第17節 計画、実行 ―ローマの大禍―
特訓を続け、体力が戻りつつある本物の皇帝ルキウス・クラウディウス。スラム街も、徐々に元の姿へと戻りつつあった。
その一方、ローマ王宮では策略が企てられていた。
その日。ルキウスは、瞬く間に剣の技術を取り戻しつつあった。そして、スラムの人々も活気を取り戻し、周囲の人々がやって来る事も増えて来た。
「流石、オリヴィエとロランのコンビ!」
「褒められるほどじゃ無いよ。医者として、当然の事をしたまでだよ。この薬の調合記載は、僕が保管しておかないと。」
「確かに。盗まれたら大変だもん。」
「あぁ。それで、例の計画、大丈夫かい?」
「うん。暗殺者に頼まれた魔法陣の設置も良し。それに、今の所は問題無いよ。」
焔はそう言った。まだ、その時ではないと言う事を。その時まで、万全の態勢を整える事だ。
一方、アッシュたちは、ゆっくりとローマに向かっていた。
「それにしても、今回程、周囲に気を付けなくちゃいけない事は久しぶりだな。」
「先輩は、何度かあるんですか?」
と訪ねたのはルノーだった。アッシュは、当時は侵入作戦を慎重にやらなくちゃいけなかったから尚更だと懐かしむように言った。
そして、フロリマールはフロルドリと話をする。
「何か、申し訳、ないな。」
「え?」
「フロルドリ様に、こんな戦いをさせてしまうと、何か。」
「大丈夫。フロリマール様なら、きっと立派になれます。……それに、いつも緊張しているようだけど、フロルドリって呼んでもいいのよ。」
「え?あ、その、ば、バレてたか。」
フロリマールはあちゃ~とでも表すかのように、手を頭に回す。フロルドリは、彼に―
「でも、私はもう巫女と言う立場じゃないよ。ごく普通の、女性。巫女と言う身分で思ってはいけない感情に気付いたので。」
と言い、頬を若干赤くしていた。しかし、彼女はそれを分かっていて、彼に見せない様にしていた。
“私、凄く恥ずかしい事を!……で、でも、これが、姉さま達が言っていた感情なんだね”
そして、王宮では、ネロことアグリッピナは魔術師に話をしていた。
「どうやら、元老院は何か企てた様ね。」
「相変わらず、気づくのが早いね。そうだとも。彼らは、不正受給疑惑の隠滅の為、スラムに火を放つようだよ。」
「やはり、か。だけど、スラムが潰れれば、ネロの願いは叶えられる。うふふ。………それにしても、力が無くなっている。あの小娘、何をしたの?許さぬ。」
“これはこれは。まんまと罠にハマってしまったようだね。となれば、もう、ここには用はないか”
魔術師は、企みの笑みを浮かべる。アグリッピナは怒り心頭で―
「あの小娘が来ることは分かっているわ。ならば、相応の出迎えが必要だね。狂戦士だけじゃなく、術者の召喚も完了している。私に抗う事が、どれ程愚かか思い知らせてやる。」
と言った。
◇◆◇◆
「起きて。」
“また、この声”
焔は目を開くと、木漏れ日と幼い少年……ではなく、青年の姿で目の前にいた。焔は上体を起こすと、青年は彼女に話しかける。
「君、焔だよね?」
「うん。……貴方は?ごめん、前は聞き取れなくて。」
「俺は、ア◯ェ◯。……アシェル・S・ナイトだ。」
彼がそう言うと、焔の瞳にその姿がはっきりと映った。青みがかった銀髪、引き込まれそうで綺麗な瞳だった。
しかし、景色は白い光に包まれていった。
◇◆◇◆
焔は、ゆっくりと目を開けて上体を起こす。
“また、あの夢……。今までの夢とやっぱ違うな”
「おはよー!焔!」
と、ドアを勢いよく開けてきたのはルキウスだった。
「ルキウス?!お、おはよう。」
焔は返事をすると、ルキウスは朝食の時間だと教えてくれた。
「スラムの皆と共に、食べようではないか!」
「うん。待ってて、着替えるから。」
焔は支度を整えてフードを被って、外に出る。目に映ったのは、オリヴィエとロランがスラムの皆に食事を配布していた。また、そこにローマの商人たちの姿もあった。
「これは、一体?」
焔は驚きのあまりそう呟く事しかできなかった。彼女た同じく、フードを被っているルキウスは説明する。
「ロランによると、スラムの復興が進んで、商人たちは彼らの行動を目にして何かできないかと来てくれたようだ。
大工は、スラムの街を元に戻す工事をしてくれている。商人たちは、今は食料を売ってくれる者がいてな。まぁ、時間は制限されているが。」
「そうだったんだね。」
「我は、民のその姿に見入ってしまった。我の知らぬ所でも、民はこうして頑張っていたかと思うとな。」
「ルキウス……。」
「けど、今はそう考えている場合では無いな。さっき、ロランから伝えられたが、クー・フーリン殿から連絡があった。元老院の話を盗み聞きしたようだが、今日が計画実行日だ。」
「……っ!そろそろ、か。」
“スマホだと、今日は三月十三日……明日があの日、か”
焔は、日にちについてそう思っていた。また、ローマの命運を掛けた戦いがあるのだと覚悟した。
その数時間前。クーは、元老院の話を廊下で聞いてしまった。
「今日の夜、ローマのスラムに火を放つ作戦実行日だな。」
「あぁ。まぁ、我々ではなく、奴隷だがな。」
「そうだな。陛下はどうするのだろうな。」
“これ、マズいんじゃなかったか?急いで、ロランのとこに!”
クーは急いで部屋に戻って、ロランに連絡を入れた。
[そうでしたか。分かりました。直ちに、オリヴィエ殿に伝え、スラムの警戒を強めます]
「悪いが、頼んだ。」
クーはロランとの連絡を切ると、アーサーの頭を撫でていたアールシュが訪ねてきた。
「兄貴。今のは?」
「その、まぁ、ここの所、外の様子が変だから友達に聞いていたんだ。どうやら、町は活気を取り戻しているらしい。」
「そうなんだね。……兄さん、どこにいるんだろ。」
アールシュはそう言うと、アーサーは同意見だとでも言うかのように鳴いた。彼は焔がいなくなった事もあるが、嫌な予感がすると不安を隠せずにはいられなかった。それでも、彼は―
“兄さんは、生きてる……”
と信じていた。
その日の夜。一人の奴隷が書類を背負い、ランプを手にスラム街で歩いていた。
“こ、このあたりで良いよな?”
辺りを見回して、木造住宅にくっつくように書類を置いた。その時、ランプを握る手に鎖が巻き付いた。
「そんな事、しない方が身のためです。」
「……ッ!お前は?!」
奴隷の青年は、焔の姿を見て焦りを生じて身動きが出来なかった。彼女は、青年の手からランプを取って言う。
「私は、命を奪うのが目的ではありません。……放火を命じたのは、誰ですか?貴方の名は問いません。……今、言った方が良いですよ。これも、貴方の為です。」
「……げ、元老院のアントニオ様です。」
“この間の、侮辱した奴か!許せない……”
「分かったわ。悪いけど、その書類は貰うよ。それと、私たちについてきて欲しいのです。貴方を傷付けさせない事を約束します。
……ですが、戦闘時にはなるべく離れた場所に。貴方はもう、奴隷ではありません。」
焔はそう言うと、青年の瞳に光が灯る。彼は、彼女の放った言葉に光が見えたような気がした。そこに、ロランとルキウスが駆けつけた。
「焔殿。」
「見つかったのか?」
「うん。どうやら、元老院議員アントニオと言うヤツに命令されたようです。」
焔は、駆けつけた二人に説明した。ルキウスは、アイツかと怒りの表情を浮かばせる。彼女は、青年の方へ見ると少し強張っている様に見え、彼らは味方だと必死に説得した。
その時、焦げる様な臭いと同時に、伝達の瞳に連絡が入る。
[すまない!緊急事態だ。僕の方で黒いフードを被った魔術師が火を放った。風が強い挙句、皆で王宮への避難誘導する方向性で精一杯だ!]
「そんな!とりあえず、オリヴィエは避難と消火をお願い。」
焔はそう言って連絡を切ってロランに援護とクーに連絡を頼み、ルキウスと奴隷の彼は共にローマ王宮へ走って向かう。
「其方よ。元老院の不手際で辛い任務を背負わせてしもうたな。すまない。だが、其方に自由を与える。新たなる皇帝ルキウス=ネロ・クラウディウスが保証する。」
「ネロ陛下?どう言う事……。」
「すまぬが、説明している時間はない。とりあえず、この少女の言う通りにして欲しい。」
ルキウスは、そう説明する他なかった。彼はルキウスの言葉を一応だが信用し、焔の後ろをついて来る。
“暗殺者!こっちは、ローマ王宮に向かってるよ!”
(了解。こちらにも、動きあり。注意されよ)
“ありがとう”
そして、三人はローマ王宮の門へ到着して通過する。と―
「止まって‼」
と、焔は言う。正面には、術者の英雄と狂戦士の英雄がいた。焔は、召喚術で脇差・月輪地闇と銃形態・日輪天空をそれぞれ手にして構え、奴隷の青年を守る様に立つ。
ルキウスは、正体を明かさない為に、兵士が使う剣の柄に手を駆ける。
“こんな所で……”
焔は止むを得ないと思い、ルキウスに奴隷の青年を頼むと言った。
“ここは、何があっても突破しないと”
「其方、正気か!」
ルキウスは、前に出る焔に慌ててしまう。彼女は、二人が殺されるよりマシだと話し―
「国民を守るのは、貴方の務め‼私は、お二人を守るのが務めです‼」
と言い、脳裏にいる人格たちの力を借りて二体の敵へ突っ込んで行った。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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焔:体力が戻ったのね。
ルキウス:あぁ。まだまだだが、これからも怠らぬ。皇帝として、恥をかく訳にはいかないからな。
焔:ここで、いきなり『イリュド豆知識!』。ネロは『果敢な男』、ルキウスは『輝く』という意味があります。素敵な名前だ。
ルキウス:そんな意味が。皇帝に最も相応しい名だな。次回「第18節 勧善懲悪/序」。
我らにとって、命運を掛けた戦いだ!




