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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅱ章 大秦王帝国 インぺリウム・ローマ 編 ―長命菊の名君―
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第13節 スラム街/侵入 ―忘れてはならぬもの―

 焔は、本物のネロ皇帝をロランとオリヴィエのいるスラムに匿う。彼女はネロの状態を回復するべく、オリヴィエに治療を頼む。

 オルランドことロランは、焔とネロを見つけて拠点へと匿った。彼は周囲に敵がいない事を確認して、焔から話を聞いた。


「――と言う訳。」


「なるほど。陛下が牢獄に。しかも、誰も知られない場所とは。やはり、何かありそうですね。」


「ただ、問題なのは、スラム街が広がっている事だけじゃない。どうして、自分を狙ったかもあるし。疑問は、一番皇帝と会う元老院が気付いていないのかなって思う。」


「それは、わ、我も、思う。」


 そう言ったのは、上体を起こしたまま寝床に転がるネロだ。先程の親しみ気と違って、怖がったような口調だ。


「ネロ。やっぱり、おかしいと思う?」


 焔の問いに、ネロは頷いて話をする。


「わ、我は、元老院に、嫌われて、いる。あの、女、……か、かあ、さ、さんも、そうだ。」


 “やっぱり、母親への恐怖があるのか。お母さんって、言いづらい感じだ”


「元老院、奴らは、金を、民から、おおく、取り、上げている。我は、それを、無くそうと、した。でも、あの女は、早すぎるとか、順序があるだの……うぅ。」


「ネロ。あまり無理しないで。ありがとうね。今は、休んで。」


「焔。あ、取込み中だったかな?」


 焔は、部屋にやって来たオリヴィエの尋ねに問題はないと言い―


「それで、お願いできる?」


 と言った。


「任せて。ネロ陛下の治療、だね。」


「ほ、焔。わ、我は、何かさせられるのか?!」


「だ、大丈夫。お、落ち着いて。ネロ陛下を助けたいだけ、それには医者による治療が必要なの。オリヴィエは、立派な魔術医者なの。心配は無用だよ。」


「……焔が、そう言うなら。手こずらせたら、許さぬ。」


 ネロは警戒心を持ったまま、オリヴィエに言い放った。焔はロランの報告を受けるべく、ロングマントを身に纏ってスラム街を探索する。彼女は名前を偽り、エルと変える。


「以前は、みちっばたに倒れている者が多かったのです。しかし、今は御覧の通り、オリバーの薬で活気が戻りつつあります。」


「……ローマは一日にして成らず、と言ったのは人だというのに、何故、壊すのだ。」


(エル)?」


「すまない。だが、嫌な予感はする。今の皇帝の野望を見抜かなければ……。」


 “暗殺者(アサシン)。聞こえる?”


 (はい、主。確かに)


 “今、陛下を無事に保護して、スラム街にいるけど、一つ聞いても良い?”


 (何でしょうか?)


 “アグリッピナが部屋にいない時間帯を知りたいの。ネロ陛下には服もあるけど、武器が必要になる。本物と偽物の皇帝に見切りを付けたい”


 (なるほど。皇帝の公務としましては、午前中は殆ど政治会議を行っております。夜になりますと、部屋にいる事が殆どになります)


 “となると、夜は駄目……昼間がチャンス、か。潜入、大丈夫かな”


 (私が届けることもできますが……)


 “いいえ、暗殺者(アサシン)ばかりに迷惑をかけられないよ。ここは、腹を括りたい。……あと、暗殺者(アサシン)に頼みたい事があるの”


 焔は暗殺者(アサシン)に、一つ提案をする。


 (なるほど。では、主の提案に従いましょう)


 暗殺者(アサシン)は、彼女の提案を受け入れた。焔は潜入作戦を実行するべく、翌日までに服装をローマ人の格好にして過ごす。動きになれていなければ、万が一の事もあるからだ。

 その作戦はオリバーとオルランドに伝え、ネロには昼に出かけて来ると話した。


 “ふぅ~。落ち着け、落ち着け”


 焔は王宮へ向かう為、ネロの救出した際に通った水路を行く。今度は化け物に会わずに済んだ。だが、ローマ王宮の領域内へ入ると、兵士が疎らに警備に当たっている。彼女は重力魔法で天井に張り突き、サッサッと通過する。

 そして、隠された牢獄へと到着すると、暗殺者(アサシン)の姿があった。


暗殺者(アサシン)。」


「ご無事で何よりです。私がご案内しますので、主は私のフードの中にいてください。」


「フード?うわぁッ‼」


 焔は何が起こったのかを見ると、暗殺者(アサシン)や周囲の物が大きく見えた。彼女は、自分が小さくなった事に気付く。


「突然、すみません。この方が、主の安全が取れると思っていたので。」


 暗殺者(アサシン)はそう言いながら、焔を掌に乗せてフード内へ入れる。彼女は、彼に礼を言って身を隠す。

 暗殺者(アサシン)は、そのまま皇帝の部屋へと向かう。彼は途中で元老院と話をする。


「そろそろ、会議の時間だ。陛下に報告しろ。」


「承知いたしました。」


 “随分、偉そうな態度……お前らの野心。横領とか、全部見抜いてやるッ‼”


 焔はそう思いながら、暗殺者(アサシン)によって皇帝の部屋へと辿り着いた。


「陛下。この後、会議があります。」


「あぁ、そうだったわね。ご苦労様。片付けを終えたら、来なさい。」


 声質と口調が明らかに違う。焔は静かにして、ネロが部屋を出るのを待った。そして、扉の閉じる音がした後、暗殺者(アサシン)は彼女を床にそっと降ろして、元の大きさに戻す。


「さぁ、今の内に。」


 焔は、暗殺者(アサシン)の言葉に頷いて静かに武器庫まで案内を受けて中を覗く。頼まれていた紅と白の剣を発見する。


 “この二本か。良し。鞘に収まってるし、ポーチにっと”


 焔は、そっと二本の剣をポーチに入れた。残りは服である。箪笥へと向かい、二着程回収してポーチにしまった。


暗殺者(アサシン)、終わったよ。……それでさ。元老院の会議、聞きたいんだけど、駄目かな?」


「そうですね。私は、召使いとして参加する様に言われましたし……。大丈夫ですが、大声を出さぬ様にお願い致します。」


「ありがとう。」


 焔は、再び小さくなって暗殺者(アサシン)の元、元老院の会議に赴いた。彼女は、スマホの録画機能を使って暗殺者(アサシン)のフードの中で会議を聞いていた。


「改革を、行うというのですか?陛下。」


 元老院議員はネロにそう言う。彼は答える。


「勿論だ。これは、民の為、貴族圏による不正な受領を禁止する為だ。」


 “受領?年貢か?”


「陛下。何をおっしゃいますか。我々が不正な受領を行なう訳ないでしょう。」


 別の元老院議員は、可笑しいとでも言うかの様に話す。


「ほう。なら、投票を行うか。だが、お前たちは自分の金儲けの為に投票するのは許さぬ。」


 ネロは、元老院議員の言葉を受けて冷静に答えた。そこには、支配者と言う威厳を色濃く感じるものだった。


 “一瞬で空気がピリッとしたか。やはり、元老院とは小競り合い中か”


 (エル)はそう思って、聞き続ける。会議室で投票が行なわれ、最初に話した元老院議員が投票に入った。


「アントニオだ。A、N、T、O、N、I、O。」


 焔は、その様子を見ていた。

 名前を筆記しているのは、皇帝に選ばれた奴隷圏の庶民。奴隷は、学問を与えられていない者が当たり前と言うかの様に、文字が書けない。それを、元老院議員は馬鹿にしていたのだ。


 “馬鹿にするなら、学問を与えれば良いじゃない。その方が効率的だって、分かんないの?……でも、お前たちはそうしないんだろうな”


 焔はそのまま会議を聞き続け、暗殺者(アサシン)により牢屋の中へと入った。彼女は、元の大きさに戻る。


「ありがとう、暗殺者(アサシン)。」


「いいえ。主がご無事なら何より。それと、町の各地に魔法陣を敷くようお願い致します。」


「わかった。大召喚をするには、必要なことだもんね。」


「はい。では、また。」


 暗殺者(アサシン)は、そう言って姿を消した。焔は兵士たちの監視を回潜って、直ぐ様スラム街へと帰還して行った。

 宮廷にいるクーとアルとアーサーは焔の行方がわからない事に疑問が浮かばせていた。


(にいさん)……。」


 アルはそう言い、焔の気配を僅かながら感じていた。生きていると信じて。焔は、スラム街へと帰還してネロに武器と服を確認してもらう。


「おぉ!まさしく、我のモノだな。うむ、ご苦労であった。……それと、オリヴィエと言ったか、お主の医学を疑ってすまない。」


 ネロは、オリヴィエに謝罪した。治療を受けている間、二人は話をした様だ。

 ネロは民を助けたいが為に、元老院の不正を許さず、改革を進めた。また、民との関わりを深く持つ為に芸術に触れたらしく、ハープを奏でる事もあったという。


「いいえ。私は、ルミソワの身。抹殺対象であるにも関わらず、私たちを受け入れてくださった陛下に、感謝しかありません。」


 オリヴィエは、ネロにそう言う。


「抹殺対象など……。どうやら、我が表に立たなくなった時からローマは変わってしまったのだな。」


 ネロは、最初、両親の言う通りのまま、光明神(クレアシオン)を信仰する者に対する偏見はあった。

 しかし、アクテはそれは誤解だと言って、どういう事かを話してくれた。彼女のおかげで、我は人それぞれに違いはあるのだと知り、それが良いものだとわかった、と話す。


 その数日後の夜。焔は、部屋でじっくりとスープを飲んでいた。


「一人では寂しくないのか?」


 ネロはそう言い、焔の隣に立つ。


「……皆と楽しみたいけど、たまに、一人でいたい時がある。」


「そうか。」


 ネロはそう言って、彼女に話を始める。


「あの女……母上、は我の考えを受け入れてくれなかった。いつしか、我は利用されるのではないかと、恐れていた。怖かったのだ。

 だから、あの女を殺してしまえ、と言った事があった。……だが、思えば、我のせいで死んでしまった人がいるのは申し訳ない。」


「……その、私が言える事じゃないけど、お母さんの事、怖かったと思う。自分の考えを否定されるなんて、私も絶対嫌だ。けど……。」


 焔は言った。


 『でも、生んでくれて育ててくれたのは、やはり母親である事』


 彼女は、ネロに言う。


「自分を生んで育ててくれた事には恨まない、いや、感謝を忘れないで欲しいって思う、かな。……ごめんなさい、一人前な事を言って。」


「……いや、其方の言う通りだ。人は母親から生まれて、母親を主とする家族に育てられる。我は、家族の繋がりが強い民に憧れていた。

 あの頃、アクテと一緒に農業したり、遊んだりしたのが懐かしいのだ。」


 ネロはそう話して、夜空を見上げる。今日は、満点の星空だ。


「アクテさん……。」


 “連絡したいのは山々だけど……アッシュたち無事、だよね?”


 焔が暗殺された事が表に出ている中、彼女はアッシュたちの事が心配であった。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


焔:ふぅ、何とかネロを匿えて良かったぁ。


ネロ=ルキウス:うむ、其方の勇気、大義であった。あの時に来てくれなければ、今の我になっていなかっただろうな。


焔:そんなこと無いですよ、ネロ陛下。


ネロ=ルキウス:自信を持て。それに、其方は我の友だ。敬語は必要ないし、ルキウスと呼んでほしい。それと、我の豆知識(ヒミツ)を教えよう。

 我は、オリュンポスの建築や芸術が大好きだ。いつか、民と楽しみたいと思っている。芸術に、身分の壁など無いからな。


焔:さ、流石、ネ、ルキウスだね……。次回、第13.5説『光明神の巫女 ―首都ローマへ―』。あっちは、大丈夫か?

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