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11話。貴族の事情

かなりの適当さ。これが作者の考える『ナーロッパ』と『ナ本』だ!

意図して政治的な話を避けていた俺たちだったが、意外と話のネタはあるもので、茶の味やティーカップの品質、それにソファーに使われている革の材質など、色々な情報を得ることができたので、成果は上々と言っても良いだろう。


まず基本的なこととして。この世界は地動説が定着している世界だ。時間と暦は、一日が24時間で、一か月は30日。一年は360日。大地(星)は丸く、太陽も月もそれぞれ一つずつあることがわかった。


また陸地よりも海が多いらしく、複数の大陸があるらしいが、海の魔物に対抗する術が無いのでそれぞれの大陸の交流はそれほど盛んではない。


種族としては人間やエルフ、獣人やドワーフ。更に魔族や魔物が居るんだとか。そしてその中でも最強の種族はドラゴンらしい。


また、人間の生存圏は意外と広く、それぞれの大陸に国家がいくつもあるらしい。あとダンジョンみたいなのもあるそうだ。


うむ。言ってしまえば典型的なナーロッパだな。


そんなこんなでこの世界の基本的な知識を得たので、次は金や文化に対する質問をしようとしたのだが……


「閣下。ただいま戻りました」


丁度良くと言うかなんと言うか、向こうが確認に出していた執事っぽい男が戻ってきた。そしてそれまで俺と話をしていた貴族も、一旦話を切って執事っぽい男に目を向ける。


「来たか。それで?」


「はっ」


執事っぽい男はチラリと俺を見るが、その視線には嫌味とかは無く、純粋に客人を案じているような感じが見受けられた。


どうやら彼の中で俺は『客人』にランクアップしたらしい。一応、これが演技という可能性もあるが、現時点でそんな無意味な真似をしてもしょうがないからな。


「あぁ構わん。そのまま答えよ」


俺がどう思ったかはともかく、向こうの貴族も執事っぽい男の態度でなんとなく察したようで、俺に対して『隠す気は無い』という態度を見せてくる。


「はっ。それではご報告いたします」


「うむ」


「神城様の仰ることは事実でございました。彼の国には間違いなく宰相閣下と天皇陛下と呼ばれる方がいらっしゃることが確認できました」


言葉遣いがアレだが、それもそうか。執事の立場だと、他国の貴族を名乗った俺の前で、その国家元首と宰相を呼び捨てにはできんよな。


「……そうか」


報告を受けたお偉いさんは、目を閉じてなにやら考えている。しかし俺には分かるぞ? 内心では『やべぇ!他国の貴族誘拐しちまったよ!』って焦ってるだろ?


そして俺は相手が動揺しているのを逃がす気はない。


「それでは、私の自己紹介を続けさせていただいてもよろしいですか?」


「む? あ、あぁ。そうですな。これは失礼をしました」


なんだかんだで自己紹介の最中に向こうが取り乱して真偽の確認をした感じだからな。そりゃ失礼だろうよ。だがここで俺が「大丈夫ですよ~」と言えばそれで話が終わってしまうから、その前に色々と小細工をさせてもらうぞ。


「いえ、確認が必要なことであるのは事実ですからね」


「うむ。貴殿の言葉に嘘は無かった。しかしまさか貴国にも貴族がいたとは……誠に失礼した」


そう言って目の前のお偉いさんが俺に頭を下げる。


これが平民相手であれば、本人も頭は下げないだろうし、周囲の連中も「○○様!」とか言ってフォローに回るんだろうが、相手が貴族の場合はなぁ。


正確には貴族のことなんか知らんが、ヨーロッパ()の中世社会に生きる貴族のことは知っている。貴族にとって重要なのは、相手が貴族か否か、だ。


たとえ唸るほど金が有る商人相手であっても、貴族は簡単には頭を下げない。商人だって貴族に頭を下げさせたなんて風聞が立ったら困るから、下げさせない。


他国の使者を相手にした時も、相手が平民の場合は彼らが慮るのは使者の背後に居る国家であって、使者個人ではない。翻って俺の場合はどうか?


立場で言えば、たとえ平民であっても異世界から召喚された勇者一行の一人であり、国家として持て成すべき客人だ。その客人が貴族となれば、尚更だろう。


しかし、ここで図に乗ってはいけない。


「いえ、どうせ現状では帰ることのできぬ地の話です。国家の後ろ楯が無い貴族に如何程の価値が有りましょうか?」


「……はっきりと言いますな。確かに否定はできませんが」


俺が少し譲れば、向こうは苦笑いをしてグラスに注がれていた酒を飲む。


貴族とは、その身に宿る血も重要だが、仕える国や治める土地の後ろ盾があって初めてその力を発揮する。しかし今の俺には自分の身一つしかない。それを考えれば調子に乗るのは悪手。


故に、まずは向こうに理解を示し、自身の立場を安定させることを第一にするべきだろうよ。


これだけを聞けば俺の思考はかなりハードルが低いように思えるかもしれない。しかしながら、そもそも中世ヨーロッパに於いて『安定した立場』というのがどれほど得難いものかを考えれば、これは十分高望みとも言えるだろう。


大事なのは安全の確保。そのために必要なのは確固たる足場。故に、俺は、ここで下手に嘘をかずに自分の立場を明確にしていく。


「それに先程の名乗りでも言いましたが、所詮私の家は正五位の家に過ぎませんので」


そう言って俺がおどけた顔を見せれば、向こうはなんとも言えない顔をして俺に質問をしてきた。


「……先程も言われましたが、その【正五位】というのはどのような立場なのですかな?」


そうそう。当然の疑問だよな。


向こうはこれを五番目に偉いと勘違いしたかもしれん。本来ならその勘違いを利用するべきなんだが、向こうには学生や木之内さんがいるからな。下手に嘘を吐いた場合どこでばれるかわからんから、この辺は正直にいこうか。


自分の思い通りの質問が来たことに内心で笑みを浮かべそうになるが、こういうときこそ油断は禁物。と気を引き締めた俺は努めて真面目な表情を作り、向こうからの質問に答える。


「恐らく閣下のお考えになっているような意味ではございません。この場合の五位とは、順位ではなく階位を差します」


「階位ですと?」


「はっ」


掴みは十分。そう考えた俺は簡単な説明を行うことにした。


「まず一位。これは関白や太政大臣とも呼ばれますが、今は宰相のことだと思ってくだされば良いでしょう。国によっては公爵閣下に相当します」


「ふむ」


正確には四位に相当する参議が宰相と呼ばれるのだが、あくまで『思ってもらえば良い』なので嘘ではない。さらに昔の日本は公爵に一位を与えていたので、これも嘘ではない。


「二位が外務省や財務省といった組織を束ねる大臣で。侯爵閣下や上位の伯爵閣下に相当するかと」


「なるほど」


向こうからすればここまではわかりやすい話だろうな。問題はこの後だ。


「三位が国の立法府に於ける議員や都道府県と呼ばれる地方の首長でしょうか。領地を持つ辺境伯閣下や伯爵閣下に相当しそうです」


「ほう?」


「四位が都道府県の中にある市区町村と呼ばれる行政区域の内、大規模な市や区の首長でしょうか。こちらの貴族制をまだよく理解できていないのであやふやではありますが、子爵閣下や男爵閣下がこれになるかと思われます」


「いや、確かに大規模な街ならば子爵が束ねる場合があるので、その理解で問題無い」


この辺は多少の誤魔化しが混じるが、敢えてあやふやにすると告げることで嘘ではないと相手に印象付けることに成功したようだ。


また、向こうとしても四位の時点で子爵の名が出てきたので、五位の家である俺に対しての心理的なハードルは随分と下がっているように感じられる。


俺としても下手に持ち上げられても面倒なことになるのは目に見えているので、このままの印象を保てるように話を進め。


「そうでしたか。では話を進めさせていただきます。四位の下である五位には正と従があり、正五位が都道府県に常設されている議会の議員となります。これも男爵閣下に相当するでしょうか? そして村や町の首長が従五位。準男爵閣下や騎士爵の方が該当しそうですね」


「なるほど。……つまり正五位である貴殿の家は?」


「地方の男爵家程度のものと思っていただければ」


「ふむ。それでも男爵に相当する家ではある、か」


当たり前の話だが、王公貴族が存在する社会に於いて、最も強固な立場を持つのが貴族である。そして貴族社会に生きる貴族にとって重要なのは『貴族であるか否か』だ。だからこそ『自分の立場を安定させるためには貴族になる必要が有る』と判断した俺は、実家の力を利用することにしたのだ。


これは『こんな異世界に来たんだから使えるものはなんでも使う!』という精神もあるが、親父や祖父の立場になって考えた場合『異世界とはいえ神城家の名が高まることに喜ぶことはあっても怒ることはない』と判断したからでもある。


ちなみに実際にこの位階であるが、長年市町村長や各種議員などを務めた人間が死んだ場合に実際に贈られるものだ。ただし当然ながら『家』ではなく『個人』であり、中世ヨーロッパ風に言うなら一代貴族に近いのだが、その辺をわざわざ自己申告するほど俺はお人好しではない。


そんな神城家ウチの事情はともかくとして。まずは目の前の交渉だ。


「……おおよそは理解した。これから多少の話し合いは必要になるだろうが、まずは問おう。貴殿は私に何を望むのかね?」




~~



ローレンとしては、自分たちが召喚した人間の中に異国の貴族が混じっていたことに衝撃を受けており、貴族としての責任からも彼に対しての支援の必要性も感じていたので、余程のことがない限りは神城からの『お願い』を断るつもりはなかった。


そしてこの言葉を引き出した神城はと言うと……


(よし!)


内心でガッツポーズをしていた。


それはそうだろう。神城はこの言葉を引き出すために、長々と位階について語ったのだ。その成果が出て嬉しくないはずがない。


「それでは……」


とは言っても、調子に乗りすぎれば行方不明になる(不幸な事故に遭う)可能性が高いのは変わっていない。故に神城は(まだ第二段階をクリアしただけだ)と自分に言い聞かせ、ローレン(お偉いさん)との会談に臨むのであった。




作中にも書きましたが、作者が生きている現代日本では、基本的に現在官位は死んだ後に授与されます。生きてる時は勲章とかですよね。


神城君の生きていた日本は微妙に違うのでしょうね(すっとぼけ)


何期も務めた総理は一位を頂けるそうです。中曽○総理も一位でしたね。通常の場合は二位だそうです。


とにかく、拙作に登場する『ナ本』の貴族設定を信じないでくださいってお話。



―――


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