第6節 知恵を
図書館の奥。秘書にして、精霊のソフィーから焔は学ぶ。生きていく為に。
この世界は、幻想界と呼ばれており、「魔術」と「神秘」が存在している。
人それぞれの体内には「魔力」と言うものがあり、大気や体内にあるそれを消費して魔術などの現象を起こす。それを向上させるには、自らの体を鍛える事が簡単とされる。
焔の場合は、基礎体力が本来よりも大幅に下回っており、魔力も想像以上に出力できない状況である。簡単に言ってしまうと、「運動不足」及び「魔力不全」であった。つまり、魔力が詰まってしまっていると言う事だ。
それはさて置き。魔術と魔法だけでなく、伝説も存在する。この世界には、幾つものの伝説や伝承が語り継がれ、「英雄譚」「叙事詩」などが特に知られており、語られている。
先程、話した【白銀竜】の事も、伝説の一つとなっている。他にも、白銀竜と同等…各地に語られる【創世神話】や世界最古の物語で【楔と鎖】と称された英雄の叙事詩がある。
焔の世界とは違い、この世界――幻想界の人間は、同じ言葉を話す。そして、皆が魔法や魔術で言う呪文は、魔術言語と言うもので行使されている為、共通である。
しかし、地方や国によって独自の言語が使用されることもあるという。ルミソワも、その一国に入る。
そして、人間だけでなく、「亜人種」と呼ばれる存在がいる。
妖精、吸血鬼、人狼、人魚、天馬、精霊、鬼、鷲獅子、鷲馬など沢山いて、その中でも亜人種の王様とも言われているのが『竜神族』である。
だが、今は亜人種の一族たちの姿を、ここ最近は見かけていない。原因として挙がっているのは、過去の歴史にある未曾有の亜人種大量虐殺事件と魔獣の侵攻だった。
現在、確認されている魔獣は、狼、木乃伊、鬼、骸骨、魔竜で、昼夜で出現するものが異なるらしい。
そして、この世界には様々な国が存在する。
『光の騎士の共和国 ルミソワ』
現在地。首都はパリスで、別称・華の都。民主・平和主義を大切にしており、それを守るために騎士が働いている。
また、王政権を廃止し、殆どは大臣などの民間人が行政を行っている。王族は国の象徴として、見守っている。城の奥にある巨木は、白銀竜のゆかりの地。
『森と戦士の王国 アルスター』
首都はクランで、別称・森の都。自然が豊かで様々な動物たちが暮らしていいて、動物を保護している。「翠の炎を守る森の精霊がいる」と伝説で伝わっている。また、ある青年の武勇伝の物語が受け継がれている。
『白詰草の女王国 コノート』
首都はゴスラウェイで、別称・交流の町。城下町が発展し、王族の見事な統率により、繁栄を保っている。
しかし、最近になり、アルスターを敵対視して戦いを行う様になる。純粋蘭とは、現在の女王の意味する。
『大秦王帝国 ローマ』
首都はローマで、別称・永遠の都。朝貢貿易の中心地である。美術と軍事に秀でた帝国で、夏と互角の面積を持つ。皇帝の見事な政策と統率力により、民の団結力が高い。また、郊外には芸術の都がある。
『魔法工学先端国 オリュンポス諸侯同盟』:王を持たない諸国。中心地はアテネで、別称・知恵の都。夜景が美術的に神秘的な雰囲気を放つ為、観光客が多く、船での交通も発展している。そこでは、十二の神々を中心に、半神たちも存在している。
魔法工学と呼ばれる高性能の技術を持つ世界的に最先端の国。
『天竺なる正義の国 コーサラ』
首都はアヨーディヤー。天空には「蒼き炎を守る一族がいる」という伝説がある。また、二大叙事詩が語り継がれており、神や英雄の乗り物が実在するとも。
『神々が降臨せし地 シュメール都市国家群』
首都はウルクで、別称・神が降りし都。古代の文明が今でも栄えており、神々が降り立った場所として神聖視され、古代最古の叙事詩が語り継がれる。四大文明の一つ。都では、赤き炎を守る王がいる。
『太陽の王国 ケメト』
首都はメフィスで、別称・太陽の都。古代の文明を維持・繁栄しており、神聖と同等、四大文明の一つ。
『海底都市 オケアノス公国』
首都はアトランティスで、別称・海底の都。海底に建国されている国で、人間に空気魔術で溺水を防ぐ事を薦めている。
人魚が住まう国で、世界各国にあると言われている。
『東の帝国 夏帝国』
首都は陽城で、別称・華麗の都。古代から集落を統一する国家を維持。倭武の国に文化的影響を与えている。今の所、騎馬民族以外での争いは無い。
『氷と焔の帝国 キフェア』
首都はモクスで、別称・氷焔の都。冬は中々の寒さで防寒着が必須になるが、夏は心地よい暖かさなので、観光なら夏がお勧め。
『倭』
“ナイツァノ王国”とも“侍の国”とも呼ばれる。中心地は、桜の都と称されている。島国独特の文化を持っており、他国から注目を受けつつある国。シュメールの人々とは仲が良く、陸海の貿易を行っている。
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「――と言う訳ですが……。一度に説明してしまいましたが、大丈夫でしたか?」
「はい」
焔は、返事をする。ソフィーは、彼女にこう言う。
「焔。貴女の持つそれは、この世界であってはならぬ物ですが、我が創造主・神は特別に許しを与えておりますが……なるべく、他者に見せぬ様に」
「分かりました。……あ」
焔はスマホの時計を見ると、夕方の時刻であり、帰らなくてはならなかった。
「明日も来て構いませんよ。いつでも待っています」
「……っ‼ ありがとうございます‼」
彼女はソフィーに礼を言い、一礼して部屋を後にした。
その後、彼女はソフィーから「幻想界」の事を知るべく、毎日の様に図書館の奥の部屋へと赴いた。
焔自身、「こんなに新しい事を学ぶのはとても楽しい」と久しぶりの感覚だった。そのせいか、他の人格であるホノとジュテまでもが興味を持ち始めた。
そして、それは「騎士になり、人々を少しでも助けてあげたい」と気持ちが芽生え始めていた。
ある日の事。焔はいつもの様に、ソフィーの元へ訪れて世界の事などを教えてもらっていた。『国』『魔術』『亜人種』『伝説』『歴史』など、様々な事を学んで行く。同時に、彼女のスマホは彼女自身が学んだ事を記録してゆく。
「あの、ソフィーさん」
「どうされましたか、焔」
「私、ちゃんと学んだ事が頭の中に入っているか、心配なんです。今まで、学んで来た事を焔たちは忘れたりと、酷いものでしたので」
彼女がそう言うと、ソフィーは微笑んで答える。
「大丈夫です。少しずつ、コツコツと覚えて行けば、ちゃんと頭の中に入ります。それに、貴女たち…人格は一生懸命、暗記をして楽しんでいるようです」
「は、はい。ありがとうございます」
彼女は、ソフィーに礼を言った。そして、魔術の基礎や世界の国や地域、特産品。また、伝説や物語などをサクサクと読み込んで行く。
彼女は久しぶりに調べる事、知識を得る事の楽しさを思い出した。
(どうして、忘れてしまったのだろう。なんて情けない)
と彼女は思っていた。
そんなある日。図書館の奥に来ると、ソフィーとは別の人がいた。その人物は杖を持ち、フードで顔を隠していた。
「おぉ、これは、これは! 異世界からの訪問者。待っていたよ」
焔は、自分の正体を何故知っているのか、驚くばかりだった。フードの人は微笑んで言う。
「何故知っているのかは、秘密。ところで、魔術で苦戦しているようだね。そこそこだが、回路が詰まっているのだろう」
「つ、詰まる?」
(魔術的専門用語か?)
と焔は感じて、ハテナが浮かぶ。フードの人物は話を続ける。
「あぁ、そうさ。君はまだ、本気の度合いじゃないってことだ。塵も積もれば山となり、君の魔術は壮大になるだろう。鍛錬は諦めないでくれたまえ」
「あの、どうして、わざわざその事を?」
焔は「何故、そこまでの自分の情報を知っているのだ」と少し気味悪いと思う。見知らぬ青年だろうと思われる人物はこう話す。
「ソフィーくんに頼まれたのさ。けど……魔術より武芸が楽だよ」
(なんだ、それは⁈ 魔術が面倒くさいと言っているじゃん!)
と、焔は心の中でツッコミを入れる。
「でも、君は武器を持った事すらない。……懐かしいね。王が、王になる前を思い出すよ」
(何言ってんだこの人)
と、彼女は思う。確かに、名を名乗らない時点で怪しいのだから。それを察したのか、青年は言う。
「すまないね。話がそれてしまった。さてさて、特別にだが、魔術行使のコツを教えよう。……魔術に必要なのはイメージと体に張り巡らされている魔術回路、魔力をどこに集中させるかで影響は変わる」
「魔術、回路?」
魔術回路とは、体に刻まれた魔力の通り道。血管と同じように見えるが、魔力放出の際に血液の様に循環しない。一方通行である。
例えば、器というものに、魔力と言う水が無くなってしまえば、回復を待つか、肌の接触による魔力供給をしなくてはいけない、と言う事だ。
亜人種の種族によっては、人の血液で魔力供給をする者もいるらしい。
また、魔力枯渇の状態であるにも関わらず行使すると、指先が壊死してしまうこともあると言う。
「君たちの世界では、魔術は憧れだろう。だが、魔力と言え器の中にある水を消費して魔術として体現させる。言わば、取引のようなものさ」
「取引、ですか。魔術を使う……つまり、それなりの代償や負荷はあるって事ですか?」
焔はそう尋ねると、青年は「そうだ」と賞賛して続ける。
「君は、体力が少し体と一致していない。運動とかの予定は立てているかい?」
「えぇ、まぁ。これからですが、アッシュに剣の稽古を教えてほしいと言う予定はあります」
「うんうん。挑戦することは何よりも大切だ。……ソフィーから聞いたんだが、まだ一度も魔術を使っていないと聞いたんだけど……」
青年はそう言うと、彼女は「はい」と頷く。青年は、初級並みの魔術を教え始める。
「じゃぁ、この紙一枚を浮かせてみよう」
「は、はいぃ……」
焔は自信がない中、紙へ浮遊魔術をかけるのだが、一向に成功しない。彼女は何度も挑戦するのだが―
「駄目だぁ」
と地面に膝をついて萎えてしまう。
「う〜ん。君は自信がないのかい? 行使できないのは、そこかもしれないよ。……すまない。もうそろそろ帰らなくてはいけない。でも、いつか会える事を願うよ」
そう言うと、青年は姿を消した。
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次回『第7節 知恵を、力を』です。