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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅱ章 大秦王帝国 インぺリウム・ローマ 編 ―長命菊の名君―
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第20節 勧善懲悪/禍

 ローマが混乱に満ちる中、白銀騎士団(アージョン・オルドル)は、ルキウスと共に、それぞれの場所で戦いを繰り広げる。

 ローマの大禍の行方は、如何に……

 アストルフォはグリンに、ルノーはバヤールに跨って黒き兵団を討伐する。しかし、数の桁違いは当然で、倒してもきりがなかった。


「これでも、喰らえ!」


「ピーッ!」


 アストルフォとグリンは、連携して空を自由自在に飛んで大軍を削り取る。ルノーはアストルフォから少し離れた場所で剣の力を振るう。


「バヤールッ!」


「全力で行きます‼」


 バヤールはルノーの問いに答えて、駿馬の如き速さで走る。彼は剣を手に―


「氷よ、荒ぶれッ‼凍てつく氷の刃(アルマス)ッ‼」


 と叫んで、剣の切っ先から氷魔術を大きく放った。


 “頼む!急いでくれッ‼”


 ルノーは、焔たちの行動で国の存亡が決まる事を悟っていた。

 その頃。焔、ルキウス、アールシュ、暗殺者は変貌したアグリッピナと戦う。しかし、奴の力は途轍もなく大きく、攻撃を受けて無事であったとしても全身打撲するところだ。


「これ程とは!……血迷ったか、母上(アグリッピナ)ッ‼」


「ほう……生み親にそう言うとは。許されるのか?」


「……ッ。……例え、生み親だろうが、何だろうが、人として今の状態になっている事に対して言っただけだ!」


 ルキウスは一瞬だけ戸惑うも、はっきりと言った。今の姿は人として見る事はできない、と。アグリッピナはその言葉に一瞬だけ動きを止めた。

 アールシュと暗殺者(アサシン)は、その瞬間を狙って間合いを詰めてアグリッピナへ一撃を与える。


「オノレェッ‼」


 アグリッピナは怒りを表して、アールシュと暗殺者に攻撃をする。しかし、二人は華麗に避けた。


 “ローマを、渡すものかッ!”


 焔は、打刀を手にアグリッピナの攻撃を打ち消すべく、一歩を勢い良く踏み込んで水精の技・洪一文字を繰り出してルキウスを守る。彼は焔に礼を言って、アグリッピナに言う。


「アグリッピナ!貴殿をここで断罪するッ‼」


 同時刻、王宮の上空で高みの見物をしていた魔術師が一人いた。奴は、焔たちの戦いを見てフッと微笑む。


「さて、最終段階、と言った所か。そろそろ、代償が出て来る頃合いだ。」


 魔術師がそう言った直後、焔たちはアグリッピナの異変を間近で見る。何かに苦しみながら、背後の怪物は大きくなり、アグリッピナ自身の姿も変わる。

 肌は色味を失って変質し、彼女の人格は失われつつあった。


「我は、メリウス・ファンダルなり……貴様ラ ヲ、粉砕スル。」


「コ、コイツ!あの時の別個体?!」


「別個体だと?!いや、話は後にする。今は、反撃の時‼行くぞッ‼」


 ルキウスの掛け声に、三人は頷いて戦闘に入った。

 そして、門には現場に到着したフロリマールとフロルドリがいた。フロルドリは、混乱する兵士や市民を守る為、結界を張って外からの干渉を無効化にする。


「フロルドリ。焔たちは、大丈夫なのか?」


「大丈夫。……あともう少しで、ローマの大英雄が来る。私たちと市民たちの声で。」


「大英雄?」


「えぇ。このローマを帝国へ導いた御方よ。」


 フロルドリは神託を聞いていた事もあるが、彼ならば焔たちを救える可能性は高いと確信していた。

 焔は、アグリッピナの激しい攻撃を避けて魔法弾を連射する。しかし、彼女を含めてルキウスも体力の激しい消耗に限界が近くなる。


「ルキウスッ‼」


「しまっ!」


 ルキウスは油断を突かれ、化け物の拳の攻撃を回避もままならなかった。その時、彼の前に一つの影が現れて、直後に血飛沫と共に後ろへ押されてぶつかった。


「何故、我を庇ったのだ‼」


「ゴフッ………良いのです。未来の皇帝を、守るのが、我が使命なり。このローマ、を、頼みました、ぞ。」


 暗殺者(アサシン)はそう言って、光に包まれて姿を消してしまった。同時に、焔の左手の甲に刻まれた紋章が消える。


「我の為に、すまない。」


 ルキウスは、そう言った。焔は、暗殺者(アサシン)・ブルートゥスがルキウスを命がけで守ったのを見て、自分も強く自覚する。何としても、陛下は守り切る。彼女は、アールシュと共にルキウスの前に立って言う。


「ルキウス。ここは、私とアルで抑えます。」


「し、しかし!」


暗殺者(アサシン)が言ったじゃない。未来の皇帝は、貴方です!ルキウス陛下!」


 焔がそう言った後、ルキウスに「怪我してる。下がって」と言った。ルキウスは、知らぬうちに怪我をしていた事に気付かなかった。彼はやむを得ないと思い―


「すまない。今は、貴公らに任せる。だが、我は早う戻る事を約束しよう!」


 と二人に伝えて、戦場外へと撤退した。アグリッピナは彼を追いかけようとしたが、二人に阻まれる。


「相手は二人だ!」

「倒れてください。」


『覚悟ッ‼』


 二人は同時に言って武器を構え、アグリッピナへ宣戦布告した。その時、焔の左手に新たな紋章が刻まれていた。

 アグリッピナ、否、メリウス・ファンダルは雄たけびを上げると形態が変化する。アグリッピナの姿は、蜘蛛の様な化け物となったのだ。その直後に、蜘蛛糸を放って来る。


「避けてッ!」


 焔はそう言い、アールシュは彼女と同時に避けると先程の地面が糸で地面が抉られる。あと一歩遅ければ木端微塵、否、バラバラにされていただろう。

 アールシュは素早い動きで反撃し、メリウス・ファンダルに一撃を入れる。その直後に、糸の攻撃が二人に降りかかる。


「……ッ!」


 焔は、避けるも掠り傷を多く喰らった。鞘の力は、まだ働きを見せる兆しもない為、メリウス・ファンダルの間合いに入る事すら難しく感じていた。


 “間合いに入るのも怖いけど……あの糸の硬さがよっぽど怖い”


 焔は、再び降りかかる糸を避ける。


 “いつまでも、防御に入ってちゃ駄目だ!”


「やぁッ!」


 焔は水魔術を刃に纏い、弧を描いてメリウス・ファンダルへ放って攻撃する。そして、間合いを詰めようとした時、メリウス・ファンダルは糸を蜘蛛の巣の様に展開して反撃する。


 “しまった!避けきれない!”


 焔は、血の気が引く。その直後、目の前で血飛沫が舞って彼女の左腕にかかる。なんと、彼女を庇う為にアールシュが自ら身代わりとなって傷を負った。


「アルーーーッ!」


 焔は叫び、傷を負って倒れるアールシュを受け止めて、少し離れた場所に移動する。


「アル!ごめん……私を庇って……。」


 焔は謝罪する。アールシュは、顔や胴体に腕と脚にも傷を負っている為、出血が多く傷がなかなか塞がらない。彼女は回復術を施す。


 “治れ!治れ、治れ治れ治れ治れッ!”


 その光景を見たアグリッピナは、目を見開いて―


 “あれは、鬼の子……。鬼の子が、人間を、守った?何故?何故だ?お前たちの方が、出会ってから日が浅いというのに……”


 と言い、手を伸ばす。焔は、必死かつ焦りと不安を胸に魔術を行使していると―


「キュウ!」


 と、焔の元へアーサーが駆けつけ、アールシュに回復術を施し始めた。まるで、ここは任せてと言っているようだった。

 彼女はアーサーにアールシュを託して、メリウス・ファンダルの前に出る。


「アグリッピナ。貴女は、ルキウスを皇帝の座へ導いた事は褒めるけど、今の貴女では称賛するモノが無い!」


「ダッタラ、アノ鬼ノ子ヲ 寄越セ。ソレナラ、命ハ保障スル。」


「何を言っているのか、全然分からない。アルは、自分の意志で私を守ったんだ。

 それに、ルキウス陛下……息子の精神まで苦しめた母親に、言われたくないッ!」


「ソウカ。ナラ、踏ミ潰スマデ!」


 焔は、一人でメリウス・ファンダルに立ち向かう。

 ルキウスは、オリヴィエたちと合流して応急処置を受けた後、再び戦場へ赴こうとする。オリヴィエは、彼を止める。


「陛下!まだ、怪我が!」


「戦場を眺めているだけで、母を止められぬ我は何だ?皇帝として、息子として、恥さらしだ!

 今なお戦う者を、救えずにいるのは、嫌だ!それと、フロリマールと言ったか。貴公に今一時、兵士への指示権を託す!伝令兵!」


 ルキウスは伝令兵を呼び、兵士の指揮権をフロリマールに託すことを兵士たちに伝える様に命令した。伝令兵は任務を受け、急いで情報を拡散させに行く。


「待っていろ、焔、アールシュよ!今行く‼」


『陛下!』


 ルキウスは、フロリマールたちの呼び声を無視し、戦場へと走って行ってしまった。同時に、フロリマールの元には伝令兵の知らせを受けた兵士たちが指示を受ける為に集まって来ていた。

 焔はメリウス・ファンダルの攻撃を避け、間合いを詰める。しかし、奴の拳が直撃して彼女は飛ばされて地面に叩かれた。


 “クソッ!ただ間合いを詰めるだけじゃ駄目だ!……アルの事も、早k―”


「アル?アル!」


 アールシュのいたはず場所に、彼の姿がなく、アーサーもいない。


「ソイツラ ノ 事カ?」


 メリウス・ファンダルはそう言うと、上から焔の右腕に赤い液体が落ちてきた。

 彼女は見上げると、そこには糸で身動きできず、出血していたアールシュ。そして、焔の前にアーサーが投げ出された。


「なっ!アル!アーサー!」


 焔はアーサーを回復させるが、力尽きているのか飛ぶ事もできない。彼女は、アールシュの姿を見て怒りの炎を燃やす。


 “落ち着け、怒りのまま行くんじゃねぇ。こうなったら、型の大技を!……専!心!”


 焔は、刀を握りしめてメリウス・ファンダルへ走る。そして、型の大技を徐々に繰り出す。

 メリウス・ファンダルは糸で攻撃するが、焔の刃はそれを弾く。


「何ッ?!」


 “見てろ、アグリッピナ!水の型、最終奥義 水竜の技 青龍乱舞転(せいりゅうらんぶてん)ッ!”


 焔は大技を見事に成功させ、攻撃を回避して糸を斬りながら進む。その技は、斬れば斬るほど威力が増す。そして、奴の間合いに入って化け物の腕を全て切り落とし、大きな打撃を与えた。


 “小癪ナァァァァァァッ!”


 メリウス・ファンダルは、斬られた直後に片腕を回復させ、焔を攻撃した。彼女が叩かれた地面は、瓦礫と砂埃が酷く舞う。


「姉さんッ!」


 アールシュは焔を呼びながら、糸を解こうと藻掻く。彼女は、全身を地面に強打した事で内蔵が損傷し、口から血を吐き出す。


 “あの技でも、駄目なのか……”


 焔は直ぐに起き上がりたいものの、内蔵の損傷と全身の痛みに力が入らない。アールシュは、メリウス・ファンダルに言う。


「貴様!よくも、姉さんを!」


「黙レ。オマエ ハ 私 ノ 言ウ事ニ従エッ!」


 次の瞬間、アールシュに絡みつく糸が強く張り、傷口を深く抉った。彼は、痛みのあまり叫んだ。


「やめろォォォォ!」


 焔は、アールシュに手を出すなと言う様に叫んだ。このままでは、アールシュだけでなく、自分も死んでしまうと強く感じた、その時―


「そこまでだ!」


 と、聞き覚えのある声が聞こえ、次の瞬間、光に包まれると、周囲は黄金煌めく劇場が広がっていた。

読んでくださいまして、ありがとうございます!

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 次回『第21節 勧善懲悪/終』です。白銀騎士団、ルキウス、頑張れ!

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