第22節 新たなローマへ➀
戦いは終息した。
帝国の初期から栄える首都ローマを復興するべく、騎士団も協力に出る。
その直後、都市ローマの火災は、白銀竜・アッシュが鎮めた。しかし、火災の被害は決して小さくはなかった。中には焼死した者、煙を吸い込んで亡くなった者がおり、老若男女問わずだ。
ルキウスは、フロリマールと共に救護などの軍の指揮をしている最中、念願の再会を果たす。
「ルキウス‼」
その声を聞いて、ルキウスは驚きながら後ろを振り向くと一人の少女がいた。
「……アクテ?アクテなのか?!」
「ルキウス!」
アクテは、ルキウスの元へ駆けつけて抱きしめた。そして、彼女の後を追う様にルノーとエレオノーラも駆けつけた。焔は、救護の休憩で見えた為、フロリマールに尋ねる。
焔は、フロリマールからアクテとエレオノーラの事情を知って頷く。また、エレオノーラはある人物の元へと向かう。
「フロルドリ‼」
エレオノーラがそう言って、駆けつけたのはジュヌヴィエであった。
「え?」
“今、フロルドリって、ジュヌヴィエの事?”
焔はどう言う事かと混乱し、フロリマールにジュヌヴィエことフロルドリについて話を聞く。ジュヌヴィエの本名は、フロルドリ。光明神に祈りを捧げる巫女であり、故郷はローマであった。
記憶障害を起こしていた原因は、ポッパエアが皇后の権力を利用した迫害だったと知る。焔は、犠牲となったポッパエアを思い出し、ルキウスに話さなくてはいけない事だと判断する。
「ありがとう、フロリ。そうだ。明日の朝、アッシュが騎士団会議をするって言っていたから、そこで情報をまとめよう。」
「あぁ。それにしても、今回は厄介だったな。」
「うん。色んな意味で、ね。」
焔はそう言って、煙と雲の間に見える星空を見上げた。数十分後、戦っていた分の疲れを取るべく、騎士団のテント内の一室でスマホを確認すると―
[機能拡張。英雄記録システム 起動。ルミソワ、アルスター、コノート、ローマ、全ての英雄の記録回収完了]
と、アナウンスの字幕が画面に出てきて【英雄記録図鑑】と書かれたアイコンがホーム画面に置かれた。焔はそれを開くと、出会って来た英雄たちの顔写真が出てくる。また、兵種分けもされている。
【剣士】:フロリマール、ロラン、オリヴィエ、ルノー、フェルグス、ルキウス=ネロ
【槍兵】:クー・フーリン、スカアハ
【弓兵】:フロルドリ、ロビン・フッド
【術者】:モリガン、カエサル
【馭者】:アストルフォ、アウグストゥス、女王メイヴ
【暗殺者】:ブルートゥス、マリアン
【狂戦士】:カリグラ
【尊者】:???
【復讐者】:アグリッピナ
と記録されていた。また枠が多くある為、これからも出会う人が多いのだろうと考えたが―
“アレ?アッシュユとアーサーのデータがない……”
焔はそう思うも眠気に襲われ、スマホをしまって就寝した。彼女は、疲れがたまっていたのか直ぐに寝てしまった。しかし、その最中、またもや夢を見る。
◆◆◆◆◆◆◆◆
風が吹き荒れる戦場。焔は、今まで見て来た夢とは異なる、と確信する。数秒して風が止むと、金属音と爆発音が聞こえて来た。距離的に近い方だ。
“あれは、誰?”
激しく戦っていたのは、二人の青年。一人は白と青を基調とし、弓を手にして矢を次々と放つ。もう一人は槍を手に巧みな技で攻防する。
“王冠、弓……全身に傷、槍。……嘘……あの二人はッ‼”
同時に、焔は二人の神聖な気配を感じ取る。クー・フーリンと同じ、髪の血を引く者の気配だった。だが、今まで見て来た夢と違うのは、気配と空気。まるで現実の様に感じた。
槍を持つ青年は、自身の武器を投擲しようと構えた。しかし、投擲する直前、彼は目を見開いて何だろうと言う様な表情になる。
「貰ったッ‼」
弓を持つ青年はそう言い、弓を強く引き絞って止めの矢を放った。焔は、矢が放たれた直後、槍を持つ青年を見た時に衝撃を受けた。
“微笑、んだ?”
そして、矢は槍を持つ青年の喉を貫いた。残酷にも、勝負は決まった。焔は、弓を持つ青年の表情を見ると、それは疑わしいものだった。
「………私の、私の勝利だ!………。」
青年は笑ったが、直ぐに黙ってしまう。よく見ると、顔が強張っていた。
“何だろ?妙に寒気が。……早く、夢から覚めてくれ‼起きろ、焔ッ‼”
◆◆◆◆◆◆◆◆
「……ッ‼」
焔は勢いよく上体を起こすと、アーサーが心配そうに傍に寄る。彼女は冷や汗をかいていた事に気付いた。アーサーは、急いでタオルを持って彼女に差し出す。
「キュウ……。」
「ありがとね、アーサー。……変な夢を見ちゃったな。」
焔は、これまで正夢となった夢を振り返る。ルミソワで見た黒い剣士のこと以外は、ほぼ次に起きる出来事に近しい。しかし、ローマの次の目的地は、オリュンポス諸国同盟であるはずで―
“どうして、インドの英雄の夢を……時間が長く感じた”
と、率直に思った。しかし、この時、当然、彼女だけでなく、白銀騎士団も知る訳もない。
「あ、マズい。会議の時間!」
焔は、支度を整えてアーサーを肩に乗せてテントを出て、騎士団の本拠テントへ入る。アストルフォは焔が就寝した後に到着していた為、彼以外の騎士団のメンバーは集まっていた。アッシュは、彼女の元へ駆けつける。
「焔!おはよ!はい、スープ。」
「ありがと。おはよ、アッシュ。」
「お安い御用だよ。……よぉし、会議を始めようか!」
焔は席に座り、アッシュの号令と共に、騎士団会議が始まった。ローマ潜入作戦班、都市部潜入班、郊外待機班の情報をまとめる。
ローマ王宮に黒水晶を持った怪しい奴がいた事、郊外にルミソワへ向かう黒い兵士たちがいた事、火災の影響で家屋全壊の人々が多い事。
そして、コノートに現れた怪物と同じにして形態が異なるものがいた事、アグリッピナはその力を行使した事で命は長くはないとの事。
また、ジュヌヴィエの記憶が戻った事を皆知る。本名はフロルドリ、故郷は騎士団が潜伏した町。本職はルミソワと同じく巫女だが、これからも騎士団と共に旅を続けると話した。
とっくに、覚悟はできている、と。
「よし!じゃぁ、今日からの仕事だが、ローマ市街復興担当だ。スラム街を中心に被害が大きかったんだけど……手順が分らん!」
ズコっ?!
アッシュの発言に、騎士団メンバーはずっこける。焔とルノーは、ド派手に椅子から落ちる。
焔は、直ぐに立ちあがり、彼の発言に呆れつつ話をする。
「……まずは、瓦礫処理でしょ。それから、灰とか結構空気中に舞うから、掃除もやったほうが良い。それが終わって、設計・建設開始。」
「あとは、当時の設計図を借りて、建設順を決めれば良いのではないですか。アッシュ先輩、しっかりして下さい。それでも、王族専属騎士ですか?ルミソワの復興、忘れてないですよね?」
ルノーはそう話し、最後に辛辣な言葉を投げる。アッシュは、彼の言葉に厳しい〜と言いつつ、その案をメンバーに提案する。
フロリマール、フロルドリ、ロラン、オリヴィエ、ルノー、クーは、その案に異論なしと賛成した。全会一致である。
「よし、会議終了だ!早速だが、焔はアールシュとアストルフォを起こしに行ってくれ。ルノーは、ルキウス陛下に街の設計図を聞いてくれ。オリヴィエとロランは引き続き、救護担当に付いてくれ。」
『了解』
焔、ルノー、ロランとオリヴィエは、返事をしてそれぞれの任務へ向かう。彼女は騎士団のテントに入り、まずはアールシュを起こす。
「アル。朝だよ。」
「ん〜。……おはよ、姉さん。」
「おはよ。今日から街の整備が始まる。仕度を整えて、朝食を済ませましょ。」
焔の言葉に、アールシュは返事をしたが少し眠たそうだ。彼女は、まずは顔を洗うと良いと話して、アストルフォの部屋へ入った。
「ほ〜い!起きて、アストル!」
「ぐーがーぁ……すーぴーぃ……」
焔は、アストルフォの寝相に驚く。彼は、大の字になって寝ており、口は大きく開いて涎が垂れている。
“うわぁ、ギャップを感じさせる光景だわ……寝ている時は男っぽさが出るんだ”
「はいはい、起きるんだ‼」
焔はそう言って、アストルフォの掛け布団を剥がす。彼女の好意に悪意はないが、アストルフォは勢いよくベッドから落ちてしまった。
「ぐげッ?!」
「……ご、ごめん‼け、怪我は……。」
「ふわぁ~。どこも怪我は無いよぉ~。あれ?焔ちゃん、おはよ~。」
“アストルフォ。どこまで能天気なのかいな?”
焔はそう思いつつも、眠気でフワフワしているアストルフォに話をする。
「はい。おはよ、アストル。騎士団は、今日から首都ローマの復興の主力になるよ。だから、ちゃっちゃと、支度して……って、コラァッ!二度寝するな‼」
焔は、二度寝してしまったアストルフォを必死に起こした。
それから、白銀騎士団はローマの復興を目指す為、ルキウスの協力の下、担当を任された旧スラム街の整備を始める。焔は、瓦礫処理の担当を行う。
「えっと、まずは、瓦礫と灰塵の処理をします。灰は、絶対に箒で掃いてください。」
「何故、箒で、なのですか?」
「水で流しちまえば、楽だろ?」
「実は、灰は畑の肥料にもなるんです。資源を無駄遣いしない事です。実際に、ルミソワで灰を畑の土と混ぜて肥料一つとして使っています。」
「なるほど?」
「そう言う手もあるのか?」
「本当か?」
兵士たちは、焔の説明に首を傾げつつ言う。彼女は、実際にやってみるしかないと苦笑して答えたのだった。
読んでくださいまして、ありがとうございます!
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
焔:今日は、いきなり『イリュド豆知識!』。
ローマとルミソワは、ローマ皇帝2代目から国交を絶たれていました。理由としては、価値観や文化などの齟齬の様です。
ルキウス:2代目から、だと?!実質百年近いではないか!
アクテ:そんな事が……。けれど、この機会で誤解が解ければ良いです。
ルキウス:そうだな、アクテ。新しきローマを、ここで再築しなくてはな。素晴らしいインペリウム・ローマ、ご覧あれ!と行きたいな。
アクテ:ルキウスが元気になられたのは、焔さんたちのおかげです。感謝してもしきれません。
焔:いいえ!私としては、皇帝を支える臣下の務めを果たすまでです!
アクテ:うふふ。今度、ゆっくりお話したいですね。
焔:は、はい!ありがとう、ございます。次回『第23節 新たなローマへ②』!ローマ編、あと少しっスよ。




