10話。秘書官による確認
ご都合主義?タグがあるから大丈夫です!
神城とローレンが政治や立場とは全く関係ない話をして時間を潰していたとき、主に命じられた秘書官は「できるだけ主君を待たせないように」と考え、足早に晩餐会の会場に向かっていた。
そもそも神城の言葉に嘘はないことを確認したのは彼なのだから、わざわざ主君を待たせてまで確認に走る必要は無いのであるが、この確認は向こうが「誠意を見せる」という形で提案してきたことであるため、断るに断れなかったという事情がある。
故に彼は、ただただ素早く戻るために、手短に一言だけ重要な案件の真偽の確認をしたら、即座に主が待つ部屋へと帰還する予定であった。
以下そんな秘書官と、晩餐会で飲み食いをして緊張感を失った生徒の会話である。
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「お楽しみのところ申し訳ございません。失礼ながら一つ質問させてもらってもよろしいでしょうか?」
慣れない酒を飲んだのか、見るからに緊張感の無い少女を見つけた秘書官は、これ幸いと声をかけた。
「は、はい?(うわ!イケメン!って言うか、この世界ってイケメン多すぎない?!)」
いきなりイケメンのナイスミドルに質問をされたことで舞い上がってしまう少女であったが、秘書官にとっては彼女の内心などどうでも良いことなので、自らの仕事を遂行するために口を開く。
「貴国には、その……」
「???」
(あまり大きな声で言えば他の貴族や少年少女たちにも聞かれてしまう)そう考えた秘書官は、声を顰めて質問をした。
「内閣総理大臣という宰相閣下や、天皇陛下と呼ばれる国主が居る。というのは本当でしょうか?」
「(宰相? あぁ、確か総理大臣の別名って宰相なんだっけ?)えぇ、確かに居ますよ」
宰相に対してはあやふやであったが、流石に総理大臣や天皇陛下の存在を知らない高校生は居ない。そのため少女はなんの気負いも無く、秘書官からの質問に答えた。
「……そうですか。ありがとうございます」
「あ、はい。(え? 終わり? もっと話しても良いのに!)」
いきなり異世界に来た。貴族社会のパーティーに主役として参加している。慣れない飲酒。という、いろんな意味で吊り橋効果が発動したうえに、普段イケメンのナイスミドルと会話する機会など無い女子高生にとって、彼との会話は短いながら中々に刺激的であったようだ。
この後、彼女は年上のオジサマ好きにクラスチェンジを果たすことになるのだが、それは本編に全く関係ない話なので割愛させて頂く。
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そんな女子高生の乙女心はともかくとして、明らかに事実を事実として告げている少女の態度を見て、秘書官は魔法を使う必要性を感じず、神城が語った言葉には嘘どころか、韜晦もないことを確信することになった。
……ここで秘書官がもう少し細かく「ならば貴族は居るのか?」と聞けば「昔はいたけど今はいないと思う」という返答を引き出せたかもしれない。
しかし秘書官の中では(と言うか貴族的な価値観で言えば)『宰相が居て、国王が居るのに貴族が居ない』などという世界は想像の埒外である。そのため、彼は『異世界にも貴族が居る』と判断して、主の待つ部屋へと帰還することになった。
ちなみに21世紀の日本には、制度としての貴族制は存在しないが、貴族(公家)に近い立場の人間は存在している。
わかりやすいところだと、令和の今上天皇陛下となる即位式に於いて名前が出てきた宮内庁の侍従長や皇嗣職大夫などだろうか。血筋もそうだし、仕事内容も天皇家の側近のような役職であるので、ある意味彼らは日本的な貴族(公家)と言っても良いかも知れない。
そのような事情なので、神城は秘書官が確認を取った少女が「貴族は居ない」と言っても、多少歴史好きの人間や、教師である木之内にも確認を取れば「ある意味貴族に近い存在は居る」と答えが返ってくるであろうことを予想しており、結果としてどう転んでも『神城は嘘を吐いていない』という証明になると考え、こうして向こうに確認させるように仕向けたのだ。
一応、万が一のケースとして、召喚された人間に誰一人としてそういった知識を持った人間が居ない可能性も無いわけでは無かったのだが、その場合は彼らに対し『即位式の時に天皇陛下の近くに侍従とかいたでしょう?』と水を向ければ良いだけだと考えていたりする。
つまりは秘書官やローレンの中にある『国王の側近=貴族である』といった、貴族社会の常識を利用する気満々であったと言っても過言ではない。
どちらにせよ、今回の件に関してはローレン側がその常識の穴を突かれた形となるが、このことで秘書官を責めるのは酷というものだろう。
なにはともあれ(それが神城の狙い通りの行動であったとは言え)、秘書官が主に与えられた『神城の言葉の真偽の確認』という仕事を行なったことは事実である。あとはその結果を報告をすることで、彼の仕事は完遂する。
(いま自分が待たせているのは主だけではない。異国の貴族も一緒なのだ)
そう考え内心で焦燥に駆られながら、彼はこれ以上両者を待たせないために、そして己が得た情報をいち早く主に報告するために、出来うる限りの早足で主が待つ部屋へと向かうのであった。
勘違いは偶然するもんじゃねぇ。意図的にさせるんだ!(房州さん的価値観)ってお話。
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