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9話。自分も貴族?

ご都合主義炸裂!


タグに有るから大丈夫大丈夫。

謁見の間に於いて国王の近くに並んでいながらも、晩餐会では周囲と距離を置いていた貴族に声を掛け、別室で話をすることができるようになったことで、神城はこの時点で(自分の思惑通りに話を進めることができそうだ)と胸を撫で下ろしていた。


それと言うのも、神城にとって最大の懸念は「無礼だ」と言って切り捨てられたり投獄されることであったからだ。それが無かった時点で、彼は最低限の身の安全は確保されたと思っていた。


これは『話ができれば高確率で勝てる』という自負。つまり己の持つ能力と話題についての絶対の自信があるからにほかならない。


そんな自信満々の神城を見て、ローレンもまた自分の選択に誤りが無かったことを確信する。


「この度は閣下の貴重なお時間を頂き、誠に恐れ入ります」


席に座るローレンに対し深々と頭を下げる神城。


「うむ。己の立場を理解しているのは良いことだが、()()()()()()貴公らが宴の主役。故に必要以上に畏まる必要はないぞ」


そう言ってまだ立っている神城に席に座るように促した。


「はっ。ありがとうございます。それでは失礼させていただきます」


ここでラノベ主人公なら、相手が王女であっても平然と態度を変えるのだが、無礼講と言われても本当に無礼を働いたら社会的に死ぬことを理解している神城はそんな迂闊な真似はせず、深々と頭を下げてから席に座る。


その態度に満足したのか、ローレンは一つ頷いてから己の手元に有るグラスに注がれた酒を飲んだ。


そう。この場合の『畏まる必要は無い』は『直答を許す』という意味であり、言い換えれば『土下座しなくて良い』というだけの許可であって、タメ口や無礼を許すわけではないのだ。


これを勘違いすると人間としての評価がガタ落ちし、今後の生活すらままならなくなる可能性もあったのだが、神城はその第一段階を無事に通過することができた。


そして向こうの仕掛けていた地雷を回避したなら(ローレンにはそんなつもりは毛頭ない)次は自分の番だと言わんばかりに、爆弾をぶち込んだ。


「それではお話の前に、まずは自己紹介をさせていただきます」


「うむ」


これまで神城の提案に興味はあっても個人に興味が無かったローレンだが、流石に自身が「本日の主賓」と言った相手にこのような態度を取られては『自己紹介などいらぬからさっさと話せ』とは言えず、神城の自己紹介を聞くことになる。


それが神城が用意した第一の爆弾であった。


「では……私、時の宰相麻生次郎より上奏を受け、正式に天皇陛下の認可を得て正五位の位を授かりました神城家が長男で、姓を神城。名を大輔。と、申します」


「……は? 宰相? 陛下? 正五位の位?」


いきなりの予想外の自己紹介にローレンの頭が真っ白になる。それもそのはず。そもそも彼らの常識として、異世界から召喚されてきた少年少女は『王侯貴族が存在しない世界から召喚されてきた人間である』というのが共通認識だったからだ。


しかしここで神城から【宰相】や【天皇陛下】と言われる存在を明かされたのだから、混乱するのも無理はない。更に彼の混乱を助長したのは、彼の秘書官の存在であった。


(嘘は……ついていないだと?!)


彼らこの魔法が普通に存在する世界に於いて、上級貴族の秘書官には一つの技能が求められる。それは『相手の嘘を見抜くこと』だ。


外交の場や政治の場に於いて嘘など当たり前のこと。商人とて隙あらば相手を騙してやろうという連中であるので、自衛を考えれば嘘を見抜く能力が必要不可欠となるのは自明の理。


故に貴族に求められるのは嘘をつかずに相手を煙に巻くような詐術に近い話術であることはこの世界の常識である。しかし、神城を名乗った若者は今日この国に、否、この世界に来たばかりの人間だ。


よってローレンは、こちらの事情を知らない彼がこちらを騙そうとしてくる可能性を考慮して、この場に秘書官を控えさせ、彼の言葉に嘘が有るようなら伝えるようにと厳命したのだ。


その秘書官の表情を確認すれば、彼は神城が告げた話の内容に驚愕してはいるものの『嘘を吐いていない』と首を振ってローレン侯爵に知らせていた。


(どういうことだ?!)


それによりローレンの混乱は更に増すことになる。そんな目に見えて混乱している相手に追撃を行わないほど、神城はお人好しではない。


「おや? 何か困惑されていらっしゃるようですが、どうかなさいましたか?」


交渉の基本は、相手が冷静な時に利を提示するか、混乱している時に理を押し付けるものだ。今回は明確に後者である。


そして正面から問われたローレンとしても、流石に自己紹介を受けただけで困惑していては目の前の相手に対して無礼であると考え、素直にその理由を明かすことにした。


「い、いや、貴殿らの国家には貴族は居ないと伝え聞いておったのでな」


そう。繰り返すことになるが、基本的にこの世界の国家に伝わっている情報では、勇者らが居を構える国はミンシュシュギなる民衆による選挙によって選ばれた議員が政治を壟断しており、そこには貴族も何も居ないと言われているのだ。


ならば【宰相】や【天皇陛下】とはなんなのか? そして付随された情報である【正五位】とはどのような立場の人間なのか? それが分からなければどのような態度を取るのが適正なのかわからないので、ローレンとしても下手な対応ができなくなってしまう。


貴族制政治は身分制度であるが故に相手の身分も軽視できない。これを利用するのが神城の第一手であった。


「ははは。流石は閣下。ご冗談がお上手ですな。王も宰相も無くしてどのようにして国家を運営するというのですか?」


「た、確かにそれはそうなのだが……」


様々な疑惑が浮かんでくる中、神城はなんでもないことのように平然と貴族的な常識を口にする。ローレンとしてもその言葉に否定の余地はなかったので、頷くことしかできなかった。


「恐らくですが、今まで召喚されてきた者たちは(まつりごと)を正しく理解していないのではないでしょうか? 貴国の民のことは存じ上げておりませんが、例えば都から離れた都市で生活している幼子は、閣下を始めとした貴族の方々についてどれだけの知識があるのでしょう?」


「……ふむ」


貴族は偉い。偉いからこそ領地の運営を任されている。この程度の認識しかない人間は確かに多い。


「それに皆様も召喚されてきた若者たちに我が国の政治体系について詳しく確認をとったりはしないでしょう。推察致しますに、今まで彼らと接してきた方々は表面上の法である民主主義を前提とした政治体系を聞かされたのではありませんか?」


貴族政治や絶対王政を掲げる国家にとって民主主義は理解の埒外にある制度だし、なにより統治する側には都合が悪い制度でもある。


そのため地球でも、民主主義への理解を深めたり、民主主義を広げようとした者は国家反逆罪に問われることもあった。


それらの可能性を考慮した神城は、その思考の穴を突いてきたのだ。


「……確かに納得できる話ではある。我らは貴公らに魔族との戦で活躍してもらいたくて貴公らを召喚させてもらったのだ。そんな貴公らに異国の政を問うような真似をする者は少数であろうよ」


言い換えれば、わざわざ貴族にとって百害あって一利も無い制度に理解を深めようとしなかっただけとも言う。


一応この世界にも民主制に近い制度を利用している国家は有る。しかしそれだって一定以上の収入がある商人たちの連合国家の話であり、誰でも選挙権を持っているわけではないことは明記しておこう。


「そうでしょうね。ただご説明させていただければ、その民主主義の中にも階級があるだけの話ですよ。例えば、こちらの世界には侯爵閣下や伯爵閣下など、貴族の方々が参加する議会が存在する国はございませんか?」


「あぁうむ。無論それは有る」


議会制自体はローマにもあったくらいだから、中世風な世界でもそれほど珍しいものでもないだろう。そう思って神城が確認を取れば、ローレンは普通に頷く。ここまでは神城の狙い通りであった。


「それと同じようなものです。とは申しましても、いきなり今まで召喚されてきた者たちと違うことを言われても、閣下としては判断が難しいかと思われます」


「まぁ、な」


実際は秘書官が逐一確認を取っているのだが、そのことを知らない神城は自身の言葉の信憑性を疑うのも無理はないと一定の理解を示す。  


交渉術の一つなのだが、この姿が更に神城の言葉に彼が思っている以上の重みを与えることになる。


「故に、閣下の手の者に、少し踏み込んだ確認をさせてみてはいかがでしょうか?」


「踏み込んだ確認?」


「はっ。とりあえず我が国にも陛下と呼ばれる者が居るか否か。また宰相と呼ばれる者が居るか否かの確認です」


「あぁ」


現時点で秘書官に嘘かどうかを確認させており、神城の言葉に嘘はないことを理解してるローレンとしてはなんとも難しい表情を強いられる提案である。


しかしこの神城からの提案は、冷静になれる時間が稼げるという一点だけでも自分にとって悪いものではないと判断し、その提案を受け入れることにした。


「……ふむ。確かに確認は必要か。それに、その程度の質問であればそれほど時間も掛からん。よかろう、貴殿の言葉を疑うわけではないが、確認はさせていただこうか」


「はっ。お手数をおかけしますが何卒よろしくお願い申し上げます。あぁついでに一つよろしいでしょうか?(貴殿呼ばわりになったな。まぁ他国の貴族の可能性があればそうなるか)」


向こうの態度が変わったことを感じ取った神城は、更に保険を掛ける。


「何かね?」


「我が国では宰相のことを内閣総理大臣とも言います」


「内閣総理大臣?」


内閣も総理もよくわからないが、大臣は存在するらしい。軍務大臣としてそれを理解したローレンは鸚鵡(おうむ)返しに言葉をつぶやくことで、秘書官にもしっかりと聞かせようとした。


「はっ。向こうの子供たちがそちらを覚えていた場合『宰相が居ない』と答えるかもしれませんので、一応【宰相】と【内閣総理大臣】を併せて聞いていただければと思います」


「相分かった。その両方と【天皇陛下】についての確認をさせよう。では少々時間をもらうがよろしいな?」


「はっ。無論構いません」


これで向こうの子供が余程の阿呆でない限り、自分が処罰されることはない。そう確信した神城と、既に神城の言葉が嘘ではないと理解しているローレンは、両者の都合で秘書官の戻りを待つことになった。


その間、彼らは酒や料理の味など、とりとめの無い話をして時間を潰したと言う。





無礼講は本当に無礼を許されるわけではありませんからねぇ。酒の席だからといって調子に乗ってはいけません。


宰相が居て、天皇陛下が居る。自分の家は正式に正五位を授かった家柄。神城君は何一つ嘘は言っておりません。


騙し騙されの世界に於いて、正直は美徳ですが阿呆でもあります。

開示する情報は吟味しましょうってお話。



――――


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