第5節 永遠の都へ ―地下に集う者たち―
二手に分かれた白銀騎士団。ローマへと向かう焔たちとは反対に、アッシュたちは衝撃の事を知って混乱する。
焔は、アーサーとクーと共に徒歩でローマへと向かう。
“えっと、地図は…”
焔は、こっそりとスマホでローマへと向かう方角を確認する。直ぐにしまって、道に沿って進んで行く。アーサーは彼女の隣で飛んで、クーは彼女の後ろを歩いて行く。
一方その頃、アッシュ、フロリ、ジュヌヴィエ、ルノー、アストルは宿屋で驚きの言葉を聴いて混乱を極めていた。
「悪いが、その地下とやらに案内してくれないか?」
「…えぇ。フロルドリ様のお帰りを待っている方々は、多くございますから。」
宿の主人はそう言い、妻に頼む。主人の妻は、部屋の奥へと向かう。全員で行くのも怪しまれるので、アストルとルノーは宿に残ることになり、アッシュ、フロリ、ジュヌヴィエは地下通路へと向かった。
「ここからが、光明神様を拝める方々が集まる地下教会です。申し遅れましたが、私はディアナと申します。」
ディアナと言う名の女性はそう言った。アッシュたちは、それぞれ礼をして名を告げて、ディアナの案内を受ける。
「ルミソワの御方ですのね。危ない所に来ていただいてすみません。」
「いいえ。私たちは、その、ルミソワとの国交を再開するべく、来たと言いますか…。」
フロリはそう説明した。
「そうですね。噂でしか聞いた事はありませんでしたが、事実だったのですね。」
ディアナの説明に、ジュヌヴィエは首を傾げる。アッシュは、どういう事かを尋ねる。
「はい。私たち、一般市民には知らされていない情報が多いので、噂くらいが最大限の情報になるのです…。」
「なるほど…。」
“情報は、調査班が鍵になるか…”
フロリはそう呟いて、調査班が重要な役目を背負う事になると確信した。そして、一行は地下広間に辿り着いた彼らは驚いた。少人数ではなく、予想以上の人が集まっていて、焚火で温まっている。
「まだ二月の下旬でありますので、皆、焚火で温まっています。私たちは、光明神様を信仰する者と分かり、兵士に捕まってしまえば、即刻に絞首刑か火炙りなど…死刑に処されるのです。」
『死刑?!』
三人は、ディアナの言葉に驚いた。ローマ皇帝は、自分の敵を神と見定め、それを信仰する者たちを無差別に攻撃したとの事。ディアナや地下広間に集う者たちは、何とか何は逃れたものの―
「フロルドリ様とその母のソフィア様を救う事が出来ず…。私たちは、絶望と希望を彷徨っていました。ですが、ご無事で何よりでした。」
とディアナは言った。すると、こちらへ駆け寄って来る二人の少女がいた。
「ディアナさん。どうして、ここに?」
一人の少女はディアナに尋ねる。
「アクテ様、エレオノーラちゃん。こちらの人たちを、ここへ案内していた所よ。」
彼女はそう説明すると、エレオノーラと呼ばれた少女はジュヌヴィエの姿を見て言う。
「もしかして、フロルドリ?」
エレオノーラの言葉に、ジュヌヴィエは首を傾げる。彼女は、ジュヌヴィエに話かける。
「覚えてる?私、エレオノーラよ。」
「…ど、どちら様でしょうか?」
エレオノーラは、その言葉を聴いてショックを受ける。ジュヌヴィエにとって、全くの初対面であり、知るはずもない人物だと思うだろう。
「無理も無いよ、エレオノーラちゃん。あの日、突然の事だったからね。」
ディアナはエレオノーラに言う。アッシュは『あの日』とは何の事かと尋ねると、アクテと言う少女が話を始めた。
「実は、皇帝が即位して三年程経った時の事です。宮廷で皇帝の母親が殺されたと知らされてから、国内の光明神様を信仰する者たちを、悉く捉えて処刑するように命じたのです。
皇帝より上に存在する者を敬う事を禁じ、それに背く事は死罪に値すると言う者です。」
「な、何故、そこまで詳しいのですか?」
フロリはそう尋ねると―
「あぁ、アクテ様は、ネロ皇帝の妻の一人なのよ。」
とディアナは答えた。三人は、王族の人がここに居るとは思わず、吃驚。ディアナが「様」と付けていた理由はそこにあったのだ。アクテは、説明する。
「はい。私は元々農奴の立場でしたが、ネロの寵愛を受けて宮廷に入った身です。正妻のオクタウィア様も私に優しく接してくれました。しかし、彼の様子は段々何かに怯える様子だったのです。
おそらく、ネロのお母様の事だと思います。」
「皇帝の母親?」
アッシュはそう言って、何か訳があるのかとアクテに尋ねる。しかし、彼らが来たせいか、焚火に集っている者たちが見ている。
「ディアナさん、こいつらは?」
集っている者たちの中にいた男はディアナに、三人の事を尋ねる。
「大丈夫。皇帝の手下じゃないよ。ルミソワから、危険を承知で来てくれたんだ。」
「そうか…。」
男はそう言って、アッシュ、フロリ、ジュヌヴィエを見た。ジュヌヴィエはエレオノーラに、私について何かを知っているのか、その事について聞かせて欲しいと言い―
「貴方は私の何かを知っているかは、分かりませんが、お願いします。」
と話した。
「分かったわ。そうとなれば、明日、思い出の場所に行きましょ!……でも、五年前のあの日で火事にあったの。フロルドリにとって、辛いかもしれないけど…。」
「いいえ。それが、私の記憶を取り戻す唯一の機会なら。」
エレオノーラの心配をくみ取ったジュヌヴィエは、ここで後ろめく場合では無いと決心した。フロリは彼女がふいと心配になり、明日に二人の護衛として付いて行く事になった。
アッシュは後日、ルノーやアストルと共に、ディアンやアクテから国内情勢を聞き出し、周辺の調査をする事になった。
一方、ロランとオリヴィエは、ルノーとアストルと共に部屋で話をしていた。
「翌日、出発か。」
「一斉に行くのも良いけど、目をつけられちゃ困るからね。」
オリヴィエは、ルノーの言葉に返答する。アストルは、ロランに話をする。
「一応、荷馬車を僕のポーチに収納できるくらいに小さくなったみたいだけど、これで平気なの?」
「大丈夫ですよ。オリヴィエは失敗などしない方ですから。」
「する時もあるって事だよ、ロラン。」
アストルは、ロランの真面目さに少し諦めていた。
その日の夜。焔たちは、テントを張って野宿をしていた。テントの中は異空間で、荷馬車と同じ様に個室が設けられている。焔は夕食を済ませて、暖かい恰好で外にいた。
“今の所、順調っと。地図だと、三分の一か…。あと二日くらい”
焔は地図を確認した後、スマホをしまって星空を見上げる。
“あ、オリオン座におおいぬ座、小犬座……ベテルギウス、シリウス、プロキオンで大三角。えっと、そっから北には双子座、馭者座…オリオン座の西には牡牛座だ。
シリウス、プロキオン、ポルックス、カペラ、アルデラバン、リゲルを繋ぐと冬のダイヤモンド”
「何やってんだ?」
「…ッ!兄貴。いや、その、星座を見てた。」
「星座?あぁ、確か、オリュンポス同盟諸国が元祖の神話に出て来る神々を見立てているアレか。」
「兄貴、知ってるんだね。」
焔は知らないと思っていたと心で感じたが、それは顔に丸出しだった。クーは、そんな顔で見るのは止めろと言うツッコミをして、話をする。
「ここの所は会ってねぇけど、アルケイデスって言う弓が得意な奴がいてよ。…将来、同盟長に任命されていたんだ。星座については、ソイツから聞いた。」
“アルケイデスって、ギリシャ神話で有名な半神半人の英雄ヘラクレス。十二の試練を乗り越えた事で、十二回死なないって言う…アルゴノーツの一員だった。まぁ、別人だと思うけど”
「オリュンポス、か。行ってみたいな。」
「何か、久々にアイツの話をしたが…。元気にしてっかなぁ。……ま、いっか。それよりも、お前の体が冷えちまう。部屋に戻ろうぜ?」
「そうだね。明日には、ロランとオリヴィエが出発する予定だろうし。」
焔は、クーの言う通りにしてテントの中の部屋へと戻って就寝についた。
翌朝。焔は早起きに慣れて来たのか、いつもどおり五時に起きる事ができた。着換えを済ませて、テントに収納された食料を使って朝食を作りにかかる。
「キュウ!」
「おはよう、アーサー。よく眠れた?」
「キュ!」
「良かった。今日は、マーガリンを塗って、焼いたシンプルなトーストよ。」
焔はそう言って竈を開けて、焼き立てのパン三枚をそっと火傷しない様に取って皿に盛る。そして、ベーコンエッグ、サラダ、牛乳を用意してテーブルに並べると、丁度そこへ身支度を終えたクーが来た。
「おはようさん。」
「おはよう、兄貴。」
「キュウ!」
三人は挨拶を交わし、朝食を済ませてテントを収納して出発した。焔は、同時に光石を置いて道なりに進んで行く。あと二日程でローマに到着する。
それまで、否、これからは、気を許してはいけない。
気が付いた時には、もう背水の陣かもしれない…下手をすれば、命を懸ける事もあるだろう
焔は心でそう思いながらも、一歩一歩踏み出して永遠の都と称されたローマへと向かう。
“ネロ・クラウディウス…。未来を視る力があるというのなら、確かめるまで。本当に、暴君として相応しいか見てあげようじゃない”
読んでくさだいまして、ありがとうございます。
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焔:スゥ~ハァ~
オリヴィエ:深呼吸して、どうしたの?
焔:ローマに入るのは嬉しいんだけど…。
オリヴィエ:相手が相手だもんね。でも、深呼吸は緊張を和らげるからいい事だから、続けると良いよ。
焔:ありがとう。
オリヴィエ:と、ここで『イリュド豆知識!』ローマ人は温泉好きと言われている。温泉には、様々な効果があるので、噂ではその人の病気に応じて温泉が作られている様だよ。
それに、温泉水は飲むこともできるからね。
焔:温泉水、飲めんの?!
オリヴィエ:意外な事に、効果もあるからね。次回、『第6節 永遠の都/謁見 ―巫女の記憶―』!遂に、焔たちはローマ入りだね。




