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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅱ章 大秦王帝国 インぺリウム・ローマ 編 ―長命菊の名君―
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第7節 永遠の都/闘技場 ―夜叉の剣奴―

 ネロに闘技場へと招待される事になった焔。そこで、一人の青年と会う。

 歓迎の宴の翌日、焔は身支度を整えながら昨日の事を思い出す。それは、宴の後で部屋に戻った時のこと。


 ♢


 焔は部屋に入って緊張を解いた時、ドアをノックする音を聞いた。


「はい。」


 彼女は扉を開けると、召使いが一人いて用があるとの事で部屋に招き入れる。


「いきなり訪れて申し訳ありません。しかし、重要な用件です。」


「重要な要件、ですか?」


 焔は詳しく聞くべく、召使いと対面するように椅子に座る。


「はい。私は、とある任務を任された者。簡単に言えば、刺客みたいなものでしょうか。」


 “刺客?!暗殺者(アサシン)ってこと?”


「驚かれるのは無理もありません。しかし、これはローマの一大危機です。その為、私は危機を排除するべく招かれた英雄です。」


「英、雄?」


 暗殺者(アサシン)によると、世界各地で英雄と呼ばれる過去の人間が現在へ召喚されていると言う。自分以外にも、あと一人いて、もうじき焔の仲間の元へと到着するとのこと。

 焔は、何故自分たちを知っているのかを尋ねると、彼は答える。


「貴方方が、このローマを救うに相応しいからです。申し遅れました。私は、暗殺者(アサシン)。本名は、過去の者である故、弱点を突かれるのを避けるべく名乗る事はできません。」


 暗殺者(アサシン)はそう答えた。そして、焔は英雄との契約について話を受け、彼に倣って呪文を唱えると―


「わぁっ!」


 “左手に紋章が入った。月桂冠の様な模様と、剣かな?”


「その紋章は、私の主と言う証です。紋章は英雄によって、それぞれ異なります。また、英雄と契約すれば、直接会話せずとも意思疎通ができます。その紋章を以て、絶対的な命令を三度下す事が可能です。使う際は賢明なご判断を。」


 暗殺者(アサシン)はそう説明し、部屋を後にした。


 ♢


 “本当にすごいなぁ。あ、そう言えば、兄貴もアーサーと一緒に闘技場(コロッセオ)に招待するのを、皇帝さんが許してくれたっけ?行こ”


 焔は身支度が整ったことを確認して、アーサーと共に部屋を出てクーと合流する。そして、朝食を終えてネロ皇帝の案内によって闘技場へとやって来た。彼の案内によって、二人と一匹は皇帝とその妻・ボッパエアと同じ特別席へと座る。


 “ボッパエアさんか、さっき、スッゴイ視線で睨まれたような気がする。野心家、だもんね…”


 焔は、緊張しながらもクーの隣に座る。彼女の肩に乗ったアーサーは椅子に座った後に、心配するかのように彼女の顔を伺う。


「大丈夫。私は元々、この国の人じゃないから仕方ないよ。」


 焔は、小声でアーサーに言った。アーサーは、頬ずりをして彼女を励ましていた。彼女は小声でアーサーに礼を言った。すると、歓声が闘技場に響き渡った。焔とクーは試合コートを見ると、一人の青年が出て来た。相手は、黒き気配を纏った魔獣だった。


「お、おい、アレ……魔獣じゃねぇか?」


「やっぱり。そうだよね、兄貴。」


 クーの言葉に焔は頷く。しかし、魔獣とは言え、あの青年ではどうなるかも分からない。不安を隠せないまま、試合は始まる。

 魔獣は威嚇をして、青年へと襲い掛かる。焔は危ないと思い身を乗り出す。試合相手の青年は、魔獣に怯える事は無い。


「うぅ…ヴァァァァァ‼」


 青年は、額に二本の角を生やして獣の様な叫び声を上げて、魔獣と戦い始めた。焔は思わず耳を塞いでしまったが、その様子に違和感を感じて瞳に拡大魔術を掛けて青年の様子を見る。


 “角が二本…。まさか、鬼……。何を、させる気なの、この試合…”


 闘技場で行われる『剣闘士vs獣』や『剣闘士同士の試合』は、言ってしまえば血生臭いものである。だが、当時はこれを娯楽の一つとして取り上げられた。

 魔獣は本能のまま、青年へ襲い掛かる。青年はしばらくの間、魔獣を観察すると剣を振るって反撃していく。それは、あっという間に勝利となり、魔獣は死ぬ寸前だった。

 その時、闘技場の観客が青年に向かって―


「さぁ、今日も、食ってみろ‼」


「喰え!喰え!」


 と一斉に叫んでいる。青年は、戸惑いを抱えていた。


 “また、だ……”


 魔獣の傍に寄って、大きく口を開けて牙を見せ、魔獣の首辺りに噛みつきその血肉を喰らった。観客は、歓声を上げる。


「ひっ‼」


「焔。見るもんじゃねぇ。皇帝陛下、ちょっと失礼します。」


「あぁ。」


 クーは彼女を引き連れて席を立って、別の場所へと移動した。焔は一瞬だけ見てしまったが、あの青年は戸惑っていた。一瞬だけ、躊躇っている様にも見えた。


「……。兄貴。まだ、試合は続く?」


「あぁ。聞いたところによると、大きな魔獣と戦わせるって聞いたが…。」


 クーは焔の質問に答える。青年は次々と魔獣を倒し、観客は歓声を上げる。

 二人は廊下から闘技場を見渡すと、最終試合に差し掛かっていた。青年の前には彼の身長を遥かに超える魔獣だった。彼らは、見覚えがあった。


 “コノートで、戦った奴?!”


 青年は、今までと同じ様に戦う。しかし、彼は黒い雨や触手の容赦の無い攻撃に苦戦し始める。観客は歓声から罵倒や軽蔑の声へと変わる。焔は、それを見ているだけでいられなかった。


「……兄貴。アーサーをお願い。あの人を、助けに行く。」


 焔は、アーサーをクーに預ける。彼は、アーサーを抱えるが、彼女に無茶だと話す。


「ダメもとでも。あの人は、何度もああやって魔獣を喰らって来たんだよ。最悪の場合は…もしかしたら…。

 鬼だからって、あんな差別はいけない。鬼と言えど、人間と一緒に生きていてもいいんだ。」


「……あぁ。だが、気をつけろ。」


 焔はクーの言葉に頷いて、廊下を走って観客席に移動する。下へと階段を降り、脚に身体強化をかけて闘技場の真上に飛ぶ。

 そして、二本の刀を銃に変形させて魔法弾を連続で撃ち込む。会場は上からの攻撃を見て、彼女に注目する。


「せやッ!」


 焔は、急降下して異形生物に向かって打刀を振るう。異形生物は反撃するが、彼女は刀で防いで距離を置いて地面に着地する。

 焔は鎖魔術で向こう側にいる青年を軽く縛って、勢いよく引き上げる。青年はフワッと舞い上がって、彼女の真上に落ちる。彼女は身体強化を使って彼を姫様抱っこする。


「大丈夫ですか?あの怪物は、私に任せてください。」


「うぅ…?」


「私は貴方の味方。今は、休んでいて。」


 焔は、言語を失っている彼を地面に座らせて治癒魔術を施しつつ、怪物を鎖で強固に縛り付けた。

 すると、審判らしき人物が彼女の元へ押しかける。彼女は、縛り付けているとはいえ、入って来るなんて馬鹿なのと思う。


「君!ここは剣奴隷しか入らない場所だ。即刻、立ち退いてもらう。」


「ん?あぁ、すみません。どうしても、その魔獣について詳しく知りたいと思いまして。この魔獣は、どこで捕らえて来たんですか?あんな容赦ない攻撃の魔獣は、捕まえるのに無理があるでしょう?

 偶然捉える事ができた、または、この国が生み出した魔獣か。」


 (ユウ)はそう話をして反応を伺うと、後者の問いに戸惑いを見せた。異形生物はローマ内で作られたのだろうと天秤は傾く。彼女は、青年を救うべく審判にとある賭けを話す。


「なら、一つ、賭けをしましょうか。もし、私がこの魔獣を倒した時、この人を剣奴隷から解放してくれませんか?」


「フン。良いだろう。しかし、お前の様なものが倒せる訳無かろう。おい、あの小僧を連れて行け。」


 審判の命令に、部下は青年を安全な場所へと運び出す。審判は急いで会場から離れた。焔は打刀を手に、異形生物の正面に立ち、青年へ振り返って微笑んだ。安心して欲しい、貴方は私が助ける、と。

 青年はそんな彼女を見て、ふと脳に過る。


「あ…、あ、い、う、え。」


 何かを言っている様だが、言語能力は低いままで正確に聞き取ることはできない。そして、審判や青年が会場から立ち去ったのを見て、焔は鎖魔術を解除する。


 “エル。どうする?あまり全力を出したくないんだけど…”と焔、

 “水の型を繰り出すのは万が一だ。普通の剣技と魔術で行け。ホムラ、行くぞ”とエル、

 “わかったよ。三人が表に出ればいいんだろ?”とホムラは思う。


 異形生物は、焔を標的に攻撃を始めて黒い雨を注がせる。彼女は走って黒い雨を避けて、銃で毒魔術を打ち込むが、違和感を覚える。


 “効果が、ない?!…いや、今は早く片付ける‼”


「せやぁっ!」


 焔は、異合生物の腕を斬り落とす。異形生物は、悲鳴を上げて焔に触手を鞭のように攻撃をする。避ける事はできても、いずれ体力は尽きてしまう。


 “やむを得ない!…流麗の技 青孔雀雅舞斬‼”


 焔は技で触手を次々と倒しながら前進し、異形生物を真っ二つに切り裂いた。しかし、彼女はこの戦いで違和感を確信した。


 “今の敵、少し手ごたえが薄い…。あの人は、初めて見る化け物だったから、無理はないけど…やっぱり、何か裏がありそう…”


 焔はそう思いながら、ネロとボッパエア、クーとアーサーを見上げた。青年は、彼女の戦いぶりを見て目に光を宿していた。

 それから、焔は異形生物を倒した事で、剣奴の青年を解放した。しかし、青年は言葉を発さずに焔の後ろに付いて来る。それを見たネロは、焔に青年の監視役を命じた。

 彼女は、とりあえずここは応じて、青年をまず綺麗にするべく、クーに頼み込んで風呂場へと向かわせた。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 焔:何とか、あの人を助けられたかな…。でも、まだ剣奴の人はいる。いずれ、助けたい…。


 アーサー:キュウ…。


 クー:それは、俺たちも同じだ。今は、そうはいけねぇよ。なぁ、アーサー。


 アーサー:キュ!


 焔:アーサー、兄貴。うん。そうだね。今は、自分のやる事をやっておかないと。


 クー:あぁ、その意気だ。あっと、ここで「イリュド豆知識!」だ。ローマは、隣国、オリュンポス同盟諸国と同じ神々がいるんだ。

 だけど、この帝国は「クィリヌス神」って言うローマの父を神としてまつった伝説があるんだ、ってよ。


 焔:そうだったね。例えば、アテナはミネルヴァと別称される様にね。次回、『第8節 夜叉の青年・アールシュ』。

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