19話。神城、転職するってよ⑤
パンから生まれたパン太郎と前田政二の暗躍に衝撃を受けたので初投稿です。
「さて。これが例のあれ、か」
大司教との会話を終えた神城は、大聖堂内で『唯一ここだけ』と言って良いであろうそれなりに広い割に一切の飾り気がない部屋に入り、その中心部に設置されている『石碑』と呼ばれる物体の前に立ちながらそう独り言ちた。
「この部屋に飾り気がないのは仕様なんだろうが……貴族制だったり神聖帝国なんて国がある世界で、この質素さは異常だよな」
神城の持つ常識からすれば、自身の目の前にある『石碑』は転職という神の奇跡を体現できる装置である。なればこそ、このような殺風景な場所ではなく、大聖堂のど真ん中に設置すると共に、周囲に神の像などをこれでもかと置いて宗教色を強めようとするものではないか? と思うのだ。
「ただまぁ、この石碑自体は世界にこれ一つってわけでもないからな。最終的にこういう扱いになるのも当然と言えば当然かもしれん」
なにせこれと同じものが、一つの街に一つくらいの単位であるのだ。いや、街に一つしかないと考えれば間違いなく貴重品なのだが、神器として飾り立てるにしては多すぎるのもまた事実。故に過度に飾り立てるよりも質素な個室に置き『個人情報の保護に努めてます』という形にしたほうが上級貴族の受けは良いのかもしれない。
「……よし。そろそろやるか」
なんやかんやで初めてのファンタジー物質を前にして緊張していた神城は、そう言いながら石碑に手を翳し、自分が次に就く職業に思いを馳せる。
(職業選択の条件が最初に考えたようにウィザード〇ィ風なシステムだったら、今の俺はかなりの種類の職業を選べるはず。まぁ一次職から進化するツリー的なシステムもあるから、俺がなれるのは薬剤師の上位職か、他の一次職だろうが、それでもほとんどの職業にはなれるはずだ。あとは複合職が気になるところだな。エレンからは【メイド】と【スカウト】を修めることで【アサシンメイド】という複合職が派生すると聞いている。ならば【薬剤師】と何を掛け合わせれば複合職が派生するのかねぇ?)
社会人として生きる中で忘れかけていた少年の心を滾らせる男、神城。そんな彼の現在のレベルは、個人レベルが6で、職業レベルが45となっている。
この45という数字を自覚していたからこそ神城は、エレンに言われるまで自分が職業レベルの上限に達したと思っていなかったのである。
もしこの数字をラインハルトが知れば(彼に限らず、この世界の人間の大半がそうだが)アホ面を晒して「はぁ?」と声を挙げることになることは間違いない。
なにせ彼らが認識(誤認)している神城の職業は【薬師】であり、その上限とされている職業レベルは20なのだ。さらに言えば、この45という中途半端な数字も無関係ではない。なぜならこのレベル45という上限は特殊四次職と呼ばれる職業にしか存在しない数字であり、今まで特殊4次職として認知されている職業は【勇者】しか存在しないのである。
流石は女神によるチート改造というべきだろうか。
とは言っても、神城という男は周囲に己のレベルを吹聴するような性格ではないし、元々この世界には『他人のスキルやレベルを探るのはマナー違反』という文化があるので、今のところこのことが原因で問題が発生する可能性は極めて低いというのが、神城にとっても、彼を【薬師】として利用したい周囲の面々にとっても幸いなところだろう。
神城的には「今更?」と首を傾げるような新事実はさておくとして、いまは転職について、である。
ちなみに神城は、女神との交渉の結果最初に得た職業が自身の憧れであった【薬剤師】という職業であったことに後悔はない。ないのだが、神城も夢見る男の子。ファンタジー溢れる世界に来たからには魔法の一つも使ってみたいし、剣だって振ってみたいのだ。あわよくば魔法剣なんかできたら最高なのである。
(目指すはアバン〇トラッシュ! いや、月〇天衝のほうがオサレか? いやいや、まさか千〇桜とかできたりしない……よな?)
実際に自分が戦場で剣を振るうことはないと確信しているからこそ可能な妄想である。問題があるとすれば、ファンタジーな世界に居ると自覚しているだけに、浪漫技に対する憧れが留まることをしらないことくらいだろうか。
(やはり最初はミツルギスタイル。次いでガトチュゼロスタイルを修得せねばなるまいて。ならば選ぶ職業はサムライ一択。もしサムライが無ければ剣士とか、かな?)
「これぞ正しく、夢がひろがリングって……さて、ヘレナや大司教を待たせていることだし、いい加減職業の選択をしなければ。たしか触ると自分が選べる職業がわかるんだよな? いったいどんな感じなのかねぇ。やっぱりお約束としては『こいつ、直接脳内に』ってやるべきかなって……はぁ?」
『【※Qz◇hΦ】になりますか?』
これまで普段エレンやヘレナの前では絶対に見せないようなダラシナイ表情をしていた神城が石碑に触れると、小ボケをしようとしていた神城の脳裏に一つだけ、なにやら文字化けしたような選択肢が浮かんできた。
「……いや、ジョブツリーシステムなんだから、薬剤師の上位職業が選択肢に浮かんでくるのは理解できるぞ。まぁ、文字化けしてるのはアレだが、元々薬剤師を得た経緯が特殊だからな。バグもシカタナイと許容しよう。だけど一次職が何も出てこないのはおかしいんじゃないか?」
自分の将来に密接に関わるであろう転職先にバグや文字化けがあることを許容する時点で神城が冷静でないことは明白なのだが、幸か不幸かこの場にツッコミを入れる者はいない。
「これはアレだろ? 『いいえ』を選択してもずっとコレだけ出てくるヤツだろ? ついでに言えば、今でさえ職業レベルが上限に達したことで私生活に違和感を覚えているもんな。だからこそ、ここでこれを選ばないって選択肢はないってことだろ?」
『【※Qz◇hΦ】になりますか? はい・yes』
「おいィ?」
脳裏に浮かぶ文字に対して問いかけるようにつぶやくと、文字は選択肢を与えると見せかけて『これ以外は選択させん』という気合の籠った回答を提示してきた。神城の精神に併せたのか、随分とノリのいい選択肢である。
「……ネタはともかくとして、こいつはどうしたもんかねぇ?」
神城の立場を考えるなら、一旦保留して大司教やラインハルトにこのことを伝えるのが正しい行動だろう。しかし、だ。
「珍しい=目立つ。だよなぁ」
『勇者として召喚された人間の転職先が、文字化けした未知の職業だった』そんなことが発覚したら目立つに決まっている。下手すれば研究材料として監禁されたり、実験体として処される可能性まである。
自他ともに認める小物である(他人はそうは思ってない)神城は、保留して周囲に告知することと、さっさと転職することを秤にかけ……。
「どちらに転んでも転職するしかないんだ。どうせなら周囲に知られないように隠すほうがいいに決まっている」
秤にかけるまでもなくあっさりと決断をくだす。なんやかんやでこの世界でも知り合いが増えつつあるが、誘拐犯とその仲間に倫理を求めるほど、神城はこの世界の人間に気を許してはいないのだ。
「あとは……そうだな。貴族なんだから大抵の相手は誤魔化せるだろ。なんなら『薬師から薬剤師になりました』とでも言っておけば文句はないだろうし、な」
(勇者一行のように王城で囲われているならともかく、今の自分は異国の貴族としてその立場を認められているのだ。ラインハルトが無理やり聞き出そうとしてきたなら難しいかもしれないが、それ以外の相手ならいくらでも誤魔化せる。残る問題は侯爵家だが……大丈夫だな。ルイーザが嘘を見抜くスキルのようなモノを持っていることは理解しているが、あれはあくまで嘘を吐いているか否かを見抜くだけのスキルだ。嘘の内容を見抜けるわけじゃない。ならば『薬師の上位職に就いた』とでも言えば誤魔化しは十分に可能なはず)
『【※Qz◇hΦ】になりますか? はい・yes・Ja』
「……なんでドイツ語なんだよ。いや、カルテとかドイツ語なんだっけ? まぁいいや。答えは『はい』だ!」
知られて困るのは『転職先が文字化けしている』という事実だけ。それさえ誤魔化せるなら問題ない。そう判断した神城は、脳裏で自己主張をする選択肢にツッコミを入れつつ、あえてテンションを高めにし、香ばしいポーズを取りながら日本語で選択をする。
『選択を確認。これより【※Qz◇hΦ】への転職を開始します』
「うーむ。機械的というかなんというか。転職するときって皆こんな感じなのか?」
香ばしいポーズをとりながら首を捻る神城。
無論、通常の転職ではこのようなことはない。神城以外の場合だと、脳裏に浮かんできた選択肢を選択することで職業が変わるだけであり、このような機械的なアナウンスが流れることなどないのだ。
よって、もしも神城が『転職の際にアナウンスを聞いた』などと口にすれば、転職を神の御業と考える者たちに「それはどんな声だった!?」と囲まれることになるだろう。
閑話休題。
香ばしいポーズのまま固まること数分。
『【※Qz◇hΦ】への転職を完了しました。更新内容については自己診断にて確認をお願いします』
「Windo〇sかよ」
自覚のないまま宗教的に危険な橋を渡った神城は、転職が無事に終わったことに内心で安堵しつつ、脳内再生された親切なんだか親切じゃないんだかイマイチわからないログに思わずツッコミを入れる。
「あ~自己診断って、薬剤師スキルにあった『診断』を使えってことだよな? ……ということは、薬剤師じゃなくなっても前に修得したスキルは使えるってことか。それなら新しい職業がなんであれ、とりあえずこの国で生きていけるな」
神城はそう呟くも。生きていけるどころか、秘薬と呼ばれる薬の需要は留まることを知らないほどに高まっている昨今、どこにいっても重宝されることは間違いないだろう。
というか、もしも転職が原因で薬剤師スキルが使えなくなっていたなら色々と面倒なことになっていたのだが、その辺の話に関しては、まぁ無事に済んだので省略させていただこう。
「まぁ早速使ってみるか。『診断』……は?」
なにはともあれ「社会人として自分の状態を確認することは当然である」と考え、自分に『診断』を使った神城は、診断結果を確認した瞬間、目を点にすることになる。
そこに表示されていたのは……
名前:神城大輔 レベル6
職業:ヤクザ医師 レベル1
スキル:薬術?(診断・成分摘出・成分分析・成分調整・製剤・投薬・薬品鑑定・毒無効・調剤)
ヤクザ医術?(手術道具召喚・手術・???)
体力:A 魔力:S 力:A 頑強:B 俊敏:A 知力:S 精神:S 器用:S
「……マジかよあのヤロウ! やりやがったッ!」
ヤクザ医師。それは転生の際に女神が語っていたネタ職業。
そんなネタ職業こそが神城に用意されていた上位職であった。
済まない。忙しさや病院とかで更新が遅れて本当に済まない。
そんなわけで伏線? 回収ですってお話。
―――
ドーモ。書籍の発売日にも更新できず、その次の日曜にも更新をできなかった作者=デス。
そんなわけで、今更になりますが拙作の2巻が無事発売されました。勿論3巻を出して頂けるかどうかは2巻の売上次第でございます。オリジナル要素満載の書籍版の続きが見たいと思われた方は、何卒ご購入の程よろしくお願い申し上げます。 (普通に宣伝)
あとがき? ハハッツ。
……電子は24日発売ですので、そっちでも大丈夫ですよ?
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