第6節 永遠の都/謁見 ―巫女の記憶―
ローマ入りを果たした焔は大いに喜ぶ。しかし、謁見の間にて彼女は困惑する。
こうして、焔たちは無事に道を迷わずに進んで行き―
「おぉ~‼ローマだァァァァァァァッ‼」
と彼女は両腕を広げて叫んだ。彼らは、まさしく首都ローマの門の目の前にいる。
「叫ぶ事か?ソレ…。」
クーは、彼女にそう言った。
「良いの良いの!ローマは永遠の都だからね。結構、有名なフレーズがローマにあるからね。」
「なるほどな。さて、ここに立っているのも何だし、王宮に行きながらこの国の事、教えろ。」
「了解‼」
「キュウ!」
三人は無事に門を通ってローマ市内へと入り、ローマ王宮へと向かう。道中、クーは焔は自身が知っているローマの知識を存分に引き出して話を始める。
「確か、ローマ帝国は元々王国だったんだ。その国王ロムルスが建国者だ。伝説では、クィリヌスって言う神様の化身って言われてる。
それから歴史が流れて、尊厳者って呼ばれた初代皇帝・オクタウィアヌス様が建国した。首都を十四の行政区に分けて、犯罪。出火対策を行って【永遠の都・ローマ】という言葉が生まれたんだ。」
「なるほどな。元となった国があり、それを更に初代皇帝さんは帝国へと拡大させて、後世にも続く事になったって訳か。」
「そうそう!それに、世界初の年金制度とか、平和なローマ…パクス・ロマーナを実現させたり、芸術を広めたりしたんだとか。」
彼女曰はく、尊厳者様は、美男子で温厚で、民からも政治家からも信頼を得た御方と聞いている。当時としては、最高の皇帝。
しかも、今の皇帝陛下は、アウグストゥス様の子孫。皇帝陛下の父親の一族はアッピア街道と言う【街道の女王】や【全ての道はローマに通ず】のフレーズで有名な街道を完成させた。
その街道を完成させたのは、皇帝陛下の姓にもある家系の一人、アッピウス・クラウディウスである。
「随分、知っているな。」
「ご、ごめん。喋り過ぎた…。つい…。」
「いいよ。俺もあまり教えられていなかったし、勉強になったぜ。」
クーは笑顔でそう言った。
「え?!な、なら、良いけど…。」
“オタク気質が…。ローマは、実質あと1480年弱続く。歴史としては、最大に匹敵するよね。ロムルスはローマ神祖、アウグストゥス様は国家の父って呼ばれてる。
そー言えば、八月の三十一日まで変更したのって、アウグストゥス様だったか。未来だったら、社長かなぁ……”
焔は、世界史で興味を持った事について調べ、覚えていた知識をベラベラと話した事に恥ずかしさを覚えた。そうしているうちに、ローマ王宮へと到着した。
“ここが、ローマ王宮…”
焔は、門前から王宮を見上げる。巨大な大理石を使い、見事な彫刻が荘厳さを見出している。その彫刻は、彼女の世界で言うギリシアの彫刻技出を思い出させられる。
「キュウ…。」
「ん?大丈夫だよ。堂々としていれば、問題ないさ。」
焔はアーサーにそう言うと、クーに呼ばれて兵士の案内の元、皇帝の間へと向かった。
その同時刻、ロランとオリヴィエは、ローマへと向かう道の中間地点を通り過ぎていた。
「のどかな平原だけど、噂に聞いていた魔獣の存在が実証できない…。」
「そのようですね。あの町の御方から聞いた話は、様子からして本当なのでしょう…。」
「でも、ここで脚を止める訳には行かないからね。……アッシュ先輩に連絡しよう。」
オリヴィエはそう言い、アッシュの伝言の瞳へ連絡を入れた。
その一方、フロリはジュヌヴィエとエレオノーラと共に、ジュヌヴィエの思いでの地へと足を踏み入れる。
「ここが、フロル……ジュヌヴィエが住んでいた場所だよ。もう、殆ど直す事が出来ないんだけどね。」
「……。」
ジュヌヴィエはエレオノーラの言葉を聴いてはいたが、直す事が出来ない教会の中へとゆっくり進む。
教会は、屋根が崩落したせいで吹き抜けとなっている。窓ガラスも全て割れており、最奥にある女神像が何とか崩れる事が無いまま、聳え立つ。
「いつも、ジュヌヴィエはここで、貴女のお母さん……ソフィアさんと一緒に、この光明神様の像に祈りをささげていたんだよ。」
「本当の、お母さん。光明神様…。」
ジュヌヴィエはエレオノーラの説明を聞き、女神である光明神の像を見上げ、じっくり眺める。彼女は見覚えのないはずだった像と思いながらも、体に違和感を感じた。
「…っ!」
ふと、ジュヌヴィエの脳裏に浮かんで来たのは―
♢
夜も欠かさずに、一人で女神像へ明日も平和である事を祈る。その時、扉が突如開いて来て―
「子供はひっ捕らえろ‼大人は、見殺しだ!」
と教会内へローマ兵士たちが駆けつけ、自分を捕らえる。兵士たちに抵抗するも、力の差に無力だった。しかし、兵士たちは、自分を連れ去ろうとした時に突如倒れた。
後ろを振り返ると、母が光明神の神器である弓を手にしていた。
「お母様!」
「……!」
自分は、自分の名を呼んだ母親の元へと駆けつける。しかし、顔がぼやけていて母親の顔が伺えない。自分は母親に連れられて、すぐさま避難しようと教会の外へ走り出が―
「キャァァァ‼」
「うわぁぁぁ‼」
「ママァァッ‼」
と悲鳴が町のあちこちを飛び交う。町は、炎に包まれていた。確かに、見覚えのある町が…。
♢
「…っ!」
ジュヌヴィエは、ハッと現実に戻る。
「大丈夫か!」
「フロルドリ?!」
フロリとエレオノーラは、ジュヌヴィエの様子に気が付いて駆けつける。ジュヌヴィエは何とか立ち上がって、二人に大丈夫だと言い、話を続ける。
「私、ここで祈りを…。」
「思い出したの?」
ジュヌヴィエの言葉に、エレオノーラは尋ねる。彼女は、エレオノーラの問いにコクリと頷いた。しかし、まだ、自分の名をハッキリと思い出せないと話す。
「無理もないわ。でも、ここにいたら、目をつけられるわ。一旦離れましょう。」
エレオノーラの発言に従って、二人は教会から離れて、地下にて休憩をする。フロリは二人きりになった所で、エレオノーラにジュヌヴィエの事について質問する。
「あの、その、ジュヌヴィエのお母さんは、どんなお方だったのですか?」
「ふふ…。敬語は良いよ。フロルドリのお母さん…ソフィアさんは、彼女とよく似ているよ。ソフィアさんは、神官として誰隔てなく接していた。
けど、ローマの人々は私たちを次第に軽蔑する様になりました。どうやら、ローマ元老院議官や皇帝崇拝過激派のローマ人が、情報の故事付けをしたんです。」
「故事付け?」
「無差別に殺戮を行う、とか。儀式で生贄を行う、とか。」
「無差別では、ないな。戦う者たちは、人の命を奪うけど…。光明神教の儀式、生贄なんてしないぞ…。」
フロリは、エレオノーラの言葉に矛盾点があると話す。彼女は、ローマには必ず隠された秘密がある可能性を感じているよう。
しかし、今は追われる危険がある事も考えると出歩く事はできないと言う。
「そう、なんだな。それを知るために、ローマに行っている仲間がいるんだ。絶対に、この帝国の異変を突き止める。」
「……もしかすれば、貴方たちにかかっているのかもしれないね。」
「あぁ。そうだな。」
フロリは、ローマに到着して調査に赴いている焔たちの無事を祈る。
“無事でいろよ…。俺たちは、俺たちでやってくからさ…”
自分や仲間たちを阻む者は何者であるのか、と不安はある。しかし、ただじっとする事はできない。
焔たちは皇帝の間へと到着すると、皇帝の間の扉が開く。三人は、謁見の場へと入る。焔は皇帝の顔を見ず、クーに倣って跪く。
「アルスター王国第三王子、クー・フーリン殿か。ここまでご苦労だ、手紙は然と貰い受けた。」
焔は青年くらいの声質に聞こえたと思っていたが、若干女の様な声が入り混じっている。
「ありがたき。アルスター国王、クースクリドは、ご多忙の故、私たちが届けに参りました。」
クーは王子として、皇帝に申し上げた。皇帝は、うむと頷いて言う。
「面を上げよ。春になれば、山の雪は止むであろう。それまで、其方たちを特別な客人として饗そう。」
焔は、クーと共に面を上げて皇帝の顔を見る。クーは何も違和感なく喜んでと言うが、焔は衝撃的な光景を目に写す。
“え?女性?”
「さぁ、召使いよ。客人を案内しろ。」
「はっ!」
召使いは、皇帝ネロの指示に従って焔たちを案内させる。クーは、彼女を呼ぶ。焔は我に返ってネロに一礼をして、急いでクーの元へと走って行った。
“女?ど、どう言う事?”
焔は、疑問を思いながら部屋へと到着した。クーは隣の部屋となっている。部屋は、ギリシアのデザインを多く利用している。客人用でもある為、きっちりと掃除されている。
「うぉぉぉぉっ‼ローマを一望できる!」
「キュウ!」
焔とアーサーは、ローマ市の景色を見て感激する。その頃、皇帝の間で青年ネロは彼女の事で考える。
“先程の反応、少々気になるな。それよりも、あの女の未来が見えぬとは一体…”
彼は玉座に座ったまま、そう思っていた。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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焔:どういう事?皇帝の顔、女性だったけど。でも、兄貴は何も反応が無かった…。ん~。放ってはおけない。いずれ、何とかしないと…。
あぁ、「イリュド豆知識!」と行きたいけど、今は静かにしなきゃいけないから、また今度ね‼
次回、『第7節 永遠の都/闘技場 ―夜叉の剣奴―』。




