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クラージュ・イストワール  作者: Hanna
第Ⅰ章 森と戦士の国 アルスター 編 ―紅棘の死の魔槍―
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第26節 決戦/序 ―光嵐と紅棘―

 そして、緊張が走る最終決戦の日となり、騎士団はそれぞれの陣営についてアルスター軍と共に進む。

 焔は、着替えを終えて朝食を済ませて、アストルの元へと向かう。ここの所、訓練で会う機会が減っていた。


「アストル~!」


 焔は、馬小屋近くでアストルを発見して駆けつけた。


「あぁ‼焔ちゃん!一緒に食事に行ったぶりかな。元気そうで何よりだよ☆」


 アストルは、彼女の様子を見て喜ぶ。


「アストルも、相変わらず元気で良かった。グリンも元気かな?」


「アストルのおかげで、元気だ。空を飛ぶ準備は、いつでも万全だ。」


 グリンは、焔にそう言った。グリン曰はく、アストルはいつも自分を気に掛け、食事のバランスをよく考えてくれているとの事。羽も綺麗にしてくれるおかげで気分はスッキリのご様子。


「良かった。他にも、空の部隊はいるけど、アストルとグリンなら負けないよ‼」


「ありがと!その期待に応えなくっちゃね、グリン。」


「おう。頑張るぞぉ!」


 アストルとグリンは気合を入れていた。一緒に過ごす時間が多くなっているせいか、心を通わせている事は間違いなしだ。そう思っていると、出発十分前の鐘が鳴り始めた。

 焔は、アッシュたちと正門前に集合する事を約束していたので、アストルとグリンへお互いに無事でいる事を約束して正門へと向かった。

 フロルは、城を出て正門へと向かう中、ジュヌヴィエと会う。


「フロル様、ご武運を祈っております。私は、戦場には出られぬ身ですが、己の役目を果たしたい所存です。」


「ありがとうな、ジュヌヴィエ。それと、俺たちは仲間だろ?様なんて付けなくていいぞ。お前を窮屈させるには行かないしな。」


「あ、ありがとうございます。フ、フロリ…君。」


 ジュヌヴィエは彼の名を君付けで呼ぶ。フロルは、何故か胸に響いた感覚がしたが、直ぐに出発の準備を整えるべく、互いに無事でいる様にと約束して正門へと向かった。


 “貴方の無事を、祈っています。どうか、光明神(クレアシオン)様。彼と焔、騎士団、アルスターに勝利の導きを。私も、負けぬよう、励みます”


 そして、準備が整い、フロリを先頭にアルスター軍は城門から進軍してクランを出発し、戦場となる平原へと到着した。向かい側には、予想した通り、禍々しいオーラを纏ったコノート軍だった。


 “やはり、フェルグスの言う通りだな。ここは、クースクリドの言う通り、焔にかかってくるか…。クースクリドの言う通り、フェルグスに会って国の深い事情を知って良かったかもしれない…”


 タシュブランに跨るフロリは、軍の先頭に立って実感する。そして、彼と真正面にある戦車(チャリオット)にはメイヴがいる。


「うっふふ。貴方たちが構えていようと、無駄よ。あの小娘の姿はいない。……さぁ、角笛を鳴らしなさい‼」


 メイヴは、伝令兵に命令して戦車を走らせた。伝令兵は、角笛を吹く兵士にそう伝える。それは、アストルの相棒グリンが捉えていた。


「アストル。メイヴが動いた、城に帰るぞ!」


「了解‼…フロリ、メイヴが城に向かったよ。それと、相手も角笛鳴らすよ‼」


 アストルは、フロリに伝達の魔術で通いの瞳に連絡を入れる。彼は、アストルの言葉を受け取って用心する。そして、アストルは空からの様子を見る。


「フロリ。弓矢部隊だよ!黒い兵士たちが、うわぁっ‼そっちにも届くかも!」


[りょ、了解‼焔、聞いていたな。任せるぞ!]


 フロリとアストルの会話をスマホで聞き取り、(ドラゴン)姿のアッシュに跨った焔は任されたと返事をして―


「でも、大丈夫。あの矢なら、女神様が何とかできる。」


 と言い、彼女は—


 “モリガン様。貴方様の力で、敵が放った矢の雨を破壊してください”


 と心で強く強く女神の助けを求める。すると、一匹の烏がアルスター軍の上を通り過ぎつと女性の姿になり、真っ赤な馬を従えた戦車に乗っていた。アルスター軍とコノート軍戦士は、女神の姿を見て驚いた。


『女神・モリガン様‼』


 モリガンは、フッと笑って槍を地面に突き刺して行きを大きく息を吸い―


『■■□■‼』


 と途轍もない超音波を放った。両軍の人間たちは、強烈な音に耳を塞ぐ。グリンは思わず急降下して地面に着地すると、たちまち矢の雨は粉々に砕かれて地面に落ちた。


[こう言う事だったのか…。]


 とフロルは呟くが、直後に伝言の瞳からアストルの声がする。


[焔ちゃん、フロリ、敵が動いたよ。第一陣、あの黒い兵士たちが来るよ!]


[頼むぞ!]


 フロリはそう言う。焔は、伝言の瞳をしまって今度こそと言って、アッシュに空を飛ぶ様に指示をする。彼女の肩には、アーサーが捕まって乗っている。


「キュ!」


 アッシュは、アーサーの声と共に翼を羽ばたかせて上空へと飛ぶ。焔の手には、銀色の聖槍が握られている。彼女は、聖槍に魔力を送り込むと、鞘の時と同じく呪文が脳裏に浮かぶ。


「其は、最果ての光。其は、光の嵐の如く闇を砕く!」


 アッシュは上空へと昇り続ける。そして、アーサーは急降下するように鳴き叫ぶ。アッシュは、急降下を開始して第一陣の前線が来ると思われる場所に向かっていく。焔は、槍を敵陣に向けて呪文を言い続ける。


「何者も、阻む事は出来ない‼放て!輝けるは(ロン)光嵐の聖槍(ギヌス)‼」


 焔は呪文を終えて叫ぶと共に、アッシュは地面に到着して第一陣と衝突した。そして、彼らを中心に、大地が砕け、眩しい大爆発を起こして、爆風が両軍へ吹き荒れる。第一陣はあっという間に光に飲まれて、跡形もなく消えた。


「な、なんなの?!」


 爆発音を聞いて、メイヴは困惑と共に恨みが生まれる。今の勢いでは、第一陣がどうなっているかは分からない。しかし、彼女は余裕の笑みを浮かべる。


 “でも、私の策はこれだけじゃないわ。クー様の姿が見当たらないとなると、別動隊がいるはずだもの。()()予想外だけど、私は負けないわ。絶対‼”


「おっほほほ!」


 メイヴは、まだまだ私の策は終わらないとでも言うかのように高笑いをした。そして、爆発が静まった直後に、モリガンはアルスター軍へ言う。


「行け‼勇士たち‼汝らに、勝利の加護を‼」


『おぉ‼』


 戦士たちは、女神の援護に感謝の歓喜を上げる。フロリは、モリガンと目が合い、行けと言われたような気がした。彼は息を整えて、ミュルグレを天へと掲げ―


「女神様の加護の名に懸け、アルスター軍‼進軍開始‼」


 と、大声を上げて、戦士たちと共に進軍を始めた。コノート軍は、先程の爆発の勢いで腰を抜かす者や逃げて行く者たちが多く、体勢が崩れる。


「我らも進軍する‼」


「し、しかし‼」


「命令だ‼行けぇ‼」


 コノート軍の指揮官と思わしき男は、残された兵士を強引に率いて進軍を開始した。コノート軍は数が多いが、アルスター軍はそれに負ける訳には行かないと足を止めない。

 アッシュは、急いでその場を立ち去って焔をタサドルに乗せ、共に別動隊の集合場所へと向かう。


(ロード)!平気か?」


「う、うん。ちょっと、危なかったけど、鞘の力で魔力の回復は大丈夫よ。」


 アッシュは、焔が無事である事を喜び、別動隊の場所に着いた。ルノー、クー、クースクリドは、準備を整えて、平原を大きく迂回してコノートの首都ゴスラウェイへと向かう。

 走るクーの戦車(チャリオット)にクースクリドも乗り込んでいる。焔はタサドルに、ルノーは愛馬のバヤールに乗って行き、アッシュは竜の姿のまま飛んで行く。


「メイヴは、用心深い女だからな。別動隊を気にする場合もある。」


「兄上‼正面に敵が!」


 手綱を持つ事になったクースクリドは、自分たちが通る場所に敵がいる事を発見する。ルノーは、先陣を切ってバヤールを走らせる。


「俺と焔が先陣を切る‼行けるな?焔。」


「うん。ここで、躊躇っても仕方ないよ‼」


 焔は、アッシュにルノーと並ぶ様に前へ出て先陣を切る。クーは魔槍を持って、クースクリドに引き続いて手綱を任せる事を言う。クースクリドは、はいと返事をして慎重に手綱を握り、真剣な眼差しになる。


 “だって、ここで、私が諦めたら、フェルグスの無念は、水の泡だ!”


「タサドル。そのまま走れ!」


「了解。」


「さっさと、退けぇぇぇ‼」


 (ホムラ)はそう言って、両手に武器を握り、左手に握っている脇差を銃に変形させて水の魔法弾を数発放つ。魔法弾は見事に命中し、数人の兵士は倒れる。


「行くぞ!バヤール‼」


「了解した。」


 バヤールはそう言って素早く駆け抜け、声を掛けたルノーはフロベージュを振るって敵を氷の魔術で凍てつかせていく。アッシュは、水流放射を行使して敵を押し流して行く。

 クーは、緑炎を身に纏って魔槍を振るって敵を翻弄する。


「右ぃっ‼どけやがれぇぇぇぇぇ、兵士共ぉぉぉ‼」


 クースクリドは、怒号を上げて手綱を上手く扱って馬に指示を出して、戦車を操作する。兵隊に突っ込んで、しばらくするとアーサーが―


「キュウゥゥッ!」


 と、上を向いて鳴いて、盛大な火炎放射をする。落ちて来たのは、焼かれた矢だった。(レイ)は、アーサーに良い援護だったと褒める。しかし、一つの矢が彼女の右二の腕を掠る。


「…っ!」


 鞘の力が発動し、痛みはあるも傷口は治った。彼女(ホムラ)は、直ぐに前を向いて攻撃態勢に入る。


「おらぁ、おらぁぁぁぁ‼」


 クーは素早い槍捌きで進んで行くが、正面には数え切れない黒い兵士がいた。焔、アッシュ、アーサー、ルノー、クースクリドは、それを捕らえた。

 焔は、予想外で聖槍に使用する魔力は尋常で、連続使う事は不可能だった。それは、ジュヌヴィエの話で皆に伝わっている。その時だった。


「クースクリド。焔、アッシュ、ルノー!お前たちは今のスピードを保て。あの軍団は、俺の魔層で始末する。」


 クーはそう言って自慢の脚力で戦車が通る先を飛んで、地面に着地した後で直ぐに走る。速さは、自動車ほどだろうか、焔たちを驚かせる程だ。そして、クーは上へ飛んで投擲の構えをする。


「死の棘よ!雨の如く、降り注げ!紅棘の(ゲイ)死の魔槍(ボルグ)ッ‼」


 彼の投擲した魔槍は、兵士の数の分に分裂して増え、雨の様に降り注いで敵軍を殲滅させた。(ホムラ)とアッシュ、アーサーは、ゲイボルグの力を見て感心する。


「すげぇ、クー王子、やるじゃないか!」


「キュウ!」


 “あれが、魔槍の力か…。滾るぜぇ‼”とホムラ、

 “ホムラ。前を見ろ。気がそれる”とエフ、

 “分かってるっての‼”とホムラは思う。


 クーは丁度良く戦車に落ちると、魔槍は彼の手元へと自動で戻る。


「っしゃ!このまま、向かうぜ‼」


『おう‼』


 (ホムラ)の声に、彼らは意気を込めた返事をした。一行は、無事に切り抜けて、コノートの領域へと入って行った。

 読んでくださいまして、ありがとうございます。


― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


 焔:凄かった…。兄貴の速さと言い、ゲイボルグの威力と言い、一言しか表せない…。


 クー:大袈裟だな。まぁ、速さは自慢かな。戦車よりも速く走った事があるしな。


 焔:どんな脚力なんだ?ルー様もそんな能力あったかな?

   と、ここで『イリュド豆知識!』。兄貴の持つゲイボルグは、必中の槍で防ぐことはないのですが、彼によると、自分の運勢の無さで外す事もあるそうです。また、ゲイボルグはとても危険な武器なので、クルード・カサドヒャンか、鉄製または銀の武器を使用します。


 クー:俺の持つ武器は、何かと周囲より有利になっちまうし、あんまり戦うのは好きじゃねぇ。だから、今の戦で終わらせねぇとな。勿論、フェルグスの小父の無念を晴らす。


 焔:えぇ、全力でメイヴを追いかけよう、兄貴!次回、アルスター編の続編、【第1.5章 白詰草の女王国 コノート 編】『第27節 決戦/破-Ⅰ ―勝負・二十八勇士―』!

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