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17話。王家上層部の会話

甘い一時を期待した諸君。残念だったな。オッサン回だ。


文章修正の可能性大。

お客様こと神城と、メイドさんことエレンが激しい夜戦を繰り広げていた頃のこと。


思わぬ拾い物をしたことにテンションが上がっていたラインハルトは、早速他者からの横槍が入らぬようにするための根回しを行なっていた。


とは言っても、現役の軍務大臣であり、侯爵家の当主であるラインハルトに対して横槍を入れることのできる人間は限られている。


「よもや彼の国にも王と貴族が居ようとはな……」


「……こちらも確認を取りましたところ、確かに【天皇陛下】と呼ばれる王と、総理大臣と呼ばれる【宰相】が居るとのことでした。さらには向こうの国では貴族のことを公家? と呼ぶらしいですな」


ラインハルトからの火急の報せがあると言うので急遽謁見を許可した王と、その報告の場に同席していた宰相は揃って頭を抱えていた。


(気持ちはわかる)


彼の前で頭を抱えているこの二人こそ、王国内で彼の決定に横槍を入れることができる数少ない存在であった。


故にラインハルトは内密に話を進めるのではなく、確りと告知をしたうえで神城を確保しようとしていた。そのほうが後々自分にとっても有益だと判断したからだ。


「彼が言うことは一々尤もでございました。私が思うに、もしも我らが彼の国の立場であったなら、報復の有無は別としても最低でも抗議の使者を送ります」


「それはそうだろう。余とてそうするわ」


ラインハルトがそう言えば、王も「当然だ」と言わんばかりに頷いた。


抗議も報復も国家として最低限行うべき事柄である。むしろそうしなければ国が国として成り立たない。王が、国家が民(貴族)を護らずして、どうして民(貴族)が王に従うと言うのか。


基本的に封建制度に於ける王と貴族の関係は、御恩(給金や土地の貸与)に対する奉公(職務の遂行)をする関係だ。そしてその御恩の中には外敵からの保護というものがある。


これができないようならば、貴族たちは国家を見限り、自身を護ってくれる国家に鞍替えすることは常識であった。


それは封建制の国家に限ったことではない。


平和ボケ国家と言われて久しい神城たちが住んでいた日本でも、国家による学生の集団拉致事件が発覚したならば、必ずや抗議するし、場合によっては特殊部隊の派遣や同盟国も巻き込んで制裁を行うだろう。


問題は相手が異世界の国家であるということだが、だからと言って『向こうが報復を諦める』と楽観できる理由もない。


何故なら神城がラインハルトに語ったように『こちらから呼べたなら向こうからだって来られる』という理屈は、王や宰相にも簡単に理解できるものであったからだ。


「確かに仰せの通りでございます。しかし、だからこそ、その、神城? でしたか? 彼からの提案はありがたいですな」


だからこそ、早急に解決策を用意しなくてはならない。ただでさえ魔王が率いる魔物や他の国と鎬を削っている中で、異世界の国家と事を構えるなど自殺行為以外の何物でもない。


向こうにどれだけの戦力があるかは判っていないが、少なくとも向こうは【勇者】の出身地である。他にも希少価値が高い戦闘職もいるだろう。そんな相手をこのまま無視した結果、向こうが自分たちを敵とみなしたならどうなる?


敵性国家とみなされ軍を派遣されるのは確実だし、他国に【勇者】を送り込んで包囲網を敷いてきたり、こちらが召喚した【勇者】たちを寝返らせ、内外から攻め込まれたらどうなるだろうか?


……最悪のケースを想定させる事態を引き起こした召喚の担当者連中に対する罰は後回しにしても、兎に角その最悪に到らぬような対策を練る必要がある。


『自分たちに非が有る以上は大幅な譲歩も已む無し』


王はこのように考えた。しかしながら、ラインハルトからの話を聞いてその譲歩が思った以上に軽くなりそうだというのがわかっていることが、彼らにとって唯一の救いであった。


「そうよな。しかしローレン卿、真に向こうは一代限りの準男爵で良いと申したのか?」


普通ならこちらの弱味を利用してもっと高位の、最低でも子に爵位を継がせることができるようにするのではないか?


そう問いかける王に対し、ラインハルトはあっさりとした返事を返す。


「はっ。彼は己の立場をよく理解しております。また私の立場も理解しているのでしょう」


「卿の立場とな?」


「……あぁ、なるほど」


「宰相?」


王が不思議そうに首を傾げれば、宰相は一つ頷き、ラインハルトの言葉を補足する。


「陛下、確かに男爵家相当の家の嫡男を貴族に叙するならば、準男爵が順当ではあります。それに準男爵であればローレン卿の権限で任命も可能。彼はそう判断したのでしょう」


「私もそう思います」


宰相の言葉にローレンも賛同する。


「むう。己の分際を弁えておるというのは確かなようだな」


「はっ。故にまずは彼の要望通り、彼を準男爵とし、我が侯爵家の食客として招き入れます。それから少ししたら男爵に推薦致しますので、陛下から承諾を頂ければよろしいかと」


ここでラインハルトは最初は自分が恩を売り、それから王家が恩を売る形にしてはどうか? という提案をした。


「ふむ。いざと言うときの外交官が準男爵では、王国の品格が疑われるな……よかろう。其奴を男爵に叙する分には構わぬ。しかしそもそもの疑問なのだが、何故彼は余ではなく卿の下に庇護を求めたのだ?」


「ありがとうごさいます。それと、彼が陛下への庇護を求めなかったのは、恐らくですが【勇者】殿らに配慮したのではないかと」


「「あぁ」」


ラインハルトの言葉に王と宰相が揃って納得の声を上げる。


晩餐会で国王自らが傍に置き、歓待した【勇者】でさえ、今はなんの功績も無いただの子供であり、更に言えば現時点での彼らは王国に都合のよい戦奴隷という扱いでしかないのだ。


そんな彼らに対して、現時点では爵位を与える気が無い(働きによっては一代限りの爵位や、高位貴族の分家の当主にはなれるだろうが)というのに【薬師】でしかない神城に爵位を与えたら、連中が自分にも爵位をくれ! と騒ぐのは目に見えている。


それを防ぐために、晩餐会で王や宰相の側ではなく、壁の華となっていたラインハルトに声をかけたのだろう。


そしてラインハルトが彼を保護すると言ってきたのは、単純にラインハルトが頼まれたからだ。ということも理解できた。


他国の貴族である神城から正面から保護を依頼された以上、王国を代表する貴族としてたらい回しにするような真似はできないし、少なくとも神城を保護することで、ローレン侯爵家は現在王家としか繋がりを持たない転生者との伝手も得られるという寸法だ。


「……召喚された初日からそこまで冷静に状況を判断できるというならば、やはり神城とやらはただの子供ではないな」


他の少年とはひと味違う。王はそう評価を下した。


……これは神城が肉体的に若返っていることと、元々日本人は若く見られがちなので、神城の中身がオッサンであることを知らない王の勘違いである。


「然り、成すべきことを成し、足らぬを知りながらも驕らずに地に足をつけて歩む。その姿勢はまさしく貴族に相応しい教育を受けた証かと存じます」


やはり幼少時からの育てかたの違いだろう。王の評価に対して宰相はそう補強して、神城の評価を上げる。


……これも元々女神から簡単な説明を受けていたことや、社会人として『立場=責任=仕事』という負のスパイラルを理解している神城が、面倒事を嫌ったが為に微妙なポジションを狙ったことを知らない宰相の勘違いである。


まぁ『己の分際を知り、過剰な欲を持たない』というのが貴族にとって最低限必要な素養の一つではある。その意味では神城に適性が無いというわけではないので、その勘違いが正されることは無いだろう。


「そうよな。それでは正式にその神城を準男爵とすることを認めよう。ローレン卿には迷惑をかけるが……」


予想される各種面倒事を避けるために【勇者】一行と距離を置かせる。さらに『他国から貴族を拐った』という情報をこれ以上拡散させることがないよう、侯爵家に隔離する。


これが今回の件に於いて王が下した決断であった。


このような決定が下ったのは、神城の職業が【薬師】という普通の生産職であったからだ。無論、国家としては応用の利く生産職を持った生徒達を無下に扱う気は無い。


しかしながら、現在王国が欲しているのは即戦力になりそうな戦闘職や、ネームバリューがある上級職を持った者たちだ。


故に、もしも神城が【勇者】や【剣聖】といった希少価値が高い職業であったならば、このようにあっさりと神城をラインハルトに預けるという決断はしなかっただろう。


ちなみに、現時点で王が最も注目しているのは


【勇者】【聖女】【賢者】【剣聖】そして【クレーン技師】の五名である。


特に【クレーン技師】は王も宰相も初めて聞く職業であることに加え、他の召喚者たちですら(勇者の少年でさえも)【クレーン技師】の少年には一目も二目も置いていたような態度を取っていたので、王国の人間は『いったいどのような職業なのか?』と期待をしていたのだ。


……男子は何歳になっても重機に憧れを抱くものだ。


更に今時の高校生にとっては異世界でよくある【勇者】よりも関係者以外立入禁止の作業現場で働く【クレーン技師】のほうが珍しいし、そもそも異世界でクレーンってなんだ? という疑問があったからこその態度であったが、さすがにそれを察しろというのは酷な話であろう。


そんな拉致加害者たちの勘違いはともかくとして。


「いえ、これも王家の為にございますれば」


「うむ。いずれ卿にはなんらかの形で補填をさせてもらおう」


「ありがたきお言葉に感謝致します(よし!)」


こうして神城は、王家公認でローレン侯爵家預かりとなることが決定した。


翌日、このことを監督役から知らされた一人の貴族令嬢が、自分が騙されたわけではなかったことを知ってガッツポーズをしたらしいが、それはまた別のお話である。





客人を侯爵家の権限で準男爵にして、さらに自分の下で囲い込むには王の許可がいりますからね。


きちんと筋を通さないと後から面倒になるのは、古今東西万国共通の理でごわすってお話。


……クレーン技師の評価を書きたかっただけ?ははっ。君、面白いこと言うね?


―――



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