第3節 アテネ市内の見回り
焔はアスクレピオスの診察を受け、監督生としての任でアテネ市内を見回りする。
焔はアスクレピオスがいる事に固まってしまうが、なんとか健康診断を終える事が出来た。が、彼女は緊張のあまりに言葉を噛んでしまい、アスクレピオスに大丈夫かと細目で見られてしまった。
「診断終了だ。やはり、か。ケイローン先生が気に入っている女子生徒は。」
「え?」
「僕の名を聞いて、固まっていた様だが。君は、僕の事を知っている、と言う事か?」
「……は、はい。確か、蛇使い座の……でも。」
「僕は蘇生の薬を作った事でハデスを怒らせた後にゼウスの雷霆によって殺された、と言いたいのだろう。安心しろ、今の僕は召喚された身だ。それに、あの蘇生の薬は僕だけで作れるものではない。」
「そうなんですね。」
「あぁ。僕以外にも召喚された者が他にもいるようだが、誰なのかは分からん。……それよりも、本当に噂通りとはな。瞳の色が変わってるぞ。」
「あ……そう言えば。久しぶりに出て来た感じだ。えっと、初めまして、かな?自分は、ユウと言う人格です。後は、本人ともう二人いるんだけどね。」
焔はそう言って、苦笑いをする。無意識のうちに表に出てしまった、と思う。しかし、アスクレピオスは興味深そうな瞳をする。
「なかなか、面白い症状だ。本当なら調べたい所だが、お客が来たようだ。」
「アスクレピオス先生、失礼します。……あ、いた!焔さん。今日は、町の見回りの日だよ。一緒に行きましょう。」
保健室に入ってきたのは、二学年女子生徒のアンジェリカ・ヴィスコンティ。名家のご令嬢で魔術を得意とする。彼女だけでなく、他にも二人の生徒が来ていた。
「魔獣討伐隊は、アテネ市内の見回りをする仕事がある。監督生なら、行く方が最適だ。」
「はい。ありがとうございます、アスクレピオス先生。では、行ってきます!」
焔はそう言い、保健室を後にした。アスクレピオスは、近寄って来た白蛇と話をする。
「なんだ?……え?彼女が、お前を見て緊張していたと?」
“後で、聞いてみるか……”
と、彼は思ったのだった。
焔はアールシュ、ロラン、ルノーと共に、アンジェリカ、二学年男子生徒モージ・モン・トーバン、三学年女子生徒メガラ・セピアによるアテネ市内の案内を受ける。
「なんで、俺の周りには騒がしいんだ……。」
ルノーは顔を顰めながら呟く。傍には、彼と髪色が同じの小柄な青年がいる。彼は、モージ・モン・トーバンで、ルノーとブラタマンテとアストルフォの従兄弟である。
「まぁまぁ、兄さん。久しぶりなんだし、仲良く行こうじゃないか。」
と、ルノーとは真反対に、モージはフワフワとした雰囲気を持っている。
「ったく、相変わらず伸び伸びしやがって……。」
ルノーは、眉間にしわを寄せて言う。
「まぁ、ルノー殿。久しぶりの再会ですし、ここは喜ぶべき所ですよ。」
「ロ、ロラン。お、お前に言われると、何かムカつく……。」
ロランの言葉に、ルノーはボソボソと言った。焔は心でドンマイと呟いて、そっとしておくのだった。アールシュは、会話の意図が分からず首を傾げた。
アンジェリカは、同じ学年に留学した焔に質問する。
「そう言えば、焔はどこから来たの?」
「ルミソワだよ。でも、本当の故郷は覚えてなくて……。」
「そうだったの。」
「あ、でも、ルミソワでロランやルノーと会って、ローマでアールシュと出会って、今は楽しいよ。色々、大変な事はあったけど。」
「そうなのね。アールシュは、どこ出身なの?」
アンジェリカはアールシュに尋ねる。彼は、少し緊張しつつ口を開く。
「……お、覚えてない。夜叉族、しか思い出せない。」
「夜叉……って、あの夜叉?!」
「あぁ。実はアルは、記憶喪失なんだ。……家族の事を覚えてなくて。それに、夜叉族は、敵じゃない。そこは理解して欲しい。」
「ご、ごめん。そうだね。オリュンポスだと、大体は蛇とか、そう言う感じの怪物が多いし。時折、赤毛で角の生えた鬼も東から来るから。」
“赤毛で、角の生えた鬼?……まさか”
「夜叉族。確か、東の善なる鬼の一族だとは聞いたよ。それに、アールシュは、悪いことしないって感じる。安心して。」
メガラはそう言って、微笑みながらアールシュの頭を撫でた。アールシュは緊張しつつも、うん、と返事をした。
「ありがとうございます、メガラ先輩。」
「これくらいは、お安い御用よ。焔もアールシュも何か困った事があったら、遠慮なく言って。」
“メガラ先輩って、少し大人っぽい人だ。アンジェリカは、品があってしっかり者って感じ”
そう思ったが、ロランとルノーの姿が無い為に振り返る。彼らは、道のド真ん中で、目を鋭くさせて火花を散らしていた。
「って、ロラン、ルノーッ‼ テメェら、いがみ合うんじゃねぇ‼ シバかれてぇのか、オリヴィエに‼ 今度、やってみろ、拳が飛んでくると思えッ‼」
焔はロランとルノーがまたまた醜い争いを繰り広げている為、二人を説教した。説教と言うより脅迫に近いかもしれないが、こうでもしないと手が付けられないのが二人だ。
「す、すまん。」
「も、申し訳ございませんでした。」
「ったく。……あ。驚かせてごめんなさい。引き続き、案内よろしくお願いします。」
焔は、直ぐにアンジェリカたちに謝罪して市内巡りをする。アテネは、比較的盆地である為、夏は少し暑いようだ。焔の元の世界と比較的変わらない気候状況のようだ。
市内にある建造物としては、博物館や神殿だ。機関は、気象、海洋、地震、考古学、防衛、保健の四つ。また、王族中心ではなく、民が自ら中心となって国を運営していると言う。
ちなみに、アテネ剣魔術学園の生徒は討伐の訓練を四年程受けて、殆どの生徒が防衛か保健に配属する事が多いと言う。
「凄い所なんだね!」
「うん!……あとは、オリュンポスの神々について、かな。」
「神々、か。多くの神様がいると事か?」
ルノーの言葉に、アンジェリカは頷いて丁寧に説明をする。
オリュンポスには主力の十二人の神々がおり、このオリュンポス全域と各都市を守っていると言う。このアテネは、知恵と戦の女神・アテナにより守護されている。
神々が住まう場所は、オリュンポスと呼ばれる山の頂上。行く事が許されるのは、祭司と神々に認められた者のみと伝わっているらしい。
その時、遠くから爆発音が聞こえた。七人は、急いで爆発音が聞こえた現場へと向かう。
到着すると、鎌を持った一人の幼い少女が屋根伝いで走っていて、その後ろから槍と盾を持った女性に追い掛けている。
「あれは、一体?」
「アテナ様が、どうしてここに?」
焔は、アンジェリカの言葉を聞いて驚く。
槍と盾を持った女性は、正真正銘のアテナの守護神にして知恵と戦を司る女神・アテナだ。
彼女は追い掛けられている少女を見ていると、左手に痛みが走る。見てみると、左手の甲に紋章が刻まれていた。すると、少女はこちらに目を向けた。
“もしかして……”
焔は、少女が召喚された可能性があると思い、助けようと走り出した。彼女の行動に、アンジェリカとメガラとモージは驚き、アールシュとロランとルノーはやめる様に言う。しかし、彼女はそのまま走り続けて風魔術で屋根へと登り、女神の名前を呼ぶ。
「む? あの者は?……止まれ! 私に何用か!」
「ご無礼を承知です。私は、式守焔と申します。何故、彼女を攻撃するのか。理由を聞きたいのです。」
焔にとっては、可憐な少女にしか見えない。目撃者たちも、そう思うに違いない。
「分からぬのか? この女は、罪を犯している。憎き怪物は、始末するべし! 死んだはずなのだ!」
アテナはそう言って、少女に槍を構える。焔は覚悟を決めて、少女の前に立って両手を広げる。少女は、焔の行動に驚く。
「お、お待ち下さい、アテナ様! この子は怪物ではありません! そ、それに、召喚された英雄の一人が、もう一人召喚された者がいると。」
「何? それは、真か?」
「た、確かに。貴女は、一人の女神に呪いをかけた事はあるでしょう。ですが、その子から怪物の気配は微塵も感じません。お、落ち着いて、見て欲しいのです。」
「……。……父上が言っていた因果な話とは、この事か?」
アテナは、ボソッと言って焔を見る。彼女は、首を傾げる。アテナは言う。
「感謝する、式守焔。どうやら、私は冷静さを失っていたようだ。……だが、心せよ。怪物になり果てれば全てを忘れてしまう事をな。」
焔は、アテナの言葉に忠告が込められているのを察し、はい、と返事をする。アテナは、少女を睨んでから空へと立ち去って行った。間一髪、と言う所だった。焔は、少女に怪我はないかと尋ねる。
「怪我はありません。それと、私は人間は苦手です。あまり近づかないでください。」
焔は少女が幼く見えるも、その言葉遣いや雰囲気から大人な感じがした。少女は深くフードを被り、焔から視線を逸らせる。
「……ごめん。無理させちゃったね。でも、貴女は召喚された英雄、で間違いないんだよね?」
「はい。貴女が、召喚された英雄を繋ぎとめる勇者と聞いています。」
「なら、私が保護する。人が多くて大変かもしれないけど、町へ出かけるも良し。出来れば、お話くらいはできるようには、なりたい、かな。」
「……仕方ありません。休憩の場があるだけでも良しとしましょう。あまり、人間に会いたくないので幸いです。」
「まぁ、分かるよ。私だって、人と話すのが苦手な方だし。一時期、話す事も拒んでたからな。……って、ここじゃマズいし、降りよっか。えっと、名前は……って、初対面には言いにくいよね。なら、ゾーイで良いかな?」
焔は、小説を書く上で名前を調べていた際に、印象深かった名前の一つを上げる。
「構いません。その方が、助かります。では、私は姿を消します。貴女の後ろに付いて行くだけですが。」
焔は、ゾーイが好きなようにして良いと許した。彼女は直ぐに姿を消して、焔は屋根から風魔術で降下し、仲間たちへ個人的な事情故に話す事はできないと話した。
読んでくださいまして、ありがとうございます!
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焔:今日のゲストは〜、ピオ先生ことアスクレピオスさんでぇ〜す!
アスクレピオス:よろしく頼む。ピオ先生と呼ぶとは、何か意味があるのか?
焔:えっと、親しみを込めて、です。
アスクレピオス:ふむ、まぁ、悪意がないのなら構わんか?それと、お前はこの蛇を見て些か緊張していたが……まさか、苦手なのか?
焔:ゲっ!
アスクレピオス:図星だったか。安心しろ、コイツは攻撃的ではないし、毒も無い。
焔:う、うん。(白蛇に触れる)……か、可愛い。
アスクレピオス:そうか。……コイツも嬉しそうだ。次回『第4節 知恵も積もれば山となる①』だ。楽しみにしていると良い。
焔:予告の台詞、取られたぁ〜!……ピオ先生、ドヤ顔かましてる。




