第9節 歓迎の宴 ―状況一変―
焔はアールシュと共に部屋で食事をする中、クーはネロによって宴に参加していた。
一方、クーはネロによって宴がもてなされる。
「ネロ陛下。申し訳ない、アールシュの今の状態では、ここにいるのは些か不安でしたので…。」
クーは、ワインが注がれた盃を手にしながら言う。
「良い。焔は、我からの役目をしっかりとこなしている。別に構わぬ。あの子供の事を、最近、配下になった魔術師から聞いた。
東方の鬼の一族、その末裔だと。しかし、一節によると、緑を司る龍や火を司る鳥、雷を司る虎に水を司る亀と蛇の力を持つとも言う。」
「そんな伝説的な一族なんですねぇ。東の事はよく知らなかったので、驚きました。」
“今、最近配下になった魔術師、とか言ったな。何か、裏がありそうだが…今は止そう”
「我も驚いた。ただ、珍しく華奢に見えて、強靭な肉体、獣の様な身体能力。鬼とは、恐ろしいものだ。」
「……。まぁ、今の所は、焔が落ち着かせていますので、大丈夫ですよ。」
「ふむ、そうだな。些か、不安だらけであったが、む……焔がおれば良かろう。……すまない。少し、風に当たって来る。お前は楽しんでおれ。」
「ありがとうございます。」
“帰ってから、焔に報告、だな”
ネロが宴を後にして、部屋に戻るとボッパエアがいた。彼女は、彼が来た事に喜ぶが……。
「フン!よくも、まぁ、私の息子に近づいたわね。」
「え?何を言っているの?ネロ。息子?まだ、子供はいないわよ。」
「お前の野心は、とうに見通している。各地で迫害を起こしたのも、お前が元凶だろうが…。皇帝の妻となり、家に金を持ち込むためにね。」
ネロは、変身術を解いて本来の姿を見せる。ボッパエアは、その姿を見て恐れおののいてしまう。
「嘘……。何で、義母様!は、迫害は何かの間違いですよ‼」
「悪いが、もうお遊びはお終いだ。暗殺者、この女を殺せ。」
「御意。」
暗殺者はネロの指示に従って、剣を抜刀する。ボッパエアは慌てて逃げ出すが、暗殺者の素早い動きにより背後から腹を貫かれた。
暗殺者は刃を引き、ボッパエアは失血によって地面に倒れる。
「これで、家を脅かすを倒せた。時期に、迫害を止めにかかろう。そうすれば、ウフフ。……ご苦労、暗殺者。召使いの仕事に戻れ。」
「御意。」
暗殺者はそう言って、血を振り払ってから剣をしまい、部屋を後にした。後に、この事件は直ぐに王宮に広まった。
何者かによってポッパエアが殺された、と。その知らせは、翌日、焔とクー、アールシュの元に届いた。
「ちょい待って。こんな時に、事件とか……。物騒な話はやめてくれ。」
「何があったかは知らんが、ヤバいのは事実だ。」
「じ、けん?何?」
“あぁ〜。天使や、この子。弟属性、増し増し……”
「アールシュは知らなくて良いよ。……兄貴。どう思う?」
「いや、どうと言われてもな……。宴も、違和感なしだ。あ、それと、迫害を皇帝さんが止めたって事で話題になってるぞ。皇帝の見えない所で、皇后は民を迫害したってな。」
クーは、噂の内容を話す。
「いやぁ……流石に、違和感あり過ぎでしょ。迫害を止めるのに、長い月日いる?」
「俺も同じだ。計画性ってか、裏がありそうだ。」
確かに、違和感が大きい。しかし、民は皆、安寧が戻って来たか、と喜びに満ちている者が多い。
「兄貴にしては、言うね。」
「おいおい。俺は、ただ槍を振るっているだけじゃねぇぞ。」
「ごめん、ごめん。分かってるよ。」
“やっぱ、冗談を言うのは合わない、か……”
「で、オリヴァーとオルランドからは、何だって?」
クーは焔に尋ねる。昨晩、焔は、オリヴァーことオリヴィエ、オルランドことロランと連絡を取っていたのだ。
「うん。スラム街になった原因を突き止めたみたい。けど、もし、この情報を皇帝に嗅ぎつけられたら、大変だけどね。」
「そうだな。ま、でも、進歩してる事には変わりねぇさ。」
「アールシュの事も話したんだけど、二人共、私と同じ……アールシュを、故郷に送り届ける。家族のことを思うとね。」
焔はそう言って、ふと、あることを思いついた。
「そうだ!アールシュ。今日から君をアルって呼ぶよ。友達だし、渾名も悪くないでしょ?クーも、良いと思わない?」
「とも、だち……。うん。いいよ。」
「良いんじゃないか。それにしても、結構素直だな。アルは。」
クーは、アールシュの様子を見て率直に言う。
「アルは、多分、上にお兄さんかお姉さんがいるんじゃない?だって、ほら、ねぇ……。」
焔は、そう言った。クーは、アールシュの雰囲気で弟ぽさが出ている事を理解した。
「なるほどな……。そうかもしれないな。」
「でしょ!………あ!そうそう!……アル。家族のこと、何か思い出せる?」
焔は、アールシュに尋ねる。彼は少し考えるも、首を横に振った。まだ、記憶の一欠片も思い出せず、混濁している様だ。
「困ったなぁ……。何か、手掛かりがあれば良いけど、やっぱり、コーサラに行くしか無い、か。兄貴。こっからコーサラまで、どれくらいかかるんだっけ?」
“ルミソワで世界地図を見たけど、結構遠かったような……”
「俺の記憶だと、結構遠い気がした。途中で、オリュンポスを越えて、その先は長い道のりじゃなかったか?」
「オウマイガーッ!……気長に行くしか無いか……よよよ。」
クーの言葉に、焔はそう言ってガックリと肩を落とす。アールシュは自分の意志を徐々には出て来るようにはなったが、まだまだ心配な点がいくつかある。
“どーしよ……いつまでも部屋に閉じこもってちゃ、駄目だよな。ちょっと、過保護過ぎたかも……。ダメダメ、クヨクヨしちゃ!”
「アールシュ。そろそろ、宮廷の外……町に出たいと思わないか?いつまでも、ここに居ても飽きてしまうだろ?」
焔はそう言って、アールシュに尋ねる。
「外、町。……行きたい‼」
アールシュは、この時初めて感情を含めた言葉を発した。瞳に僅かな光を宿して。焔は、明日に町へ赴いて買い物でもしようと約束した。
クーは引き続いて皇帝と会談をし、アールシュは昼寝をし、焔はバルコニーからローマの街並みを眺める。
「……今頃、どうしているかな。」
一方、アッシュたちの元には迫害が終わったと喜びの通達があった。喜ぶ光明神の教徒たち、アッシュ、アストル。しかし、フロリマール、ジュヌヴィエ、ルノー、エレオノーラは喜びと言うより疑問が残る。
「いきなり、迫害が無くなるとは思えない。」
「ルノーも、そう思うのか。」
フロリマールはルノーにそう尋ねた。
「お前もか?」
「あぁ。腑に落ちないさ。師匠が教えてくれたんだが、急な変化などには気をつけて方が良い、例え国内外問わずって言ってた。それが、まさに今かなって。」
フロリマールは、師匠という人物からの知恵を話した。
「そうか。俺は、爺さんの事があってから、人を疑う事を忘れなかった。父さんと母さんが信頼を取り戻したとしても、媚を売って来る奴には特に気をつけてたさ。」
「氷の騎士、ってそっから?」
「分からない。でも、ずっと睨むような目線だったし、そうかもしれないって思う時はある。……それよりも、この状況、ローマでも広がっていれば良いが…。」
ルノーがそう言った時、フロリマールの通いの瞳が音を出した。彼は通いの瞳を開くと、焔からだった。
[フロリマール。そっちの状況はどうなの?]
「光明神の教徒に対する迫害が無くなったって。噂では、皇后様が迫害していたって聞くけど。」
[情報の伝達が早いね。そんなに早く?]
「ローマはどうなんだ?」
[その情報はあるよ。ようやく安寧が来るのかって、喜んでいる。ただ、宮廷では大変な事が起こった。ボッパエア皇后が暗殺されたんだ。]
「皇后が、暗殺?!」
フロリマールは思わず大声を上げたが、周囲に知られては混乱を招くとして小声で理由を尋ねる。
[まだ、詳しい事は分かってないんだ。でも、裏はあると思う。]
「俺もそう思うよ。急に、こんな出来事は起こせないはず……。物語でも、急に平和になって、めでたし、だなんてあり得ない。」
[確かに。例えると、そうだね……。とにかく、まだ様子を見て欲しい。本当に終わった事なのか。こっちも、様子は見ているから。]
「了解。アッシュたちにそう言っておく。ありがとう。」
[いいえ。そっちも、気をつけてね]
焔は、そう言って通信を切る。話を聞いていたルノーは、フロリマールと目を合わせてアッシュとアストルを呼び、ジュヌヴィエとエレオノーラも宿泊部屋へと招く。
フロリマールは、焔と話していた事を伝える。
「た、確かに、いきなりハッピーエンド、なんてないな……。」
「気付かなかったぁ……。」
アッシュとアストルは、迂闊だったことを反省する。
「致し方ありません。こう言う事も、考えられます。」
「こう言う事も?どういう意味なのですか?」
エレオノーラの発言に、ジュヌヴィエは尋ねる。
エレオノーラの話によると、国の全ては皇帝が指揮権を担っていて、逆らう事も許されない事が多い。また、皇帝崇拝もあってか、皇帝の信頼は大きく、覆す事は限りなく不可能に近い。
ましてや、ネロ皇帝は民からの信頼がとても厚く、より困難を極める。
「今の所、こっちは見守るくらいしかできない、か。」
アッシュは、残念と思いつつもそう言った。
「そうだね。申し訳ないけど、焔とクー王子、ロランとオリヴィエに任せましょ。」
ジュヌヴィエはそう話す。彼女の意見が、今の所はごもっともだとアッシュたちは頷いた。
読んでくださいまして、ありがとうございます!
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
焔:兄貴、パーティに参加してくれてありがとう。
クー:造作もねぇよ。お安い御用さ。
焔:兄貴らしい!フゥ〜!
クー:ま、久しぶりに皇帝さんと話したけど、気になる事はあったな。
と、ここで『イリュド豆知識!』。ネロ陛下は魔術が得意だが、剣士や騎士は最高に立派なものだと知ってから、常に剣を持っているようだぜ。
焔:へぇ、確かに。剣士とか、騎士は良いよね。んで、兄貴が気になる事って?
クー:あぁ。それは……って、尺がねぇじゃねぇか!!し、次回、『第10節 ローマ市街/散策』だ。
焔:兄貴……(タイミングが悪すぎる……)。




