24話。薬剤師のお仕事
レビューじゃ! レビューが来たぞぉ!
職業レベルの上げ方もわかったところで、そろそろ俺のスキルを試していきたいと思う。
まず俺のスキルは【薬術?】というものに纏められており、その中身は『診断』『成分摘出』『成分分析』『成分調整』『製剤』『投薬』『薬品鑑定』『毒無効』といったものだ。
この中身に関しては鑑定員も「薬術か」としか言わなかったので、俺にしか見えなかったようだと予想している。
なにせ、他はともかく『毒無効』は使いようによっては完全なチートだからな。
もしも確認されていたら『これを持った人間を逃がすなんてとんでもない!』ってなるのが普通だ。いや【勇者】なら普通に持ってそうだけど、あれは逃がす気がないだろうから対象外ってことで。
そんな『毒無効』のヤバさはともかくとして、他のスキルの検証を行う必要がある。
まず『診断』これは診断対象の健康状態を調べるスキルだ。声を聴いたり目を診たり、姿勢を診たり肌の色を診たりすることで相手の状態を判別できる。
自分に掛けた際にステータスとかが出てきたのは、文字通り自分の状態だからだろう。他人では分解でもしない限りはあそこまで詳細な情報は出てこないはずだ。
……実際色々知っているはずのエレンの場合は『疲労(小)』とかしか出なかったし。
だがこれはこれで使いようがある。と言うか、病状が分からなければ処方する薬も違うから、これが無ければ話が前に進まないと言っても良いだろう。
次の成分については、残念ながら俺は薬学大学を出たわけではないので、細かい成分を語られてもわからん。俺が持つ知識なんてヒアルロン酸だとかDHAだとか各種ビタミンやカルシウムくらいでしかないんだ。
自動で知識がインストールされているわけでもないから、この辺は自分で知識を身につけなきゃ駄目ってことだな。
『製剤』や『投薬』に関しても、薬を作ってからじゃないと意味がない。だからまずは『薬品鑑定』を行うことで、この世界の薬に対する知識を深めようと思う。
「エレン、御者さんから預かった箱の中から、回復薬を出して持ってきてくれ」
「は、はい」
御者さんが俺に渡してきた箱の中には何種類かの薬があったが、俺にはその中の何が回復薬なのかすらわからなかったので、エレンに「取り出してくれ」と頼めば、エレンは試験管っぽいのに入った緑の液体を差し出してきた。
「ふむ。これが回復薬なのか?」
「はい。回復用のポーションですね」
予想通りと言うかなんというか、試験管にはラベルが貼ってあり、それになにか書いてあるのはわかるのだが、俺にはその字が読めなかった。
ふっ。ナーロッパとは言え、中世ヨーロッパ風な世界である以上、日本語が標準語ではない、か。
「あの、ご主人様?」
「あぁすまん。ただ『文字の勉強も必要だ』と思ってな。今後はそっちも教えてもらえると助かる」
「はい! お任せください!」
うむうむ。こうしてただの侍女としての仕事以外の仕事も与えることで、エレンを特別扱いする理由にもなるからな。 何かないか? と思っていたところだし。丁度いい。
俺は文字の勉強をすることを心に決めつつ、エレンから渡された回復薬に『薬品鑑定』を使う。すると試験管の前にボードのようなものが浮き上がってきた。
そこにはこのように書かれていた。
名前:回復薬・並
効果:止血(小)・麻酔(小)・消毒(小)・代謝向上(小)・造血(小)・浸透(小)・品質保持(小)
「……なるほど」
通常の回復薬にここまでの効果があるのか。
いや、剣と魔法の世界、さらに回復魔法がある世界で一定の需要を誇るのだから、ある意味ではこれが当然と言えば当然なのだが、正直言って驚いた。
だが驚いてばかりもいられないので、わかったことを考察を加えながらメモを取っていく。
まず並というのは品質だろう。侯爵家の薬が並で良いのか? とも思わなくもないが、品質保持の効果を考えれば、恐らく時間で劣化したのだと当たりを付ける。
深読みすれば、劣化したからこそ俺に提供してきたのだろうが、俺としても変に遠慮をする必要がないのはありがたいので、そこのところは気にしないことにする。
次いで効果。確かに傷を回復させるためには代謝を上げたり失った分の血を補充する必要があるし、患部に直接ぶっかけるなら止血や消毒、痛み止めの意味を持つ麻酔効果も必要不可欠ってことか。
うーむ。深い。
単なる回復薬だと思っていたら予想以上の技術が詰まっていたので驚いたが、問題はこれからだ。
おそらくだが、俺のスキルにある『成分摘出』を使えば、この回復薬に使われている成分を抽出することができるだろう。さらに、それに分析をかけることでより詳しい情報が得られるはずだ。
例えば材料に『薬草』とあった場合。ではその薬草のどの部分が、どの成分が薬効になっているのか? というのがわかれば、より純度の高い効果を持つ薬を造ることができる可能性が生まれるからな。
そうは言っても、それはあくまで可能性の話。現在【薬剤師】のレベルが1でしかない俺にどこまでできるかは完全に未知数だ。
しかし、目の前に物があり、観測できるということは、干渉もできるということである。
知識が足りないなら知識を得ればいい。能力が足りないなら魔物を殺してレベルを上げればいい。またスキルを使うことで職業レベルが上がるというなら『診断』や『薬品鑑定』または『成分分析』を繰り返せばいずれは上がるだろう。
せっかく夢にまで見た異世界で、夢にまで見た【薬剤師】となったのだ、不労所得だけで暮らすのは勿体無いじゃないか!
……いや、最悪それでも良いけど、やっぱり俺も日本人だからだろうか? この世界に来てまだ三日目だが、やはり働かないと落ち着かないのだ。
ここ二日はエレンとの夜戦で疲れてるはずなのに、朝はこれまでの起床時間である朝の6時に目を覚ますし、今日だって
『今日は金曜だから、神宮前だな。向こうのビルの中は先週行ったから、今週はあっち。あ、そう言えばあのビルには新規で会社が入ってきたよな。他に取られる前に行くか。だから時間割としては先に向こうから……』
なんて感じで、夢の中でご新規さんへの挨拶を兼ねた営業回りの段取りを組んでたくらいだからな!
もう俺の性格上、おそらくこのまま働かないでいると、これ系の夢をずっと見続けることになると思うんだ。
それに、夢の中とかで知り合いに『お前、今なにしてんの?』とか言われたとき『……貴族』とか答えるのは無理だろう。想像だけでもキツすぎる。
だからせめて『今の俺は【薬剤師】だ!』と胸を張って言えるくらい、自分に自信を持ちたい。元は神様から貰ったチートだが、これをしっかりと使いこなして『これは自分のモノだ!』と誇りたい。
「異世界まで来て何を言ってるんだ?」と笑うがいい。
「思考が小市民だ」と笑うがいい。
それでも俺は、自分が成りたいモノに成るために手を伸ばす!
……これが成功するかどうかで俺の異世界人生の全てが決まる。
燃えろ! 俺の小宇宙よっ! そして喰らえ異世界。これが俺の魂を込めた一撃だっ!
「成・分・摘・出っ!!」
万感の思いを込めて手を伸ばし、エレンが持つ試験管の中の回復薬に向けてスキルを使うと、回復薬が淡く光を放った!
「やったか?!」
スキルを使ったせいだろうか? 微妙に倦怠感に襲われながらも目の前の回復薬を凝視していると、試験管の中から粉っぽいものや、ジェルっぽいものが出てきた!
それを見て『成功だ!』と思ったのも束の間、試験管から出てきた粉やジェルは重力に従い、パラパラ。ペチャリ。と、音を立てて絨毯の上に落下した。
「「…………」」
うん。そうだよね。容器を用意しないとこうなるよね。
冷静になった頭で己の行いにツッコミを入れていると、エレンが透明な水が入った試験管を持ちながら、空いた手で絨毯を指差す。
「……ご主人様?」
「……すまん」
この絨毯、凄い高級品ですよ? と、半ば血走った目で告げられた俺は、謝罪以外の言葉を口にすることができなかった。
~~
この日、未知のスキルである『成分摘出』の実験に成功したことで、神城の計画は一歩進むこととなる。さらに彼が憧れた【薬剤師】としての一歩を踏み出すことができたのも紛れもない事実である。
しかし、その一歩は決して楽なものではなかったという。
ようやく薬剤師っぽいことが出来そうな予感ってお話。
掃除は侍女の仕事ですが、今回は下手しなくても自分よりも高いであろう絨毯を不用意に汚された為、つい怒りが表に出てきたもよう。
準男爵家程度で有れば、使用人は家族みたいなもんですので、家の外では当主を立てますが、家の中ではもう少し砕けた態度を取るようです。
むろん当主にそれを許す度量があってのことですが。
まぁ彼女も男爵令嬢ですし、多少はね?
――――
ん? 燃料投下の仕方を知らないって? HAHAHA、しょうがないなぁボブ太君は。
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