第25節 決戦へ
そして、いよいよ決戦の日が近づく。遂に、最終決定事項を行う。
フェルグスを弔い、焔たちは赤枝王城に帰還した。着替えを済ませ、会議室に集った彼らは、話を始める。
「フェルグス小父様の言う事に、確証がある、とは言い切れませんが…皆さんはどう思いますか?」
クースクリドは、焔たちに意見を求める。アッシュ、フロリ、ルノー、クーは確証は無いとでも言う様な雰囲気だ。焔は、考える。
“どう思う?”と焔、
“それは、自分で答えるべきだと思いますよ、焔”とレイ、
“……”と焔、
“お前はどう思うんだ?俺は、パスだぜ”とホムラ、
“お前なりの意見を述べろ、焔。考えている事をな”とエフ、
“う、うん”と焔は思う。
「私は、調べる価値はあると思う。」
焔は、勇気を出して自分の意見を述べる。アッシュは、彼女に本気なのかを尋ねる。
「焔。いくらなんでも、敵の言葉を信用するのか?証拠はあまり無いと思うけど…。」
「このまま見過ごすわけにはいかない。だって、よく考えると、同じ民族が戦うだなんて、酷すぎるよ!
それに、兄貴の持っていた剣が無くなるだなんておかしいじゃない。前は、行方知らずになる事だなんてなかったでしょ?」
焔は、自分の思う事を話す。戦いなんて、見てもいないし、規模がどれほどなのかも身の程知らずだ。それでも、この違和感を突き止めたい意志はある。この戦いを終わらせる為にも。
「言われてみれば、そうだが…。厳重に管理していた。でも、待てよ…。そう言えば、城の中を見回っていた兵士たちが噂を立てていてよぉ。」
クーはふと思い出した事を口にした。クースクリドは思い出して話をする。
「その話、私も聞いた事が…。夜な夜な、蝋燭の様な灯りと共に黒い何かが回廊に現れてどこかへ向かうと言う。兵士たちは、恐れをなして、物陰に隠れて去るのを見ていたと…。」
「それって、幽霊なのか?」
フロリはクースクリドの言葉にそう言ったが、彼は実際に見ていないので事情聴取する必要があると述べる。焔は、その噂の事を聞いて考えて、皆に集まる様に言う。
「あの、気のせいだったらいいけどさ。」
かくかくしかじか、と。焔は、小声で何かを話した。皆は驚いた表情をしたが、何かをつかみ取った様な雰囲気だった。また、何かを話し合っていた。
そして、クースクリドは軍の配置を決めるべく、騎士団とアルスター軍各隊長を召集し、軍会議を始める。そこで、作戦変更へと移る。クースクリドが別動隊へと入る代わりに、フロリに指揮官に任命した事に驚いた各隊長たち。
「すまない。この戦いは、いつも通りでもない。最終はもちろん最大戦力だが、あちら側はとんでもない兵力を生んだようだ。だから、その兵力を削る必要がある。」
「あの、クースクリド様。その事について、提案があるのです。」
クースクリドの次にそう言ったのは、ジュヌヴィエだ。彼女は、その兵力を削る力を持つのは焔の持っている聖槍であると話した。隊長たちは、本当なのかとざわめく。
聖槍の言い伝えを話して、ジュヌヴィエはクースクリドに採用するかを尋ねた。
「その聖槍は、最果ての光、か。聞いた事はある。何物も阻めぬ嵐のように、闇を打ち砕くと。……賭けてみるとしよう。……焔。重要な役目を背負う事になってしまいますが…。」
焔は、クースクリドからの依頼に戸惑ってしまうが、シャーウッドでの戦いやフェルグスの件を経た今、戦いから背く事は出来なかった。彼女は、背に腹は代えられないと覚悟を決めた。
「構いません。クースクリド王子の頼みを、断る訳には行きません。ケルトの未来の為、尽力を尽くします。」
「了解しました。私は、彼女の力に賭けたい。皆は、どう思う。賛成か、反対かを述べてくれ。」
クースクリドは、批判を浴びる事を覚悟して隊長たちに尋ねる。隊長たちは、顔を合わせて頷く。そして、隊長たちの中でもリーダー格のある者が意見を述べる。
「我らの為に力を貸して下さる事に、断りを入れる訳にはいきません。受け入れましょう。その為にも、我らの力、存分に振るいましょう。」
『おぉぉぉぉ‼』
彼の言葉と共に、隊長たちは声を上げた。クーとクースクリドは、感謝を述べる。クーは、隊長らに言う。
「お前ら、期待しているぞ!」
『ありがとうございます、クー王子‼』
隊長たちは、元気よく返事をした。焔は、重要な役割を背負う事に放ったが、自分にしかできなのなら戦と言う名の火に飛び込むしかないと思った。
一方、その夜、コノート王城。メイヴの部屋。
「何もかも、完璧ね。うふふ。私の二十八勇士も鍛え上げている事だし。たまらないわぁ‼うっふふ。」
「メイヴ女王。嬉しそうで、何よりです。」
彼女に従う戦士は、彼女の表情を見てそう言う。
「まぁ、今日は気分が良いから、許可も無く話しかけた事は許すわ。…今夜は、よろしくね。」
メイヴは、頬を赤らめつつもニヤッと笑いながらこう思う。
“絶対に、クー様は私がいただくわ。あの小娘、クー様を兄貴呼ばわりなど‼…絶対に、絶対に苦しませながら殺すわ…”
彼女との関係を持つ者は多く、愛人や肉体関係を持つ者が数人いると城の中では噂されており、この時も彼女の部屋を覗き見していたアリルは当然知っている。
しかし、正式な夫婦はメイヴとアリルなのだが、この二人に関しては城内の召使いにとって―
『仮面夫婦』
とも言われている。アリルは、メイヴが求めているのは自分ではなく、クー・フーリンと言うアルスター第二王子にして、首都クランの猛犬であると言うのはもう分かっている。メイヴとの結婚は、政略結婚で本当の愛で結ばれたわけではない。
しかし、メイヴは瞬く間に軍を指揮する程の権力を持つ様になっている。アリルは、メイヴの部屋前から立ち去って廊下を歩きながら考える。
“確かに。アイツは性格はとても最悪だが、美貌は認める。だが、元々このコノートは俺の物。あの女などの手に落とさせてたまるか。
それに、このままあの聖杯とやらを奪えれば、軍を指揮し、ルミソワにも侵攻できる。あの国なんぞ、復興後の事だ。滅多打ちに出来る”
「面白くなってきた。ククク……アッハハハ‼」
アリルは、高笑いを浮かべて廊下を歩き続けて自室へと向かう。その背後の物陰には、クースクリドの斥候がいた。アリルは自室へ戻ると、魔術師の者と会う。
「随分と気分が良さそうだね。」
「まぁな。メイヴは、聖杯とやらの盃に夢中だ。おかげで、気は反らせている。こちらの策も上手く行っている。」
「そうか。だが、聖杯と言う盃に願うのは、代償が必要だ。アリル様にとっては、都合の良いものですが…。それは、楽しむため、存じ上げませんが…。」
魔術師は、何かを企んでいるかのような雰囲気でそう言う。
「ふむ。まぁ、あとは、決戦時に実行するのみ。だが、あの小娘はどうなのだ?」
アリルは、小娘…焔について魔術師に尋ねる。魔術師から焔の情報を受け取る。
魔術師曰はく、小娘は戦に参加する様でメイヴとアリルの討伐を目的としている様子だ、と話す。アリルは、小娘は何故シャーウッドで精神を崩壊させたはずなのに戦へ参加するのかを疑問に思う。
「しかし、貴方の行う策に驚きは隠せませんよ。フェルグスは、既に始末なさったのですから。」
「ま、邪魔者がいなくなって良かったがな。あの小娘、何者なんだろうか?厄介者にすぎぬ。絶対に、殺してやる。」
アリルはそう言い、今日は寝ると言った。
魔術師は、部屋を後にして人気のない場所へと向かう。そこは城の地下。聖杯を中心に黒い液体が漏れ出し、そこから兵士が人の形となって現れていく。
「生産は順調だね。さて、これで、私の計画はバレる事はない。」
♦
数日後。決戦前日の夜の事。焔は、夢を見た。
真っ暗な闇の中を焔は漂う。しかし、次第に若菜色の光が差し込み、中には黄金に輝く文字の様なものが浮かんでいた。
“ここは?”
『技術を極めた文明は、知らず知らず己の身を亡ぼす。それを、我々は認めない。滅びは、祝福にこそ相応しいものだ。』
声は、あの魔術師とそっくりだ。しかし、姿はどこにもなく、声だけが聞こえている。
“滅びが、祝福?”
『そうだとも。命は、いつかは消える。だが、我々人型の一族は、死を越えたその先を目指さなくてはいけない。』
“死の、先?”
[駄目‼その言葉に耳を貸さないで‼]
突如、見知らぬ少女の声がかかる。しかし、直ぐに魔術師の声が挟まれる。
『冒涜者が…。貴様は、過去に何をしたのか分かっているのか?』
声と共に、焔の目には朧げな景色が映る。
最初に、巨大な化け物によって炎に包まれた空港。景色はジャングルのようになった地上に、その化け物に光線弾を撃ち込む部隊。
そして、高速で空を飛ぶ三体のロボットの姿。化け物が放つ光線で沈む鋼の要塞。
さらに、雲に包まれた夜空には、三つの黒い異空間から黄金に輝く三匹の龍か蛇らしきものが現れて、化け物と対峙。その次には、土煙で飲まれる中、少女は長身の青年の腹に剣を突き刺した瞬間だった。
♦
「…はっ‼」
焔は、上体を勢いよく起こした。気が付けば、冷や汗を掻いていた。アーサーは、彼女が起きた事で飛びついた。
「キュウ!」
「わっ!アーサー。こ、こら!くすぐったいって!イッヒヒ!」
「目が覚めたみたいだね。良かった。」
声がした法へ目を向けるとオリヴィエの姿があった。彼によると、ジュヌヴィエが自分の元へと駆けつけて、焔が魘されたまま寝ている時間が異様に長い事を言ったのだ。
「随分、魘されていたよ。まだ、戦までには時間はある。焦らないでね。」
「あ、ありがとう。オリヴィエ。……はぁ、不気味な夢だった。」
「不気味?話せるなら、言って欲しい。」
オリヴィエの尋ねに、焔は空に空いた三つの黒い異空間から黄金に近い輝きを持つ龍か蛇の様な生き物が降りて来て、巨大な化け物と戦う夢だった。
「不思議だね。化け物の姿に特徴はあったかい?」
「ん~。左右に角があって、体格的には女の人かな?でも、怪物の様な感じで大きさが人間じゃなかった。駄目だ…。それ以外は、思い出せない。」
オリヴィエは、無理に思い出す必要は無いと言う。アーサーも、彼の言う通りだぞと言う様に声を上げた。焔は、深呼吸をする。
“今日は、決戦の日。夢に躊躇している場合じゃない。大事な役目を果たさなくちゃ!”
読んでくださいまして、ありがとうございます。
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焔:不気味な夢だったな…。
オリヴィエ:夢と言えど、現実になる事もあるからね。魔術の世界では、予知夢も範囲になっているんだ。でも、この研究はいつになっても謎のままだけどね。
焔:ま、夢は未知のままが良いと思うよ。あの夢は、時々、記憶に過ったけどさ。
と、暗い話はここまで。『イリュド豆知識!』の時間。フェルグスさんの愛剣・カラドボルグは、炎と大地魔術が合わさった剣で、伝説の通りに三つの丘の頂を打ち砕いたそうです。その時は、私たちはクランに向かう途中でした。
オリヴィエ:フェルグスと言う人は、何故、アルスターを心配しているのにもかかわらず、コノートへ行ったんだろうね?コルマクの証言が確かなら、国の闇が見て来そうだね…。
焔:国には、色々と事情があるからね。さてと、次回!『第26節 決戦/序 ―光嵐と紅棘―』!




