1話。プロローグのようなナニカ①
性懲りもなく新作投稿。
頭を空っぽにして読む感じでお願いします。
題名は『私は(ドジで)強い(つもり)』的な感じです。
「この度は、大変なご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでしたっ!」
「……」
なんか倉庫で納品の処理をしてる最中に変な光に包まれたと思ったら、目の前でスーツ姿の女性が土下座している件について。
とりあえず俺が何かしたわけじゃないみたいだから一安心。ここで焦って許しを与えると相手のためにもならないので、まずは落ち着いてマウントを取るとしよう。
「ちょっと、なんか場慣れしすぎじゃない?!」
そんなことを考えてたら、目の前の女性が土下座したまま抗議してきた。
ふむ。これはアレだな。俺の思考を読んだか。つまりあれか、ここは死後の世界か何かで目の前で土下座してるのは神様かそれに準じたナニカ。
それがいきなり土下座してるってことは……何かしらのミスで俺を殺したか?
「そうだけど! 説明の手間が省けるけど理解が早すぎない?!」
んなこと言われても、テンプレだし。
「テンプレって……」
一言で纏められて呆然とする女神(推定)だが、当然普通はこんなにあっさりと自分の死を受け入れたりはしない。
自身が死んだことや、目の前にいるのが神かそれに準じる存在だと理解しておきながらこの対応ができるのは、男がそれなりにこういった関係の書籍などを読んでいたからに他ならない。
男は今年で36になるが、この世代はある意味でラノベの直撃世代である。(異論は認める)
そんな彼からすれば、トラック事故や、気付いたら見覚えのない部屋、目の前で土下座など、腐るほど目にしてきた事柄だ。(もちろん文章の中の話だが)
また彼自身も独身で、しかも家柄的にも地方の名家と言っても良い家の長男であったが、次男がすでに結婚し家を継いでいるので自分は親の介護の必要も無く、給料が全部お小遣い状態であり自由気ままな生活を送っていたことも無関係ではないだろう。
更には代わり映えのない日々の仕事に疲れを感じ始めていたこともあり、現実世界を忘れさせてくれるラノベというコンテンツに憧れる程度には理解があったし、そういう本を読む度に「できたら俺も異世界でチートもらってスローライフしてぇなぁ」と呟くくらいには異世界に憧れを抱いていたのだ。
よって今のこの状況は、彼にとって一概に悪いものとは言えない状況でもあった。
……流石にミスで殺されるのは釈然としないものがあるので、貰えるものは貰うつもりではあったが。
「しかし、俺は取引先の学校に薬を納品に行っただけなんですけど、それでどうやって死ぬんですか?」
「え、い、いや、それは、その、ね?」
何が『ね?』なのかはわからないが……ミスと言うからには何かしらの事故かなにかが有ったのだろう。そして平日の学校で人が死ぬレベルの事故が発生したとなれば、死ぬのは俺一人ではないはずだ。
数十人、否、下手をすれば数百人単位の死者が出る可能性がある大事故に巻き込まれたのか?と思うも、それなら自分がここに一人でいることに説明がつかない。
いや、まぁ他の人間全員に土下座行脚している可能性も無くはないのだが、どうもそんな感じではなく、彼女は自分単体に対して謝罪を行なっているようにしか見えなかった。
営業職で鍛えた観察眼が神に通用するかどうかは別としても、こんな状況では自分に頼れるのはこれまでの経験で培ったものだけだ。
その経験を信じた結果、頭に浮かんだのは『良くも悪くも自分は特別扱いされてるんじゃないか?』というものだった。
「……えぇ、それで間違っていないわ」
そんな俺の思考を読み取った上で、推定女神の女性は肯定の意を表してきた。
彼女が言うには、なんでも俺たちの住む世界とこれから転移する予定の世界にはいろんな契約があるらしく、その中のひとつに、ある一定周期で俺たちの世界から向こうの世界へ人間を送り込むっていうのがあるらしい。
俺たちからしてみたら迷惑この上ないが、神の視点で言えば自分の家の池に放し飼いにしている金魚を、隣の家の池に移すようなもんだとか。
……こういう風に言われてしまうと、俺たち人間も普通にやってることだから文句も言いづらいと思うのは俺だけだろうか?
まぁ、俺の気持ちは良いとして、だ。
とりあえず彼女が今回異世界へ送り出すことになったのは、俺が薬を納品しに行った学校のとあるクラスだったらしい。
なんでそいつらが異世界に?と聞いたら、女神は目を逸らして下手な口笛を吹き始めたので、たぶんダーツか何かで決めたのだろうと思われる。
「なんでわかったの?!」
……この駄女神。
とは言え、神と人間は価値観が違うからな。こいつの行状については何も言うまい。
それで、今の問題は何故かそれに俺が巻き込まれてしまったことだ。本来なら金魚の一匹くらいはサービスしても良かったらしいのだが、それはあくまで同じ学校の生徒や教師のように縁がある人間でなければ駄目らしく、たまたま学校を訪れていただけの完全な部外者である俺は転移サービスの対象外の存在だったらしい。
それに加え、本来向こうに送られることになっている学生たちは死んだわけではなく、生きたままクラスごと転移しているのに対し、俺はしっかりと死んでいるということが問題をややこしくしている一因である。
なんでも現世に生きている人間は全て死ぬ時期が決まっており、例外を認めるためにはかなり面倒な手続きがあるんだとか。
これは閻魔様が台帳を書き直ししなくちゃいけなくなるとか、モイライ三姉妹が糸を作り直さなきゃいけなくなるとか、とにかく他の部署に迷惑をかけることになると言えば分かりやすいだろうか?
そんなわけで俺の本体とも言うべき存在は向こうで死んだのだが、なんとかして【死亡】したのではなく、特殊な技術で肉体を再構成し、事故で転移に巻き込まれたということにしたいというのがこの女神の言い分だった。
まぁゲームの転移とかだと一回肉体が分子分解されてる感じのもあるからな。あんな感じで俺の肉体を再構成して、ここにある魂を入れる感じなんだろう。
う~む。俺には転移だの転生だのといった違いがよく分からないが、神様業界では重要なのかもしれん。
そして今回のこれは、普通の転移とは違うので俺の承認が必要らしく、その承認を得るためならば多少のズルも仕方ないということになっているらしい。
あれだな。やっぱ魂がこうなってるから、色々と勝手が違うってことなのだろう。
しかしなぁ。その本来転移する予定だった教室の学生が死んでなくて、俺だけ死んでるっていう状況がどうやれば発生するのか想像できんぞ。……まさかこいつが投げたダーツが教室を貫通してしまい、運悪く下の階で作業していた俺の体が半分だけ異世界行きに巻き込まれて死んだとかじゃねぇだろうな?
「ひ、ひゅーひゅー」
斜め上を向きながら下手な口笛を吹くところを見ると、当たらずとも遠からずといったところだろうか?
聞かなきゃ良かった……と思いながらも、とりあえず俺は死んだんだってことは理解した。つまりは示談金を渡して不祥事を隠そうとするお役所仕事的な何かなのだろうが、これに関しては俺としても悪い話ではないので、前向きに検討したいところである。
「ほんと?!」
いや、心を読む相手に嘘なんか吐けないから。
「そ、それはそうなんだけどさ、貴方って読まれることを前提にしてるから何か誤魔化す方法とか心得てるんじゃないかって不安になるのよね」
ほほう。
確かに「どうせ読まれてるならこのままで良いか」と考えていたが、心を読ませない方法も有るのか。
あぁ、もしかしてあれか? ここで俺が神の数式みたいなのを思い浮かべれば、この駄女神に強制的に数式を叩き込めるのか?
「やめて! 今貴方がチラッと思い浮かべただけで、私の頭の中にわけのわからない数式……って言うか文字列が叩き込まれたわ! こんなの全部読み込んだら絶対に死んじゃうっ!! いいの? 私が死んだら大変なことになるわよっ!」
いや、どーせ俺は死んでるし、今更他人の心配してもなぁ。それも俺を殺した張本人と相打ちできるなら……むしろ構わんのでは?
「むしろ構わんって、なんて薄情な! それに私が死んだら貴方だって転生できないのよ!」
薄情って言われてもなぁ。しかし、転生できない=輪廻の輪から逸脱するってことだよな?
あれ? それってつまり『解脱』じゃないか?
……なんか、死んだ後に無理くり蘇って異世界行って苦労するくらいなら、いっそのこと解脱してしまったほうが良い気がしないでもないんだが。
「なんでそっちに舵を切るの?! 転生に前向きな貴方はどこに行っちゃったの!」
熱血教師風に言われてもなぁ。そもそも輪廻転生って、それを繰り返して魂に宿った業を削ぐためにやるんだろ? だったら敢えて異世界で業を重ねる必要も無いと言いますかなんと言いますか……
「アナタソンナ敬虔ナ仏教徒ジャナイデショ?!」
なんでカタコトなんだよ。
「誰のせいよ!」
徹頭徹尾お前のせいだ。
「スミマセンデシタッ!」
ツッコミに対して流れるような土下座をするところを見ると、どうもこの女神は土下座慣れしているように思える。つまりこいつはそれだけミスをしている常習犯なのでは?と疑ってみる。
「違うから! 常習してたら私はとっくに左遷させられてるし!って言うか、神様業界では土下座なんか当たり前だから! もっと偉い神様相手には五体投地も当たり前だから!」
そう言われるとなぁ。時代劇とかで武士が幕府や朝廷からの使者を相手にするときに土下座するようなモンだと思えば、無くはないのかもしれん。
「そうよ! そうなのよ!」
必死なのがアレだが、とりあえずこの女神についてはいいや。重要なのは『これから俺がどうなるか』ってことだし。
「え? そ、その様子だと向こうに行ってくれると思っていいの?」
まぁ、なんだかんだで未練はあるし、このまま解脱ってのも違う気がするんで。
「そ、そうよね! 未練を残してたら解脱なんかできないわよね!」
仏様ではなく神様から解脱についてどうこう言われるのは釈然としないものがあるが、ここは我慢しようじゃないか。
「所々で微妙にマウントとってくるわね……けど良いわ! 貴方の気が変わらないうちに、さっさと向こうについての説明をさせてもらうわよ!」
えぇ。お願いします。
「……やけに素直ね?」
向こうの情報がなかったら死ぬから。言葉とか病気とかお金の単位とか諸々知らないと死ぬから。
「それはそうか。それじゃ簡単に説明するから耳の穴かっぽじってしっかり聞きなさいよ! こんなサービス滅多にしないんだからね!」
元はと言えばお前がミスったせいだろうが。転生やめるぞコラ。
「スミマセンデシタッ!」
…………説明をお願いします
「ハイ! ソレデハ説明サセテイタダキマス!」
転生をネタに脅すというよくわからない俺の行動を受けて、一切の躊躇なく綺麗な土下座を決めた女神を見て『こいつに任せて本当に大丈夫か?』と不安になったのは仕方の無いことだと思うんだ。
違うんです!他の作品を無視したんじゃないんです!頭の中にある設定が誰かと被って、先に使われるのが怖かったんです!ってお話
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