表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅲ章 魔法工学先端国 オリュンポス諸国 編 ―小さな光と大きな闇―
99/173

第9節 決闘➀

 アルケイデスの申込みに応じた焔。コロシアムで監督生の地位を争う戦いが始まる。

 翌日。焔とアルケイデスの決闘を聞いて、コロシアムには多くの人々が観戦に来ていた。それは、魔獣討伐クラスだけでなく、魔法工学専門や考古学専門などの生徒もだ。


「お前はどっちだ?」

「分かんねぇよ。留学生の実力が、どこまで行くかじゃないか?」


「ミュケナイのご子息が、今の監督生に決闘を申し込むって。授業をサボってる癖によく言えたな。」

「おい。同期とはいえ、公爵の家柄だ。聞かれたら、ヤバい目に合うぞ。」


 色々な声が飛び交う中、焔はコロシアムのコート入口の待機場所で準備体操をしていた。武器を磨き、ルールの把握もできている。決闘のルールは――


【故意に相手の四肢を切り落とす、とどめを刺すことを禁止する】


 である。当然のことだろう。


 “あとは、今の実力で試すだけ! 出し惜しみは、なるべくしないこと。自信を持て、焔!”


 準備体操をしながら、焔は己を鼓舞する。観客席には、アールシュ、アシェル、ルノー、アンジェリカ、メガラ、モージ、オリランドがいる。職員席には、ケイローンとアスクレピオスがいた。


「まさかとは思いましたが。」


 アシェルは、冷静な声色でも驚きを隠せない。


「姉さん……。」


「今は、見守ることが優先でしょう。それは、この状況において妥当です。アールシュ、焔を応援しましょう。」


「はい……。」


 アールシュは当然心配していたが、焔が簡単に負ける人じゃないと強く思っていた。ローマでの戦いを見て、そう思っていた。


「まさか、私たちが出かけている間に。」


「あぁ。ミュケナイ先輩は、何か思いがあるんだろうな。昔の、幼い俺みたいに。」


 ルノーはそう言う。彼の隣に座っていたアンジェリカは、彼の過去に辛い事があるのを出かけている間に知ったが、それは説明できても想像できないことは分かっていた。

 そして、開始の時刻を迎える鐘が鳴り響く。審判の生徒の合図によって、選手入場の音楽が始まる。焔とアルケイデスは、互いと反対側の入り口からコートへ入って配置に付く。


 “諦めないッ‼”

 “必ず、勝つッ‼”


 それぞれの思いを秘め、試合開始の合図を聞く。両者は武器を手にし、飛翔魔術を使って一直線に突進してぶつかる。その瞬間、コートの土が埃として舞い上がって地面にひび割れができる。


「なんだ、その武器は?」


 格闘専用の籠手装備を身に付けているアルケイデスは、受け止めている焔の武器・打刀を見て変なものだと感じる。当然そうだ。


「れっきとした武器です。やぁッ‼」


 焔は、勢いよく腕を押し出してアルケイデスのバランスを崩させる。しかし、彼は体勢を崩さず、拳を彼女へ向けて放つ。彼女は、次々と迫りくる拳をギリギリと言う所で避ける。だが、強敵でも拳の勢いは今までにないものだった。


 “凄い風圧ッ!”


 焔は、距離を取って遠距離魔術を行使し始める。打刀と脇差をそれぞれ手に取り、銃形態に変えて魔法弾の連射を行う。

 アルケイデスは、魔法弾を避けたり拳で粉砕したりして接近してくる。彼女は彼を近づけさせない様に、胴に鎖を巻き付けて後方の空中へ引っ張られながら引き金を引く。


 “脇差しの威力が弱まってる?! どうして?!”


 焔は、脇差しの魔法弾が打刀より弱いことに気づく。更に、アルケイデスが地面を勢いよく蹴り出して、上空にいる焔に向かって飛んできた。


「ガハッ‼」


 焔は咄嗟に防御態勢を取ったが、アルケイデスの拳の勢いで鎖は引きちぎれて地面に叩きつけられる。


「姉さんッ‼ ア、アルケイデスさんに、あんな力が?!」


「そのようです。しかし、その力を長い期間、全力で出すことはありませんでした。私でも、まだまだ観察が必要の様です。」


「アシェルさんって、何かの研究でもしているの?」


「私は、主人(マスター)である焔に仕えることです。それを使命として、私は生まれたのですから。」


 アールシュはアシェルの言葉に首を傾げるが、今は試合の行く末を見守ることが気になっていた。

 焔は地面に叩きつけられて痛みを堪えるも、上からアルケイデスがさらに攻撃しようとする。彼女は、急いで武器を握り締めてその場から離れる。彼が着地した瞬間、土埃と地面の破片が舞い上がる。


 [アルケイデス・ミュケナイ 兵種:暫定不可能 神性所有者 先程の怪力は、全力の約60%と推定]


 焔のスマホは、アルケイデスの性能を分析して彼女に報告する。


 “あれだけの力で、本気の60%?! 油断できないッ‼”


 焔は打刀と脇差の銃形態をそれぞれ手にし、アルケイデスと対峙する。彼女はアルケイデスに銃口を構えつつ、賭けとしてある言葉を投げかける。


「ミュケナイ先輩、一つ問います。貴方は、その力を誰のために使おうと考えているのですか?」


「誰の、為?」


 アルケイデスは、その問いに一瞬揺いだのか言葉を失う。(レイ)は、更に問う。


「はい。貴方は、将来、オリュンポス諸国同盟の長であるのは間違いないでしょう。しかし、同盟主に立つからと言って、どうして監督生と言う地位にこだわるのですか?」


「黙れッ‼ 俺は、昔から難癖をつけて来た者どもに、証明してやるんだよ‼」


 アルケイデスは、拳を正面に突き出す。焔は、彼と鍔迫り合いになりながら言葉を放つ。


「それは、本当なのですか? 先輩なら、守りたいものが、あるでしょう!」


 “焔君。君が彼にそう問うと思いました。……アルケイデス、君は彼女の問いに答えなければいけませんよ。

 いずれ、訪れる試練。逃れる事はできません”


 ケイローンは、二人を試合を見ながらそう思う。そして、隣にいる生徒へ話しかける。


「貴方は、あの二人に関してどう思いますか? ギャレット君。」


 ケイローンの帳に座っている『ギャレット』と呼ばれた青年。白に近い肌、群青に近い蒼色の瞳に白金色の髪、右目が前髪で隠れていて少女に近い様な見た目だ。


「彼女の剣術と武器は、見た事もありません。それ以外に、彼女には他者とは違う点がある気がしますし、実に人間らしい御方だと思います。ですが、彼はいろんな意味で惜しい方です。」


 ギャレットはそう言った。

 焔とアルケイデスは長い間、鍔迫り合いをしており、決着がどうなるか観客はワクワクとドキドキで持ち切りである。


「守りたいもの、だと? そんなの、いくらでもあるさ! だが、そうさせてくれないのが周囲の人間だ。」


「……周囲の人間がそう言うから、このまま押し黙る? 馬鹿ですか。そんなの無視すれば良いじゃないか‼

 守りたいものがいると言うのなら、貫き通せばいいじゃねぇか‼ 偉大なる神の息子で、英雄の名をあやかった貴方なら尚更でしょうがぁッ‼」


 焔は本音を吐き出すと同時に、全身に緑炎を纏い始める。観客は声を上げる。アールシュは初めて見た光景だったが、ふと何かの記憶が過った。焔はアルケイデスを押し返して、切っ先を向けて言う。


「今までの様に、力を抑える必要はない。魔術やら格闘技やら、全力で来いッ‼ 俺も、全力だッ‼」


 (ホムラ)は、口角をニッと上げて言った。アスクレピオスはその様子を見て、なかなか興味深いと小さく呟く。モージは、彼女の身に纏う炎を見て興味津々だった。


「あれが、伝説のシルフの緑炎かい? 初めて見た。伝説は本物ってことか。」


「そうらしいのう。どうやら、只者では無いことは確信したな。」


「父う……先輩は、分かっていたのですか?」


「まぁ、気配で緑炎を宿していたのは分かっていたが、想像以上に適性があることじゃ。他にも、叡智の蒼炎、原初の紅炎が必要となるじゃろうな。」


 モージは、オリランドの言葉に焔が何かの鍵を握っていると考える。


 アルケイデスは焔の言葉に一瞬、自身の過去を振り返る。

 怪力を持つ故に、力加減をしなければモノを破壊してしまう。また、先祖が受けた呪いで長寿になれない。

 人々は、怪力について影口を言ったり、呪いで長寿でないことをコソコソと話す者もいた。

 他にも、アルケイデスへ喧嘩を売りに来たこともあった。彼は怪力を振るうことは無かったが、怪我を負う日々だった。

 そんな時、幼馴染みだったメガラは彼の怪我を治す為に駆けつけていた。メガラに迷惑を掛けたくない――


 『メガラを守りたい』


 と、思う様になっていた。


「守りたい、もの……俺は、俺はッ‼」


 アルケイデスは何かに気付いたのか、目付きが変わった。(ほのか)は、それを感じ取る。敵意はあるも、何かが変わったのは確かだ、と。彼女は、霞の構えを取る。

 アルケイデスは本気を出し始めたのか、焔へ勢いよく迫って正拳をする。彼女は防御をしたものの、勢いよく飛ばされてコロシアムの壁に打ち付けられる。


「い、今のって……。」


 アールシュは、見ていた光景は現実なのかと感じる。すると、近くで聞いていたメガラは――


「アレが、彼の本気よ。焔ちゃんが防いだのは幸いだけど、あれを受ければ一溜まりもないわ。コロシアムじゃなければ……。」


 と答える。


「メガラさんは、アルケイデスさんの力を知ってるんですか?」


「全部じゃないけど、ずっと悩んでたの。誰かを傷付けるんじゃないかって、人を避けてばかりで。

 それでも、未来の同盟主と言う肩書きもあるから複雑な心境を持ってるはず。確信はできなくても、なんとなくね。」


 メガラの瞳は、彼が持つ複雑な気持ちを思い浮かべている様だった。アールシュは、彼女の口調からアルケイデスを助けたいと言う思いが伝わる。同時に、突如――


 「なぁ、アル。大人になっても、俺たちと皆でスメールを守ろう。約束だぞ?」

 「自信を持て、アル。お前は、剣の才能がある。」


 と、聞き覚えのある言葉が出て来た。


 “……にい、さん?”


 声の主の名前が思い浮かばず、姿も朧気だ。それでも、アールシュにとって懐かしい声。

 過去にその約束をしていたこと、自分が記憶を失う寸前の出来事らしきものが浮かび上がってきたのだ。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

 誤字脱字がありましたら、ご報告おねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ