14話。メイドさんとの一時
ちょっと遅れたけど更新だッ!
王に近い位置に立っていたうえに、他の連中よりも勲章が多かったのを見て取り「間違いなく軍関係のお偉いさんだ」と判断して話しかけた相手が、まさかの侯爵で軍務大臣であった。
――ツいてる
ローレンとの会談が予想通りに進んだ結果、異世界に召喚された当日に住所不定無職の身から解放された神城は素直にそう思った。
それは後ろ楯が大きいことに悪いことは無いということに加え、薬の価値や需要を考えれば、薬剤師という職業と軍事関連は非常に相性が良いからである。
また、この世界の魔法がどの程度の効果を持つかは知らないが、少なくとも胃痛を治すような使い方をしないと言うことが判明したのも大きい。
今まで召喚されてきた人間は学生が主だったのだろうか? 少なくとも仕事によるストレスや胃痛の辛さを理解している者はいなかったようだ(もしくは胃薬について真剣に考える余裕が無かったか)
胃痛についてはともかくとして、最低限の立場と収入のアテができた神城は、生活基盤を整えるため、さらに一手打つことにした。
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「やぁメイドさん。元気してました?」
「……おかえりなさいませ」
敢えて能天気を装い挨拶した俺に対して、メイドの態度は固いものがあった。
ふむふむ。こちらは朗らかに挨拶をしたと言うのに、向こうから返ってきたのはやや憮然とした感じの挨拶。さらに言えばどこか焦りを感じるな。
いや、気持ちはわからんでもないぞ。
なにせ彼女は俺の世話役。つまり監視役だ。それなのに俺が侯爵と別室に移動してしまったことで、俺への監視ができなくなってしまったんだからな。
まさか自分の仕事の失敗を侯爵のせいにするわけにもいかんだろうから、責任者への報告を前にして陰鬱な気分になってるんだろうよ。
ただし、彼女はハニトラ要員でもあるから報告は明日になるはず。だからこの焦りは「それまでになんとかしたい」という思いが表に出ているんだろうさ。
しかしなぁ。交渉は弱味を見せたほうが負けるもんだぞ?
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これまで営業等で競合相手と競っていた際、散々に辛酸を舐めてきた神城は、そんな彼女の弱みを利用する気満々であった。
交渉というのは基本的にそういったものであるが、年端もいかない少女相手に些か大人げないと思わないでもない。
しかし神城にも余裕があるわけでもないのだ。特に今現在神城が抱える問題を解決するためには、どうしても彼女と会話をする必要があるので、今はその焦りを利用させてもらうつもりであった。
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「さてメイドさん。少し確認したいことがあるんだけど、時間は大丈夫かな?」
「……なんでしょうか? お答えできることならお答え致しますよ」
つまり答えられないことには答えないってことか? 素直だねぇ。俺としてはそのほうが楽でいいけどな。
「いくつかある。まずは君の立場の話だ」
「立場、ですか?」
「そう。君はあれだろう? 私の世話役なんだろう?」
「そうですね」
「つまり、私の夜の相手もすることもその職務のうちかな?」
「あぁ……えぇ。そうですよ。これからなさいますか?」
俺の質問を聞いたメイドさんは、なんだそんなことかと言わんばかりに頷いて、上着に手をかけようとする。
しかし、残念ながら俺がこの確認をしたのは、ヤりたいというのをオブラートに包んで伝えたわけじゃないぞ。
「早とちりはしないでほしい。まずは確認をしたかったんだ」
「確認?……ご安心ください。私は処女ですので、病気は持っておりません」
「そっちじゃなくて」
なんだ? 今まで召喚されてきた奴はそんな確認をしたってデータでも残ってるのか? いや、確かに俺みたいに女神から話を聞いていないならその確認は必須なのかも知れんけどなぁ。
「そっちではない? では何を知りたいのですか?」
うん。過去に召喚されてきた勇者(いろんな意味で)の行状はともかく、今は確認すべきことを確認するとしよう。
「いや、メイドさんはこうして王城に入ることを許されているくらいだから、それなりの格式がある家の娘さんなのだろう?」
まさか外来からコンパニオンを呼び込んだりはしないよな?
「……えぇ。確かにそれなりの家の人間ではあります」
ほほう。クール系美少女だと思っていたが、どうやらそれなりの部分にアクセントを付けるくらいの人間性はあるらしい。人生諦めたような奴と一緒に居てもつまらんからなぁ。
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もしかしたらこのメイドさんたちは王家に絶対服従の隷属を強いられている可能性もあると考えていた神城は、メイドさんにもしっかりとした人間味があることに安堵を覚えていた。
その根幹には、彼女とこうした会話ができるということは、彼女は摩訶不思議な魔法やマジックアイテムで己の意志と行動を縛られているのではなく、政治や金銭的な理由で己の行動を縛られているということだからだ。
理解できるなら対処もできる。どこぞのインキュベーダー的な思いを胸に、神城はメイドさんとの会話を続ける。
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「にもかかわらず、こうして私たちのような何処の誰とも知らない男に抱かれなければならない事情があるわけだ」
「……何が言いたいんですか?」
やはり訳ありか。
一応特殊能力を持つ異世界人種を求めて志願してきた可能性も考えたが、あの【勇者】とかならともかく、単なる【薬師】と思われている俺にまでこんな娼婦紛いのことをするには弱いもんな。
だからこそ俺の狙いは上手くいく。
ある種の確信を抱いた神城は訝し気に自分を見るメイドに対して、内心の笑みを隠したまま、真剣な顔を装いながら話しかける。
「いやなに。これから君に提案しようと思っていたことがあってね。その前振りみたいなものさ」
「提案? 前振り? ですか?」
「そうだね。引っ張ってもしょうがないからストレートに聞くけど……メイドさん、君は私に仕える気はないかい?」
「……はぁ?」
「うん。教科書に載せたいくらいの『何言ってんだお前?』って表情だね」
「あ、いや、し、失礼致しました!」
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客人に対してあまりに無礼な態度を取ったことを自覚したメイドは、慌てて頭を下げるも、神城は特に怒ってなどいなかった。
……むしろ向こうが謝罪してきたことを受けて(これでマウントが取りやすくなった)と内心で笑みを浮かべていたくらいだ。
「いやいや、いきなりこんなことを言われても困るというのは私にも分かる。だから私の意図を説明したいんだけど、時間は大丈夫かい? って話なんだよ」
言外に「夜の世話を任されているなら、当然時間に制限も無いだろう?」と告げてくる神城に、メイドは「……そうでしたか。確かに時間はあります」と答えるしかなかった。
遊ばれていたことに気付いて悔し気に呟くメイドさんに「それはよかった」と言いながら、神城はクールなメイドさんが見せる豊かな表情の変化を楽しみつつ、満足気に頷くのであった。
住所不定無職からの脱却に成功した神城君、就職祝いついでに色々とするもようってお話。
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