第30節 決戦/禍-Ⅰ ―真相―
地下と王の間で繰り広げられる戦いは、まだ続き、焔たちを追い込んでいく。
アッシュとルノーの魔術を吸収し、盃は新たなエネルギーとなっていき、状況が進展しない一方、王の間では…。
「許せない。許せない許せない許せない許せない‼」
メイヴは、焔が挑発して地雷を踏んだ事で怒りを燃やし、手にしている鞭を巧みに操って焔とアーサーに襲い掛かる。
「一端、離れてアーサー!」
焔は怪我をさせまいと、肩に掴まっているアーサーを優しく掴んで思いっきり、クーの方へと放り投げた。彼は、慌てながらもアーサーを上手くキャッチした。
“地雷を言うなって、あれ程言ったのに‼”と焔、
“良いじゃねぇか‼あんな態度、気に入らねぇよ‼”とホムラ、
“いい加減にしろ!お前は、無意識で反省してろ‼”とエルは思う。
焔は、クーとアーサーから離れて鞭を避けるが、二十八勇士との戦闘の疲労も重なり、柔らかくうねる鞭の動きに追いつくのがやっとで―
パシンっ‼
と、頬に痕が残る程の鞭攻撃を受けて激痛が走る。
「おい‼メイヴ、止せ‼」
「キュウ!」
「黙らっしゃい‼いくら、クー様でも、小さな竜でも、私は止めないわ‼」
メイヴは、クーの制止を鵜呑みにせず、怒りに任せて鞭を振るい続ける。焔は必死に避け続けるも、二発目の鞭を頭に受けた瞬間から動きが鈍くなり、鞭を受け続けてしまう。
鞘のうねりは、大きくなるばかりで、離れているクーとアーサーにも襲い掛かり、彼らは避け続けるのに必死でメイヴを止めに行ける余裕がない。
「イッ‼……ガッ‼…ウッ‼」
焔は、頬と頭だけでなく、顔面全体、両脚、両腕、腹、背中と全身に打撃を加えられて、床に倒れてしまう。鞭の威力が凄まじく、床や天井に罅が入り込む。
天井は、瓦礫となって崩れてクーとアーサーへ降り注ぐ。彼らは瓦礫を避けるが、次々と崩れたり、砂埃が激しかったりで、焔に近づけない。
「焔‼」
「キュウ‼」
“あ、アレ…鞘の力が、発動して、無い?夢じゃ、無い…い、痛い…”
焔は、腕に付いた痕をが消えないのを見て、鞘の力が発動していない事に気付く。メイヴは、動けない焔に近づいてしゃがんで-
「鞭の痛さは、心地良かった?私が、どれだけ偉大なのか分かっていただ―ガッ‼」
と言い終えようとした直前、メイヴの言葉が途切れた。焔は、激痛に耐えながら立ち上がろうとして上体を上げた後、目に映っていたのは後ろから剣で腹部を刺されたメイヴだった。
「メイヴ‼」
「メイヴ女王‼」
「キュウッ!」
メイヴの腹部を、刃が酷く捻じり込んだ後にザッと引き抜かれ、彼女は前へ倒れる。焔は、残された体力を振り絞って彼女を受け止める。彼女たちの目の前にいたのは―
「アリル‼貴様‼」
クーがそう叫んだ通り、行方知らずとなっていた彼の所持していた剣…刃を血で汚れたクルード・カサドヒャンを持ったコノート国王のアリル・マク・マータだった。しかし、焔はもう一人の人影を捕らえて言う。
「やはり、貴方が関わっていたのですね。コンホヴァル・マック・ネサ。」
「なっ‼お、義父?!」
クーは、焔の視線を追ってコンホヴァルの姿を捕らえて驚く事しかできない。真実になるとは思っていなかったのだ。アリルは、メイヴを抱える焔に言う。
「式守焔と言ったか?その女を、こちらに寄越せ。」
「…っ‼その前に、お前の目的を言え。何故、妻であるメイヴに手を出した!」
焔は、アリルに思いのまま言葉をぶつけた。彼は、彼女がメイヴを渡す気はないと感じたのか、質問に仕方が無くと応じ、焔とメイヴから数歩程離れて話を始めた。
彼女は、メイヴに負担をかけぬ様にそっと床に寝かせて、身に着けていたフードマントで胸部に被せる。
「はっきり言うが、その酩酊女など、この国にとって癌の様なものだ。アルスター風情のフェルグスやコルマクは、初めから気に入らなかった。始めから殺すと決めていた。」
「貴様…ッ‼」
「だから、この国を自滅させる訳には行かないと、正義を成したまでだ。癌となる邪魔者は、全て排除するまでだ。
目的は一つ。アルスターを手にし、ルミソワを占領した後、ローマの暴君風情に力を見せつけ、その内に世界の王となる。」
「ふざけるのも対外にしろ!」
アリルの言葉に、焔は怒りを爆発させる。奴は、何だとと言うかのような表情で彼女に振り返る。焔は、感情的にならない様気をつけ、冷静に言い続けた。
「アンタの様な王など、国王、いや、世界の王などになる資格も無い‼アンタが王になったら、短期間で自滅するだけだ!
メイヴ女王だって、迷惑をかけることもあったかもしれない。アルスターを巻き込んだ財産勝負は許せない‼だが、女王がいたから、この国はここまで生きて来れたんだ!」
その言葉を聴いていたアーサーはそうだと言わんばかりに、鳴き声を上げて焔へ駆けつける。真相を知って受け入れる事に時間をかけているクーとまだ息があるメイヴは、焔の言葉にそれぞれ思う。
“焔の、言う通りだ。アリル、コンホヴァル…てめぇらは、間違ってる!”
“私のおかげで、この国は、繁栄を保てた!…腹立た、しいけど、小娘の言う事に、異論は、無い‼許せ、ない‼”
焔の言葉が終わり、クーはコンホヴァルに矛を向けて問いただす。
「義父、いや、コンホヴァル。お前、何故、アリルに協力した?」
クーの問いに、コンホヴァルは彼の方を向いて話を始める。
「以前、コノートと友好関係があった時だ。アリルは、メイヴの事で相当な悩みを抱えていた。それを救ったまでだ。」
「答えになってねぇ‼」
クーは、槍を振るってコンホヴァルへ攻撃する。コンホヴァルは、彼の槍を剣で受け止めて―
「まだ、分からんのかね。コノートとアルスターは、同盟を組むのだよ。そして、周囲の国を手中に収める。それだけの事だ。」
と言った。
「そんなチンピラな野望で、女に手をかけるんじゃねぇ。死ね…。」
クーはそう言って、コンホヴァルと一騎打ちに入った。
その頃、地下室にてアッシュとルノーは、撃ち込んだ魔術以外で最後の魔術を放つ。盃は、その魔術を吸収するが―
ガタガタッ!
と金属音が鳴り出した。黒い液体にも異変が現れ、ジュウゥッと蒸発して行く。二人は、この盃の弱点を見抜く。
「毒魔術、か…。」
「扱いが慎重な奴を持って来るなんて、シャレにならない…。」
二人は、毒魔術については扱いが慎重な挙句、あまり扱った事が無かった。その時だった。
「遅くなってすんません。援護に来たぜ!」
「ロビン‼」
デイビッドは、声の主を見抜いた。光が差し込む範囲に姿を現したのは、彼の言う通り、シャーウッドの英雄・ロビンフッドであった。デイビッドは、盃に攻撃しているアッシュとルノーの援護を依頼する。
ロビンは、彼の言葉を受け入れ、アッシュとルノーに駆け寄る。
「お二方、援護に来ましたよっと。外は、大騒ぎだ。黒兵士が暴れていやがるぜ。」
『何だとッ‼』
「その原因を突き止める為に、ここまで来たんだが…。その盃、何か弱点があるか?」
ロビンの尋ねに、アッシュとルノーはデイビッドの言う限り敵ではないと信じて、毒魔術が有効である事を話し、毒を扱う事に苦戦しているとの事。
「なら、俺に任せてくださいよ。毒の扱いは、これでも一流なので。」
「助かる‼」
ロビンの言葉に、アッシュはそう言う。彼は、デイビッド、クースクリドにもっと後ろへ下がる様に言い、アッシュとルノーに彼らの援護を依頼する。
二人は、ロビンに武運を祈って、デイビッドとクースクリドの援護に向かい、共に敵を引きつける。
「さて、いっちょやるか。」
ロビンは、腕に装備されている矢に毒を塗り込み、盃に向かって次々と放つ。盃は、ガタガタと震えながら、黒い液体を彼に向かって放ち始めた。
ロビンは、華麗に次々と回避して、矢を盃に命中させていき、バリアに罅が入り込んだのを見て奥義を発動させる。
“……弔いの樹、毒の樹、奪われた悲しみを穿ち、牙をむく”
「……出でよ‼櫟の弔いの矢‼」
ロビンの放った最大の毒魔術の矢は、バリアの罅に命中してバリンッと割れて、盃の器に刺さった。すると、黒い液体は一気に蒸発して跡形もなく、黒兵士たちは石化して塵となって消えた。
城の外で、ロビンが引き連れていたジョン、ウィル、ブランド、タックは、黒兵士が消えた事で急いでゴスラウェイの住民の避難を進める。
「落ち着いて行け。」
「もう大丈夫だ。」
一方、盃の力が消える直前。コノート王城・王の間にて、アリルは焔に鋭い眼差しで―
「貴様、もう一度言ってみろ?」
と言う。クーとコンホヴァルの一騎打ちは、今現在も続いている。焔は、痛みを堪えて立ち上がり言う。
「何度でも言うよ。お前は、王などになる資格も無い!」
そう言った直後に、脳裏に呪文が浮かび上がり、彼女の体は光を放って、周囲に清らかな風を巻き起こした。
“其は、恵みと幸福…治癒と不老不死をもたらす聖なる鞘。目覚めよ、我に力を”
「な、何が起きている‼貴様、何者だ‼」
「……解き放て、王の聖なる鞘!」
焔は鞘の名を告げると、光の粒が舞って、痣が鞘の力によって消えて行く。アリルは、彼女の力を見た事が無く、クルード・カサドヒャンを構える。
焔は、疲労が消えた後にアーサーにメイヴを見るように頼み、脇差を銃形態にし、打刀の切っ先をアリルに向け―
「アリル。貴様を、ここで成敗する‼」
と言い、刀を振るって自らアリルに勝負を挑み始めた。アリルは、持っているクルード・カサドヒャンで攻撃を受け流して、焔に反撃する。彼女は、スレスレの所で回避したが、右頬に浅い傷が出来た。
クルード・カサドヒャンは、夜になると蝋燭のように光り、例え刃を折り曲げても元に戻り、触れるだけでも髪の毛すら切ってしまう鋭利な剣である。
“あの剣を見定めないと、私の体はあっという間に、輪切りにされる…。絶対に、負けたくない‼”
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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ロビン:間に合って良かったぜ。
デイビッド:冷や冷やする所でした。でも、ロビンさんのおかげで、不気味な黒い液体は無くなりましたし、良かったです。
ロビン:そう言えば、焔とクー王子さんは?
デイビッド:それが、クースクリド様によると、二人は王の間でメイヴと戦っている可能性も。それにしても、アリルとコンホヴァル王が手を組んでいるのにも関わらず、戦いを止めずに犠牲を増やすとは…。
ロビン:後々で聞いたが、マジ驚いた…。悪いけど、そんな奴は俺としては放っておけねぇな。
デイビッド:そうですね。と、ここで『イリュド豆知識!』。ロビンさんは、正義感溢れる方ですが、幼い頃はマリアンをからかっていたヤンチャな少年で、彼女に迷惑をかけた事もあったそう。
できれば、焔とクー王子と合流したい所です。次回、『第31節 決戦/禍-Ⅱ ―正義は己の刃に―』!




