第34節 コノート共和国、誕生
コノートの存続についての課題を超えるべく、焔は『共和制』を打ち出した。
焔の説明を一通り聞いて、官僚たちの中の別の男が質問する。
「し、しかし、民は、国の法律で罰せられる事はあるが、富裕層はどう対処すればよいのだ?」
「それは、法律で決める際、罰則を設けるのです。罪の重さによって、罰則は変化します。
例えば、無作為に殺人を犯した者がいたとしましょう。次も誰かを殺める可能性もある。そんな方を、貴方は野放しにしておけますか?率直な気持ちを。」
「い、いいえ。自分が殺されるとなると、恐ろしいです。」
焔の質問に、男はそう答えた。
「誰もがそう思うでしょう。クー王子も、そう思いますよね?」
「あぁ。民が危険に晒されるのは、嫌なこった。いつ、誰が狙われるか分からなくなって、家から出る事ができなくなっては駄目だ。」
クーは、素直に民の目線から考えて述べる。
「このように、官僚の皆さまだけでなく、クー王子の言葉通り、民の皆さんも怯えて生活を強いられます。その為にも、刑罰は必要となります。殺人の重さによっては、死刑、禁錮など、時には思い罰が下されます。
また、民から無作為に資金を取り上げたりする事も、犯罪になりかねません。その場合、官僚などの立場の御方は、仕事を止めざるを終えなくなります。」
「何故だ!何故、辞めなければいけないのだ‼説明しろ‼」
また別の官僚である男は、焔に反論をする。彼女は、怖じ気ずに説明する。
「では、貴方が自分の資金調整の為に、民に重税をかけたとしましょう。街は、直ぐに富裕層と貧困層の格差が生まれます。やがて、国規模で使われる儀式などに必要な資金は無くなり、民に更なる負担をかける。
これに、国民は次第に怒りを溜めて、いつしか、その怒りを力で示すでしょう。」
「それなら、力で押し返すまでだ。」
男はそう返答する。
「貴方が、亡くなった後でも、ですか?」
「何?」
焔は、男に言う。
「もし、貴方が亡くなった場合、民はそれを機に反乱を起こし、国は滅びるでしょう。信頼性が無いと言っても過言ではありません。騎士であっても、元々平民である私なら、そんな人は官僚に相応しくないと思います。
それに、どんな仕事に就こうと、人間は人間です。いずれ、力で押さえるという時代はなくなるのです。貴方が行った行動に、未来は大きく変化する事…忘れないでください。」
「……。」
焔の言葉に、男は言葉を詰まらせて黙って外へと出て行った。彼女は、官僚たちに失礼したと謝罪をして、話を続けた。
一方、フロリは、チルパと話をするべく帰国し、自ら国民に同盟の事を明確に話して意見を求めた結果、同盟を結ぶと過半数を占めた。
こうして、官僚たちは焔の説明に、共和制への歩みに挑戦しようと賛成意見が過半数を占めた。まずは、国を保つために必要な政治機関を立てる。
『立法』『行政』『司法』
その三つを中心に、経済、農林水産、法律、外交、防衛を役割を明確にする。焔とフロリは、自ら地域へと赴いてコノートは共和制へ乗り出した事を伝えて行く。
町長や村長は、考えた末に受け入れを決定。町と村の代表として、選挙を始めて新たに就任された町長と村長は、数日後に集う事を約束した。
「随分、進みましたね。」
クースクリドは、そう言う。いつの間にか、数日は経っていた。寒さも一段と厳しさを増す。焔は、彼に言う。
「ゆっくりでいいので、改革をしないと。官僚の皆さんも、町長と村長さんも段々分かって来たようですし。
でも、まだまだですよ。ここから、ゴスラウェイ市長を決定して。その後に、コノート総理大臣を選挙。そして、総理大臣は、信頼できる人たちから経済大臣、農林水産大臣、法律大臣、外交大臣、防衛大臣を決めなくては。」
「意外と、忙しいんだな。」
フロルは、想像以上の動きに驚く。首都ゴスラウェイは、新たな姿を取り戻すべく、城の跡地に新たな政治機関の建物の建設作業は続いている。
アルスターは、コノート共和国の誕生の為、大工たちを派遣して資金を調達した。
そんな中、新たな国づくりに進んで行く過程で、人々は協調性が高まって行く。建設作業員だけでなく、官僚たち、アルスターとコノートの戦士たちや力仕事が得意な民が集って作業を続ける。
“オリヴィエが、建設現場を暖かい空間にしてくれたから順調だね。でも、ここまで政治に詳しいとは思ってなかった”と焔、
“エルがその知識を持っていたとは驚きましたが…。それでも、元の世界で、その事を少し学んでましたし”とレイは思う。
そして、コノート王城の跡地には国会施設が出来上がった。その頃には、国中に共和制の在り方についての知識が無事に広まった。この時には、焔は無事に車椅子から卒業する事が出来た。
また、首都ゴスラウェイの市長の候補者の人数を集め、宣伝を行い、二週間前後の選挙によって決定。さらに、市長と議論や問題解決の手助けをする議員も順調に決まった。
こうして、大臣も選挙で決まって行き、コノート共和国の第一歩が始まった。その祝賀として、焔は大臣たちへの挨拶を行う事になった。
「大臣、市長、町長、村長の皆様方、就任おめでとうございます。今後の事ですが、法律は皆で提案し合って決定し、意見が分かれる場合はそれを国民に提示して賛否を問う事です。
これからは、皆さんが自分たちで決めて行きます。焦らずに、自分たちが目指すコノート共和国を作り上げて欲しいと思います。それと、クースクリド王子から皆様に提案があります。」
焔は下がって、クースクリドは皆の前に出て話をする。
「此度、コノート共和国の誕生、おめでとうございます。今後とも、ケルト一族として協力して行きたい所存です。皆様に、一つだけ提案があります。
アルスター王国、コノート共和国、ルミソワ王国で三国協力同盟を結びたいと思います。一国だけでなく、他国との協力をする事で、ぞれぞれの国がそれぞれの繁栄に結ぶ事を願う同盟です。
どうか、同盟を結んでいただけるでしょうか?コノート総理大臣。」
クースクリドは、選ばれたコノート総理大臣の男に答えを求める。
「ふむ。戦いの罅は忘れる事は無かろうが、それでもここまで助けてくれたアルスターやルミソワの戦士たちを見捨てる訳には行かぬ。皆の者、同盟に賛成なら、拍手をくれ!」
パチパチ‼
総理大臣の言葉に、過半数の者たちが拍手をした。こうして、ルミソワのフロリ、アルスターのクースクリド、コノート総理大臣は、三枚の三国協力同盟の書面に名をサインした。その同盟の期限は、未来永劫である。
祝賀を終えて、焔は新たに建設された噴水広場で休んでいると―
「お前、式守、か?」
と声を掛けられた。彼女は顔を上げると、あの時、反論して出て行った官僚の男だった。彼女は、驚いて言葉が出なかった。男は、隣に座って言う。
「まさか、他国に住む女のアンタがここまでやるとは思わなかった。」
「いいえ。私は、ただ共和制がどう言う事か、大臣の役割は何かを説明しただけで、法律はコノートの皆さんが決めた事です。」
「それでもだ。アンタが、その提案をしていなかったら、この国はどうなっていたか分からなかった。それに、アルスターの協力には驚いたけどな。
戦士たちがもめている時に、ケルト一族同士なんだから争いはやめろ、同じ一族としての誇りはどうしたと言ったアンタやクースクリド王子の言葉に、みんな、変わったしな。」
男はそう言った。焔は、首を横に振って言う。
「ここからですよ。時には、政治が崩れそうになる事もあると思いますが、それでも、人は考えて協力するべきだと私は思います。それは、コノートの皆さんが決めるので、私は意見できません。
それに、アリル王とメイヴ女王の意志…コノートの存続を成したまでです。二人は、コノートの存続をずっと願って国を統括してましたから。」
「……なるほどな。アンタは、だから、提案したのか?」
男はそう呟いたが、焔には聞こえづらかったので何を言ったのかを尋ねると、何でも無いと言われた。男は、焔に―
「ライアンだ。俺の名前だ。」
と言った。焔は、年上で二十七歳のライアンにこれからどうするのかを尋ねる。彼は、答える。
「俺は、官僚と言うより、誰かを手伝うのが良いみたいだ。官僚をしていた頃も、誰かを手伝ってばかりだった。アンタに反論した後、俺は何もできなかった。
でも、総理大臣…ゴヴァンさんが、俺を気遣って秘書をやってみないかって、秘書にしてくれたんだ。最初は、何だコイツって思ったけど、民の中でもリーダーに相応しい奴がいるんだなって思った。
アンタは、どうすんだ?」
ライアンの質問に、焔は答える。
「旅を続けます。次は、帝国・ローマです。」
「そうか。だが……後で、ルミソワの連中にも言ってやれ。その帝国の皇帝、暴君だとかなんかだって、噂されている。気をつけろ。」
焔は、ライアンは少し強張った顔をしていて怒らせたらマズイ人かと思っていたが、案外人思いな所はあるけど、不器用なんだなと感じた。すると―
「あぁ。ここに居たんですね、式守さん。」
と総理大臣のゴヴァンが来て、焔に礼を言った。彼は、お礼として桃色のガーベラの花束を差し出した。ライアンは、受け取れと焔に促す。彼女は、そっと花束を受け取る。
「いろいろと、ありがとうございます。」
「いいえ。私など、些細な物ですよ。……どうか、コノート共和国をよろしくおねがいします。」
「勿論です。」
ゴヴァンはそう言って、焔と握手をした。こうして、コノート共和国は無事復興して行き、新たな歴史を刻み始めた。
焔はコノート共和国を誕生させるきっかけを作った事で、クースクリドはコノート共和国の為に資金や大工たちを派遣した事、フロリはルミソワの次期国王として、ゴヴァンは国民に紹介した。
国民たちは、彼らを称えて感謝のムードに包まれた。だが、いずれ別れは来る。焔とフロリは、次の国へと旅立つ為、アルスターへ帰る事になった。ゴヴァンは代表して―
「いつでも、お待ちしております」
と言った。ライアンは、彼の傍で二人に達者でなとぶっきらぼうに言った。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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フロル:焔は凄いよな。国を、共和制に移行させるなんてさ。
焔:私はただ、果たすべき事をやっただけだよ。
クースクリド:そうであったとしても、光栄です。まさか、同盟の提案をしていただけるなんて。勉強になりました。私も、国王としてアルスターを繁栄させ、コノート共和国の存続を守りたいと思います。
フロル:あぁ、そうだな。と、ここで『イリュド豆知識!』。コノート共和国の総理大臣・ゴヴァンさんは、国の情勢が安定した後、北に建国するキフェア公国に外交復活の交渉を行うようですよ!
焔:どうか、コノート共和国を繁栄して欲しいな。アルスターも、存続を願うよ。
クースクリド:ありがとうございます!
フロル:次回、『第34節 旅路へ』。お楽しみに。




