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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅱ章 大秦王帝国 インぺリウム・ローマ 編 ―長命菊の名君―
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第16節 スラム街/計画準備 ―現物と夢―

 焔は無事にスラム街へ戻ると、暗殺者(アサシン)からの意思疎通が来る。

 その知らせを聞いた彼女は、本格的にローマ救済準備を整える。

 焔は、無事にスラム街へ戻ると、暗殺者(アサシン)からの意思疎通が来た。


 (主。ご報告があります)


 “暗殺者(アサシン)。そっちで何かあったの?”


 焔はそう伝えると、暗殺者(アサシン)はこう言った。元老院の一人が、またもや暗殺されたとの事だ。


 (どうやら、不正受領の疑いだそうです)


 “それは、アグリッピナの命令?”


 (はい。私と同じ執行者に実行せよとの命令を。それが、召喚された英雄です)


 “召喚された、英雄?”


 暗殺者(アサシン)によると、召喚された英雄の兵種は「狂戦士(バーサーク)」とのこと。狂戦士は、殆どの自我を失いかけており、暴走しやすい欠点を持つ。しかし、逆手に取れば、敵を容赦なく一掃する事が出来ると言われる。


 (はい。狂戦士はコントロールが難しいのですが、アグリッピナはそれを見事にこなしています。恐らく、何か裏がありそうな気がするのです)


 “そうね。そー言えば、暗殺者(アサシン)。宮廷で不審な人物を見かけた事はある?”


 (見たことな……いや、不審というか、危険な気配を持つ奴はいました)


 “どんな奴だったか、分かる?”


 (フードマントを被っていて素顔は分かりませんが、手には黒曜石と言うか、黒い透明な石のような物を持っていました)


 焔は暗殺者(アサシン)から聞いて、確信に至る。これは、アグリッピナだけの計画ではなく、あの魔術師が関わっていると。


 (どうしたのですか?)


 “話せば長くなるけど……”


 焔は暗殺者(アサシン)に、ルミソワとアルスターに現れた謎の魔術師について話す。その魔術師もフードマントを纏い、透明な黒い小さな石柱を所持していた。共通点は合致した。


 (なるほど。どうやら、世界(イリュド)で起こっている。起因の一つですね。……主。今は詳しく言えませぬが、どうやら、とんでもない敵の様です)


 “とんでもない敵……あぁ、嫌な予感。急がないと、ローマが危ないッ!”


「ロラン。アッシュたちは?」


「はい。現在、フロリマール様とジュヌヴィエ様とローマに向かっておられます。……本当に、この計画で良いのですか?」


「うん。計算高いと言われている偽皇帝だし、多分、私が生きている事はバレてるはず、だと良いけど。」



 その数時間前。皇帝は、謎の魔術師と兵士たちと共に部屋で話をしていた。その表情は、不機嫌と言うに相応しいものだった。


「で?あの娘は暗殺者(アサシン)の手でも生き延びると予言で伝えたと言うのに、見つからないの?」


「も、申し訳ありません。総力を上げてはいますが……。」


「はぁ……。もう良いわ。お前たちは、用済み。狂戦士(バーサーク)。」


 皇帝の指示に、狂戦士が兵士たちの後ろに現れて一人残さず殺めた。魔術師は、表情を変えずに魔術で遺体を片付けてから皇帝に問う。


「良いのですか?捜索隊は。」


「ハッキリ言って、役に立たないわ。捜索隊は止すわ。」


 “それにしても、予知能力が薄れている。ここの所、体調が優れないせいかしら?水晶玉には、異常ないし……”


「それよりも、私の計画は上手く行っているわよね?」


「はい。」


「そうか。ウフフ……あぁ、愛しい息子よ。貴方の願い、私が叶えてあげるからね。」


 皇帝は、微笑んでそう言う。その表情は、ある者に慈悲深く見えるか、それとも狂気と見るか。また、その者の正体は、男ではなく女であった。その様子を見た魔術師は―


 “目的の為ならば手段を選ばない事は、実に素晴らしい。……ですが、哀れな人ですねぇ。貴女は、知らずに()()を払っていると言うのに。これも、罠だとは気付いていない様だ”


 と思い、ひっそりと企みのある笑みを浮かべた。すると、召使いが扉をノックした。皇帝は入室許可を下して、招き入れると会議の時間を知らせて来た。


「そんな時間だったな。」


 皇帝はそう言い、女から男の姿へと変異して会議室へと向かった。

 会議室に到着すると、元老院議員は皇帝への礼儀で立ち上がる。誰も洗脳されていないが、皇帝の正体が女である事を知らない。

 しかし、元老院議員たちは恐れる。暗殺計画を立てた翌日には、誰かが殺されるか、最悪の場合は全員皆殺しを喰らうからだ。


「ローマ郊外の様子はどうだ?」


「はい。最近、農作物の育ちが悪いそうです。この間までは、元気な作物と聞きました。」


「嘘はないな。」


 皇帝はそう言って、元老院議員に精神干渉魔術を施して真偽を問う。掛けられた議員は、はい、と返事をした。


「うむ、真のようだな。」


 皇帝はそう言い、魔術を解除した。だが、その時、皇帝の腕が黒い肌になっているのを魔術師は見逃さなかった。奴は、フードの中で不敵の笑みを浮かべた。

 会議を終えて皇帝は直ぐに会議室を後にする。すると、元老院たちの数名がコソコソと話を始める。


「あの人はもう、終わりだ。」


「どうする?」


「証拠隠滅をする為、スラムに火をつける。その為に鉛を撒いたんだろ。」


「まぁ、奴隷を使えば、俺たちの罪と言えないからな。」


「ま、そうだな。それで行くしかあるまい。上手くいけば、我らに実権が回りますぞ。」


 その話を、暗殺者(アサシン)は聞き逃さなかった。彼は、人気のない場所へ隠れて焔に報告した。


 “な、何だって?!”


 (このままでは、元老院の思うツボです。奴らの真意がこちらも理解しました。奴らは、皇帝を操って我の思うがままにし、不正受領などを狙っている様です)


 “チッ!全く。……暗殺者(アサシン)。その、この事は皇帝には黙ってて貰える?”


 (主、どういう……なるほど。そう言う事ですね)


 暗殺者(アサシン)は、事情を理解してそれ以上問いつめない。焔は、この事を仲間に言うと言い、魔法陣の設置は完了したと報告する。


 (ありがとうございます。あとは、主が呪文を唱え次第でございます。)


 “呪文?召喚術に唱える、アレ?”


 (はい。頭の中で覚えて頂けると幸いです。いざと言う時に、その呪文を口にするのです。)


 “なるほど……暗記できるかな?”


 焔はそう思いながらも、暗殺者(アサシン)からの教えに従って召喚術の一節を暗記をする。


 ―――――――――――


  聞こえる……。私を喚ぶ民の声。故に、私はその時を待とう。


 ―――――――――――


 焔はロランに元老院の目的を伝え、オリヴィエとネロのみに伝える事を約束した。彼はスラム街に関しようの使い魔を使役した。


 “前から思ってたけど、未来を見通せるだなんて、嘘?いや、町の人が言う位だし……。もしや、暗殺者(アサシン)が言っていた魔術師のような人物に何か関係が。それよりも、地下水道のアイツは一体?”


「焔殿、こちらへ。」


 焔は考え事をしている時、ロランに呼ばれて家の中へと入る。彼によると、オリヴィエの鑑定魔術で小瓶に納められた黒い石の事が分かったという。


「それが、邪悪な魔術も混じっていたのですが、人間の血液が含まれてたのです。オリヴィエ殿が鑑定魔術を使った所、ローマ王宮の王族・ボッパエアと言うご婦人の様です。」


 “ボッパエア?!どう言う事?”


「それだけはありません。気分を害してしまうのが申し訳ないのですが、この石は彼女以外の他に何人ものの血液や肉片が含まれていたのです。」


「うっ……。酷い。」


「はい。このローマで、知らない間に犠牲者が出ている事が悲しくもあり、怒りを覚えます。」


「ロランの言う通り。これは、証拠品として訴える。それで、ネロはどう?」


「はい。陛下は、順調に回復へと向かっております。オリヴィエの用意した異空間での剣術訓練を始めて、かなり打ち込んでいるようです。

 オリヴィエ殿の話によると、陛下は母親を止める事を決意した様です。」


「決意、したんだね……。この先、何が起こるかは分からないし、起こってもおかしくは無い。気をつけていかないと。」


「焔殿の仰る通りですね。私も、出来る限りを尽くしましょう。」



 その頃、ネロはオリヴィエが用意した異空間訓練所で剣技の鍛錬を行っていた。


「せやぁッ‼……とうッ!……はぁ、はぁ……。」


 “以前の様には、まだ……”


「ネロ!」


 焔は異空間に入って、ネロに声を掛ける。彼女は、水が入った瓶を握っていた。ネロは、彼女から水を貰い、宮廷がてら話をする。


「オリヴィエとロランから、ネロが決意したって聞いて。……本当に大丈夫かなって。」


「……実を言うと、まだ不安だらけだ。あの女に会う事すら、未だ恐怖に思う。それに、今までのネロとしては誰も別人とは気づかないだろう。どうすればよいか、まだ迷っている。

 オリヴィエから“自由とは、誰もが理想するもの。しかし、そう簡単にはいかず、ある程度の制限に訴訟する事はできない。自分が楽しいと思っていても、他の人からは楽しくないと感じる人もいる”と。」


「確かに、そうかも。……いや、方法はある。ネロが第六代皇帝に就任するのよ。」


 焔はふと思った事を、ネロに提案する。


「我が、第六代目の皇帝?」


「うん。」


 焔は言った。なら、名前も、ネロではなく、ルキウス。第六代皇帝ルキウス・クラウディウスとして。再出発のチャンスだと伝える。


「……うむ‼なかなか良い提案だ、焔。」


 “えぇ?!普通、そこは不安を感じる事ないの?!”


「其方には、感謝しないとな。今度、我と芸術を楽しもうぞ。」


「ネ、じゃなくて、ルキウスは、芸術が好きなの?どんな()があるの?」


 焔は、笑顔でその提案を褒めたネロに尋ねる。彼女には、歴史で学んだ事で一つ疑問があったからだ。


「夢、か。それはもう、黄金に輝く劇場で我の素晴らしき演奏を、民に届けたいのだ。」


 “やっぱり、そうだったか……”と焔、

 “あー、これ、ヤバい奴だね”とユウ、

 “ネロ陛下は黄金劇場を作りましたが、強制的に戸締りして、民を拘束したと聞いています”とレイ、

 “フツーに、それ脅迫”とホムラは思う。


「黄金劇場か。なら、それを魔術でやればいいじゃない。」


 焔は魔術があるこのイリュドなら、建物に上書きをして別の物を作る事すらできる。ジュヌヴィエ救出の時も、そうだった。


「魔術だと?しかし、現物でなければ、劇場は成り立たぬぞ。」


「全てが、現物じゃなきゃいけないって誰が決めたの?私たちの感情は、当然、形に出来ない。」


 例えば、一番美しいと思った景色は、絵や写真に残せる。でも、その日の美しい景色が見れるのは、デジタルは別物だが、たったその日だけ。だから、印象に残りやすい。

 ルキウスの黄金劇場は理想であり、形に出来ないものが多くあるはずたと言う。


「私だって、本当は将来に就きたい職業があったけど、向いていないと思い知らされた時はショックだったよ。

 けど、夢のまた夢で良いかなって。魔術なら、固有結界式で通ると思うよ。」


“夢は、夢のままでも良いと言うことか……”


 ネロは焔の言葉に、何もかも現物でなくてはいけない物なんて無いのかもしれないと感じた。だが、考えている時間はない。彼は、今まで以上に己を鍛えるべく、鍛錬を積んで行った。来るべき時に備えて。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 ルキウス:いよいよだな。我の剣技が元に戻さなければ。


 ロラン:ルキウス陛下は着々と剣技がお上手になられています。焦らずに参りましょう。


 ルキウス:そうだな。して、ロランよ。我と鍛錬をしてくれぬか?


 ロラン:構いません。陛下の頼みならば。


ルキウス:と、ここで我の剣について!我の剣は長命菊をモチーフにした色合いにしておる。

 あの花はアクテが好きで、我も綺麗だと思った。次回『第17節 計画、実行 ―大火の禍―』だ!

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