第31節 決戦/禍-Ⅱ ―顕現―
真相を知り、焔はアリルからクルード・カサドヒャンを取り換えずべく、クーはコンホヴァルを打倒すべく、両者は奮闘する‼
焔は、アリルの持っているクルード・カサドヒャンをスレスレの所で回避したが、右頬に浅い傷が出来た。それでも、鞘の力が発動している今、傷は直ぐに治るので態勢を整えて構えを取る。
「チッ!上手く避けるか…。」
予想外の動きに、アリルは舌打ちをする。
「それは、どうも。けど、そのクルード・カサドヒャンは、兄貴に返させてもらうわ。」
「ほお?ならば、力づくで奪うがいい。お前が生きている内はな。」
アリルはそう言うと、焔はそのままお返しすると答えた。二人は、再び衝突して激しい攻防戦を繰り広げる。
焔は、アーサーとメイヴを安全にするべく、アリルを別の場所に誘った。アリルは、魔術で炎の光線を焔に放った。彼女は、息を整えて集中力を高め―
“水の型 澄の技 水波輪‼”
一歩踏み込んで、そのまま刃に水を纏わせ、円を描くように打刀を回して炎を打ち消した。アリルは、焔が水波輪を行った直後に風の魔法弾を放つ。しかし、彼女は集中力を切らさず、そのまま次の体勢に入る。
“水鞠の技 珠玉波紋‼”
彼女は、魔法弾を突き技で見事に真っ二つにさせた。アリルは、魔術師が言っていた以上の戦闘能力を所持している事に慌て始める。
“何故だ…。俺は、剣術も、魔術も王族として身に付ける事全てやって来た。上であるはずの俺を、追い詰めるなど…”
「そこっ‼」
焔は、隙を突いて接近して打刀を振ると、アリルは攻撃を促しに来た所で、右手に持つ銃の引き金を引いて魔法弾を放つ。魔法弾は、アリルの左肩を貫いた。
「小娘、貴様ァッ‼何故、攻撃が当たらない‼」
アリルは、焔に掠り傷のみしか与えておらず、その焦りからクルード・カサドヒャンを振るって焔へ攻撃する。焔は、左手に握る銃を脇差に戻して奴の攻撃を受け止め―
「切っ先がズレているからだ。」
と言って右手に握る銃の引き金を引き、アリルの右肩に魔法弾を貫かせた。
そして、怯んだ隙に銃を打刀に変えて奴の肘を攻撃し、クルード・カサドヒャンを奴の手から放させた。クルード・カサドヒャンは、焔の後ろへと飛んで床に刺さった。
一方、クーはコンホヴァルとの一騎打ちは、瞬く間に終盤となっていた。彼は、素早い槍捌きで奴を追い詰めて行く。
「な、何故、炎の狂戦士とならん!」
「今までとは、ちげぇんだよ‼クソ国王さんがよぉ‼」
クーは怒りを込めてそう言い、緑炎を身に纏い、槍を赤黒いオーラを放って構えを取る。
「終わりだ。……紅棘の、死の魔槍‼」
クーは、中距離間隔を一気に詰めて、呪いを宿した矛をコンホヴァルの胸部に差し込んで、直ぐに引き抜いた。心臓直とはいかなかったものの、棘の呪いは付与でき、コンホヴァルの全身に行き渡る。
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ‼」
焔とアリルは、この時初めてゲイボルグの呪いを知る事になる。コンホヴァルの全身は、紫の様な奇妙な色を帯び、あらゆる部位から茨や棘がバスっと現れて出血多量でその場に倒れて死んだ。
“うっ‼”と焔、
“これが、ゲイボルグの呪いか……”とエル、
“盗まれてしまえば、大変な武器ですね…”とレイ、
“恐ろしい事は分かったけど、アリルはまだ生きている。油断はできないよ”とユウは思う。
焔は、目を瞑って首を左右に振ってから、アリルを警戒する。奴は、右肘を貫かれた故に二度と剣を振るうこともできないが、野望が強い為に油断ならない相手だった。彼女は、急いでクルード・カサドヒャンを回収してメイヴの元へと戻る。
アリルは、コンホヴァルが死んだのを見て―
「そこまで、俺の邪魔をするのか!こうなったら、最終手段だ‼」
と言って、玉座の方へ風魔術で飛んで行き、召喚魔術で手にしたのは、矢が刺さった黄金の盃だった。また、奴の前には森の神殿と同じく、魔術師の姿があった。
一方、地下では盃が一瞬で消えた事に戸惑いを覚えるアッシュたち。ルノーは、灯魔術で明かりを照らす。全員無事だったが、クースクリドは視界が悪い状況で無理をして怪我を多く負っていた。
「クースクリド様!」
「皆、無事で何よりだ。心配かけて、すまない。」
クースクリドは、命に別状はないも傷を多く負っている為に。これ以上の戦闘は不可能だった。
再び、王の間。魔術師の姿を見て焔は―
「お前はっ‼神殿の時の?!」
と、言う。クーは急いで彼女の元へ行き、クルード・カサドヒャンを装備して態勢を整え、メイヴの状態を確認する。
「クー、さま?私、貴方の事が…。」
メイヴの最後の言葉が掠れてしまい、焔とアーサーは聞き取れなかった。
「もう、喋るなな…。お前は、そこで治療を受けていろ。」
クーは、メイヴの思いを受け止めつつ彼女を落ち着かせて立ち上がり、焔に正面にいる魔術師について尋ねる。彼女は、彼に大まかな説明をする。
シャーウッドの向こうにある森の神殿という場所で遭遇した敵で、ノーディンの居城・ノッティンガム城にもいた、と。
「まだ、生きていたか。まぁ、良い。アリル王は、その盃……聖杯に相応しい供物を得て、力を得る。」
「せい、はい?」
“どうして、アーサー王伝説にでてくる聖杯が?あり得ないはず……”
焔は、不思議で言葉に出来ない。
「あぁ。そうだともッ‼」
アリルは、矢を抜いて聖杯と名付けた盃を掲げると、焔たちの床が変異した。焔はメイヴを抱えて、クーとアーサーと共に避けた直後、奇妙な触手が現れて先程彼らがいた場所を潰した。間一髪だった。
クーは、メイヴがまだ息があるのを見る。焔は、フードマントを再び被せ直した。アーサーに治癒魔術を行使する様に指示をしたその時―
「うわぁぁぁッ‼何故!何故、俺を飲み込む?!」
とアリルは叫んだ。玉座を見ると、アリルが聖杯と言う盃から零れた黒い液体に飲み込まれていた。すると、焔の通いの瞳から音が鳴って連絡が入る。
[なぁ、そっちで黒い液体を吐き出す盃の様な物を見なかったか?!]
声は、アッシュだった。
「アッシュ‼無事だったのね。えぇ、こっちに来ているけど、黒い液体がアリルを飲み込んでいる。」
[不味いな…。そっちにルノーとロビン、デイビッドが向かっている。俺は、怪我を負ったクースクリド様をアルスターに避難させる。]
「気をつけて。」
焔は、アッシュとの連絡を切る。地下では、アッシュはクースクリドを背負い、デイビッドの案内を受けて地上階層に到達して、ルノーたちに焔とクーを援護するように言って玄関へと向かった。
その間、王の間での出来事は、衝撃を迎える。アリルは、黒い液体に飲み込まれて行く。
「おい‼てめぇ、同士討ちか‼」
クーは、魔術師に問いただす。魔術師は、こちらを向いて答える。
「同士討ちではない。大きなものを求めるには、それに対する代償が必要だ。それが、この形だ。全ての運命は、定められている。滅びの救済を、汝らに与えよう。」
魔術師は、そう言ってアリルの方へと向く。アリルは、黒い液体に飲み込まれ、中で黄金の光を解き放つと、彼らが今まで見た事も無い不気味さを持ち、肉の塊の様な怪物へと変化した。
「さぁ、目覚めよ、メリウス・ヘヴン。我が一族の神の使者よ。滅びが、最上たる祝福である事を、この星の生物に知らしめた給え‼」
魔術師は、両手を大きく広げてそう言った。
「ガァァァァァァァァッ‼」
怪物は、焔たちに向けて叫ぶ。焔は、脇差を銃に変形させて魔法弾を放つが、魔術師は彼らに笑みを浮かべて弾が当たる前に消え去った。
怪物、魔術師の言っていたメリウス・ヘヴンは、彼らに威嚇した。焔とクーは、顔を合わせて頷いて怪物を倒す事を決意して立ち向かう。
「俺が、近くで攻撃する。焔は、遠距離で行けるな?」
「おうさ!兄貴!」
焔は先制攻撃として、刀を銃にして連続で水、炎、風、雷、光の魔法弾を放って打ち込む。メリウス・ヘヴンは、彼女へ黒の液体の雨を降り注ぐ。
“あっつ‼”
焔は、黒い液体は人体に影響を及ぼすと察知して、急いで走って雨を避けて柱に隠れ、師匠に教わった水、氷、炎、風のルーンをメリウス・ヘヴンの真下に仕掛けて攻撃する。
ルーン魔術は、呪文は必要とせず、標的の真下に仕掛ける事も可能である。教えてもらった事が成果として現れている。
一方、クーは、緑炎を見に纏って、魔槍を赤黒い炎を纏わせ―
「紅棘の、死の魔槍ッ‼」
とメリウス・ヘヴンの間合いを瞬時に詰めて、体に呪いを打ち込んで直ぐに間合いを取って離れる。焔は、雨の攻撃が止んだ所でアーサーとメイヴを巻き込む訳には行かないと思い、ルーン魔術を行使する。
「魔除け‼」
彼女は、アーサーとメイヴの真下に魔除けの加護を与えて、柱から離れて再度銃で魔法弾攻撃を行う。メイヴの治癒に当たっていたアーサーは、魔術が全く発動しない事に涙を流してしまう。
「キュウ!キュウゥ…。」
「何よ?泣かないでよ…。私は、もう、長く…ない。小竜くん、もう、良いのよ。」
“悔しいけど、小む…いや、焔と言ったかしら。負けたわ。嫉妬してた私が、馬鹿、だった。女王として、認めてくれて、ありが、とう…。クー様、また思いを伝えられて、良かった”
メイヴは、そう思って瞼を閉じてしまった。
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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焔:まさか、あんな事になるなんて…。
アーサー:キュウ…。
焔:あんな酷い事、あり得ない。でも、あの魔術師は何だ?人間ぽいけど、人のような感情が見えない…。
アーサー:キュ!キュウ!
焔:あぁ、それは後だな。今は、メリウス・ヘヴンって言う怪物を倒さないとな。次回、『第32節 決戦/禍―Ⅲ ―正義は己の刃に―』。




