてしまったのだ。
「へぇ~」
そして薬関係者だからこそ【薬剤師】に対する憧れは強い。いや、薬に関係なく【薬剤師】は地方の社会人なら誰しもが憧れる職業と言っても過言ではない!(異論は認める)
「えぇぇ。なんか急に語りだしたんだけど……」
わかってないな~。なにせ【薬剤師】という職業は、月収15万とかが普通の田舎であっても初年度ですら年収500万以上と謳われている、まさに別格の職業なんだぞ? 間違いなく勝ち組なんだぞ?
「ふ、ふ~ん」
あぁいや、別にこの高待遇に文句をつけているわけではない。羨ましくはあるがな。
しかしなにせ彼らは人の命に関わる薬の調合やら何やらを行うため、6年にも及ぶ修業過程を経て専用の知識を身に付け、常に神経を使って仕事をしているんだ。それを考えれば、簡単に替えが利くルート営業の一員でしかない俺とは収入の桁が違うことは当然だと思っている。
だがしかしっ! 給料日やボーナスの時期に彼らを羨ましいと思うくらいはいいじゃないか!
「あぁ、うん。そうよね。うん。わかるわぁ」
そうだろう。そうだろう。だから【薬剤師】ってのは俺にとって夢の職業なんだ。だからこそ俺はこの機会に【薬剤師】になりたいんだ!
「あぁ、ふ~ん、そうなのね。それで、えっと、この【薬剤師】って【薬師】とは……あ、微妙に違うのか。そしてスキルは調剤とか製剤があって、さらに品種改良と成分調整とか……え?これって【薬師】と何が違うの?」
そんな細かい分類は知らん!
「あぁもういいわ! 一応聞くけど、向こうには回復魔法とかあるけど、本当に【薬剤師】で良いのよね?」
無論!むしろ俺はこれが良いんだっ!
「いや、なんでそんな熱血教師風なのよ?!」
なんでだと? 夢が叶うなら熱くなるのが男でしょうが!
「知らないわよ! けど時間も無いし、本人も納得してるからさっさとやっちゃおう…………一応言っとくけど、もしも向こうについた途端にいきなり私の情報を暴露とかしたら、貴方が死んだ後タダじゃ置かないからね!」
死んだ後のことを脅されてもなぁ。とりあえず了解だ。
「その『とりあえず』ってのがなんか怖いんですけど?!」
あぁわかったわかった。お前さんの情報は一言も言わないと約束するから、さっさとやってくれ。
「……なんか釈然としない。あ、そうそう。貴方が選んだ職業が【勇者】とかに比べて微妙な職業だったから、ポイントが余ったのよね。だからこの分は肉体をちょっと若返らせたり基礎能力とか成長度のほうに足しておくから、せいぜい好きに暮らしなさいな」
微妙とか言うな!薬剤師さんに謝れ!
「ハイハイごめんなさいねぇ」
誠意が感じられんぞ! 誠意が!
「なんで自分が死んだ時より熱くなってんのよ……もうそれは良いから」
良くないっ! 薬剤師さんってのはなぁ!
「あ~もぅ! いいから行けっ!」
女神がそう言うと、周囲が光に包まれていくではないか。まだ薬剤師への啓蒙活動が終わっていないというのに……とりあえずヤツへの説教は死んだあとでしっかり食らわせてやろう。
そう心に決めた俺は、気持ちを切り替えて異世界とやらに心を馳せることにした。
なぁに。俺は他の連中と違って一度死んだ身だ。これ以上怖いものなんか無い。
だから今の俺はこんなことだって言えるんだ!
『神城大輔! いっきまーす!』
「色々怖いから止めてっ?!」
これは集団転移に巻き込まれたサラリーマン、神城大輔(36歳)が異世界に転移(転生?)して、神様から貰ったチートを活用して好き勝手に生きる。ただそれだけのお話である。
本当は十万文字を書くまで我慢したかったのですが、作者の性格上燃料がないと執筆が捗らないんですよねぇ。
と言うわけで投稿いたします。
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