18話。神城、転職するってよ④
アーモンドアイとR藤本が強かったので初投稿です
神が実在するとされているこの世界に於いて、上級貴族用の教会(正式には大聖堂という)に訪れた貴族が最初にするべきことはなにか? と問うたならば、全ての者たちが口を揃えて言う答え。いわゆるベストアンサーと言えるものがある。
それは『大司教への挨拶』だ。
(面倒だが、やらねばならんよなぁ)
なにせ教会といえば、王国の宗教を統括するという精神的な面だけではなく、神聖魔法の使い手を囲い込んでいるため、冠婚葬祭に於ける祝福や病気の快復。解呪やアンデッドへの対処等々、様々な分野に根強い権益を有する組織である。
そんな強大な権益を持つ組織である教会は、神聖魔法の使い手だけでなく、転職に際して接触することが必要不可欠とされる『神の石碑』と呼ばれる神器も独占している。
これは都や街に造られた教会にしか設置されていないため、転職を必要とする人間は、教会に対して維持費や寄付金という名の税を支払う必要がある。加えて、この世界では常識として5歳になったときに行われる祝福を皮切りに、レベルが上限に達したら転職をするという考えが根付いているのだ。
つまり『この世界で生きていくためには、教会に世話になる必要がある』と言っても過言ではない。
当然、必要と供給を独占する組織のトップが持つ権限は絶大で、分野によっては国王を凌ぐとさえ言われている。そんな専制国家に於ける絶対権力者である宗教家のトップを無視することなど、今の神城にできるはずもない。
(正直、宗教の話は苦手なんだけどな)
『商談相手と野球や宗教の話はしない』
これは現代日本で営業職に従事する人間にとって、もはや常識とも言える心得である。当然長年ルート営業に勤しんでいた神城の中にも顧客と宗教的な会話をすることに対する忌避感は根強く残っている。
まして神城という男は、神と呼ばれる上位存在に接し、その存在を確信しておきながら神を崇拝していないという、異色の精神構造を持つ男だ。そんな人間が宗教組織のトップと何を話せというのか。
(それに、神が実在して一番困るのは宗教家だっていう小話もあるくらいだしな。もっと言えば中世風の世界に蔓延している宗教なんて絶対に碌なものじゃないだろう? ……かかわりたくねぇなぁ)
偏見に塗れた意見ではあるが、実際に「教会という勢力は清廉潔白な組織なのか?」と問われて「そうだ」と即答できる人間は非常に稀少であることを考えれば、決して間違いとも言えないのが教会という組織の恐ろしいところである。
相手の立場や宗教に対する神城の不遜な思惑はさておくとしても、普通に考えて、公的な施設を訪れた場合、相手が受け入れるかどうかは別としてもその施設の責任者に挨拶をするのは当然の礼儀である。
そして、上級貴族用の教会という場に、侯爵という王国屈指の権力者から口添えを受けて訪問した神城からの挨拶を蔑ろにする者はいない。
「ようこそ神の家へ。お待ちしておりました」
聖堂内に入った神城に対し、見るからに偉そうな……というか、絶対に偉いと確信できるオーラを纏った初老の男が声を掛ける。
もし声を掛けられたのが高校生気分を引き摺っている勇者たちだったなら「どちら様でしょうか?」と質問し、意図せぬままに相手の顔に泥を塗っていたかもしれない。しかし、小心者である神城はそんな迂闊な真似はしない。
「(むこうからきたか)これは猊下。本日は急な訪問となりましたこと、謹んでお詫び申し上げます」
「……いやいや。神は急な子の訪問を喜ぶことはあっても、拒否することはありません。故に謝罪は不要ですぞ」
「天上におられます神と猊下のご厚情に感謝いたします」
「私に対する感謝はともかくとしても、神に感謝するのは良い心がけです。今後ともそのお気持ちを忘れずにいてください」
「はっ。……あぁ、それと、些少ではございますが寄進を用意しております。神の教えを守る一助とし、こちらをお納めいただければ幸いです」
神城が用意したのは、白金貨20枚。一般的な男爵家の年収5年分に相当する額である。
「ほほう。神のためとあらば遠慮をするのも失礼というもの。ありがたく頂戴いたします(袋は小さいが……ほう。白金貨をこの数、か)」
大司教は厳粛な態度をとりながら、神城が差し出した革袋を受けとる。内容を検めて一瞬目を見開くもすぐに冷静になり礼を述べる。
彼にとって2000万シェンはそれほど大きな額ではない。しかし、異世界から来て一年もしない新興の男爵が、当たり前のようにこれだけの額を寄進してきたこと、否、寄進できるだけの経済力を有していることは計算外であった。
(金があることは悪いことではない。しかしそれを隠そうともしないのはなぜだ? ……あぁ。例の薬の売れ行きが良いことを示唆しているのか。売れ行きが良いということは、顧客が付いているということ。その顧客の名と存在を背景に「下手な真似はするな」と、そう言いたいのだろうよ。うむ。思った以上に隙がない)
大司教はここまでの流れで、神城の狙いが『自分に利用価値があることを自己主張しつつ、後ろ盾の存在をチラつかせて教会の行動を掣肘することにある』と判断し、神城への評価と警戒を一段階高めることにした。
……ちなみにこの一連の流れは、大司教をはじめとした教会の面々による、一見さんである神城が最低限の常識やマナーを弁えているか否かを見定めるための面接のようなものだったりする。
(ある意味で貴族として当たり前のことは当たり前にできる、か。小僧どもと同じ勇者というから、もう少し阿呆かと思っていたのだが、中々どうして。これは侯爵が教えただけではなく、生来の気質であろうな)
立場上、王城に赴いて勇者を名乗る異世界の子供と接触をしてきた経験を持つ大司教は、目の前にいる神城という男が当たり前に貴族が行う作法をこなしてきたことに感心していた。
なにせ神城以外の勇者たちは大司教である彼を前にしても、寄進を口にするどころか、まともに畏まる様子すら見せなかったのだ。尤も彼らに寄進するだけの金がないことなど大司教とて理解はしている。しかし、だ。それならそれで何かしらの協力を提案するなりすれば良いではないか。そういったことを一切せず、ただなんとなく『お偉いさんっぽいから』という理由で頭を下げるような子供に何を思えというのか。
(あれこそ無礼。あれこそ不遜。それに対してこやつは……うむ。よくわかっておる)
前の連中が駄目だったせいで、あとに続く者が普通にするだけで相対的に株が上がるという不思議。それが神城にとって良いことかどうかはさておくとしても、神城はまたしても自分の意図していないところでその価値を高めることになってしまう。
そんな感じで宗教団体のトップからの評価を高めた男が現在何を考えているか? というと……
(普通の冒険者なら普通に街の教会に行って普通に転職するだけなのになぁ。やっぱり貴族や宗教はめんどくせぇ)
自分の境遇から『普通』であることが最初から許されなかったことや、権力者との顔繋ぎの重要性を理解しているが故に顔にも口にも出さないが、内心では一連のやりとりにうんざりしていたという。
その後、神城と大司教の会話は数分続き、最終的に「御名残り惜しいのですが、これから神へのご挨拶が有ります故、このあたりで失礼させていただきます」という神城の断り文句に対し「おぉ。そうでしたな。では、それが終わりましたら少しお時間を頂けますかな?」という、神城に断る術がない提案によって締めくくられることになる。
「えぇ。よろこんで」
笑顔を浮かべる大司教に対し同じような笑顔でそう返した神城の内心は、まさしく『推して知るべし』といったところであろう。
勇者諸君は『大司教』と言われてもピンとこなかったもよう。
まぁ普通の日本人はそうですよね。……それを相手がどう思うかは別として。
次回、ようやく転職。
ハローワークにはいきませんってお話。
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