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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
序章 光と騎士の共和国 ルミソワ 編 ―己の役目―
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第4節 能力と人格

高熱を出してしまった焔は、口調がガラリ。その訳は――

 彼女の口調が先程から変わっている。アッシュは、この時まで国王の話した内容に半信半疑であったが、真実だと分かった今、驚きの他に言葉が浮かばない。


(国王様の言う通りか、にわかには信じられない。でも、焔は、この世界自体の名前を二度も聞いた。それに、誰もが武器を持ってはいけない決まり。他国にはそんな法律は無い。騎士や冒険者とかに許可されるが)


「……焔。騎士団専属の医者から、あんたに伝えたい事がある」


「国王から?」


「信じられないかもしれないが……あんたは六つの人格に別れ、同時に、様々な能力を宿している」


 アッシュは、そう言った。しかし、焔は分からなかった。当然のことだと思う。

 焔は首を傾げると、彼は立ち上がって「信じられない事だと思うけど、真実である事を受け止めて欲しい」と言い、彼女の目を覆う包帯をそっと取り外した。

 包帯が取れ、視界が晴れたほのかは、近くにいるアッシュを見る。今までと変わらないが、熱のせいでぐったりして起き上がれない。


「実は、包帯を巻いておいたのには理由があるんだ」


「理由? 何だ?」


 焔がそう言うと、アッシュは手鏡を彼女に渡し「驚いてしまうかもしれないが、今の自分を見て欲しい」と言う。焔は不思議に思ったが、手鏡で自分の顔を映してみた。

 そこに映っていたのは、ずっと黒い虹彩だったのが、今では「橙」となっている。焔は驚いて、惑ってしまう。アッシュは手鏡をそっと彼女の手から放して言う。


「驚かせて、すまない。でも、これが現実なんだ。……多重人格と言う物らしい」


「多重人格、ですか」


 焔の瞳が橙から緑に変わるが、本人は気付いていない。彼は気まずそうに、彼女にこう言う。


「医者が言っていた。もしかしたら、あんたは何かの影響とかで、無意識に本当の自分以外に五人の人格を作ったのかもしれない、と」


(無意識に……本当の自分以外の五人。言われてみれば、そうの様な気がして、違う様な気がする)


 焔は、アッシュの言葉に少々心当たりがあるかもしれないと感じ、考えてみる事にしたが、中々原因は浮かばなかった。気付いたら「いた」と言うものだ。


「もう一人の焔」:ホノ


「上品さを持つ人格」:レイ


「明るくフレンドリーな人格」:ユウ


「好戦的だが、不器用な人格」:ホムラ


「冷静沈着で熱い思いを内に秘める人格」:エル



 彼らは焔の脳内に宿り、「一人」として動いていた。しかし、これは無意識に行われており、本人は気付いていなかった。

 そして、幻想界(イリュド)に訪れた今、焔とホノ以外の人格それぞれに異能力(魔法の一種的なもの)が宿り、人格が表に出るごとに瞳が変わるのだった。


レイ(緑):鼓舞能力、耐久力


ユウ(黄):模倣が得意


ホムラ(赤):殆どの魔術を行使。魔法強化/大


エル(灰):身体強化/大。頭が良い


 しかし、それぞれの人格に能力が宿っても、一度も使った事が無い為、威力は殆ど「無」に等しい。


「分かんねぇ。でも、気付いたら五人いた感じだな」


 喋ったのは橙の瞳の焔……「ホノ」だ。アッシュは、彼女の頭を優しく撫でた。その手は暖かく、愛を感じるものだった。


「焔は、悪くないよ。それに、そんなメソメソしていたら、自分の未来が台無しだぞ? だから、これから俺と一緒に頑張ってろう。君たちの力を生かす方法を見つけよう。あんたの人格は医者に報告するけど、事情は俺と国王様が秘密にしておく」


 そう言ったアッシュは、焔の手を握った。蒼の瞳となった彼女は、とても安心した。久しぶりに誰かから手を繋がれた感覚だった。彼に感謝しかない。


(こんなみっともない自分なのに……見捨てない優しさを自分が受け取って良いのだろうか)


 と思っていた。


「ありがとう…。ゴホゴホっ!」


「あぁ、ごめんな。熱出してんのに」


「大丈夫。……貴方がいるので、安心します」


 慌てるアッシュに、緑の瞳の(レイ)は微笑んで言った。



 数十分後、買い出しから戻って来たフロリ。アッシュは夕食を作ることにした。(レイ)は、熱のせいで食欲が少ない。アッシュは彼女が食べやすい様に、体に優しいスープを作った。


「良い匂いです」


 レイは、体を動かせるようになったのか、リビングへ来た。


「おいおい、動いたら駄目だ。部屋で寝てろって」


 アッシュは心配するが、彼女(ほのか)は「皆と一緒に食べたい。部屋じゃ、息詰まる」と言って、椅子に座る。

 暖かい恰好をしているが、少々寒気を感じ、焔は少し大きいサイズの上着で体を包ませる。

 そして、三人はテーブルに並べられた食事を摂る。


『いただきます!』


「……美味しい! やっぱり、アッシュの料理は最高っス! フロリの作った料理も!」


 黄の瞳のユウは、そう言う。フロリは彼女の様子に驚くが、「美味しいなら何よりだ」と言った。彼らは料理を美味しく食べる彼女を見て、安心した。彼女にとって、異世界生活初日はあっという間に終わった。



 翌日。心地よい朝を迎えた。外から小鳥の鳴き声が、彼女を目覚めさせる。


(ん〜! あぁ、久々によく寝た!)


 と、この通り。(ユウ)の体は、すっかり元気を取り戻した。だが、手に温もりを感じた。よく見てみると、アッシュが(ほのか)の手を優しく握っていた。


(アッシュ、心配してたのかな? 確かに、お風呂に入ったから。体が冷えるんじゃないかって言ってたっけ? 心配しすぎ)


 と、ほのかは思った。しかし、朝の時間はもう起きなくてはいけない。彼女は彼を起こす為、声を掛ける。


「アッシュ、起きて」


「ん〜。もう、朝か……」


「おはよう」


「おはよ、焔(《ロード》。よく眠ってたみたいだな」


 アッシュはそう言って、焔の額に手を当てる。熱は下がっていた事で、歩く程度なら大丈夫だろうと彼は言った。


「おはよう!」


 丁度そこへ、フロリが来た。部屋のドアを開けたせいか、朝食の匂いがする。(ホノ)は、それに気付きフロリに言う。


「朝ご飯、作ったのか?」


「はい。昨日、焔とアッシュさんが疲れていたと思って、作っておきました」


 フロリが朝食の料理を済ませている事に、アッシュは驚いて謝罪する。


「良いんですよ、アッシュさん。これ位は、お役に立てたいですし」


 フロリはそう言って、頭をかいた。

 焔はアッシュとフロリが部屋の外に出てから普段着に着替えて、彼らと共に朝食を摂る事にした。メニューは、焼いた二枚のパンにマーガリンと卵スープ、サラダとシンプルな料理だった。


「そう言えば、フロリ」


「何? 焔。」


 灰色の瞳のエルは、フロリにこう聞いた。


「お前、家族はいるんじゃないのか?」


「あぁ。まだ、焔に話していなかったね」


 フロリはそう言って、話を始めた。

 彼は、両親を幼い時に亡くしたそうだ。祖母に自分を預け、出かけて行った先に魔獣に襲われたのだ。それから、十六になるまで祖母と共に暮らしてきた。しかし、祖母は病によって亡くなった。

 天涯孤独の身となった自分は、生き抜く為に、どうしたら良いか迷いを抱いていた。そんな矢先に、師匠とよばれる男に助けてもらい、二刀短剣術を身に着け、今に至るようだ。また、彼は焔と同い年のようだ。


「……そうだったか。余計な話をさせてしまったな」


「いや、良いんだ」


 フロリは、焔にそう言った。その後、朝食を終えた彼らに届け物か来た。アッシュが密かに、焔とフロルの分を特注していたようだ。


「アッシュ、なに頼んだ?」


 ホノがそう聞くと、アッシュは答える。


「俺の騎士団の証だ。……俺は、白銀色のマントさ」


 アッシュはそう言って、焔にマントを見せる。長さは腰より少し上くらいまであるが、実は、昨日の夕方頃に「選択肢の中で何色が好きか」と尋ねられたのを思い出す。もう作ってあると言うのは、凄い!


「これが、フロリので……これが、焔のだ」


 焔は、彼からフードマントを受け取る。彼女が注文した色は、「菫色」である。他にも、黒や藍色など様々な種類がある。

 そのマントは、暗闇の活動を備えてのもので、前も覆っていて相手からは見えにくい。また、マントの内側に「焔」と、漢字で刺繍ししゅうされていた。文字を象ったから何とかなった。


(凄い……本物のマント! 凄く良い‼)


 と焔は感動していた。


「あ、ありがとうございます」


 レイはそう言って、礼を言う。アッシュは――


ジュ・ヴ・ザン・プリ(どういたしまして)


 と微笑んで言う。彼女ホノは「やっぱり、その笑顔‼ グッド‼」と脳内で叫んでいた。早速、そのマントを羽織って鏡でその姿を見た。


(何か、コスプレした気分だ。いいや、それは置いといて……凄く気分が良い)


 とホノは、そう思った。

 確かに、アニメなどでマントを身に付けているキャラクターも少なくはない。「一度は着てみたい」と思う者はいるだろう。とても嬉しくなった焔は、微笑んだ。

 それから、アッシュの所属する騎士団のバッジが渡された。焔とフロリは、特別入団と言う事になっている様だ。彼らは、それぞれ服の左胸上あたりに身に付けた。


「何か、騎士団に入るって嬉しいな」


「うん。騎士って、本当にカッコイイよね。お互いに頑張ろう!」


 焔は、フロリにそう言った。彼は「あぁ。そうだな」と微笑んで言った。アッシュは、マントを羽織っている二人を見て「良いじゃないか。似合っているぜ」と言う。フロリは「そうか?」と言う。


「あ、ありがとう」


 焔は緊張しつつ、彼にお礼の言葉を言う。すると、彼女(ホノ)はある事に思いついたのか―


「なぁ、アッシュ」


「ん?どうした?」


「今思ったんだが、俺の能力を、活かしたいんだ。何か、方法はあるか?」


 (エル)はアッシュに、六つの人格にある能力を活かせる方法を尋ねた。騎士団に入ると言うのは、人々を守る事。

 同時に、いつかは戦う時が来るかもしれない備えと思い、彼女は言った。アニメやネットで調べた『騎士道』と言う物はそうであったと彼女の認識であるも、騎士道に避けて通れないものは絶対にある。


「そうだな。あ、この間、図書館に行くって言って以来、行っていなかったな。よし、時間はまだあるし、行ってみようか‼」


「え? い、今からですか‼」


 (レイ)は、驚く。アッシュは「そうだよ。フロリも、来いよ!」と言う。フロリは、アッシュに手を引っ張られる。彼女もアッシュに手を引っ張られ、アッシュとフロリと共に魔術研究図書館へと走って行った。

 読んでくださいまして、ありがとうございます!焔の人格については、基本的に読み方が変わると、その人格で話しています。

 次の読みが変わるまでは、その人格のままです。ややこしくて、ごめんなさい!


 次回『第5節 図書館へ』です。

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