23話。王国の基本情報や職業について
……ふう。
侯爵家が用意した寝具の使い心地を一通り確認した後で、色々とエレンに確認を取ったところ、以下のことが判明した。
まずこの王国の人口はおおよそ五千万人。広さはよくわからないが、付近には王国と同じ程度の規模の国が、少なくとも三つはあるらしい。位置情報などは随分曖昧だったが、国全体の地図や世界地図は軍事機密扱いなのでエレンは見たことはないそうだ。
これは当然といえば当然の話だ。
地球でも時代によっては隠すのが普通だったし、公表したとしても他の国と比べて自国を小さく見せるのを嫌った国家は、世界の中心に自分の国を置き、さらに国土を大きく見せたりするのが普通だったからな。
この王国の測量技術や国家の方針は知らんが、中世風な世界である以上、地図はそれぞれの方角を理解する程度に留めるべきだろう。
地図や細かい地理に関しては後で確認するとして、今は直近で関わりのあるところを聞くことにする。
王都周辺は当然王家の直轄領で、王都の周辺地域の人口はおよそ400万人。これは広さと人口密度にもよるが、人口5000万人の国家の首都圏の人口と考えれば妥当で。中世の世界と考えれば破格の人口を誇る。
ちなみに三國志で有名な古代中国の後漢時代、漢の人口はおよそ5000万人で、首都である洛陽があった司隷の人口がおよそ300万と言えば、その規模がわかるだろうか?
まぁ、あっちは医療改革も食料改革もなかった時代なので、国土の広さに比べて人口密度はかなり低かったから比較対象としてはどうかと思うが、逆に言えば医療や食料の宛があるのなら、この数字は決して異常な数字ではないということだ。
つまり、王国がこれだけの人口を抱えていながら食料事情に問題がないのは、ひとえに魔法と異世界から召喚されてきた先人たちによる農地改革や医療改革の賜物なのだろう。
さらに言うと王家は各地に直轄領を持っているらしいので、王家が抱える人口の正確な数字はエレンにもわからないのだとか。
……そもそも5000万も王国の公式発表であって、前後する可能性もあるしな。
そんな王家の中にあって、俺が世話になることになったローレン侯爵家は流石王国の中でも指折りの貴族と言うべきか。彼が治める領内には総勢で300万人ほどが住んでいるらしい。
この数に関しては、人頭税を元に税を徴収しているので信憑性が高いんだとか。ただ寄子の貴族が治める分は入っていないので、この数だけで侯爵家を測るのは早計である。
さらに国家の土地開発も完全というわけでもなく、強力な魔物の縄張りやその付近は開発ができていないし、魔王軍による脅威に対抗するための緩衝地帯として設けられている土地などがあるので、王国としては戦線を押し返せばそれだけ開発できる土地が増えると考えているようだ。
そのため、国王が【勇者】一行にかける期待はかなり大きいらしい。
これ以上軍事に関してはよくわからないそうなので、これ以上詳細が知りたいならば、後で侯爵に確認をすれば、教えても良いことは教えてもらえるだろう。
完全に余談になるが、侯爵が自領で常備薬システムを広めた場合、300万×20=6000万シェンの増税が望める。これを日本の物価に当てはめて考えれば、月に3億円相当。これが年間だと7億2000万シェン。つまり36億円だ。
これに加えて、ギルドからの売上金の一部や賄賂が入るんだから、単純に考えても年間50億円相当の増収が見込める。そりゃ侯爵も俺に年間1000万シェン払えるわな。
しかし今の段階では獲らぬ狸のなんとやら。色々な手続きや初期投資、システムを支える人間への人件費や各種維持費を考えれば、俺への給金も妥当なところと言えるだろう。
もしも早期に上手く回るようになったら今以上に給料を貰えるかもしれないが、あまり相手に依存をすれば面倒なことになるのはわかりきっているので、俺は俺で金策をする予定である。
その金策のアテが、侯爵にも言った貴族向けの薬の販売だ。向こうはそれほど期待はしていなかったようだが、それがこの国に於ける【薬師】の立場なのだろう。
だからこそニッチなところを独占できると言うものよな。
とは言っても、完全に自立できるようになってしまえば、向こうが警戒心を抱くだろうから、あくまで多少の余裕を作る程度に抑える必要がある。
そのさじ加減は情報を集めてから決める予定だ。
次はレベルだな。基本的にレベルには個人レベルと職業レベルがあり、個人レベルは主に戦闘で一定数の魔物を倒すとレベルが上がるそうな。
ただ一般的には生まれた時にレベル1で、5歳で1レベル上がりレベル2に、10歳でさらに1レベル上がりレベル3に。15歳でさらに1レベル上がってレベル4になるらしい。
なんと言うか、微妙といえば微妙な設定であるが、5歳と15歳では基礎能力からなにから違うのが普通なので、特に問題なく受け入れられているのが実情だ。
次いで職業に関して。
職業は先天的に持っている場合と持っていない場合があり、持っている場合はそれが天職ということなのでそのまま。持っていない場合は神殿で得る。と言うのもこの国では国民は5歳になってレベルアップした際に神殿に行って鑑定を行うことが義務付けられているらしく、その際に職業を得られるらしい。
変則的な七五三みたいなもんだな。
だが、当然と言うかなんというか、先天的に職業を得ている人間はかなり稀らしく、ほとんどの人間はこの鑑定の際に選択肢として出てきた職業の中から選んで職業クラスを得るんだとか。この時は無料で職業をつけることができるそうだ。
そうして得る職業は基本的には親の職業に関係しており、騎士の子なら【戦士】のような戦闘職を取るし。鍛冶職人の子は【鍛冶師】関係の職を。商人の子供は【商人】関係の職業といった感じの職を得るのだそうだ。
しかし、人によっては親と同じ系統の職業を得られない場合もあるが、その場合は適性がないのだということで、諦めて他の職を選ぶらしい。
ちなみにエレンのような貴族の娘さんは【メイド】を取るのが一般的だそうだ。そのためエレンも【メイド】を取っており、そのレベルは9。
……高いのか低いのかよくわからんな。
その判断は後にするとして、つまるところ現在のエレンのレベルは
個人レベル4
職業レベル9 となる。
さらに職業レベルはある一定以上のレベルになると次の職が選択できるようになるらしい。
ゲームなどで言う二次職だな。
これは有料なので、二次職になるかどうかはそれぞれの懐事情に依るんだとか。
あと、転職した場合はレベルが1になるので一時的に弱体化をするらしい。
だから、それを嫌う者は二次職にはならないようだ。
う~む。まさかのクラスチェンジシステム搭載型とは恐れ入る。
エレンから話を聞いて俺が思ったのは、恐らくこの転職は特定のレベルがどうこうではなく、前職と転職時のステータスによって選べる職種が変わってくるのではないか? ということだった。
わからない? つまり最初はウィザード○ィシステムで選べる職種が決定し、その後はラン○リッサーのようにジョブツリー二次職、三次職が決まるのではないか? ということだ。
あくまで推論だがな。
そして、この転職には落とし穴がある。それは職業レベルが累計され、その累積レベルに上限があることだ。今のところ職業レベルの上限は100で、個人レベルの上限は定かではないが、恐らく100ではないかと言われている。
つまり『転職したらレベルが初期化されるなら、転職しまくればいいじゃないか!』と言って転職しまくると、最終的に【戦士10】【剣士10】【闘士10】【弓使い10】【スカウト10】【会計士10】【火魔法師10】【水魔法師10】【風魔法師10】【回復魔法師10】といった感じの器用貧乏が出来上がってしまうのだ。
当然のことながら能力の成長度合いは一次職よりも二次職のほうが高いので、最初から二次職や三次職をレベル100まで上げた人間と比べて、上記の人間はあまりにも使い勝手が悪くなってしまう。
生産職も似たような感じであり、同じ素材を使っても【薬師10】の人間が作った薬よりも【薬師20】の人間が作った薬のほうが効果が高くなるし、高レベルでなければ作れないものもあるので、色んな職を求めるよりは、一極集中型が望ましいとされている。
ただし二次職や三次職には複数の職を一定レベルにしなければならない職もあるそうなので、一次職を極めるのか二次職を得るのかは、本当に人それぞれ。
それを踏まえると【勇者】は4次職か5次職に相当するらしいので、成長すれば相当な戦力になると予想されているそうな。
大体こんなところだ。
「よくわかったありがとう。しかし……」
「なんでしょう?」
「聞いておきながらなんだが、少し詳しすぎないか? いや、教えてもらって助かるから良いんだが」
「……以前は戦闘職になってお金を稼げないか? とか、専門職に就いてお金を稼げないか? と考えておりまして」
「あぁ」
うん。そうだよな。さっき言ってた『侍女として他の家に行った場合、虐められたりするかもしれない』ってのは妹だけの話じゃないもんな。
そう言ってベッドに横たわりながら遠い目をするエレンを優しく撫でながら、俺は「妹が来たら優しくしてやろう」と思うのだった。
サブタイ通りですね。
なぜ人口の例に後漢を使ったかって? 言わせんな恥ずかしい。
基本ステータスはマスクデータですので可視化はできませんし、数値化もされません。
個人レベルが上がった場合、個人の資質+職業でステータスの上昇値が変動します。
職業レベルは上がった場合にその職業に見合った基礎能力が上昇し、スキルに応じた補正が掛かります。
細かく言えばもっと細かいのですが、エレンさんは公表されている基礎的な情報を知っているだけで、国や専門の人たちが秘匿している情報は知りませんってお話
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