第19節 勧善懲悪/破
焔は、元老院議官たちの前で皇帝の正体を明かす。正体は、ルキウスの実母『ユリア・アグリッピナ』。
彼女の目的と野望は如何に……。
ローマ王宮の大広場では、火事によって怪我をした者たちがオリヴィエとロランを中心に手当てされていた。クーもその手伝いに回る。
「すみませんが、私は王宮へ向かいます。」
「暗殺者つったか?用があんのか?」
「はい。と言うより、とてつもない嫌な予感が、英雄としてするのです。失礼。」
暗殺者はそう言って、姿を消した。クーは、最悪の事態を脳裏に過ったが、今は患者の治療に専念した。
再び、謁見の間。
「な、何を言う、貴様‼その御方は、ネロ陛下で在らせられるぞ。」
そう言ったのは、元老院議員・イーノクだ。彼らが見ているのは、まさしく皇帝ネロだろう。しかし、焔は鞘の力により、アグリッピナの姿を目に映している。
「そうでしょうか?貴方方、元老院の皆様はアグリッピナ様の事をよくご存じのはずです。野心家で、元老院の皆さまにとって、最も警戒すべき存在。
ポッパエア様暗殺も、前皇帝のクラウディウス帝とその嫡男ブリタンニクスの毒殺。アグリッピナ、貴女が実行したんですよね?」
焔の発言に、ポッパエア暗殺がアグリッピナと関わっていると元老院の皆はざわつく。ネロは静かにと手で合図して、騒ぎが鎮まった後に証拠はあるのかと言う。焔は、次の物を取り出した。
「この、血痕が付いた布と飾りでございます。飾りはポッパエア様の、布は当時貴方が着ていたものです。王宮に忍び込んだ暗殺者から聞きました。」
焔はそう話す。ネロは、何かを呟く。彼女は飾り物の真意を問うべく、暗殺者にそれを預け、ポッパエアの父・ティトゥスに見せる。彼は涙ながらに言う。
「間違いなく、我が娘……ポッパエアのお気に入りの物です。」
「それと、貴方の召使いが証言してくれました。貴方は魔術で、クラウディウス帝の養子にして嫡男ルキウスの姿をとり、自分と同等の野心家ポッパエアを暗殺したのです。
それと、先程、暗殺者と言っただけで、焦っていましたね。まさかとは思いますが、この世界の魔術である召喚術式を施した、な訳無いですよね?」
「……ッ‼おのれぇ‼無礼者ッ‼」
焔の言葉に、ネロに感情の乱れが現れる。彼女は、更に追い詰める。
「そして、その息子、ルキウスは自我が芽生えて貴方に恐れを抱いたと同時に牢獄へ閉じ込めた。女性の自分では、ローマを治められませんからね。
貴方の野心は、このローマ帝国を支配する事。間違いありませんか?と言っても、白を切るつもりでしょうから。ネロ、いえ、ルキウス陛下‼」
焔が言った直後、フードを取ったルキウスが姿を現す。元老院議員たちは、彼の姿を見て驚く。すると、ルキウスの足元から長命菊の花びらが優雅に舞った。
「お久しぶりです、母上。よくも、我を牢獄に閉じ込めてくれましたね。」
「ルキウスッ!グッ……!」
ルキウスの言葉にネロがそう言うと、光に包まれて本来の姿・アグリッピナへ戻った。元老院議員たちは、どういう事なのかと口を固めてしまう。
「どうして。……その剣は?!」
「貴方は、この剣を使っていませんでしたね。」
焔は暗殺者から伝えられたことを話す。元老院の話に寄れば、以前の陛下は赤と白の剣のどちらかを使用して長命菊の花びらを舞わせており、それをできる御方が、本物の皇帝の証だ、と。
「くっ!ルキウス。どうやって、逃げた!」
「我は、恩人・焔により、王宮の牢獄から抜け出した。そして、素晴らしき医者の下で、今の姿に戻る事が出来ました。我は彼らに恩を返すべく、貴女を止めると決意した。貴女に、皇帝と言う玉座は相応しくないッ‼」
「ぐッ……おのれぇ、ルキウスッ‼お前は、私の言う事を聞いていれば良いのだぁぁぁぁぁッ‼」
「やはり、このローマを支配しようと企んでいたんですね。もう、休んでください。」
ルキウスはそう言って、それ以上口を出す事は無かった。焔は、アグリッピナを追い詰める様に言う。
「アグリッピナ。お前の言う、予言の力と言うのはこの水晶玉のおかげなのか?町で火事が起こる事も。」
「なっ!どうして‼」
「予言なんぞ。千里眼所有者のみですから、貴女には不必要だろ。」
彼女は、何の躊躇もなく水晶を床に落とし、直後に打刀でそれを粉砕した。アグリッピナはそれを見て、怒りが党に爆発して表情に出た。
「許さぬ!許さぬ!」
「許さねぇ、か。悪党には、悪党が相応しいってモンだろ?」
焔はそう言って、悪の笑みを浮かべた。アグリッピナは、今度こそ激怒したと彼女は分かっていた。すると、ミシミシと言う音がした。焔は、嫌な予感がする。
「主‼皆様、そこから離れてください‼」
暗殺者の声と共に、邪悪な魔力がアグリッピナから放たれ、焔とルキウスと元老院議員の数名は外に吹き飛ばされる。焔はルキウスに受け止められ、感謝を述べる。
しかし、それ所では無い。アグリッピナの姿は、人の形ではあるも肌質などが変異していた。
「姉さん!」
「アル。ひとまず、広場に避難させて!」
「うん。こっち!」
「あっ!」
青年はアールシュに引っ張られるまま、焔たちを見ていた。焔、ルキウス、暗殺者は武器を構え、元老院議員たちに逃げる様に言う。
「逃がしはせぬ!」
『ギャァァァァァッ‼』
アントニオ、バリー、カルヴィンは、アグリッピナの攻撃から逃れる事はできず、その場で体をバラバラにされた。攻撃に使われたのは魔力が込められた糸だったが、鋭いものである事は確かだった。焔は、恐怖もあったが、だからこその冷静さを意識して言う。
「……止めよう、アグリッピナを。」
「あぁ。我も、そう思う。これも、ローマの為に‼」
「私もお供いたします。」
三人はそれぞれ言い、変異した姿のアグリッピナに立ち向かう。彼女は立ちふさがる三人を見て、狂気の笑みを浮かべる。
「さぁ、偉大なる母の元に跪くが良い!」
「誰が、そうするか!」
焔は、左手に召喚した脇差を銃形態にして魔法弾を放って背後の怪物に命中させる。アグリッピナは怪物の声が混じった状態で言う。
「私が、ローマを治めるのだ‼」
アグリッピナは、三人へ攻撃を開始した。
同時刻、爆発音が聞こえたオリヴィエは嫌な予感がすると思い、辺りを見回すと暗殺者と名乗る者の姿がなかった。彼はクーに尋ねる。
「クー・フーリン!今の爆発は?」
「不味い事が起こった様だ。コノートで起きた事がまた、な。」
「なっ!……兵士の皆さん、患者方を門付近で治療する様に!」
オリヴィエは、至急怪我を負った民を治療する兵士たちに指示を促す。兵士たちは、皇帝を演じるアグリッピナの指示で応援に来ていた。
「オリヴィエさん、どうかしたのですか?」
「先程の爆発は一体?」
「王宮で何か起きている。ひとまず、誰一人王宮に近づけるな!」
『はい!』
オリヴィエがそう言うと、アールシュがクーの元へ駆けつけた。
「クー!大変だ‼変な怪物が、姉さんたちを!」
「チッ!遅かったか。」
「この人をお願い。僕は、姉さんたちを助けに行く!」
「お、おい、アールシュ‼」
アールシュはクーに青年を任せて、彼の止めを聞かずに王宮へと走って行ってしまった。
謁見の間。焔、ルキウス、は攻撃を交わすが、狭い場所である為に壁や柱などが瓦礫で落ちて来る。焔は止むを得ないと思い、ある作戦を提案する。
「ここじゃ、王宮が崩れる。危険だけど、広場の方へ誘導する。」
「そ、それは!」
「広場には、多くの民がおります!」
焔の言葉に、ルキウスと暗殺者は戸惑う。彼女は、悔しい気持ちで言う。
「止むを得ないの‼広場の王宮側で戦う!」
「時間がない故、致し方ありませぬ。主の判断に従います!」
暗殺者はそう言い、撤退路を確保する。焔は暗殺者とアイコンタクトをしてからルキウスの手を取り、広場へと走る。
「待テ!……逃サンッ‼」
アグリッピナは三人が遠ざかるのを見て、壁や柱を無視して突進を始める。三人は、廊下の途中でアールシュと再会する。彼は、後ろに化け物がいると気付いて彼らを出口へ先導する。
そして、彼らは無事に外へと出たが、大きな破壊音と共にアグリッピナは姿を現す。
「許さぬ!許さぬ!許さぬ許さぬ許さぬッ!既に黒き我が軍はルミソワに向けて進軍している!私を止める者はいない‼」
『……ッ‼』
彼らはアグリッピナの言葉を聴き、このままではルミソワが危機にさらされると知り、時間の問題だと直感する。
その一方、ローマに到着したアッシュ、フロリマール、フロルドリは炎に包まれる町を見て驚く。
「一体、何が……。」
「さっきの爆発音、気になるな。……フロリマール。君はフロルドリと一緒に王宮へ急げ!俺は、火を消し止める‼」
アッシュはそう言って、竜に変身して口から水流放射を行って消火活動に走る。フロリマールとフロルドリは彼の言葉を受け入れ、王宮への道を探してそこへ向かった。
“待ちを襲う炎よ、鎮まれ!白銀竜の慈雨ッ‼”
アッシュは竜の力を使って、町の上空に雨雲を発生させて雨を降らした。そして、王宮へと向かっているフロリマールの元に、ルノーから連絡が入る。
[黒い軍団がルミソワに直進している!俺とアストルで何とかしているが、時間の問題だ!]
「そんな!……ルノー。無茶はするなよ。」
[あぁ。フロリマールも、無茶はしないでくれ]
フロリマールはルノーとの連絡を切って、フロルドリと一緒に急ぐ。白銀騎士団はローマだけでなく、ルミソワ存亡の危機に直面していた。
拝啓 読者の皆々様
読んでくださいまして、ありがとうございます。是非、引き続き読んでくださると嬉しいです。
遅くなりましたが、2021年あけましておめでとうございます。
今年も色々と大変なこともあると思いますが、一緒に頑張りましょう!
敬具 Hanna
次回『第20節 勧善懲悪/禍』です。




