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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅱ章 大秦王帝国 インぺリウム・ローマ 編 ―長命菊の名君―
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第21節 勧善懲悪/終

 戦いは一層厳しいものだった。しかし、転機は突如訪れた。

 聞き覚えのある声が聞こえ、次の瞬間、光に包まれると、周囲は黄金煌めく劇場が広がっていた。

 固有結界術。自分の思い描く景色を結界術として取り込む。

 その結界の真ん中。焔の側で、地面に赤い剣を指し、堂々たる姿勢を構える未来の皇帝がいた。


「ルキウスッ!」


 焔は、再び現れた彼の名を呼んだ。ルキウスは、彼女へ手を差し伸べた。


「ここまで、よく頑張ってくれた。其方たちを、放っておく訳には行かぬ。皇帝として、恥さらしだ。」


 焔は彼の手を取り、立ち上がる。ルキウスは、結界の力でメリウス・ファンダルの動きを止め、アールシュに絡みつく糸を焼いて彼を救う。


「アル!」


 焔は痛みを堪えて駆けつけ、落ちる彼を受け止める。アールシュは目を開けて彼女を見るが、先程の攻撃を受けて動ける体力がない事は明白だった。

 そして、そこへ回復したアーサーが駆けつけた。ルキウスは、彼らの前に立ってメリウス・ファンダルと対峙する。


「母上‼我は、私は、貴女を止めるッ‼………我の理想(ゆめ)、ここに顕現す。我らの偉大なる栄光に喝采あれ!ローマに繁栄あれ‼……さぁ、開幕せよ‼輝ける眩い黄金劇場(ドムス・アウレア)ッ!」


 ルキウスの呪文は、固有結界を更に鮮明にする。彼の描く夢。理想とする自分の舞台。夢見た場所。結界は、更に輝きを放ち、メリウス・ファンダル及びアグリッピナの動きを封じる。同時に、黒い軍団を率いる力を失う。


「おのれぇ、ルキウスゥゥゥゥゥッ‼」


「我だけではない!かのお方も、ここに参っておられる!」


 ルキウスがそう言うと、劇場の入り口から軍勢が入って来た。その先頭に、只者ではない顔立ちの良い中年男性がいた。その人物は、アグリッピナへ宣戦布告する。


熾天英雄(グレートヒーローズ)の一人、馭者(キャブマン)、オクタウィアヌス。声を聞き、ローマの危機に応じて参上した。」


「何?!尊厳者(アウグストゥス)、だと?」


 アグリッピナは、その人物を前にして言葉を失う。

 尊厳者(アウグストゥス)。本名は『オクタウィアヌス』と言い、称号で呼ばれる事が多い。

 彼は、正真正銘の皇帝であり、このローマ()()では始まりの皇帝(ファースト・エンペラー)である。そして、ユリウス家の養子であるも、ルキウスまたアグリッピナの先祖に当たる。

 彼は、焔に言う。


「さぁ、勇者(あるじ)よ。ご命令を。」


 焔は、オクタウィアヌスが自分の方へ向いているのを感じると、左手の甲が光る。それを見ると、暗殺者(アサシン)とは違う紋章であった。


 “さっきのと、違う。まさか……そう言う事ね”


 焔は、アルを支えながら立ち上がり、暗殺者(アサシン)に教えられた事を思い出し―


「はい。偉大なる尊厳者(アウグストゥス)様。……前にいる女性・アグリッピナを元の姿にする為に、あの化け物の討伐を!」


 と言う。しかし、ルキウスの剣は揺らめいてキーンと金属音が響く。何故ならば、アグリッピナは自我を取り戻し、怒りと憎悪が彼の固有結界の力を越えようとしていたのだ。


「よくも、よくもッ‼私が死んで、溜まるものかぁぁッ‼」


「くっ!結界が、破られるッ‼」


 アグリッピナはルキウスの結界を打ち破り、彼らへ迫って攻撃をする。その場にいた全員は、彼女の攻撃を避ける。焔はアールシュを抱きしめて、糸の攻撃を避ける為に頭を下げた。その時、彼女の結っていた髪がザシュっと切れてしまう。

 同時刻、ローマ近郊の丘。アクテは煙が首都ローマのある方から上がっているのが見えて、見晴らしの良い丘へ来ていた。


 “そんなっ!ローマが!”


 アクテは、急いでその丘を下って行く。


「待って、アクテ!」


 エレオノーラは走るアクテを追う為、走って行く。その後ろを、アストルフォが走る。


「エレオノーラちゃん!はぁ…はぁ。魔力切れ、キツイ……。」


「アストルフォ。お前は休め。二人は俺に任せてくれ!」


 ルノーはそう言い、バヤールと共に走って行った。アストルフォは、グリンと共に丘の上でしばしの休憩に入る。



 再び、ローマ宮廷門。アグリッピナが放つ攻撃の衝撃は、フロルドリの結界に響いていた。結界は軋む音を立てて、揺れる。


「な、何だ?!」


 “……結界の中にまで響く揺れなんて。嫌な予感だね”


 結界の揺れに、フロリマールとオリヴィエは警戒する。ロランは、万が一の為に抜刀できるようにする。


「マズいな。フロリマール、ジュヌヴィエ、オリヴィエ、ロラン。今すぐ離れた方が良さそうだ。急げッ‼」


 クーは彼らにそう言い、兵士たちと共に患者たちの運搬を行っていく。

 フロリマールは、クーの助言を受け入れて、今すぐ避難準備をするよう指示する。そこへ、伝令兵が駆けつけ「一匹の白い竜によって広場の安全が確保された」と聞く。彼は、すぐさま兵士たちにそこへ患者たちと共に急いで移動するように命じる。

 同時に、フロルドリは結界が破られる感覚が全身に走り、痛みが生じる。


「フロリマール……駄目、破られるッ‼」


「フロルドリッ‼」


 フロリマールはフロルドリの名を呼んで、バランスを崩す彼女を支える。その一瞬、結界が破られ、アグリッピナと共にメリウス・ファンダルは侵攻する。

 奴の姿を見た軽傷者や無傷の民たちは、兵士らに案内されるもパニックを起こして逃げ惑う。兵士たちは、重傷者の搬送を急ぐように連携する。

 焔はアーサーを肩に乗せ、アールシュを抱きしめながら、奴の攻撃を避ける。


 “アルを守るだけでも精一杯だってのに。まだ、余力があるのか。どこまで、野心を抱いていたんだ……人間の闇って、知る余地もない深さ、なのかな?”


「姉さん。」


「アル。今は、じっとしてて。」


 焔はアールシュにそう言い、絶対に傷つけさせまいと離さず、アグリッピナを見る。

 ルキウスは、固有結界を展開させるのは良くてもあと一回程度である。アグリッピナは、狂気ある笑みを浮かべて―


「私を、止められぬ者はおらぬ!」


 と言う。焔は、アグリッピナを抑えられるのは今しかないと直感し、暗殺者(アサシン)に教わった強力な術式を口にする。


「紋章を以て、指示するッ‼熾天英雄(グレートヒーロー)馭者(キャブマン)‼奥義発動を、許可するッ‼」


「承知、仕る。今こそ、その名を明かし、混沌の闇に終止符を打つ。」


 オクタウィアヌスはそう言うと、その後ろには彼が率いていた兵士全てが現れる。ルキウスはこれを好機とし、アグリッピナの動きを止める為、門にいる人々も含めて固有結界・黄金劇場(ドムス・アウレア)を展開する。


 “もう一度、開幕せよ‼輝ける眩い黄金劇場(ドムス・アウレア)ッ!”


 ルキウスの強い意志は、結界の力を強くし、アグリッピナとメリウス・ファンダルの動きを止める。オクタウィアヌスは呪文を唱え続ける。


「我が名は、オクタウィアヌスッ‼我が愛しきローマよ、大いなる光に満ちて、永き繁栄と栄光を!……尊厳者の大軍勢(アウグストゥス・レギオン)‼皆共、かかれぇぇぇぇぇッ!」


 オクタウィアヌスの声がかかると、軍勢はメリウス・ファンダルへ突撃した。彼の兵士たちは勇敢に立ち向かい、メリウス・ファンダルの力を削っていく。


 “これが、尊厳者(アウグストゥス)の力……”


 焔は、オクタウィアヌスの背とその軍勢の姿に見入ってしまった。兵士たちはアグリッピナを掴み、メリウス・ファンダルとの繋がりを絶とうとする。

 オクタウィアヌスは自身の持つ剣に力を込め、メリウス・ファンダルへ一撃を喰らわせた。アグリッピナはメリウス・ファンダルから離れて地面に倒れた。

 ルキウスは固有結界を展開させる魔力に限界を迎え、結界は解かれた。フロリマールは我に返って、避難を急ぐ様に伝令する。

 しかし―


 “なっ、独立した?!”


『陛下!』


「大事ない。しかし、儂は、少し休まねばならぬ。……我が子孫にして、未来の皇帝ルキウス。あの闇を撃ち祓え!」


「……ッ!」


 オクタウィアヌスの言葉に、ルキウスはできるか迷った。その時、焔は余っていた魔力全てを彼に送り、怪我を治癒した。


「姉さん!」


 アールシュは立ちくらみをした焔を支える。彼女は、目で「貴方ならできる」と訴える。


「焔よ、感謝する。ここで終わりにする。」


 ルキウスは、焔の意志を受け止めて自分の武器を握りしめる。未熟だったけれども、今度こそ止めてやる、と。彼は、奴の間合いへと走る。


「煌く花よ、民に平和と祝福を!煌く赤長命菊の剱(ルブルム・べリス・ペレンニス)ッ‼」


 ルキウスは、化け物メリウス・ファンダルへ剣の攻撃を最大限に振るった。メリウス・ファンダルは、彼の攻撃を受け、炎に飲まれて消えて行った。

 オクタウィアヌスは焔に言う。


「見事な働きであった。其方の力があってこそだ。」


尊厳者(アウグストゥス)様……いえ、貴方がいなければ、ローマはなかったです。ありがとう、ございます。」


「礼はこちらも同じだ。私は、元の時に戻る。ローマを救って下さり、感謝する。征け、勇者よ。」


 オクタウィアヌスはそう言って笑みを浮かべて、光と共に姿を消した。焔は、アールシュに支えられながらルキウスの元へ向かう。

 ルキウスは、剣を鞘に収め、恐る恐るアグリッピナの元へ歩み寄る。


「は、は、母上……。」


「ルキ、ウス。」


「もう、やめて欲しい。私は、一人でやって行ける。」


「駄目、よ。まだ……。」


 アグリッピナはそう言って手を伸ばすが、(レイ)は彼女に言い放つ。


「アグリッピナ。ルキウス陛下は、もう、大人です。貴女は、もう充分すぎる程にやって来たんですから。それに、人として禁断の力を使ったのです。貴女の命は、もう長くはありません。」


「……母、上。すまないが、彼女の言う通りだ。……は、母上には休んで欲しいんだ。怖いくて、何も言えなかったんだ。」


 ルキウスはその後、自分の思いをアグリッピナに独白する。

 自分の言う事を一つも聞いてくれず、周りの人間を傷付ける事が許せなかった。焔たちがいなければ、自分はずっと一人で誰にも救われないと絶望していたかもしれない、と。


「ルキウス……ならば、何故、母を殺さぬ?以前、そう言っていたはず。何故ッ!」


「それでも、アンタは私の母だからだよ!……この、馬鹿親ッ!」


 ルキウスは、最後にアグリッピナへぶっきらぼうに言い放った。

 こうして、ローマの大禍は幕を閉じた。ルキウスは、複雑な感情が渦巻くものの、衰弱しつつあるアグリッピナをオリヴィエに任せる事にした。

 しかし、(レイ)の言葉通り、アグリッピナはもう長くは生きられなかった。

読んでくださいまして、ありがとうございます!

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


焔:ふぅ〜、何とか助かったぁ


ルキウス:我のおかげ、だな!


焔:そうね。あとは、アウグストゥスさんが来るとは思わなかったぁ!イケおじだね。


ルキウス:イケおじ?なんじゃ?


焔:あ、えっと、イケメン、格好いいおじさんって意味だよ!


ルキウス:ふむふむ。なるほどな。我も、そうなってしんぜよう。


焔:そうなれたら、良いね。次回『第22節 新たなローマへ①』!復興計画、開始!

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