第11節 ローマ皇帝/拝謁
暗殺者の口から出たネロの母親、ユリア・アグリッピナ。焔は真実を知るべく、彼女について調べる。
焔は、スマホでネロの母ユリア・アグリッピナについて調べる。
【ユリア・アグリッピナ。政治的手腕を持ち、非常に教養のある人物。息子の軍事基盤として近衛隊に注目した。また、水泳能力がある。
しかし、野心深く、また権勢欲が強い。夫殺しの疑惑は後世でも晴れていない。息子を愛する大きさは、後にネロが母親殺しを行う原因となる。
夫は皇帝暗殺の罪で処刑され、彼女は流罪となった。クラウディウス帝が即位し、流罪は無くなった事で、息子と再会。しかし、クラウディウス帝が無くなると、彼女は夫の財産を手にした。
また、クラウディウス帝の実子ブリタンニクスが毒キノコで死ぬと、ネロは皇帝に即位する。これも、アグリッピナの策謀ともいわれる。
しかし、彼女の過保護な干渉は独立心が芽生えたネロにとって邪魔な存在となり、暗殺される。享年四十三。】
“狡猾さが凄いな。目的の為なら、手段は選ばないって事か。……眠っ。今日は、ここ等へんにしよ”
焔はスマホをしまって、ソファーに横たわって就寝した。
♢
夢を見る時間に入った頃、彼女はエルと話をしていた。
「エル。昼間の行動、何だったの?」
「すまない。友と久しぶりに出会えた故だ。」
エルは、そう言って微笑む。
「友?もしかして、クレリウスさんの事?」
「あぁ。」
「ま、まさか!」
「そうだ。俺は、エルヴィス。お前に願いを託すために、女神からお前の人格として備えられた妖精だ。本当は魔力を司るのだが、分裂した際にホムラと能力が入れ違えた様だ。」
「あ……そ、そうなのね。ひとまず、置いておいて。」
焔は混乱する頭を整理して、エルヴィスに何故他人である自分に人格としているのかを尋ねる。彼は彼女に話をする。
「お前は、人々を助けたいと言う意志が心の奥にある。その魂の本質は、純粋、素直さと言った方が正しいか。そして、お前には周りに流されない所がある。」
「そう?そう言うけど、私は臆病だぞ。人前にあまり出たくないし、人と話す時でも緊張する。どっちかって言うと、引っ込み思案だし、捻くれてるよ。興味があるないの差は激しいし……。」
「そうかもしれない。だが、まだお前は己を知っていないに等しい。それに、ここまで来れたんだ。お前は少し変わりつつある。」
「そ、そうかな……。」
♢
「兄さん。おはよ。」
「あ、アル。おはよ。もう、朝か。」
焔は眠気覚ましに洗顔を終えて身支度を整えると、扉からノック音がした。応対に出ると、暗殺者がいた。
「朝食後、ネロ陛下からお話があります。」
「ありがとう。そろそろ、食べないといけない時間か。じゃぁ、朝食、お願いします。」
「畏まりました。」
暗殺者はそう言い、扉を閉めてから朝食を運ぶ様に他の召使いに指示する。焔は、食事を終えた所でアールシュに話をする。
「アル。この後、皇帝さんと二人で少しお話してくる。戻ってくるまで、部屋にいて欲しい。」
「う、うん。」
「ごめん。でも、隣の兄貴が来てくれるから、大丈夫。」
焔はそう言って部屋を出ると、クーが部屋から出て来た。彼は、帰るまでの間にアルを見守る事を引き受け、彼女の部屋へと入った。
その後、暗殺者の案内を受けて、焔は皇帝の部屋へと訪れた。部屋に入った途端、焔は軽く目を擦る。
“何、これ?確か、師匠が言っていた魔力痕?……いや、今は皇帝さんとの話に集中!”
「さて、ローマに来て数日は経つが、どうだ?」
焔は、動揺せずに女性の姿をしている皇帝の質問に答える。
「はい。とても素晴らしい街です。アウグストゥス様から続く、このローマが未来にも続く事を望みます。」
「ありがたい言葉だ。確かに、我らクラウディウスは、ユリウス・カエサルとアウグストゥスの血を引く。このローマを滅ぼす訳にはいかぬからな。一時、我があ、伯父のカリグラの頃は、危うい所だったわ。」
「カリグラ皇帝ですか?」
「あぁ。初期の頃は誰もが笑顔に満ちていたが、月に愛された事で狂ってしまった。ほんと、大変だったわ。」
“本当は、鉛中毒が関わっている様だけど……。それよりも、女口調になりかけている”
「まぁ、私は伯父の頃の様にさせぬがな。ローマに害のあるものは、排除するべし。」
「私は、あまり詳しくありませんが、このローマを滅ぼしたくないと思います。先祖代々続くこの国を守る事は、とても素晴らしいと思います。私だったら、国を守るどころか、政治も成り立たないでしょう。」
「ははっ。其方、よく分かっているな。だが、そう謙遜過ぎるのはよくない。時には自信を持って、自分を表現する事が大事よ。……其方、忘れるでないぞ。」
「は、はい‼」
「うむ、良い返事ね。話を変えるが、夜叉の子は息災か?」
「はい。徐々に生活に慣れて来たようです。それに、服が一着のみでしたので、町へ赴いて彼が気に入った服装を買いました。勿論、騒ぎは起こしておりません。
それと、靴もボロボロ、かつ裸足のままなので、帰って来た時はきちんと拭いておきました。」
「そうか。其方は、場を弁えているな。……其方。今宵、我が絶賛する温泉に入ってみないか?少し遠いが、行く価値はあるぞ。」
「……お誘いはとても嬉しいのですが、また、今度で良いでしょうか?その時に、ゆっくりとお話をしましょう。」
「そうだな。些か、急用すぎたな。しかし、公務がここの所忙しくてな。では、我が芸術品である建造物が完成したその暁にでもしよう。」
「で、では、お願いします。」
“建造物。もしかして、黄金劇場?一体、どこに?”とユウ、
“考えたくない、とは言い過ぎだけど、これは確信する位に嫌な予感”と焔は思う。
その日の夜。焔は風呂から上がり、髪の毛を乾かし終えた。アールシュがは、風呂から上がったばかりでずぶ濡れだが、クーの指導もあってか一人で出来る様になっていた。
皇帝との温泉旅行は嬉しいが、今はローマから離れる事ができない。何故なら、相手は毒を用いて暗殺を繰り返した事で有名なのだから。鞘の力で何とかできるかもしれないが、こちらの戦力はあまり見せびらかしたくない。
その時だった。
「兄さん‼」
「ガッ‼」
焔は、何者かに脰を打たれて気絶する。アールシュとアーサーは反撃しようとしたが、奴の峰打ちによって気絶する。
焔は、意識を取り戻して目を開けると、薄暗く松明が唯一の灯りとなっている場所だった。彼女は腹辺りに痛みを感じつつ、辺りを見回すと―
「お目覚めになりましたか?」
「……ッ‼暗殺者。……ここは、一体?」
「申し訳ありません。この件は、逆らえぬ事なのです。」
暗殺者によると、ネロことアグリッピナは焔に対して暗殺をする様に命令したという。彼は、暗殺と見せかけて彼女を隠された牢獄へとぶち込んだ。
どうやら、アグリッピナは焔に警戒心を持っており、この時を狙っていたという。しかし、焔にとって予測の範囲内だ。
「クー王子に、アールシュ様、竜のアーサーは無事です。渡す物があるなら、今の内です。」
「……暗殺者。貴方は、どちらの味方?強制じゃないから、答えなくても良いですが。」
焔は、強気で暗殺者に問う。
「私は、アグリッピナ様に召喚されました。まだ、真名はお伝えしておりませぬが……。私は、ローマの安泰の為に、父の外甥をこの手で殺しました。
最初は、アグリッピナ様を理解しておりませんでしたが、その行いを見て、貴女と出会って、私は英雄として改めて決意したのです。ローマの為、私はこれ以上、陛下、否、アグリッピナの好きにはさせたくない。」
焔は、そう言っている暗殺者を半信半疑でありながらも英雄として許した。また、彼女は、彼の真名を確定した。
このローマの始まり。初代皇帝が名乗る前、一人の有名な独裁官は民衆からの指示が高かった。しかし、元老院はこれに反対して暗殺計画を行い、彼もその計画に賛同して止めを刺した。
“間違いない。彼は、カエサル暗殺の象徴・ブルトゥス……合点がいった”
「暗殺者。まず、ここから脱出する方法は?」
「はい。ここは、隠された牢獄ですが、王宮では一番外側、方角はスラム街のある北側です。しかし、私でもあまり詳しくないのです。食事を届けること以外は……。」
「食事?……いや、それより、この薬をクーに渡してください。それと、周囲に気をつけてと伝えて。」
「了解しました。では、私はこれで。どうか、脱出の際はお気をつけください。」
暗殺者はそう言って、焔に小声で何かを話してある物を渡してスゥっと姿を消した。
“薄暗い。ブルトゥスが言っていた、食事を届ける。何かあるな”
焔はスマホのライトを点けて、まずは周囲を確認する。所々、人骨があって不気味さを与えてくる。彼女は一瞬背中が凍りついたが、気を取り直す。
“さてと、暗殺に投獄……そのツケ、返しててやるよ”と悪巧みな笑顔をするホムラ、
“お前の言う通りだ。焔。ここでじっとしている訳にはいかないぞ。悪党には、悪党。覚えておけ”とエル、
“うん。ありがとう。……エル。この事案が片付いたら、クレリウスさんの所に行こう”と焔、
“あぁ。感謝する”とエルは思う。
焔は再び辺りを見回すと、一人の青年の姿を捉えた。
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焔:ふぅ〜、やっとアルの服がちゃんとできてよかった。
アールシュ:うん。ありがとう、兄さん。
焔:兄さん、か。いつか、思い出せるといいね。
アールシュ:うん。兄さん、クーさん、ありがとう。
焔:あぁ、何て良い子なんだろ……。次回、『第12節 脱出計画 ―本物の皇帝―』。ローマの隠された真実とは?




