22話 屋敷の間取りなどのお話 ※平面図有り
な、なんとか二話目の投稿が出来ました。
文章修正の可能性有り。
馬車から降りると豪邸があった。
侯爵から屋敷を用意するという話を聞いたとき、最初は『いや、屋敷とかいらんから』と言いたかったのだが、侯爵が『自分には王家から預かった他国の貴族を歓待しなくてはいけない立場がある』と言うので、あまり目立たないような屋敷をお願いしたのだが……流石は侯爵家と言ったところだろうか。
一番小さい屋敷なはずの邸宅は白一色の壁と、庭とのコントラストを計算に入れて造られていることは素人目にも分かるものだった。客人用ということもあり、当然の如く庭もきっちりと整備されているし、これを維持するためには専属の庭師が必要なのだろうが、勝手に決めるのもアレなので後から侯爵と打ち合わせる必要があるだろう。
「ではお客様。こちらがご当主様より預かりました書状と、当家で保管してある薬品類となります。それぞれに名を振ってありますが、これらの説明はご入り用ですか?」
本来ならば『常識を教える必要がありますか?』などと客人に問うのは無礼極まりない行為だが、彼は俺の事情を知っているのだろう。
彼の目には侮蔑や軽視の色はなく、主君に言われたことを粛々と遂行しようとしているだけだというのがわかる。よってその言葉を向こうからの気遣いと判断した俺は、敢えて腰を低くして返事をすることにした。
「いえ。うちの侍女に確認させてもらいます。彼女が確認しても不明な点が出てきた際にはご連絡申し上げてもよろしいでしょうか?」
「勿論でございます。屋敷には備え付けの通信機がありますので、遠慮なくご連絡ください」
「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」
「……それでは私はこれにて失礼させていただきます」
「えぇ、お疲れ様です」
俺が軽く頭を下げると向こうは一瞬固まったものの、次の瞬間には何事もなかったかのように姿勢を正し、そのまま立ち去っていった。
うむ。プロだ。
それと、俺の気のせいでなければできるだけ早く離れたがっていたようにも思える。あれは恐らく俺の為人を侯爵家の人間に伝えるためだろう。
もしくは女を連れた貴族が宿舎に入ったらナニをするかということを理解していて、その邪魔をしないため。という可能性も無いわけではないと思う。
まあ両方だな。
一昨日は夜通しで昨日は朝から通しだったから、彼の気遣いは事実に基づく行動であり、誤解でもなんでもないので俺から何かを言うことはできん。
そんなこんなで新居に二人っきりとなった以上、やるべきことは一つ。
そう、建物の確認だ。
「外から見ただけでもわかりますが、中は随分広いですね。流石は侯爵閣下がご主人様のために用意してくださった邸宅です!」
侯爵家の男性が居なくなった途端にエレンが興奮気味に言ってくるが、俺のために建てたわけではないからな? ただ色々と確認は必要だろう。
「エレンの実家よりも広いのか?」
「もちろんです! ご主人様がどのようにお考えなのかは存じませんが、まず普通の法衣貴族の家にはこれほどの庭園はありませんし、建物ももっとこじんまりとした感じなのですよ」
「ほう」
交際費や維持費に金を掛けるのだから、最低でも客人を呼んでホームパーティをするくらいの規模の庭はあるものだと思っていたが、どうやらそういうわけではないらしいな。
エレンが言うには、元々それほど裕福ではないのもあるが、あまり立派な建物にしてしまうとその分調度品を揃えなくてはならなくなるし、さらに維持のためには使用人を増やす必要も出てくるので必要以上に大きな邸宅にはしないのが普通だそうだ。
これに加え、邸宅を立派にすると上位の貴族に目を付けられてしまうし、庭なんか作った日には維持費が嵩むうえに、僻んだ貴族がホームパーティを開催するよう働きかけてきたりするんだとか。
それって良いことじゃないのか? と思ったが、客を迎えるためにはそれなりの準備をしないといけないし、下手なパーティーを開催すると悪評が広まる可能性もあるので、男爵程度の家の場合はこじんまりとした家に住むのが普通らしい。
世知辛い世の中だ。
そんな夢のない王家の法衣男爵についてはともかくとして。一般的な法衣男爵家の間取りは、二階建てで部屋が当主の寝室兼書斎。妻の部屋。子供の部屋×2。食堂。あとはトイレと風呂といった感じなのだとか。
トイレと風呂がしっかりある時点で色々と思うところはあるのだが、これに関しては中世風な世界だし、これまで召喚されてきた人たちの努力の結晶だと思うことにした。
うん。衛生観念は大事だからな。
翻って俺に貸与された屋敷だ。まず一階の真ん中が吹き抜けのエントランス。左手に食堂や厨房があり。右手に大きめの応接間っぽいのが一つ。さらに倉庫にトイレや風呂が付いている。
二階は左手に40畳ほどの部屋が1部屋と30畳ほどの部屋が1部屋有り、右手には20畳ほどの部屋が3部屋ある。あとは倉庫とトイレとシャワールームだ。左手にある一番大きな部屋に風呂が付いているのは、多分そういうことだろう。あとは家具も最低限のベッドやタンスがあるので、アメニティグッズ以外には特に新しく何かを買う必要はなさそうだ。
まさしく至れり尽くせりよな。
だが日本人的価値観から言えば1部屋1部屋の部屋がかなり広いように思える。
それは俺だけではなくエレンから見てもそうだったらしく『右の部屋でさえ一つ一つの部屋が実家の当主の部屋と同じくらいある』とか。
これが侯爵クオリティなのだろう。と諦めるのは簡単だが、問題は掃除などを行うエレンが大変そうだということだ。
給金を支払う以上はちゃんと働いてもらうし、侯爵家からも人を借りる予定だが、働きすぎて体を壊されても困る。とりあえずは使ってない部屋と使っている部屋を分けて、使っている部屋だけを毎日重点的にやる形にしようと思う。
あ、あとは厨房と食堂の管理が必要か。
「なぁ、誰かエレンと一緒に働いてくれるような知り合いは居るか?」
……どう考えても人手が足りなそうだし、侯爵家から借りる人間を最低限に抑えたいと思っている俺は、エレンに誰か知り合いで使えそうなのがいないかを聞く。
「で、でしたら!」
すると、エレンは食い気味に答えてきた。
「でしたら、私の妹はどうでしょう?!」
「妹?」
「はい!今15歳で、侍女として経験を積むために他家に修業に出す予定なんです!」
「ほう」
なるほど。そうやって花嫁修業を行うことで貴族同士で繋がりを持つわけか。で、うまくいけば修業先の人間と結婚できるかもしれんし、そこまでいかなくても少なくとも伝手はできるもんな。
中々うまく考えられてるなぁと思ったが、ここで一つ疑問がある。
「ウチで良いのか?」
できたばかりの新興の家で、姉が居る職場というのは修業場所としてどうなんだ?
「ご主人様なら問題ありません! それに……」
「それに?」
「……うちは元兄嫁の件で色んな貴族から避けられてますし、変なところに行ったら虐められちゃいますから」
「おぉう」
ハハハと力なく笑うエレンに、なんて言葉をかけて良いのかわからん。
こういう時どんな顔をしたら良いんだ? 笑う? 怒られるわ。
いやしかし、エレンが王城に勤めることになったきっかけは昨日ざっと聞いたが、そうか。元兄嫁の実家は子爵家だし、男爵だと逆らえないよな。かと言って伯爵家などの上級貴族との伝手は無いわけで。
当主である兄としては最悪は愛妾扱い前提でも……と考えているらしいが、そう考えているのは彼だけではないので中々難しい。
そんでもって『受け入れる』と表明しているところは、エレンが言う『変なところ』の可能性が高く、そんなところに送ったら妹がどんな目に遭わされるか分からんうえに、難癖までつけられる可能性もあるというので、妹の修業先については随分と悩んでいるんだとか。
そんなところに突然現役の軍務大臣である侯爵家と繋がりがある新興の準男爵(男爵に陞爵することが内定している)が現れたら、そりゃ狙い目だよなぁ。
しかしよくよく考えれば、エレンの妹はエレン以上に他の貴族の影響を受けていないし、恩を着せれば裏切る可能性も少ないよな。
さらに今のところ彼女らにさせる仕事は掃除や炊事、洗濯といった家事全般だけ。いずれはお客様対応もする必要があるだろうが、それは侯爵から紹介された人間にさせたほうが、痛くも無い腹を探られる心配もない、か。
「……とりあえず見習いで雇うか。給金は20万シェンだが、それでもいいか?」
王城の場合は衣食住の保証付きで10万シェンらしいが、向こうは『王城で勤務してた』ってブランドがつくからな。それに対してうちは王城と違って勤め上げた後に格が付くわけじゃないし、その分は給金という形で支払おうじゃないか。
「え? お給金までもらえるんですか?!」
「そりゃ払うさ」
俺をなんだと思っているんだ? それにただ働きなんかさせたら買収されるだろうが。
「あ、ありがとうございます!」
「お、おう」
自分だけでなく妹も救ってもらえることになったことで感極まったのか、エレンはその目に涙を溜めながらガバッと神城に抱きついた。 彼女はすでにOKサインを出しているのだが、エレンを優しく抱き止めた神城は、彼女をあやしながら、内心で(今日はダメだ今日はダメだ今日はダメだ今日はダメだ今日はダメだ今はダメだ)と、必死に己の中で暴れまわるナニカと戦っていたという。
―――
一階の間取りです
二階の間取りになります
間取りの解説だけで一話を使う男がいるらしい。
さらに間取り図はエクセルでパパパッとやってますので、正直かなり適当です。なんとなくこんな感じ。と思ってもらえれば幸いです。
40畳の部屋がある屋敷が中世風な貴族の家にとって大きいのか小さいのかがわかりません!ってお話。
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いやはや、こうして無事投稿できたのは、ひとえに読者様からいただいた燃料のお陰ですね!(チラチラ)
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