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22話。神城、転職したってよ②

キングク〇ムゾン!


村上ショージが普通に面白かったので初投稿です。


文章修正の可能性有り

神城が神に対する叫び声(ツッコミ)を上げ、色々と諦めつつも大司教との交渉を終えた日の夜のこと。


当人の居ないところで、ある意味で当人よりも深刻な表情で話し合う者たちが居た。


「……それで、最終的に彼はなんという職業に転職したのだ?」


「ルイーザが確認したところ、【ヤクザイシ】という職業に就いたそうですよ」


「【ヤクザイシ】? 聞かん名だな」


「聞くところによれば、向こうの世界における薬師のような職業なのだそうです」


「向こうの薬師、か。つまり【ヤクザイシ】とは【薬師】の近似、否、この場合は彼だけに許された特殊上位職というわけか?」


「おそらくそうでしょうな」


「ほほう。ならば今後の供給にも影響はない。そう思って良いのだな?」


「(本人に聞け。とは言えんよなぁ)……そう思ってよろしいかと」


「そうかそうか! ならば良いのだ!」


自分の言葉を受けてうんうんと頷く姉を見ながら、必死で溜息を堪えるラインハルトの姿がそこにあった。


現在両者が話題にしているのは、当然というかなんと言うか、此度無事に転職を終えた、王国の客分にして、侯爵家の寄子の貴族にして、王国内の女性陣にとっての共有財産でもある男、神城の転職についてのあれこれである。


(いやしかし、無難に上位職を選んでくれて助かった。と言うべきなのだろうな)


本来であれば、貴族家の当主であり、外交官として主権を認められている神城がどのような職に就こうが、それは神城の勝手であり、寄親のラインハルトや、その姉であり公爵夫人であるアンネといえども、その決定に文句を付ける権限はない。よって、もしも神城が『自衛のために戦闘職に就きました』と報告をしてきても、ラインハルトはそれを追認するしかなかった。


(そうなっていたら……まず間違いなく姉上や母上、王妃殿下やヒルダは騒ぐ。それも想像を絶する剣幕で騒ぐのは間違いない。次いでサロンに所属する者たちや、場合によっては敵対する派閥の奥方たちも一致団結してきただろうよ)


しかも、その場合に追及や説教を受けるのは当の神城ではなく、彼の転職を追認した自分になるだろうことは想像に難くない。


なにせ、ここで神城に詰め寄ってしまい、彼からの評価を落とした場合、神城が自衛のための技術を修得し終わった後に再度【薬師】系統の職業に就いた際に行われるであろう薬の製造と、その供給に影響が出ることは明白だからだ。


だからこそ、もしもの場合関係者が抱えたであろう不満は、彼らが望む職業に就かなかった神城ではなく、そうなるように誘導しなかったラインハルトへ向いていたはず。


(在庫が徐々に減っていくことに恐怖を覚える女性陣の表情や、恐怖を通り越して恐慌を起こしかけている女性陣にせっつかれて自分に嘆願に来る傘下貴族の当主の様子を見れば、もはや「たかが化粧品」とは口が裂けても言えん)


元からそのようなことを口にすれば姉からの折檻や、母や妻からの説教に見舞われていたのだが、最近はそれでは済まないほどの嘆願が来ているのだ。未だに個人的には興味は無いが、派閥の領袖として見れば神城印の化粧品は、現金や領地以外にも傘下貴族への褒美となる貴重品。


『その価値を落とすなんてとんでもない』と言ったところだろうか。


まぁ実際のところ神城が戦闘職に就いたとしても、これまで【薬師】として得た経験やスキルが消失するわけではないのだからそこまで焦る必要はないのだが、印象という点で言えば【薬師】が造る秘薬と【戦士】が造る秘薬では、どうしても前者の方に軍配が挙がってしまう。ましてソレを使うのが、王侯貴族の中でも上澄みとも言える面々なのだから、猶更軽視するわけにはいかないのだ。


そういった諸々の事情を勘案した……のかどうかは不明だが、とにかく神城が【薬師】の上位職に就いてくれたことは、関係者各位、特にラインハルトにとっては朗報以外のなにものでもなかった。


だからと言って問題が皆無というわけではない。


「しかし、やはりと言うべきでしょうが、教会への秘薬の供給を約束させられたそうですな」


「あぁ。それがあったか。だが、最悪ではない。違うか?」


「確かにそうです」


これまで大小さまざまな貴族からの横槍を防いできたアンネとラインハルトだが、教会内における大司教の行動を抑えることは不可能であった。


よって両者共に神城と教会の間で何かしらの交渉を持たれるであろうことは想定しており、それにどう応じるかと協議してもいたのだ。……ちなみに彼らが想定していた最悪の状況は『神城の存在そのものを異端とし、彼が製造する秘薬の製造を禁止する。またはその独占を図る』というものである。


もし教会側がそのように動いていた場合、王国貴族による抗議の他に、王国最強の騎士による教会の襲撃が行われる予定があったとかなかったとか。


閑話休題


「教会と神城との間で……「おい」……なにか?」


「卿もしくは殿をつけろ。最低限の礼儀だろうが」


確かに男爵とはいえ貴族家の当主であるのだから、敬称を付けるのは間違っていない。


「……(間違ってはいないが、寄親が寄子に、それも本人が居ないところで敬称をつけるのはどうなんだ? それに姉上が他の連中を敬称付けで呼んでいるところなど見たことがないぞ)」


「なんだ?」


「いえ、なんでもありません。失礼しました」


「うむ」


姉の言い分に思うところがないわけではないが、長年の経験からこの場で姉に逆らっても(この場どころか、常時そうなのだが)良いことなどないと知っているラインハルトは、大人しくアンネの言い分を受け入れ話を前に進めることにした。


「……教会と神城卿の間で結ばれた契約は、教会に一定数秘薬を提供することと引き換えに、神城卿が医療技術を習得することに手を貸す。というものです」


「らしいな。しかし、その気になれば一定数どころか全てを手に入れることができたはずの教会がそれをせず、交渉を受け入れたのは何故だと思う?」


時に王族の要望すら跳ね除ける教会勢力が、一男爵に過ぎない神城に配慮をする理由は何か? 不自然と言えば不自然なのは確かなことなので、アンネが教会の意図を測りかねていた。しかしラインハルトからすれば、教会の決定はそれほど不思議なことではなかった。


「自制した。と見るべきでしょう」


「奴らが? 宝の山を前にして自制? ありえんだろう?」


もっと言えば、回復魔法師を独占する形で確保している教会勢力にとって、傷や毒の回復を可能とする薬を造る者たちは、自分たちの持つ既得権益を侵す敵である。


彼らがそんな目に見える敵である【薬師】を排除しないのは、偏に人材が不足しているからに過ぎない。


現代日本風に言うならば、医療崩壊と言えばわかりやすいだろうか。現在【薬師】が造る薬で可能な程度の軽度な傷の治療や、軽度な毒の解毒まで彼らがしていたら、どれだけ回復魔法の使い手が居ても手が回らないというのは誰もが理解しているのだ。


そんなこんなで、自分が過労死したくない現場の声などもあり、今のところ【薬師】と教会勢力の間では、それなりの線引きが行われている。


翻って神城の造る秘薬はどうか? 


アンネの見たところ、神城の造る秘薬はその線引きを大幅に超えている。そして、彼ら教会勢力だけに留まらないのだが、基本的に既得権益を侵す敵に容赦や妥協をするような者はいないのだ。


だからこそアンネは大司教が神城と交渉を行なったことに疑問を覚えたのだが、ラインハルトの考えは違う。


「大司教も男ですからな。毛生え薬の有用性には気付いても、肌を若返らせる秘薬についてはそれほど頓着していないのでしょう」


「はぁ?」


「あ、あくまで私は大司教の考えを推察しただけですよ!」


この期に及んで阿呆なことをほざくな。死ぬか? ストレートにそんな視線を向けてくるアンネに、必死の弁明をするラインハルト。


元々は『化粧品如き』という感情を持っていたのは事実だが、前述したように今では贈答用や褒美用としての価値を認めているのだ。だからこそ、と言うべきだろう。ラインハルトには大司教の思惑がよくわかるのだ。


「……つまり大司教は秘薬の価値を正しく理解していない。そういうことか?」


「はい。あくまで彼は『付き合いのある者に贈答する』程度に考えているかと思われます。(ついでに言えば『自分たちで解析して量産する』くらいのことは考えているかもしれないが。まぁそのくらいは、な)」


「むぅ。あの秘薬の効果を知りながらその価値を理解できんとは嘆かわしい。と言いたいところだが……この場合は好都合と言えるか?」


「そうですな」


その価値を理解していようが理解していまいが、今回神城と大司教が交わした契約は正式に貴族家の当主と大司教が交わした契約である。一度その存在と価値を正式に認めた以上、後からどうこうされる可能性は極めて低いだろう。


「加えて言えば卿が教会公認で医療技術や知識を得ることで、今後製造される秘薬の質が高まる可能性もあるかと」


「ほほう。なるほどな。そう考えれば今回の件は、神城殿の作戦勝ちとも言えるか」


「えぇ。自らの未熟と向こうの無知を上手く利用した一手ですな」


大司教からすれば今回の交渉は、ローレン侯爵家やミュゼルシュヴァイク家を出し抜いて神城から譲歩を得たと言えるだろう。確かにそれ自体は間違いではない。だが神城が得た『教会公認』の看板と比べれば決して神城が払い過ぎたとは言えない。


さらにラインハルトたちにとってもこの結果は悪くはなかった。何故なら……


「教会にも卸しているという名目が有れば、他の連中に配る分を減らしても文句は出まい?」


「ですな。文句が出たとしても、その文句は我々ではなく横槍を入れた教会となります」


「くくく。見事に墓穴を掘ってくれたものだ」


「えぇ。タイミングも完璧でした」


当たり前と言えば当たり前の話なのだが、神城が製造した秘薬が世に(あくまで貴族社会の一部ではあるが)広まるにつれて、方々から『もっと造らせるように』だの『強制させろ』だのといった意見が出ていた。


販売や流通という点を考えれば、その意見も理解できる。しかし元々材料や本人の気力と体力の関係で製造できる数量が限定されている中、さらに強要して秘薬を増産させるべきか? と問われたならば、ラインハルトは迷わず「否」と答える。


それは当然人道的な観点からとか、神城という個人を慮って無理強いすることを忌避したのではなく、無理強いして量産させることで秘薬の品質低下を招いたり、神城が秘薬の中に悪意で不純物を混ぜたり、自分たちと敵対する関係にある貴族連中が秘薬を貶めようとして秘薬を偽造し、それが自分たちの名前で出回ることを恐れたのだ。


品質低下や不純物の混入によって直接的な被害を受ける可能性があるアンネも、ルイーザを通じて『できるだけ欲しい』と懇願することはあっても秘薬の増産を強要しようとは思ってはいない。それどころか「多少枯渇気味の方が価値が高まる」と考えているくらいだ。


まぁ、それもこれも自分たちが一定数確保できることが前提にあるのだが、それはそれ。


少なくとも現時点では、神城の後ろ盾であるラインハルトも、無条件で彼を従わせることが可能なアンネも、徒に秘薬を増産&流通させようとは考えていなかった。


だが傘下貴族や同じ派閥の者たちからの要望を無視するわけにもいかないのも事実。敵なら迷わず蹂躙するアンネと言えど、同じ派閥に所属する者や傘下の貴族を蹂躙するわけにもいかない。かと言って強権を以て押さえつければ不満の火が宿る。


そんな、ある意味で板挟みの状況に陥りかけていたところに現れたのが、神城と直接交渉して秘薬の提供を受けることが決まった『教会』という存在である。


「元々貴族が持つ権威が通用しない彼らに対して不満を覚えている者は少なくありません。今回の件はそこに新たな火種が一つ加わるだけの話」


「それも我々が押し付けたわけではなく、自分で抱え込んだのだからな。我らが文句を言われる筋合いもないだろうさ」


王国指折りの大貴族に求められることは多岐に亘る。その中の一つに『傘下貴族が抱える不満のはけ口を用意する』というものがある。


本来であれば見つけるのが面倒なソレだが、今回は潜在的な敵とも言える教会が自分からその手を挙げてくれたのだ。ならば利用しない手はないではないか。


「……ふふふ」


「……くくく」


今や、ここ、侯爵家に設けられた執務室の中には、異世界から召喚された【薬師】が齎した秘薬の存在や、その効果に右往左往していた年頃(40代)の女性も、その女性に殴り飛ばされていた哀れな青年はおらず、ただただ「にちゃり」と音が聞こえそうな笑みを浮かべながら、今後自分たちがどう動くべきかを画策する姉弟がいたという。


なんだかんだで似た者姉弟ってお話。


理由があるとはいえ、薬師が戦士になったら困りますからねぇ。


神城と大司教との交渉? 見るんじゃない、感じるんだ。(地元の作品の某91話並)


―――


ドーモ。書籍の打ち切りの可能性や、それに伴う俺たちの戦いはこれからだENDの可能性が見えてきた作者=デス。


いや、まぁ、ね? やっぱり意欲ってありますよね? 

そんな作者の意欲を盛り立てるためのご協力を、何卒よろしくお願い致します。


ご協力の方法? 言わせんな、恥ずかしい。(宣伝)


―――


閲覧・ポイント評価・ブックマーク・誤字訂正・書籍のご購入等々、誠にありがとうございます!

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