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21話。神城、転職したってよ

村上が1分トークの意味を理解していなかったので初投稿です。





「待たせたな」


「いえ! 話に聞いていたよりも早かったです!」


聞けば、転職は文字通り自分の将来が掛かる一大転機の一つである。よって最初から『騎士として生きる!』だとか『メイドとして生きる!』と決めている場合を除き、悩むのが普通なのだとか。


さらに言えば、選択肢が多ければ多いほど悩むものらしい。で、上級貴族の場合は見栄を張る意味もあって、長時間掛けることで周囲に『沢山の選択肢があって悩んだ』といった感じのポーズを見せるものだという。


それに鑑みれば、神城が一つしかない転職先を見て呆然としていた時間は、通常この教会で転職を行う人間の平均を大きく下回るものだったそうな。


「……そうか」


「はい! あ、それで、なんですけど」


「ん?」


「大司教様が、ご主人様と()()()したいことがあるそうなので、転職が終わったらお顔を出してほしいとのことでした!」


「……そうか(だよなぁ。でも避けては通れないよなぁ)」


転職を終え、自分が部屋から出てくるのを待っていたヘレナと合流した神城は、なんやかんやで今回得た職業及びスキルに向き合う覚悟を決めた(諦めたともいう)ものの、自身が新たな問題を抱え込んでしまったことを自覚し内心で頭を抱えていた。


その問題とは、女神曰く『この世界が中世ヨーロッパ風な世界であること』であった。


そもそも『中世ヨーロッパ』とは、5世紀から15世紀までのおよそ1000年もの期間のことを指す言葉である。もっと細かく言えば、5世紀から10世紀までが中世前期。11世紀から13世紀が中世盛期。そして14・15世紀が中世後期と区分されるものだ。


(女神は中世()と纏めていたが、細かい区分は教えてもらっていないんだよな。いや、まぁ、神が人間の学者が勝手に区切った細かい区分を理解しているかどうかは知らんけど)


そういう意味では、上位者である彼女が中世という言葉を知っていただけでもマシともいえるのかもしれないが、だからといってそれが神城に有利に働くわけではないのが悩ましいところである。


……神城が懸念しているのは、この1000年の中には『暗黒時代』と呼ばれる、為政者や宗教組織の弾圧によって数多の文化や技術が失われた時代が存在していたことだ。


(これまでの行動や根回しにより得た立場がある以上、為政者側からの弾圧はなんとかなるだろう。しかし宗教となると、な)


神の存在が曖昧であった向こうの世界でさえ、宗教は一国の王を上回る権勢を得ていたのだ。神の実在が認められているこの世界に於ける宗教は、いったいどれだけの権勢を得ているのか。


(彼らの逆鱗がどこにあるのかが分からないのも痛い)


それこそが営業マンの間で『宗教と野球についての話題は絶対の禁忌(タブー)』とされていた理由の一つである。


そういった経緯からこれまで宗教家との折衝を経験したことがない(普通の営業マンの大半はそうなのだが)神城としては、フェイル=アスト王国で最大勢力を誇る宗教家、それもその最高権力者とされる大司教を相手にぶっつけ本番の交渉などしたくはない。したくはないのだが……


(スキルを活用するためには、どうしても教会の理解を得る必要があるからなぁ)


元々回復魔法の使い手を独占している教会から見れば、魔法を使わずに傷や病を癒す手段を有する薬師という存在は商売敵といっても良い存在である。そのため宗教家が幅を利かせている神聖帝国では『魔女狩り』に近いことが行われており、薬師の立場は非常に危ういものとなっている。


それを踏まえて考えれば、国教を束ねる大司教にとって、見たこともない薬で『奇跡』を引き起こすことができる神城という存在は、『奇跡』という既得権益を侵す明確な競合相手となるだろうことは想像に難くない。


否、競合相手ならまだよかった。この件で最大の問題は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり()()()()()()()()ということにある。


競争すらできない彼らにとって神城がどう見えるか。想像するのも嫌だが、しないわけにもいかない。


(誰がどう見ても不倶戴天の敵です。ありがとうございました)


こんな面倒な相手なんか無視できるなら無視したい。

しかしそれは現状不可能である。


ならば交渉によって相手に華を持たせつつ自身の利益を守るしかない。

しかし宗教家と交渉などしたくない。

だが交渉しないという選択肢は無い。


実際のところ、ただ権力がどうこうというだけなら、侯爵に頼み込んで彼の領地にでも逃がしてもらえばなんとかなるだろう。実際これまでならその選択肢も有った。


しかし(今の時点で教会の理解を得なければ、近い将来絶対に面倒なことになる)そう確信しているが故に、大司教との交渉を投げ出すという選択肢はない。


その根拠は、神城が新たに得たスキル『手術』にある。


(最初このスキルを目にしたときは『外科手術』だけが頭に浮かんだが、よくよく考えれば『美容整形手術』も『手術』なんだよな)


日頃から化粧品を取り扱っているおかげだろうか。神城はメスを武器にするような文字通り暴力を売りにした『ヤクザ医師』ではなく、非合法の医師という意味での『ヤクザ医師』の可能性に気付いたのだ。


そうなると必然的に必要になるのが『手術』のスキルアップである。この世界のスキルは知識と経験によって確かな技術となる。スキルを得たからと言って、即座に手術ができるわけではないのだ。


ではその知識と経験を得るために必要なものはなにか? 知識は医療従事者による教育によって得られるものであり、経験とは実践によってのみ得られるものである。そしてこの世界に於ける医療従事者とは、教会勢力が抱える回復術師のことを指す。


つまり神城が知識を得るためには教会勢力の協力が必要不可欠。ということだ。


(……そもそも教会(医療機関)の許可なく施術(人体実験)なんかできん。というか、回復魔法が存在する世界で人体にメスを入れる所業が許容されるのかどうかすらわからんしな)


一般に、正式な許可なく医療行為(人体実験)を行う者をヤクザ医師(MAD医師)というのだろう。しかし、『医学の発展(スキル向上)のためなら何をしても良い!』などと抜かすようなMADと違い、至って普通の感性を持つ神城はどこぞの(ジャ〇ヌ狂いの)青髭(ギョロ目)とか、どこぞの(何度も出てきて恥ず)血の伯爵夫人(かしくないんですか?)のような悪名を被るつもりなど毛頭ないのだ。


(まぁ、必要ならヤるが、そもそも手術が必要になる状況なんてあるのか? 無ければ別に放置でも問題ない……いや、でもせっかくのスキルだし勿体ない気もするし。だけど今の生活を捨ててまで必要か? と言われると、それもまた微妙なところなんだよなぁ)


結局のところ、神城にとってスキルとは『自分が楽に生活するために用いる手段』でしかない。で、ある以上、手術というスキルを切り捨てることで生活が安定するのであれば、神城は迷わずスキルの使用を控える所存であった。


「……よし、行くか」


「はい!」


そんな後ろ向きなのか前向きなのかわからない決意をして、神城は大司教との交渉に臨むのであった。



◇◆◇◆



某国某所


「前の分の代金は持った?」

「持った」

「あいさつ代わりのお土産は?」

「ばっちり」

「次に欲しいものリストも?」

「当然」

「この前預かった、わんちゃんからの手紙(挑戦状)は?」

「燃やした」

「そっか。なら問題ないわね」

「うん」


出発前から手紙を燃やされた差出人がこの場に居たら間違いなく「おいっ!」と文句を垂れるであろうが、残念ながら『わんちゃん』と言われた者はこの場にはいないし、いたとしても無視されたことは間違いない。


なにせ立場上同格であっても、『わんちゃん』と()()()の間には明確な差があるのだから。


「じゃ、行くわよ」

「うん。あ、そういえば」

「なに?」

「みんなの分のお土産。欲しいもの聞くの忘れた」

「あ~。まぁ甘いものでいいんじゃない? みんな喜んでたし」

「それもそっか」

「そうそう」


……実際前回のお土産で喜んでいたのは、9人中3人(女性陣)だけなのだが、甘いものの前にはそんなこと(男性陣の不満)は些末なことであった。


どこまでもマイペースな二人は、緊張感の欠片も抱かぬまま目的地へと飛び立つのであった。



時代によっては手術とか普通に魔女狩りの対象ですからねぇ。 

許可を取らない手術なんかしたら間違いなく異端ですし、時代背景的に色々と気を遣わないといけませんよねってお話。



―――


ドーモ。山も谷もない人生こそ至上。ベ〇パのバイク乗り並に地ならししてフラグを潰していくスタイルの作者=デス。


最近作中で悪ふざけでルビを振っていますが、勿論権利者様から怒られたら消しますですはい。


そんな大人の配慮がなされた上で発売された拙作の2巻をよろしくお願いいたします(開き直った宣伝)


―――


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