第23節 新たなローマへ➁
首都ローマ復興支援をするべく、白銀騎士団は動き始める。
それから、ローマ市街の復興は天候に左右されつつも、順調に進んで行った。そんなある日。ルキウスは、アクテと共にある人物の部屋に赴いていた。
『陛下。貴方のお母様は、もう……。ただ、少しだけでも、お話しする事をお勧めいたします。時には二人だけの会話も必要です』
オリヴィエの言葉に、ルキウスは戸惑っていた。その時、アクテは―
「オリヴィエさんの言う通りよ。お義母さんの為にも、貴女の為にも、行きましょう。」
と助言したのだ。彼女はルキウスに付き添う形で、彼の母・アグリッピナの元へ向かう。そして、部屋の前について、ルキウスは恐る恐るノックをした。扉が開いて、オリヴィエが姿を現す。
「陛下。お話していくのですね?」
「……。」
「ルキウス。オリヴィエさんの言う通り、きっと大丈夫よ。私は、二人の大切な会話に入れないけど……自信を持って。」
「アクテ、すまない。オリヴィエ……は、母上と話をする。」
「分かりました。外でお待ちしていますので、何かありましたら、お呼びください。」
オリヴィエはそう話して、アクテは彼を見送る。ルキウスは、扉が閉まった所で恐る恐るアグリッピナの元へ歩み寄る。
「は……母、上。」
「ルキウス。……こうして、二人きりは、久しぶりね。」
「あぁ。……ねぇ、何であんな事をしたんだ?」
「それは、貴方の、為よ。」
「んな事、分かってる。……だけど、あんな化け物みたいな力を、手にしなくても良かっただろ!!」
「そ、それは……。」
アグリッピナは、ルキウスの言葉に初めて言葉を詰まらせた。いつもなら、直ぐに反論できたはずだと言うのに。
「は、母上がそんな事しないって信じたかったのに。何で、裏切るんだよ。ブリタンニクスを毒殺して、疑われたのは我なんだぞ。皇帝権を狙ってるだの……どうのこうの。今思えば、怖かった。」
「そう、だったのね。……あの子の、言う通り、かもしれない。」
「あの子?」
「お前を、全力で守った、女よ。私は、母としての、道を、誤ったのかも、しれない……。ごめん、なさい。」
アグリッピナはそう言うと、目を閉じてしまう。その時、ビリッと何かが固まる音がした。ルキウスは、彼女の手先から全身へと石の表面になるのを見て混乱する。
「……ッ!母上?母上?………母さぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!」
ルキウスは叫んだ。この時、初めて母親を失う悲しさを知った。その声を聴いたオリヴィエは部屋に入り、状況を把握した。
アクテも彼の声を聞いて駆けつけようとしたが、オリヴィエに見てはいけないから入ってはいけないと忠告され、従うしかなかった。そして、アグリッピナはオリヴィエの診断で死亡と判明する。
“もはや、迷っている場合ではない”
ルキウスは、一刻も早くローマの民を安心させたいと思い、再び皇帝に就く事を決意する。王族の中では、ルキウス以外の後継者はおらず、彼しかいなかった。
彼は、生き残った元老院議員と焔とフロリマールを臨時会議テントへ召集し―
「我は、このローマを引き継ぐ。」
と言う。元老院議員は、何故今そう言うのかと問う。
「民の顔を見たか?この将来に対する不安を抱えている。ならば、それを静めるのは、王族の道理ではないか?そして、このローマを新たな繁栄に導く。
だが、我らだけでなく、ルミソワ王国の白銀騎士団の協力の元、ローマ改革を行う‼」
ルキウスはオリヴィエの診断の元、皇子として公務を始める。焔は、元老院議員が処分しようとした書類を彼に渡す。ルキウスはその書類を元に、不正受領をした元老院議員たちをに厳重処分した。
また、フロリマールは転送術を使ってルミソワやアルスターから支援物資などを送る事を提案。ルキウスは、ローマだけでは無理だと判断し、他国からの支援を受けることにした。
そして、しばらくして、焔はテントを出るとアクテと会う。
「貴女は、焔さん、ですよね?」
「は、はい!えっと……。」
「私は、アクテと申します。ルキウスを助けていただき、ありがとうございます。」
「い、いえ!騎士として、当然のことをしただけです。ルキウスは、アクテさんに会いたいと言っていたので、良かったです。」
「まぁ!ルキウスが……。」
アクテは、初めてそれを知ったと言う。焔は、ルキウスから聞いた事とアクテの話に合致する点がいくつかあった。
アクテはルキウスから離れ、故郷の町へ帰ったと言う。その場所が光明神を信仰する巫女・フロルドリがいる町だった。
「オリヴィエさんから、色々聞きました。ルキウスは、心の風邪を持っていると。それを聞いた時、涙が出てしまいました。
……確かに、彼は義理母さんとの関係に悩んでいたのは分かっていました。けど……どうして、突き放してしまったのだろうと何度か考えたのです。」
「私も、よくあります。誰もが後悔した時に気付くのですから。」
焔はそう言う。アクテは彼女の横顔を見て、初対面だった為に彼女の意外な一面だと感じる。
「ですが、今は今です。これからの事を考えましょう。それに、ルキウス陛下を支えられるのはアクテさんが一番です。彼は、貴方を愛しているでしょうから。」
焔は、クヨクヨしてられないと心に言い聞かせてそう話した。
「そうですね。私にも、力になる事があれば……。共に、ローマを取り戻しましょう。」
アクテは、その話から自分にできることはないかと考える様になった。そして、白銀騎士団はルキウスの許可の下、焔とクーを除いてルミソワ出身である事を兵士たちに明かす。
聞いた兵士たちは、半分は驚いて絶句、半分は批判的な言葉を放つ。それから、兵士たちの半数がローマ市街の復興に来なくなっていた。時には、石を投げたりと攻撃的だった。
ルキウスはその光景を見て、白銀騎士団に謝罪をする。アッシュは、長い間ルミソワと交流しておらず、互いに誤解していた部分もあると答えた。
フロリマールは、騎士団団員をテントに集めて団長として―
「これは、参加してるローマ兵士たちとやって行くしかない。俺たちは、ローマと戦う為に来たわけじゃない。絶対に、争いはするな。
俺たちは、ルミソワ代表でもある。ローマ市街の復興は、何としても成し遂げる。だから、今は耐えて欲しい。」
と言った。
騎士団は、フロリマールの言葉に異論を解かずに頷いた。彼らが、それぞれどう思っていたかは分からない。でも、騎士としての使命は逃れられない事は分かっている。
騎士団は何があっても、復興を目指す意志で耐えしのぐ日々が続いた。そんなある日、焔はスラム市街の一部の復元を行う為、煉瓦を積んで接着剤を塗るを繰り返す。
「あの!……焔さん、ですよね?」
焔は、声をかけられて振り返る。
「君は、あの時の。」
ローマの大禍が起きる直前、強制な命令を受けて火を起こそうとした奴隷の青年であった。彼は、頭を下げて―
「この間、助けていただき、ありがとうございます。それと、僕にも手伝わせてください!」
と言った。焔は、ローマ市街復興支援不足に耐え忍ぶ最中で、その言葉を貰えたのは正直嬉しかった。
「あ、ど、どういたしまして。えっと……名前は?」
「……ありません。赤ん坊の頃から、ずっと奴隷と言われ続けてますので。」
“酷い。名前を付けてくれないなんて……”
焔は彼に礼を言われ、そのお返しで名前を付けてあげることにした。彼女は、青年にバレない様にスマホで相応しい名前を調べる。そして、彼に相応しい名が見つかり、スマホをしまって言う。
「じゃぁ、クレメンテ。」
「え?」
「君の名前。今日からクレメンテだ。優しい心を持った人、って言う意味。」
「……ッ!あ、ありがとうございます!」
「どうも。それに、自分と同じ歳くらいだし、知り合った仲なんだから“です”とか“ます”は使わなくて良い。あと、焔と呼んでくれると嬉しい。」
「ありがとうご……ありがと、焔。」
「うん。初めは慣れないかもしれないけど、その内平気になるよ。さて、早速だけど、煉瓦をここに運んで欲しいんだ。運搬、大丈夫そう?」
焔はクレメンテにそう尋ねると、彼は荷物運びをしたことがある為、お安い御用だと話す。彼女は、無理しない様にと言い、作業を再開する。
「焔、持って来ま……来たよ!」
「ありがと!」
焔は、上からクレメンテの運んだ煉瓦に浮遊魔術を施し、一軒家の壁の修復を完了させる。彼女は、上から鎖魔術で地面に降り、クレメンテに次の家の壁の修復をすると話した。
その日の夜。焔は、身寄りのないクレメンテを騎士団のテントへ保護する事にし、焔の部屋を貸す事にした。
「えぇ?!で、でも……。」
困惑するクレメンテ。
「良いんだって。クレメンテはゆっくり休んで。お風呂とか使って大丈夫だからさ。」
「う、うん。」
クレメンテはそう言い、部屋の中へ入った。焔は部屋の扉を閉めると、丁度そこへアッシュが来た。彼は、どうやらクレメンテの事が気になった様子。彼女は、事情を話す。
「そ、そうだったのか。なら、食事のスープは俺が持って来るよ。俺なんかよりも、アンタなら安心できると思う。」
「なんか、ごめんね。」
「良いんだって、遠慮するな。まだまだ、復興に一歩って所だが、頑張ろうぜ。焔!」
「……そうね。ありがと、アッシュ。」
焔は、アッシュの言葉と笑顔に心が安らぎ、明日も頑張らなくてはと思う様になった。
まだまだ、解決するべき課題は幾つもあるが、白銀騎士団の団員たちは“成し遂げる”と言う強き思いは健在である。
読んでくださいまして、ありがとうございます!
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焔:只今、ローマ市街復興作業により、豆知識は第三章へ!次回、『第23.5節 インぺリウム・ローマ/祝福の喝采』です!




