第35節 旅路へ
戦争は終わり、平和へと歩み始める頃、騎士団は次の地へと向かわなければならぬ時が来た。
それから、ハロウィンと言うケルト一族の悪魔祓いの儀式を無事に終えた。騎士団は、雪が降らないうちにと次の目的地、ローマへと向かう支度をしていた。
「ふぅ…。」
「今日は、ここまでだ。」
焔は、ルノーの指導で回復訓練を終了した。体を冷やさぬ様に汗を拭き取って、水分補給をする。現在は、基礎訓練と共に水の型を再復習して、使える様になった所だ。
「お前は、よくやる。」
焔は、ルノーの言葉に首を傾げる。
「以前は、切っ先を治すのに時間をかけたが、今はしっかり身に付いているな。」
ルノーはそう言った。しかし、焔には恥ずかしい事であり、あまり言われたくな事だったので、そんな話はするなと言った。彼は、彼女がそう言うとは思わず、すまないと慌てて言い、何かを言おうと戸惑っていると―
「全く、言葉選びが下手なんだから。」
と声が聞こえて振り返ると、そこにはアストルの姿があった。彼は、少し前に来て会話を聞いていたようだ。ルノーは、もう何も言うなとアストルを止める。
「何よ!“俺は、少しも引けを取ってはいない”ってクールに意地を張ったのは、どこの誰だい?」
アストルの言葉に、焔は言葉に出来ず―
“そんな言葉をロランは競争相手として受け取ったの?!”
とそう思うしかなかったのだった。すると、正午を知らせる鐘が鳴り、三人は食堂へと向かった。
翌日。アルスターは、冬の晴れの日に戴冠式を挙げた。丁度、クースクリドの誕生月と言う事もあってか、盛大に行われた。
戴冠式が行われる前、焔はクーと共にデヒテラと中庭で話をしていた。彼らはデヒテラに、自分たちが知る戦の真相を話した。デヒテラは驚いてはいたが―
「そうでしたか。ですが、夫がそうしていたというのならば、相応の天罰が下ってしまったのでしょう。
クー。貴方は、貴方なりの王子としての役目を果たしたのなら、私は問い詰めませぬ。クースクリドも、その事実を知っているとなれば、責任は問いません。」
「母さん…。わりィ…。」
「良いのよ。さぁ、笑っている顔を見せて。今日は、クースクリドの戴冠式よ。大事な弟の前で、そんな顔見せる訳には行かないでしょ?」
デヒテラは、まるで暖かい太陽の様な笑顔を見せた。クーは、そうだなと心で言い聞かせて「おう」と返事をした。また、焔にも戦の真実を辛いながらも見届けてくれた事を礼に言った。
「いいえ。私は、ただ、争いをもう二度と起こしてはいけないと感じたまでです。……また、後程、パーティーで会いましょう。デヒテラ王妃。」
焔は礼をして、クーと共に中庭を後にした。デヒテラは、二人を見送ってから後ろの方を向いて―
「会わなくて、宜しいのですか?」
と言うと、木の陰からルーが現れた。
「良いんだ。俺は、一時だけでも息子の姿を見たかっただけさ。それに、神はこれから先、人間に関わる事はできなくなる。お前を、辛い思いをさせてすまない。」
「良いのですよ。あの子たちが、無事に生きてくれるだけでも。見守る事も私たち…親の務めですし。」
「あぁ。……その、また、こうして会いに来ても良いか?音楽とかしか奏でられないとは思うが…。」
ルーは、照れながらもそう言った。そう言う所は、まるで息子と似ているとデヒテラは思った。彼女は、彼に会いに来ても平気だと伝えた。ルーは彼女の答えを聞き、琴を持って奏で詩吟を謳った。
その音は、清らかな風が吹き、小鳥たちは歌うかのように鳴いていた。
『ありがとう、焔。息子を、頼んだぞ』
焔は、聞き覚えのある声がして振り返った。しかし、誰もいない。
「どーした?」
「う、ううん。何でもない。行こ!」
クーの尋ねに、焔は何でもないと言って戴冠式とパーティーの準備に向かった。
そして、翌日、戴冠式本番。
焔は、クーの隣で彼の作法に倣って国王となったクースクリドへ礼をする。騎士団一行、シャーウッドの人々、コノート共和国の代表者と秘書も同じ様にして礼をする。
クースクリドは、玉座前に到着して頭を下げると、ドルイドの長から王冠が被せられ、再び顔を上げて戦士たちの方へと向く。騎士団と戦士たちは、一斉に跪いて王への敬意を示した。
その夜、パーティーが一層と盛り上がる中、焔はアーサーと一緒にバルコニーで涼んでいた。アーサーは、首輪をリボンにしてパーティー服として仕上がっている。
“やっぱり、まだ慣れないな…”
焔は、未だにパーティーに慣れない事に悩んでいた。アーサーは気付いているのか、バルコニーの柵の上に乗って大丈夫かと言う様に鳴いて顔を伺う。
「心配しているのか?ありがとう。でも、まだパーティーには慣れないよ。」
「キュ、キュ、キュウ!」
「誰にだって慣れないことはある、って言っているよ。」
そう言ったのは、ジュヌヴィエだった。彼女と会うのは久しぶりだ、と思うと長い時を感じる。焔は、ジュヌヴィエにアーサーはそう言っているのかと尋ねる。
「えぇ。焔が、三日も眠っていた時なんか。涙を流して、死ぬなって言っていたよ。」
「キュウ…。」
「ごめんね。恥ずかしかったね。」
ジュヌヴィエは、赤面するアーサーにそう言う。焔は相当心配かけていたと改めて知って、アーサーに心配かけた事を謝る。ジュヌヴィエは、彼女にアーサーはもう大丈夫だと言う。
「でも、ルノー君から突然倒れたって聞いたから、私も心配だった。」
「……実は、何かに意識が持って行かれるような感じだったんだ。」
焔は、ジュヌヴィエに説明を始めた。
♦
真っ暗な闇の中。若菜色の光が差し込み、黄金に輝く文字の様なものが浮かんでいた。
“また、あの夢?”
『滅びは、祝福にこそ相応しいものだ。』
声は、神殿で会った魔術師と王の間であった魔術師そっくりだ。前と同じで、声だけが聞こえている。一体何者なのだと焔は思う。
『人は、死を越えたその先を目指さなくてはいけない。』
♦
「奇妙な夢ね。」
ジュヌヴィエは、素直に感想を述べた。焔は、彼女の意見に賛同する。
「前は、変な景色を見させられたけど、何だったか覚えてない…。」
“でも、武器は、近未来っぽい…?”と焔、
“焔”とエフ、
“うん。そんな話をしたら、大変だから言わないよ”と焔は思う。
「さて、そろそろ、涼んだ所だし、一緒に戻りましょ!」
ジュヌヴィエは、焔を元気づけようと手を取ってパーティー会場へと足を運ぶ。焔は、アーサーを肩に乗せてパーティーへと戻る。
そこで、再会したロクスリー夫妻、リトル家、ウィル、ブランド、タック、デイビッド、コノート共和国のゴヴァンとライアンとも、国王となったクースクリド、笑顔で喜ぶクー、騎士団の皆との話をして盛り上がった。
また、クースクリドは、騎士団はアルスターから旅立つ事をパーティーに集う者たちに話して、またの再会を望む事を言った。その後は、騎士団の元には、大勢の者たちが押し寄せた…。
そして、その翌日、早朝。騎士団は、クースクリドとシャーウッドの人々によって見送られた。焔は、眠気を吹き飛ばして彼らに手を振った。ふと、空を見上げると炎の鳥も飛んでいた。
“ルー様だ!…ありがとうございます”
焔は、心で感謝を述べた。荷馬車は、首都クランから南方面へと向かう。朝日が徐々に地平線から姿を現す。
「綺麗だなぁ…。」
荷馬車の上に到着した彼女はスマホで写真を撮ってアルバムを見ると、そこには数々の写真が遺されていた。
ルミソワでの出来事として、初めてアッシュに会った瞬間、現在の仲間とそれぞれ会った時、湖底の怪物に止めを刺した瞬間、ガイブと彼の母親の写真
アルスターでは、アーサーとの初対面、シャーウッドの人々、シルフとフォレとレーシーたち、クーとクースクリド、デヒテラ王妃、太陽神ルー、破壊の女神モリガン、宥和に持ち込んだフェルグスの写真
コノートでは、自分の戦車に乗って鞭を手にしているメイヴ、共和国となって初代総理大臣ゴヴァンと秘書のライアンの写真
が納められていた。シャッターを切った訳でもないが、今まで出会った人々が記録されている。
また、図鑑にもお知らせのマークがついており開くと、森で遭遇した狼、イグラド村で遭遇した魔物たち、湖底の怪物、森の神殿で対峙した黄金像、コノート王城で戦った不気味な化け物が記録されていた。
詳しく説明が書かれているが、コノート王城で戦った化け物に関しては正体不明なのか簡潔にしか書かれていない。
『聖杯と言う力によって、アリルを飲み込み具現化した化け物。名を―
【メリウス・ヘヴン】
放って来る黒い雨は、火傷を伴う。弱点は、雷魔術と言っても定かではない』
“あの化け物、一体、何だったんだ?”
焔はそう思ったが、-方面に考えるのは止めようと楽しい方向へ転換した。朝日が完全に登り、騎士団は出発前にクースクリドが寄付してくれた食料を使って、朝食とする。
担当はロランで、トースト、アイリッシュシチューを作り上げる。焔とジュヌヴィエとアストルには、追加でデザートのイチゴ味のシフォンケーキを用意した。
「ふわふわ‼」
「美味しい!」
「たまらない‼」
三人は、そう言って幸せそうな表情をする。焔は、ふと隣を見るとルノーがシフォンケーキを見ていた。
“あ、食べたそうにしている”
彼女は、口を付けていない方から一欠片を千切って彼に差し出す。
「はい。」
「え?」
「食べたそうにしてたから。」
焔はルノーの顔がそう言っていると話すと、彼はじゃぁとシフォンケーキを受け取って食べる。彼は―
「ムフフ…。悪くない味だ。」
と、口角を上げるのに精一杯な笑顔を浮かべた。でも、嬉しそうにしているのは間違いなし。
“へ?!ルノー、それ、笑っているの?!かわえぇなぁ‼”と焔、
“また、オタクスイッチ入った…”とホムラ、
“あ、ホムラ。やっと帰って来たんだね”とユウ、
“エフが出してやらなくて、しつこかったぁ”とホムラは思う。
その時、ロランはルノーがシフォンケーキを食べている事に気付いた。
「おや、ルノー殿。貴方には、シフォンケーキを作っていませんよ?」
ロランは鋭い目線でルノーを見る。
「悪いな。焔から貰った。ま、味は悪くないな。ムフフ。」
ルノーは、また彼なりの笑顔を浮かべて言う。
「朝食後の休憩を終えたら、一本勝負させて下さい‼」
「分かった。」
そんな二人を見て、焔はアストルの言っている事を理解する。
“ロランも、ロランだけど…何故、そこは断らないのかい?”
オリヴィエは、二人を見守りつつも静かにそう思っていた。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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焔:やっと、平和が来た。良かった。……でも、やっぱり、人を殺めるのはよくないのに。
アッシュ:焔。それは、俺たちも同じさ。でも、こうするしか方法は無いと、俺は思うけどな。
焔:まだまだ半人前だね。それよりも、次の目的地…ローマ帝国か。
アッシュ:そうだな。と、ここで『イリュド豆知識!』。
レオ四世陛下は、唯一フロリが王子として就任したと手紙を送っていない国があります。その国は、俺たちが向かうローマ帝国。何故か、一年程前からルミソワの者へ対する差別があった様なんだ。
焔:そんな事が?!真相を確かめなくちゃ、いけないんじゃない?
アッシュ:そうだな。次回『第35.5節 猛犬、仲間入り!』だ。




